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星の隅っこの反逆  作者: ばけのかわ
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初めてのおつかい・戦闘編

 ぼくは槍の稽古をしていた。


 ナニユエか?

 またしても話すと馬鹿馬鹿しい。

 朝の光眩しい長閑な草原で、メガネ君ことデヤンスことクソメガネが「さぁハズレへっぽこ勇者のアンタに安寧の時間はないでやんす、寸暇を惜しんで鍛錬に励むのでやんす」とか言いながらぼくに槍の稽古をする様にしつこく言ってきたからだ。

 しかしまぁ思った通りというか何というか、へっぽこ召喚士のメガネ君に槍の心得があるかというとそんな事は全く無く、さぁやれと言われたから仕方なしに思いつくまま適当に槍を振り回すぼくに対して「あーあーそんなんじゃ腰が入ってないでやんす」とか「もっと膝を柔らかくして、こう、こうでやんすよ」などと言って身振り手振りを交えて指導しようとしてくるのだけど、その身振り手振りはアホがナマズを捕まえようとしてヌルヌルに悪戦苦闘している様な動きにしか見えない。

 島根県名物の安来節だってもう少し緊張感がある。

「メガネ君、言いにくいんだけどさ、あの、そんなんじゃ全然参考にならないって」

「はぁ? 何を一丁前の文句を垂れてるでやんすかこのヘタレ勇者もどきは。だいたいオイラがこんなしんどい肉体労働をしているのは誰のせいだと思ってるでやんすか?」

 召喚に失敗した君のせいだ。

「悔しかったら槍くらい一人で扱える様になるでやんすよ」と勝手にふてくされてぷぃと横を向くと草むらに座り込んでしまった。

 やる気も根気もアブソリュートゼロである。

 全く持って人のやる気を削ぐメガネである。

 とはいえ、元の世界では死んでしまっているし、こちらの世界ではハズレ勇者の烙印を押されて教団討伐の任を与えられてもお城からの援助がほぼ無しの状態では、旅の装備品すら自前で用意する必要があり、そうなってくると大切なのは己のスキル。

 徒手空拳でも為せばならぬ、なさねばならぬ何事も。

 てなわけで槍を手にして突く、上段に構えて振り下ろす、横に薙ぐ、などやってみるもどれも上手くいかず、酔っ払いが靴下を脱ごうとしているよーなフラフラのへっぴり腰。

 その上、慣れない動きを繰り返しているうちに息も切れてきたしやる気も切れた、いや元々無かった。

 地面に突き立てた槍を支えにハァハァ息を切らせていると、メガネ君はそんなぼくをどこ吹く風、草原に飛ぶチョウチョを追いかけて遊んでいる。うーん、突き刺したい。かっ飛ばしたい。


 かっ飛ばしたい?

 頭に閃いてフィラメント点滅、メガネ君を視界の正面に据えて槍をバットのグリップを握る要領で構え、地平の向こうまでクソメガネを吹っ飛ばす勢いでスイングしてみると、槍は両手に心地よいしなりの感覚を残して風を切った。

 これだ。

 誕生、「くたばれメガネ打法」。

 そのまま二、三回スイングしてみるとやはりしっくりきた。

 特にぼくは効き目が左の左打席なのでクソメガネをセンターからライト方向に引っ張りぶっ飛ばす感覚で振ると槍は特に風切音をあげた。


 パチパチパチパチ。

 顔を上げるとメガネ君は眩しい笑顔でぼくを見つめていた。

「素晴らしいでやんす。流石はハズレでも召喚された勇者でやんす。オイラ見違えたでやんすよ」

 一言多くモノを言わないと口を開けんのかクソメガネ。「いやいや、ようやくしっくりきたというか、まだこの構えでしか振れないし。もっといろいろ試さないと」

「いやいやいや。アンタは既に立派な戦士でやんすよ。ささ、その調子で魔物退治と行くでやんす!」


 …………は?

 ひょっとしてぼく、全力で墓穴を掘ってました?



