お嬢様はラファーガを仲間にした2 +α
「俺は……俺は母さんと妹を守るんだ!! お前たち人間に―― 人間の貴族なんかに屈するものか!! ここでお前たちをぶっ倒してみんなで逃げきってやる!!」
私は救出された者たちを見る。みんな憔悴して瞳には諦めの色が浮かんでいる。
――死を望んでいる? ああ、彼は吼えることでみんなを覆っている死の影を追い払っているのね……。
小さな子供たちもいる。奴隷となることは何となく理解はしていても、大人たちが自決しようと考えていることや子供たちも一緒になどと考えていることまでは想像出来ていないのだろう。
――大人たちが集団自決しようと考えていることに貴方は気付いているのね。
「ソーナ様、危険です! お下がりください!!」
「ソーナ様、ユナ、守る。安心して」
左手で私が前に出るのを防ぎ、また男の子から庇うようにアリシアが前に出る。その右手には片刃の短剣。
ナックルを装備したユナが頭上から現れ、ファイティングポーズをとりながらフットワークをして見せる。
「ソーナお嬢様、アールヴの子供一人私たち護衛にお任せください。必ず保護致します」
「そうね。本来ならばあなたたちの言葉の方が正しいのでしょうけど――」
私を制するアリシアの腕を優しく下げさせると、男の子の前に立つ。距離はあるからといっても安心はしない、油断もしない。
「彼らを欲したのは人間であり、迫害をしだしたのは皇族……貴族だわ」
「だからと言って!!」
「護衛対象が前に出るなど貴方たちにはいい迷惑でしょう」
「ソーナ様、それがお解り頂けているのに何故?」
「元皇族だろうが、聖女アリーシャの血を引き継いでいようが、領主であろうが、権力があろうが、何をどうしようが……結局零れ落ちてしまう。救えない者が現れる。私たちが守るのは大多数の平穏であり、少数の嘆きは切り捨てる。それが繁栄というものだもの。けれど逆に考えれば少数を救える力があるということだわ」
私は華やかに笑って見せる。
「アリシアやユナはそれがどういうことか知っているでしょう?」
「……」
「それは……!!」
ユナは俯き、反論しようとするもアリシアは口をつぐむ。
「うつけ姫の道楽。お嬢様の暇潰し。ジャジャ馬姫の気まぐれ……。なんだって構わないわ。目の前の者しか救えなくとも、確実に救える。私が好き勝手やりたいことをやっていれば救える範囲が増えるかもしれないもの」
それに――
「ハーティリアから逃げようとしていたなら、叔父関連でしょう。ならば私が始末を着けるべきなのよ」
アリシアもユナも力なく私を制することを止めた。
「貴女という方は……」
「安心して、お父様たちには貴方たちが立派に務めを果たしたお陰で良い帰路だったと報告しますから」
と、護衛隊長に微笑む。
「それじゃあ、決闘をしましょうか」
「なに!?」
「私が勝てば貴方たちは私のもの。貴方が勝てば私を人質にしなさい。貴方たちが安全に暮らせる土地なり、条件と引き換えにしなさい。この国から安全に出るのにも私の身は役に立つはずよ。彼らには手出しをさせないし、追討部隊にも手を出させないようにするわ」
「……解った。その条件で決闘を受ける。だけど良いのかよ? お姫様、あんたからは魔力も精霊の力も感じないけど?」
――かかった!!
金髪碧眼の前髪を上げて髪を後ろに軽く流したツンツンヘアのおでこ全開の美少年を手に入れるチャンス!! 仲間を守ろうとする気概も好し。ヤンチャっぽさを調きょ―― んん、躾―― オホン、教養を与えて、良い方向に成長すれば私の護衛としてお父様とお母様に認めて貰おう。お祖父様は私たちの資質を試していらっしゃるご様子。故に口出しはすまい。
何せ剣を構える姿が護衛たちと比べても見劣りしたいのだ。戦士系の美少年。絶対に護衛にしてみせる!!
「構わないわ。魔法や精霊の力を子供相手に使わなければならないほど、私は柔ではないもの」
余裕を見せて不敵な笑みを浮かべる。
「負けて吠え面かくんじゃねぇぞ!! お姫様!!」
「貴方こそ負けてお漏らしするんじゃないわよ!! 漏らしたら絵に残してあげるわ。光栄に思いなさい!!」
私に向かって駆けてくる。身体強化も使わずに。
――フェアにってことかしら?
