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星の隅っこの反逆  作者: ばけのかわ
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剣を扱えない勇者とやたら強い盗賊とメガネ

 剣と魔法の世界に来たら、男なら一度は剣をブンブン振り回してみたい。と思うのが健全な男子の発想ではなかろうか。

 あと女剣士は肌の露出が多めなのがロマンだし、男勇者と来たらやっぱり大剣であり、装備が鎖鎌とかだった暁にはもうお笑いポジションになってしまう。

 が、ぼくがキージの街の武器防具屋『暁の黒金屋』でアカネに見立てて貰ったのは長巻。

 ドイツ語でいうならツヴァイハンダー、柄の部分が長い、取り回しの容易な太刀であり、室町時代には太刀も槍も上手く使えない雑兵に支給された得物。

 ロマンのカケラもない。

 ぼくの努力不足、というやつだろうか。

 

 努力を信じるには努力以外の何かが必要だと思う。

 ぼくだけじゃなくて、周りのみんなもやっていたんだけど、高校野球部の三年間、いや野球を始めた中学生から数えると六年間、それなりの努力はして来たつもりだ。試合に出たかったから。レギュラーになりたかったから。

 というか、地獄の様な走り込みも地獄の様なウエイトも地獄の様な素振りも地獄の様なetc etc. 全部試合に出て活躍するためのものであって、試合に出られる見込みがなくてもそんな地獄を行き抜ける野球バカをぼくは知らない。

 希望だけでは人は迷走するけれど、希望がなくては顔を上げられない。

 だけどもいつの頃からだろうか、自分では死ぬほどの努力を積んだつもりでも、自分より努力している奴に負い目みたいなものを感じ始めて、あとはもう一瀉千里、気がつくと与えられたメニューをこなすだけで満足、精一杯な自分がいた。

 たはっ、ぼくって奴は試合に出られる事よりも自分を満足させる方が重要だったのだ。

 努力には即効性がない。だから自分の努力を信じるにもある種の才能が必要なんだと思う。あるいは努力を後押ししてくれる何か、誰かが。


「ははっ、いいじゃない。似合ってるよマサキくん」

「いいでやんす。三下から馬の骨には昇進した感じでやんすよ」

「……これでいいんすかねぇ……」ちっとも褒めてないメガネくんは無視してアカネに長巻を見てもらう。「確かに見た目の割には重くなくて、扱いやすそうだけど」

「良いよ。だって、アタシたちは闘技場で戦う闘士じゃなくて、暗黒教団をのめす旅団なんだから。慣れないうちはリーチの長い武器が一番優位に立ちやすいんだよ。これなら刃が広いから敵を突くのも、刃を地面から水平にすれば、こないだアンタがやった敵に対して薙ぎ払う攻撃も有効だと思うよ。じゃ、次は防具だね」


 あっもう決定ですか? 早すぎません? もう少しぼくの意見とか取り入れてくださっても全然構わないのですが。アカネは鼻歌を歌いながら店の主人が並べた防具類を検分している。

 なんで女の子は人の服を選ぶのも楽しいんだろう。ぼくのようにセンスがダンゴムシみたいな人間は人様の服を見立てるなんて苦行滝行でしかないのだけど。

「あ凄い、これ、ミスリル銀が入ってんだ? 単純な魔法なら防げるよねコレ」「皮でなめした膝当てとか欲しいんだけど……サンダル? いい、いい、なんか変な靴が動きやすいってアイツ言うから」「軽装用のメットが欲しいなぁ。衝撃吸収板のついた……うん、皮か木製の。セラミック? どれ、触らせて」「おじさん、もう少しまけてよ。アタシたち、王室から重要な任務を与えられてるんだよ? え? 王室なら給金が十分? それはそれ、これはこれだよ。ねぇー、いいじゃない。そうそう……えぇー、もう一声! お願いー!」

 ぼくとメガネくん、やること、一つも無し!

 ザ・木偶の棒。もはや木偶のbar。


 結果!

