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星の隅っこの反逆  作者: ばけのかわ
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初めての遠出・近郊編

 幾多の試練を乗り越えてやって来た街は吉祥寺だった。


 ナニユエか。ぼくは現実世界へと帰還を果たしたのか?

 否。残念ながら断然否である。

 

 ぼくとアカネとメガネくんの一行は道中の宝石獣や魔物と悪戦苦闘しながら(驚いたことに道端に普通に宝石獣が蹲っていたりする。この世界では旅の商人が護衛役に傭兵を雇うのは一般的な事例だ、とまたしても二手くらい遅めにメガネくんが教えてくれた)も、メガネくん言うところの「城下町では手に入らない少し練度の高い良い装備品」が手に入る街を目指した。

 実際の戦闘はほとんどアカネが担当した、というかぼくらの中ではダントツで素早い上に気配察知能力も高いアカネは先手必勝の不言実行で魔物を見つけ次第サクサクと倒してしまった。

 中には戦闘態勢を取るまもなく背後からナイフの投擲を受けて音もなく崩れた魔物もいた。魔物の死に顔は「なんで?」と問いたげだった。

 これまでに倒した宝石獣は最初に倒した鳥人間っぽい奴が五匹、小型のドラゴン(足の生えたヘビみたいな奴ら)が八匹、二本足で立つバケモノネズミが十五匹、小さな人型のダンゴムシみたいな奴が三匹。それと犬の顔をしたアルマジロみたいなやつ、蝙蝠の翼を持ったトカゲ、鎌を持ったモグラ、コイツらは宝石獣ではなく普通の魔物だった。

 そして、アカネは……この感動を他人に分け与える気にはならないのだけど……すごかった。

 何しろ全身コレ運動神経みたいな女である。それでいて豊満だけど引き締まった胸がお尻が、飛ぶわ、跳ねるわ、かけるわ……ゆーらゆら。ゆーらゆらである。ゆーらゆら王国だった。しかしパンツは地味だったな。

 メガネくんなど一度「オイラちょっと小用が」といって岩の影に隠れたことがあったが、うん、まぁ、何をしたかは聞かないでおくよ。ぼくは紳士だから。ビー・ジェントル。

 真面目な話に戻ると、宝石獣以外は倒しても遺骸が消え去ることはなかったため、魔物を倒した場合は一応、供養というか義務というか、ぼくは道端から外れた少し見晴らしの良いところに魔物の遺骸を埋め、墓を作った。

 こんな人里から程近いところに現れる大抵の魔物は鹿より小さかったから墓も苦労しないで掘れたけど、中には馬ほどの大きさの宝石獣もいた。

 道中の終盤に差し掛かった時に出てきた奴がそれだ。


 馬によく似た魔物は遥か遠くからぼくらに向かって突進してきていた。

 いち早く察知したアカネが「二人とも、気をつけて! 特にメガネ! 戦えないなら下がってて!」と叫んでナイフを構えた。

 図星なのに役立たずと判断されてぶーたれるメガネくんを尻目にぼくも竹竿をロングティーをぶちかます要領で構えた。

 魔物は馬そっくりの姿形だったが身体中が緑色の鱗で覆われていて口からは黒い霧を吐き、たてがみは燃えるように揺らめいていて、やはり天然自然の生き物でないことは明らかだった。

 アカネは側転して魔物の突進をかわしたが、急停止した魔物はしゃがみ込んだ姿勢のアカネに嘶いて蹄を振り下ろそうとした、ので後ろから思い切りケツバットをかましてやった。

 スパカーン! と硬球をジャストミートした時の心地よい感覚と共に高い音が響いた。

 はは、後ろがガラ空きやっちゅーねん。

「ギョエエエエエエ!」この世のものとは思えない咆哮を放ち魔物は飛び跳ねて今度はぼくに敵意のこもった眼差しを向けてくる。

 竹竿を今度は刺し貫く姿勢で構える。

 殺意を込めた視線と視線がぶつかり合う。

 途端、首筋に飛びかかったアカネが魔物の喉を切り裂いた。

 喉を切り裂かれた魔物は致死量の血飛沫を上げながら、飛びついたままのアカネから凄まじい蹴りを受けてどぉ、と倒れると断末魔をあげて二度と動くことはなかった。

 やがてぼふん、と情けない音と共にカード化した。

「ありがとマサキくん、助かったよ」返り血を浴びてカラッと笑うアカネは鬼神の様相だった。

「いや、全然。今、何か、チームプレイって感じで、いや、ぼくはアカネが作ってくれた隙にケツバットかましただけだけど、何か、何か良かった」と何がよかったんだかさっぱり分からぬ感想をボソボソ言うと、紫髪の女の子はニッと笑ってグータッチをしてきた。