「くらいなさい!!」
私は肩掛けカバンからとあるものを素早く取り出して投げつける。
「そんなもん食らうかよ!!」
男の子は私の投げつけた物を全て一閃して斬り捨てた。
「うわっぷ!? ペッ!! な、何だこれ!!」
辺り一面白塵で覆われる。
「こ、こんな目眩まし、か、風――」
「させない!!」
「――びょ!!」
バシッとアールヴの少年の鼻にヒット。精霊術を阻止できた。しかし思わぬ結果が出た。少年の回りに風が纏まった。
「こ、この、痛っ!! いて!! く、このしつけぇっ!!」
魔法も精霊のだろう力も使わないとは言ったけれど、銃を使わないとは一言も言っていない。
まあ、痛みとしては凄く痛いデコピン程度の痛さだ。
無属性の精霊石の欠片の力だ。
「何してるか解らねぇが、此方の塊は粉を撒き散らすだけの目眩ましだ!!」
「それならこれはどうかしら?」
猛ダッシュで逃げながら――
「死にたくなかったら強力な風の防壁を張りなさいよ!!」
後ろ向きに銃を射つ。
「全力で防壁を張れぇっ!!」
「りょ、了解!!」
直後、閃光が弾け、爆炎と爆音に世界が支配された。
――わ、わぉ。
自分でしたことながら驚きは隠せない。
「そそそそそそそそソーナ様!! ななななななな何がどうなったのですか!?」
「せせせせせせせせ世界の終わり!? ユナ、ソーナ様の、フライドチキン、食べたかった。残念、無念」
「アリシア落ち着いて。ユナ、世界は終わっていないわ。安心しなさい」
「じゃあフライドチキン作って。ねぇね、手加減忘れてる? っていない? 何処?」
「ソーナ様、少しは自重してください!!」
アリシアとユナの言葉をあえて無視する。あと、ユナ、「ねぇね」に戻ってるわよ? ビックリして戻ってしまったみたいね。
「ゴホッ! ゲホッ!! な、何だよ今の爆発と衝撃……。とんでもなかったぞ!! あのお姫様無茶苦茶だ……。とんでもないジャジャ馬じゃないかッ!! あんな滅茶苦茶な奴がお姫様な訳あるかッ!! あんな破天荒な奴がお姫様だなんてあってたまるか!! お姫様ってのはもっとお淑やかで嫋やかで、か弱くて、守ってあげなければならなくて――」
「悪かったわね!! 私みたいな無茶苦茶で滅茶苦茶で破天荒なジャジャ馬がお姫様で!!」
「っ!!」
「そんな平和ボケしたお姫様さまなんてクソ食らえよ!!」
私は燻る炎と煙の中を突っ切って、勇者を夢見る男の子が抱いていそうな理想のお姫様像を叫んで私をディスる少年に向かって跳躍する。
「ふぐおぉぅっ!!」
前世と今世合わせて人生初めてのドロップキックが粉塵爆発の衝撃で脆くなった風の障壁を粉砕して少年にクリティカルヒットした。
「勝った……」
格好好く三点着地を決める。女の子だって変身して悪と戦うヒロインに憧れるのだ。
「うぐっ……今のは効いたぁ……クソ痛ぇし……」
――勢い良く蹴り飛ばしたのにもう起き上がれるのね。
「ジャジャ馬だろうがうつけ姫だろうが見た目ビッチだろうが好きに呼べば良いわ!!」
「いや、見た目ビッチとか言ってねぇよな俺!! それに意味わかんねぇし」
――あー髪を染めてた時に……セナちゃん先生に言われたことだった。
“セナちゃん先生”と呼べるくらいには信頼していた恩師であるから軽口を言えた。
「それはともかく、私がお転婆だろうが跳ねっ返りだろうが、それで貴方たちを救えるのだから安いものよ!! 一つ良いことを教えてあげるわ。お姫様に幻想を抱くのは止めておきなさい。貴方の言うお淑やかで、嫋やかで、か弱く、可憐で、お利口な、お姫様には“人間の成り損ない”と蔑まれ、奴隷に落とされた貴方たちを救えない。出来ないわ。その場では綺麗な言葉を紡ぎ、憐れみ、同情し、手を差し伸べようとするでしょうけど、お姫様自ら貴方たちの手を取りに行こうとはしないわ。貴方たちの中に居る筈よね。お姫様が居る国から流されて来た者が。では何故、そのお姫様は救い出してくれなかったのかしら?」