 ぼく・装備→ 黒金屋謹製の長巻・簡易ヘルメット・ミスリルの鎖帷子(上に普段着)・膝当て

 アカネ・装備→ 王家のナイフ・皮の胸当て・皮の腰巻

 メガネくん・装備→ 余り物


「で、どうすんの? これから」買い物でテンションが上がったアカネが意気揚々と尋ねてくる。

「えー? あー、どうしよっか」途方もない徒労感に苛まれて思わずやる気のないような声を上げてしまう。

「ギルドに行って教団の噂とか聞き込む?」

「いや、それならさっきこっそりギルドに置いといたオイラの『クモ』で事足りるでやんす」といってメガネくんは懐からサザエの貝殻みたいなものを取り出した。

「何それ。『波の音が聞こえる……』みたいなボケとかいらんよ」

「パチもん勇者は知らんでやんしょが、これはクモの親器でやんす。オイラが自分の手であちこちに置いておいた子器から魔力を使うことでその場の音声を拾うことができる代物でやんすよ」受信専用の携帯電話みたいなものか。どこで買ったんだと聞くと、ここに来るまでに魔物の遺骸から錬成したのだという。魔力を帯びた物からならば錬成できるらしい。

 王室付きの人間がやることにしては入手方法がこっそり外道な気もするが、そんなものをちょいちょいと錬成できてしまうとは、ションボリメガネことメガネくんにも一応王室付き召喚士兼錬金術師兼会計士の片鱗が見えた。絶対図に乗るから褒めんけど。

「で、さっき漏れ聞いたところによると、どうやらツンランド皇国で内密に腕に覚えのある少人数のパーティを探しているらしいでやんす」

「おぉー、まさにアタシたちじゃない!」

「いやアカネさん、そこは『えぇー』じゃないんすか。なんでわざわざ他国まで出向いて求人に応募せなあかんの。普通にギルドで求人票見ればいい話じゃない」

「コレだから頭蓋骨ザル勇者は」

 お前ホント暴言だけは語彙豊富だよな。

「いいでやんすか、オイラたちの任務の性質上、ギルドに正式な組合員として登録はできないでやんす。そんな事ができるくらいならいくら王様がガッカリ感抱いていても最初から護衛くらいつけてくれるでやんすよ。オイラたちは教団に目をつけられない為にもフリーの冒険者を貫かなければならないのでやんす。ところが、それだとギルドから大した報酬は貰えないのでやんす。という事は、今回のツンランドの話は、うまいこと受注できればオイラたちにとって凄く美味しい話でやんす。おまけに他国の情報も得られる。遠出する事で教団の侵攻具合まで探れる。くほほ、またも奇才デヤンスの一石三鳥作戦炸裂でやんす!」

 息巻くのは良い。作戦を立ててくれるのもまぁいい。君がリーダー顔で先頭を歩くのも許そう。

 せめて戦闘に参加するそぶりくらい見せてくれれば。諸葛孔明もビックリの口だけ参謀だよ……。


 こうしてぼくらはその日はキージの街で宿を取り、翌日には東にあるツンランドを目指すことになった。

 ぼくとメガネくんは街を出た後のために野宿の用品を買いに行き、アカネは「ごめん、ちょっと抜けるね」と言って出かけた。


「ウヒウヒ」アウトドア用品店で野宿用の皮をなめしたアイテムを見分していると、メガネくんのメガネがまたも怪しく光っている。

「なんだよ、自分の作戦が通るのがそんなに嬉しいかね」寝袋を吟味しながら片手間で一応聞いてみた。

「アンタ書院造りのバカでやんすね」

 それはバカにしているのか? もはや一周回って罵詈雑言ではないのでは? ていうか書院造りがこの世界にもあるのか?

 Like a Ginkakuzi??

「こほほ、アンタはキージの街が初めてだから知らんでやんしょが、オイラは所用でよく素泊まりしているからわかるのでやんす。今夜の木賃宿は路地裏の二階にとってあるでやんすが、三人部屋は一間なのでやんす」

 はぁ、それで?

 貧乏旅、逆の意味のグレイテストジャーニーですが?

「ハズレの上に鈍チンとか救えないでやんすよ? いいでやんすか? 三人が一つ屋根の下でやんすよ? オイラと?」

「ぼくと?」


 脳に雷鳴が響いた。一つ屋根の下にぼくと。メガネと。


「「アカネが!!」」


 素敵過ぎて鼻血が出そうだ。


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