止まない雨はない。だが、晴れるとは言っていない3
土砂降りの雨の中に打ち捨てられたレインが邸の灯りを見上げて呆然と立ち尽くす。
「これで一週間……。いい加減迷惑ね……」
あの日、クロードはその場でお父様とお母様、レナスに頭を下げ、レインの侍従兼護衛を解任、そしてハーティリア家からも解雇を申し入れ、彼を廃嫡した。
天候が雨と曇りを行ったり来たりしている日が続いている。それに加えて邸の門の前に野良犬が居座り続けていることに苛立ち始めて来ていた。それが口に出た。
向かいの席で科学を学んでいるレナスの肩が小さく揺れた。
「も、申し訳ありません……お姉様……」
「それは何に対しての謝罪なのかしら?」
「それは……私が主として相応しくなくて、お姉様にご迷惑ばかりかけてばかりで……」
「ああ、そっち。そんなことは別に構わないわよ。私は基本来るものは拒まず、去るものは始末するもの。アレにはその価値すらないわ。私が聞きたいのはアレに餌を与えていることに対して、よ」
そう、レナスはレインの解雇に納得していなかった。主だからと、自分の責任だからと。
今度は自分から皆を納得させて雇う、と両親やクロードに訴えて、あれからずっとレインと接触している。
「餌付けもいい加減に止めなさい。野良犬にも利口な犬とそうではない犬がいるわ。貴女が餌を与えてアレが懐くのは何時かしら? そもそもアレは貴女の番犬になる気があるのかしら?」
「それは……わかりません。でも!!」
「アレが心から貴女の侍従兼護衛になりたいと思っているのなら、ハーティリア公爵家もクロードのルッケンス家もハーティリア公爵家に代々仕える家系という肩書きなんて必要ないのよ。泣きながら後悔しながら「レナス様……護衛がしたいです……」と訴えるはずよ」
そう、私には孤児の―― 言ってしまえば最下層のアリシアが侍女として誠心誠意仕えてくれている。人狼のユナ、ハーフアールヴのラファーガも護衛として強くなろうとしてくれている。
私に仕えてくれている者たちは魔法貴族から蔑まれ、庶民からも人として扱われなかった者や亜人と迫害されている者、魔法貴族でありながらそれに馴染めない落ちこぼれが居る。
だからレナスは焦っている。私にハーティリア家が乗っ取られるとか、次期当主になれないとかではなく、憧れに追い付けなくて――と言った意味で焦っている。
ハーティリア公爵家唯一の男児が次期当主候補から外されていることにレナスは気付いているのだろう。
だから、信頼出来る者を作りたいと思っているのだろう。
「レナス、貴女と私は違うわ。貴女はお母様とハーティリア家の魔力属性を引き継いでいて、私は生まれながら魔力を引き継げなかったから魔導具造りで無いものを補おうとした。だから物造りが出来る者、私の手足の代わりになってくれる者が必要だったの。どんな閃きも、それを実現する物造りの知識と技術を持つ者が存在しなければただの妄想、空想、幻想でしかないわ」
「お姉様……」
「だから考えなさい。アレを活かす魔導具を。幸いアレも水属性なのだから」
「はい。お姉様……」