「……」
「そのお姫様の手はさぞ綺麗なのでしょうね」
「アンタだって公爵家のお姫様だろう?」
「ええ。そうね。だけど私には大人しくしているなんて無理よ」
「何でだよ……」
「知ってしまったから。そしてそれを見てみぬ振りなどしなくても良いだけの力が我がハーティリア家にはある。私自身にも知識がある。知識は時として魔法や精霊術、武力よりも怖い力となるのよ」
「人間の短い寿命でか?」
「貴方たちアールヴがいくら寿命が永くても、所詮その知識は過去のものでしょう? 確かに経験は貴重だわ。けれどその経験も過去の積み重ね。未来のことは解らないでしょう? 未来でその経験が役に立つとは限らない。当然よね。全く違うものだもの。それなら私もアールヴもかわらないわ」
経験測論はあまり好きではない。
――だって根性論だもの。前はこうして苦しい時を乗り越え経験したから次も乗り越えられる―― とかね。
それで乗り越えられる時は良いけれど、乗り越えられなかった時の解決には繋がらないのに。経験で乗り越えられるならスランプもトラウマも存在しない。
――ましてやそれが他人の経験を語られてもね。
同じ状況、環境、関係、などないのだから。
――ま、自分から変えようと動かなければ変わらない――という結論に達するのだけれど……。
「……」
アールヴとしての矜持が私の言葉を拒んでいるのだろう。
面倒くさい。
「何を悩んでいるのかは知らないけれど、貴方は私との決闘に敗れた。故に貴方もあっちの皆も私の物」
「っ!!」
「貴方たちは私の下で美味しい物を食べて、暖かいベッドで安心して眠って、楽しいことをして、やりたいことを見付けて、それをやれば良いのよ。何も無いというのなら、私の手伝いか護衛をしなさい。とにかく、面白いは正義、楽しいは最強、様見ろ感は無敵なのよ」
――レースゲームでコーナーで前の車をぶち抜いた時、フィギュアの試合で逆転した時。ジャンプだけが取り柄の子と私のことを笑っていたお姉さま方をテクニカルとプログラムの全てで上回った時は気持ち良かった。
相当悔しかったみたいね。私は。
「意味分んねぇよ……。面白いが正義とか、楽しいが最強とか、様見感が無敵とか……」
「馬鹿ね。貴方たちを人間の成り損ないと嘲笑して蔑んだ人間たちをギャフンと言わせたくないのかしら? 貴方たちが造った物で度胆を抜かれて腰を抜かした姿を見たくはないのかしら? 貴方たちが造った物を便利だと有り難がって使っている姿を見たくはないのかしら? それを見て、「お前たち人間には造れないだろう。これがアールヴの技術力だ!! 真似が出来るならやってみろ!! 出来ないのか? お偉い人間様なんだろう? 様を見ろ!!」と言ってやりたくはないのかしら?」
「それはちょっと見てみたいし、言ってやりたい……かな。出来たら、楽しいかもな」
「“かも”じゃなくて“絶対”に楽しいのよ。新しい物を造る、やる、というのはね。だから、私に力を貸しなさい。私と一緒に面白い物、凄い物を造って世界を驚かせるの!!」
「ああ、良いぜ、お姫様。俺の名前はラファーガだ!! よろしくな!! 姫様!!」
「私はハーティリア公爵家ソーナ・ラピスラズリよ。此方こそよろしく」
アンタと一緒に俺たちを下に見た奴らが度胆を抜かすような凄ぇ物を造っていて、チビらせてやる!!」
と、こうして私たちの決闘は幕を閉じた。めでたし、めでたし――
「――とは、いかないのが現実なのよね……」
「私の話を聞いているのですか? ソーナお嬢様。何か仰有いましたか?」
前世では正座はあまり馴れてはいないけれど出来ていたけれど、まったく正座という概念がないこの世界というか国ではしたことがない身体には正座はキツいのよ。
ギザギザの石の上に正座させて脚の上に石を積み上げていく拷問はあるそうだけれど。
