序章・ホントに異世界ってあるんだ…
ぼくは冒険者だ。
ナニユエか?
話すとバカバカしい。ぼくはカピカピの、じゃなかったピカピカの大学一年生だった。むろん童貞の。
それには理由がある。あります。
ぼくは高校の時、野球部だった。
そして顧問の監督先生はと言うと、見た目がリーゼントにサングラスと、まんまヤクザ。
分かるでしょ? 分かってください。
ぼくの高校三年間はウルトラ体育会系で、髪型なんか強制的に坊主頭だ。三年間、ミスター・ボンズ・ヘッド。どこのスピーカーメーカーだって話だよ。
規律なんか、もうめちゃんこに厳しくて、上の言う事は絶対。勅命。一個上の先輩は神で、二個上の先輩は殿上人。ジーザス。
そんな支配体制の下で女の子と二人きりで街を歩いたことが部内に知れたりなんかしたら即座に・直ちに公開処刑・尻に花を挟んで写メを撮らればら撒かれる、だった。
そんな状況で彼女ができるか? ブー。愚問。完全完璧アブソリュートに無理。
で、だ。三年の秋に部を引退して、じゃなかった、ヤクザから退部を許されて、だ。以降、受験勉強に励んでからはぼくはひたすらに志望校の女の子のルックスの偏差値と己の前髪の型を気にした。
……あーあ、記していて恥ずかしくなるけれど、ぼくは当時、髪型さえ決まっていれば大学生になったらモテまくりヤリまくり勝ちまくりのキャンパスライフを送れると信じていたのだ。ナンセンス。
誠に軽佻浮薄だとかFUCKだとかCUNTに値する四字熟語バカなのだけどもバカの一念岩をも通す、ぼくのマルクス主義テロリストのごとく確固たるモテたい信念は見事第一志望校の座を射止めてしまう。
そして浮かれ果てたぼくは全世界の鏡を見るたびに己の髪型をチェックする日々に突入する。なんで?
だから言ったでしょ、ぼくは髪型さえ決まってればモテると信じていたんだから。嘘。今も、ま、ちょっと信じてる。
それでぼくは……春休み終了間際の三月の夕暮れ、進学に必要な、いやモテるに必要な衣類やら洗顔料やらを買い込んで帰宅ラッシュで満員の電車の先頭車両にいた。
夕暮れ時の先頭車両の前面はほぼガラス張りだから光の反射で鏡天国になるからね。
そして……春の珍事だ。踏切で、夕暮れ時から酔っぱらった酔っ払いの乗る車が線路内で立ち往生していた。
ぼくはその事に気づいちゃいなかった。なにしろ鏡で髪型をチェックするのに勤しんでいたからね。だから……あーあ、電車は車にゴン! 突っ込んで、先頭車両は被害甚大だ。
むろん、ぼくも被害甚大だ。何しろ目の前がガラス張りで、急ブレーキがかかったんだ。
そして……目が覚めた時、ぼくは今とは違う世界にいた。