止まない雨はない。だが、晴れるとは言っていない7
「良いか。お前たち。良く聞け」
理路整然と起立するノワール隊の兵士たちに向かい、朝礼台に立つのは兵長であるガイル。ガイルは朝礼台に立つなり演説を始めた。
「これから俺たちが届けるのは我らの姫さんの心だと思え」
――いや、心って。
「良いか。届け先は何時かの俺たちだ。姫さんに救いの手を差し伸べられる前の俺たちにのようにさせない為、迅速に届けなければならない。これは命を救う戦いだ!! くそったれな雨なんぞに命の灯火を消させてはならない」
ガイルがよく通る声を一言区切るごとに野太い声と凛々しい女性ソルジャーのアンサーがそろう。
ガイル―― 冒険者、傭兵を経て培った能力で暗殺者となり、お母様とレナスの命を狙ったのだ。雇い主は政敵だったナイード・クーア伯爵とヒゥロ・ダーム商爵だ。
お父様から大切な存在を奪い絶望させたかったのと、躍進著しい〈トーヤ〉商会に打撃を与えたかったと言う理由だ。
商爵のご子息であるカズーイ・ダームが私と、いずれお父様が私に継がせるであろう〈トーヤ〉商会に一目惚れして、婚約を申し込んできたのを私が袖にした腹いせだと思っている。
――私が〈トーヤ〉商会の長だと最期まで気付かなかったわね。
「この任務は決して失敗が許されない。何があっても撤退はあり得ない。最後の一人となっても完遂する。邪魔する奴は始末しろ」
彼らは手の甲を下にじゃんけんのチョキを作る。
物凄く嫌な予感が――
「さあ、姫さん。姫さんがお声掛けを」
拒否権はありますか? あ、無いのですね。いい年したおじ様たちが凄い物凄い期待のこもったキラキラした目で私を見ているんだもん。
「この雨は貴方たちの魔力に影響をあたえます。感覚としては魔法士の子供が必ず掛かる特有の病に酷似しています」
驚きの声が上がる。
「しかし、病と違い雨という目に見える形であり、防ぐ方法はあります」
「それが現在、我々が纏っている外套だ」
ロングパーカー。皆フードを被っているので怪しい集団にしか見えない。
暗黒教団とか秘密結社とか。中二病溢れる私のセンスが迸りペンを走らせたのだから仕方がない。まして、本物のソルジャーが着ているからコスプレ感はない。むしろコスプレされるがわの世界だからこそ似合う。
「精霊族の皆さんの努力の結晶です。役立つものは何でも使いなさい。それが貴方たちの生還率を上げるのだから。Follow Me! さあ! 心の平和を作りに行くわよ! 私に着いてきなさい!!」
――と、言っても私はお留守番なのだけれど……。
それでも――
『Peace――』
グッと下に押し込むように力を込める。
『――Maker!!!!』
溜めた力を天へと解き放つように振り上げる私と兵長、ソルジャーたち。
ハーティリア家演習場に男女のソルジャーと私のやけくそぎみな声が轟いた。
ノワールは元犯罪者やはぐれ者を集めた決死隊だ。死刑や終身刑、一生過酷な労働で終わるか。残された家族を野垂れ死にさせるか、家族を持って、給金を得て、養って、衣食住を得て、それらを遺して死ぬかを彼らに選ばせた。
どうせ死ぬ命なら、使い潰されてゴミのように捨てられるくらいなら、人を殺して奪ってきた自分たちには上出来な最期だ。人を殺すのはなれている。一人殺すも十人殺すも変わらないと彼らは私に言ったのだ。
それに対して私は、英雄になりなさい、と答えた。続けて、子供や奥さん、恋人が、自分の夫、恋人は国を守った英雄だと胸を張って誇れるような英雄になりなさい、貴方たちはただ人を殺しに征くのではないわ。平和を作りに行くの、と言ってしまったわけだ。
それから決死隊は纏まり出した。そこで私は円陣を組ませて『Peace Maker』と言ってしまった。
それから彼らから他の部隊にも広がってしまった。