「決闘で爆発を引き起こし、森を焼き払い、あまつさえドレスで飛び蹴りを食らわすご令嬢が一体、他の何処に居るというのですか!! アリシアから聞いた時は心臓が止まるかと思いましたよ」
「シアン、貴女の目の前に少なくとも一人は存在するわよ? あら、大変。けれど安心して。私、蘇生法も心臓マッサージの研修も受けているもの。魔導具も造って見せるわ!!」
「まったく反省の色が伺えませんね。お解りなのですか? 貴女はこの国の皇太子殿下の婚約者でもあるのですよ!!」
私はハーティリア領の邸に着くなり三時間以上もお説教されているのだ。
「弟様との決闘でも地雷を作り決闘場を地雷原としたり、落とし穴で弟様を溺れさせたりはしましたが――」
まだまだシアンのお説教は続くみたい……。
「少しは人の話を聞くことを覚えなさい!! 貴方の名前のラファーガは『強く吹く風』という意味を持ちますが、むやみやたらに周り噛みつくような風になれという意味を込めてはいません。それがなんですか? 助けて頂いた
ことより、噛みつくなど……」
「いや、だって……」
「言い訳はしない!! 男らしくありません!! 私たちが助け出して頂いただけで警戒を怠るとでも思っているのですか? 私たちが大人しくしていたのは、彼らが真っ先に魔封じ、術封じの枷を外してくれたからです。ハーティリア公爵家のことは聞きました。私たちを蔑んではいないこと、差別も無いこと。しかし、私たちが人間を警戒して、敵視していることを承知で枷を外したのですよ。それを貴方という子は――」
ラファーガも隣で同じ時間お説教されているのだ。
最後に心配した、怪我がなくて良かったと私はシアンに抱きしめられ、ラファーガは強き男の子になりましたね、と抱きしめられている。
†
†
†
†
「なぁ……姫様」
「ラファーガ、貴方、また! ソーナ様の守護者なのだからきちんとソーナ“様”、もしくは“お嬢様”を付けなさいと何度も言っているでしょう!!」
「構わないわよ。此処ではみんな“お嬢”とか“姫さん”とか好き勝手に読んでいるもの。そこに信用、信頼、が感じられるなら何でも良いわよ」
「しかし、公の場で癖が出てはソーナ様が舐められてしまいます」
「そうね。みんなには公の場では“お嬢様”もしくは“主”と言うようには厳命しているから安心して」
「それならば良いのですが……」
不承不承といった感じで引き下がってくれたアリシアには、あとで何かフォローをしてあげたい。
「……しかし、私もこれは、と思ってしまいます……。あの……ソーナ様……」
「何かしら?」
姫様のものになった時、確かに凄ぇ物造って俺たちを見下す奴らの度胆を抜かしてやるって言ったけどさぁ……」
「出来たじゃない? 貴方たち造っている最中、とても楽しそうだったわよ?」
「そりゃあさ、ワクワクしたし、絶対造ってやんよ!! って思ってたけどさ、はっきり言って完成した姿を思い描ききれてなかったんだ……」
「ええ。訳が解りませんでしたから……。この様なものになるとは思いもよらず……」
アリシアとラファーガが戦慄している。それはコレを建造に関わった者たちみんなも同じようだ。彼らは私の注文通り造ったけれど、こんなものが造れるのか、技術があるのかと半信半疑だった様だ。
「造れた。ワクワクしたなら、何も問題は無いじゃない? 貴方たちの正義、最強、無敵の結晶。それで完成したじゃない」
「確かに現状では最強、完全無欠、無敵だとは思いますが……」
「こいつ一つで三年……姫様の築いた財が吹っ飛んじまったんだそ? 俺たちなんかとの約束の為に……」
ラファーガの言葉がみんなにも聞こえたのか、キラキラしたやり遂げたという表情がシュンとなる。
前世の円で例えるなら軽く見積もっても137,802,000円が吹き飛んだ。