 最初の素振りをしていた長閑な草原から歩いて1時間、やけに荒涼とした台地に着いた。

 さっきまでの安寧とした雰囲気は何処へやら、セイタカアワダチソウやぺんぺん草一つ生えていない。

「ねー、やっぱりやめようよー」

「なーに言ってるでやんす。そんなこと言ってもどうせそのうち一度は魔物と相対しないとならないでやんすよ。それにヤバくなったら逃げれば良いだけの話でやんす。少なくともオイラだけは」

 本音がだだ漏れ。うーん、どつきたい。

 しかし「報酬」という名の鎖で縛られている以上、メガネ君をぶん殴った分だけ報酬が目減りしてしまう。

 耐えろ、ぼくの良心回路。そして初めての実戦経験を積む機会だと捉えるんだ。

「仕方ないか。ねぇデヤンス、この辺には何がいるの」

 振り返るとメガネくんがいない。

 あれ? と思ったらメガネ君は遥か後方にいた。

 何やら全力で走り去りながら上を指差して叫んでいる。

 上?

 と訝って天を見上げると真っ赤な炎が舞っている!

 うわっうわっうわっと無様に飛び退いたぼくの視界に次に入ったのは、赤金色の鱗と大きな翼、鉤爪のある足。

 それは上空からまさに飛び掛からんと急降下してくる巨大な竜だった。

 全身は赤金色の鱗で覆われ、動くたびに金属が軋むような嫌な音がしている。腹の部分の鱗は金色で、渦を巻いた尻尾は刺に覆われている。竜が息をする度に口からは炎が燃え盛っている。

 正真正銘のドラゴンだった。なんか西洋風。

 何重にも濁った目は、それでも深緑の瞳ではっきりとこちらを見据えており、あ、これ、狙われてる。

 つまり、死ぬわ。

 死ぬ?

 し、ししししししし死ぬわボケェ!

 そう悟ったぼくは槍も兜も放り出して死なば諸共、クソメガネが駆け出した方向に死力を尽くして駆け出した。背後で鉤爪がガチャガチャと噛み合う音が聞こえる。捕まったら殺される。食われる。異世界に来て素早く二度目の死。

 ライフ・ゴーズ・オン。

 と思った瞬間、幾十幾百の思考が頭で弾けて交差し、気づいた時には走りながら簡易鎧を脱いで竜の鉤爪の方に差し出していた。

 鉤爪に鎧が触れるや、竜は掴んだ獲物を上空に放り投げ、首を持ち上げてそれを咥え、また宙に投げては咥えてを繰り返した。

 今しかない。生きたい。女の子一人抱いてない。手も繋いでない。ここで死ねるか! ここを先度とぼくは二度と振り返ることなく逃げ出した。


 クソメガネは城壁の傍まで逃げていた。

「ふざ、ふざ、ふざけんなよクソメガネ、ふつー最初の鍛錬って言ったらスライムとかオオアリクイとか素人でも2、3発殴ったら倒せる相手を選ぶだろ、開始して2分でデッドエンドになるところだったじゃないかよ」

 息も絶え絶えにメガネくんに詰め寄ると、「いやー、絶体絶命の窮地に追い詰められたらいくらハズレ勇者のアンタも秘められた内なる魔力が暴走して超絶的なパワーアップをするかと思ったんでやんすが、現実は非情でやんすね」などと汗を拭いながらほざいている。

 本気で縊り殺したくなったのを懸命に堪えたぼくの努力はノーベル賞ものだと思う。ノーベル頑張ったで賞の受賞待ったなし。ノーベル賞はそんなハッチャけた賞ではないが。

「ま、しかしないものはないでやんす。仕方ない。こうなったら仲間を募集しようでやんす」

「……仲間? お城の兵隊さん、みんなぼくが来たらそそさと逃げていったじゃない」

「くほほ、直上思考のハズレ男はこれだから。街の酒場に行くでやんす。旅立ちの仲間を探すには、まず不特定多数の人間が出入りする酒場に限るでやんす。旅立ちの基本でやんすよ」


 こうして、後出しジャンケンで人を責める最低のメガネとぼくはキングダム国の城下町を目指すことになった。


 ハズレ勇者は特技「くたばれメガネ打法」を覚えた!


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