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氷山1  作者: 三井 銀太
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違和感

証券マン川島は、支店ノルマ10億円達成のため、自身の大口顧客である平本政臣の元を訪れる。

6月中旬の越谷市は曇りで、少しジメジメしていた。

 川島は浦和から北越谷まで電車を乗り継ぎ、その後バスで越谷の北端まで来ていた。

 バス停から少し歩くと少し年季の入った白いコンクリート造りの2階建ての家に着いた。

そこが平本さんこと川島の大口顧客平本政臣

の自宅であった。

平本は2代続く越谷北東部の大地主で、本業の不動産管理を行いつつ兼業で農家を行なっていた。

 平本邸に着くと、玄関の軒先で土に塗れた70代位の老人がキャビンのタバコを吸っていた。

「おう、お前。今日も来たのか。」

老人はこう川島に声をかけた。

「はい。いつもお疲れ様です。平本様。」

この土塗れの老人こそ平本である。

かく言う川島も最初に平本邸にアポ無し営業をした際、平本本人を庭師だと思い込み、話し込んでしまっていた。

後に平本が自宅に入り、「平本不動産 代表取締役 平本政臣」の名刺を渡さなければ、川島は大口の商いはできなかったであろう。

そんな経緯がある。

 平本邸には幾つか部屋があるが、よく通されていたのは、玄関左にある、長椅子と玄関の縁でテーブルを挟んだ簡易的な応接間である。

平本は玄関の縁に座り、川島は長椅子の端に座った。

平本は愛用のキャビンを蒸しながら、

「今日はどんな用事なんだ。」

そう川島に告げた。

川島も愛用のキャスターを吸いながら今日の主題を述べた。

「平本様。先日お電話でご案内させて頂きました、ハードモバイル社さんの債券の件でございます。」

「おぉ、この間のやつか。…でも、俺この間お前に1,000万出したからなぁ…」

平本は少し渋そうな、でも、本心からは渋ってなさそうな感じで、少しニヤニヤしながら答えた。

「利率が年1.74%、通常の銀行預金の174倍の金利ですし、発行体は大手通信会社のハードモバイル。期間5年ですので、ハードモバイルさんが5年間の間に潰れなければ、金利を貰え、元本も戻ってきます。」

川島は詰めにかかった。

「これだけ条件の良い商品は直近殆どでてきません。このタイミングで是非、平本様のお口座で5,000万円、買って下さい!」

川島は強くプッシュした。

平本は目を閉じて少し考えながら、

「分かったわ。俺の口座で1,000万、買ってやるわ。」

1,000万の商いの予約ができた。

「平本様、ありがとうございます。後日、目論見書など、ご購入に必要な書類を送付させて頂きます。」

川島は御礼と今後の流れを説明した。

 その後は極々普通にお互いの近況をだべり、川島は平本邸を後にした。

 大口の商いの予約を決めたにも関わらず、川島には違和感を感じていた。

(平本さんの提案前のニヤニヤはなんだったんだろう…?)

帰社途中の電車の中で考えてみた結果、

(奥村支店長に同行営業をお願いしようか。

違和感の正体もベテラン営業マンなら分かるかもしれないし。)

という結論に至った。

「とりあえず、帰社したら支店長に相談しよう。」

そう決め、浦和駅で電車を降りた。

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