つまり私は六歳頃から築いた137,802,000円を使い切ってしまったのだ。
まあ、私が持っているものをアルフォンス皇子との婚約を臭わされた時にハーティリア公爵家に売ったのだ。だって狙いは私が持っている資産だもの。アルフォンスと共有してこれからは二人の事業として展開、バットエンドの婚約破棄で全て慰謝料として持っていかれるくらいなら、と、ハーティリア家に権利を売ったのだ。
損失など逆に慰謝料を勝ち取って補えば良いし、グラディアお爺様や国へ情報を売れば良い。貿易もしているから、コレに関わらない別の情報と権利の一部を主張して取り引きすれば良い。皮算用だけれど、優秀な交渉人が居るのだから大丈夫だと私は思っている。
――セバスチャン、頑張って貰うわよ。その為には今は身体と心を癒してちょうだい。
セバスチャンはお祖父様に頼まれたこともあるのだけれど、自ら私の執事、交渉人となって力を貸してくれている。今は〈トーヤ〉の温泉地でゆっくり休暇を過ごして貰っている。
「なるほど、貴方たちの心配、懸念は理解したわ!! ええ。貴方たちの予想通り、コレがいくら無敵、最強でも一つではどうしようもない。だから造るのよ。私にとっての貴方たち守護者のような存在と、斥候と攻撃が出来る兵士を造りましょう。造るわよ!!」
「また、ソーナ様がやる気に満ちた笑みを浮かべています」
「アリシア嬢ちゃん諦めな。ああなったお嬢は止まらねぇよ」
「どうしたの二人とも、遠くを見詰めて何かあるの?」
こんな外が見えない場所で?
――もしかして幽霊!?
「いや、そうじゃねぇよ。あと、坊主が言いてぇのはお嬢が言ったようなことじゃあ無ぇよ」
「つまり、あまり楽しくなかったということかしら?」
「いや、オレたちゃあスゲェ楽しかった。こんなスゲェもんがオレたちドワーフやアールヴ、人獣たちの力を合わせりゃあ造れたんだからよ。大満足だ。お嬢が居なけりゃあ、こんなん造ろうと思いも、考えも出来なかっただろうよ。オレたちは造るのに夢中で、オレたちとの約束の為にお嬢がどんなもんを代償にしてるか思い至らなくてよ……」
「気になるのなら、私の身に何か起こった時に助けに来てくれればそれで良いわ」
「そんなもん約束しなくても当然だろ」
「それでも、よ」
「お嬢がそれで良いなら、全力で助け出して見せるぜオレたちはよ」
みんな腕を高く挙げ、力強く声を上げて応えてくれる。
「良かったですね。皆、ソーナ様への忠誠心に溢れています。もちろん私たちも。……若干、数名、ソーナ様にもしもがあれば国を滅ぼさん勢いの方がいらっしゃるのが怖いですが……」
お姉さまとかお姉さまとかお姉さまとか。
「ソーナ様……それはきっと、絶対同一人物です」
サラお姉さまならまず生命活動に必要な水を毒で染めて、食となる獣を狩り尽くして生態系バランスを崩壊させて……。
――考えるのは止めよう……。
「あと、な姫様……旦那様と奥様に報告したかなって……」
「確か、ソーナ様の報告書では小さいものという感じでしたが……」
「ええ。もちろん報連相は怠りなくしていたわよ。伝承の〈七つの大罪〉に比べたら小さいじゃない? 何も嘘は吐いていないわ。〈七つの大罪〉と比べてと言わなかっただけよ。問題ないわ」
「……問題ですよ。それだと〈七つの大罪〉と比べて火力も魔力最弱のものが放った程度の火球の威力で、速度も〈七つの大罪〉の移動と比べれば牛歩のようなもの……と、〈七つの大罪〉と比べてと報告せずに、そう記したのですね……」
頭を抱えるアリシア。
「だって、こんな物を造るなんて、絶対反対されてしまうもの」
「可愛く上目使いで言っても駄目です!! 反対なされるに決まっているではありませんか!!」
そりゃあね。コレなら現在の戦力なら国を盗れてしまうもの。実際今すぐにではないけれど、そのつもりで造ったのだけれど。
私は鐵の城を見上げた。