「凄いでやんす、コイツ2000ゴールドにもなったでやんす!」戦闘時のお荷物くんは戦利品を回収するときだけは手が早い。前のめりで小走りしている姿は王宮付きの召喚士というより小物の非常勤講師。人としての器がペットボトルの蓋くらい。

「えっと、それってどれくらいの価値なのかな?」正直言ってこの世界の通貨も金銭感覚もさっぱりなぼくがそう聞くと、メガネくんは一からか? 一から説明しないとダメか? と言いたげなへの字眉毛で胴巻を取り出し、説明を始めた。

「いいでやんすか万年二軍勇者。まずコレが1ダイ」メガネくんの掌には小指の先っぽ程の銅貨があった。「この大陸の最小値の通貨でやんす。用途はお駄賃とか、お釣りを貰うのに細かいのが嫌で持ち歩くくらいでやんす。子供のおやつが1日10ダイくらいと言えば分かるでやんすか?」と言うので何となく、と言うと次に親指の先ほどの金貨を取り出して「コレが1ゴールド。100ダイが1ゴールドでやんす。この大陸で最も主要な通貨で、貨幣にも金が10%くらい使われていて相場が安定しているでやんす。ちなみにキングダム国の町人の一般的な月収は5万ゴールド。それだけあれば一家四人が一月食っていけるでやんす。つまり、アンタたちはさっきの数十秒で町人の月収の20分の1ほどを既に稼いだのでやんす」それって大したことあるんだかないんだか微妙な額じゃなかろうか。「で、これが」メガネくんは胴巻から一際大事そうに人差し指一本分ほどの白い板を取り出した。「象牙でやんす。通貨としては最高金額で、象牙一枚で1万ゴールドほどの価値があるでやんす。それと、北の地方に行けば行くほど象牙の価値はあがるでやんす。ただ、両替がしにくくて壊れやすく、王国近辺以外ではそんなに使われないでやんすね」


 一呼吸、見上げると空をトビがゆっくりと旋回していた。

「だいたい、分かった気がするよ」

「よろしい。ちなみにここまでで稼いできた金額は6000ゴールドほどでやんす。オイラたちがこれから向かうキージの街まであと数十分ほどでやんすが、10000ゴールドもあれば良質な剣、鎧、兜、ブーツが揃えられるでやんす」

「あ、アタシはこのナイフがあればいーよ、すっごい切れ味良いし。服は今のが動きやすくてちょうどいいから」

「じゃあアカネには換えの服だとして、幾らになる、メガネくん?」

「へー、アンタ、アタシのこと気にしてくれるんだ?」

「そりゃするでしょ普通」

「えーと、まぁ8000ゴールドでやんすね。もうちょいでやんす」

「さんきゅ。てゆか、よく分かるね、敵のアイチュごほんげふん、落とした宝石だけでゴールド額が幾らかってさ」

「ほほほん、すっとこ勇者と違ってオイラは国家会計士でやんすよ? そこいらへんの目利きはバッチリでやんす」

「あ、だいたいならアタシも分かるよ」

「わかんの?」

「そりゃそうだよ。だって、盗賊なんてそんな頻繁にやるもんじゃないからね、下級の宝石獣を倒して日銭を稼ぐくらいはやってきたよ」

「じゃあ盗賊よりそっちの方が向いてるんじゃない?」そうして目指せ、日陰者じゃない集団。民衆に歓迎されるような一級旅団。

「無理無理。アタシ、三桁以上の算数考えると頭痛くなってきちゃうの」

 小学校五年生くらいのアホだな!


 そんなやり取りをしていたら、いつの間にか道が黒くなっている境界にたどり着いた。ん?

「おお、間もなくキージの街でやんす。いやぁ二人ともオイラという稀代の名軍師がいたとは言え、よく戦いよく歩いたでやんすねぇ」いつ、どこで、どんな策を君が出した。戦闘中にチョウチョを追いかけていたメガネはどこのメガネだ。

「あれ……この道路は」ぼくらが辿り着いたのは路地の裏手で、少し行くと大通りに出た。大通りの道路には真ん中に白線が引いてあって、あれ?

「どこに行くでやんす残念勇者。さては田舎者にはキージの街が珍しいでやんすね。仕方ないでやんす。ここは良質な古着屋と武器屋の目白押しでやんすからね」


 目の前に広がるのは東急、マルイ、京王百貨店……どれも皆懐かしい……。


 東京は武蔵野市、吉祥寺の街並みだった。


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