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止まない雨は無い。だが晴れるとは言っていない10

「魔法――魔力というのは方円の器に随い移る水、血と同じ形の無い肉の一部、魂の一部。魔法士は幼少期に罹る病の所為で一時期、魔法が行使出来なくなり不安になるのです。このまま家畜に落ちないか、蔑まれないか、と」


「うむ。子供は皆、その恐怖を、試練を乗り越えてこそ魔法士への道を漸く踏み出せる」


「はい。しかし、魔力の形というのは定かではないのです。それは己を成す根幹が揺らいでいるのと同じ、あやふやなのです。我がハーティリア家の魔力は氷属性。では、お父様は氷が出来る原理を理論的に述べ、氷がどのような形を成すかご存知ですか?」


「む……」


 お父様は眉根を寄せ、考え込む。博識で、国の宰相であるお父様でさえ、生まれつき、家の特性、魔法詠唱、魔法陣展開、魔法陣を描く、それにより氷属性の魔法を行使しているに過ぎない。威力は魔力強度、行使回数は魔力量に依存している。水属性の魔法士が幾ら魔法、魔力で生成した水を冷たくしようと凍らないし、魔力を過剰にしようしなければならず、また熱くしようとすれば、相剋する火の属性を覚えなければならないためにどちらにしても効率が悪く、燃費も悪い。


「おそらく、レインは魔力、魔法が使えない間に、それらに対して疑問を抱いてしまったのだと、私は考察しました。氷が解ければ水と成る。冬、寒さで水は凍り氷となる。では何故、魔法士にとって氷属性は珍しいのか、水属性の自分は氷属性の魔法士になれないのか、と。その果に自身の属性や水魔法にも疑問を持った」


「それは何?」


 今度はお母様だ。自身も水魔法士故に。


「それは水の形とはなんだ、と。先ほどに述べた様に魔力、水というのは方円の器に随い移る形無きもの。それを先達から見せられ、学び、自身の裡で確固たる形にし、それを顕現させ、行使する。レインは己の形を模索してしまったのです。己だけの魔法を。回復期にそれが曖昧なまま形着いてしまった。故に今更他人から知識を学び、経験を真似したところで、試験の時の様に膨張、暴走、暴発、霧散するだけなのです」


「では、レインは己の裡の心象を確固たるものに出来なければ、二度と魔法士となる機会は訪れ無いと言うことか……」


 お父様の気落ちした声に室内の空気が重く、暗いものとなった。


 ――まぁね。私の発言で、一人の若者が魔法士として死んだんだから、仕方が無いって言ったら仕方が無いんだろうけれど、さ。


「ですが、確固たる形に出来れば、最強の魔法士に成る可能性が有る、ということなのですが――」


「真で御座いますか!!」


 カンナが希望を見出し身を乗り出してくる。


「落ち着きなさい。お嬢様のお言葉がまだ続いていたはずだ」


 クロードが奥方を嗜める。


「も、申し訳御座いません」


「許すわ。だけど、レインの拗らせた気の病(アレ)は一筋縄では治らないわよ。それこそ、気合と根性と言ったものでは治らないし、既存の教えでは無理な事は理解出来ているでしょう?」


「では、どの様にすれば良い? あれは騎士としての腕もある。魔法騎士は貴重だ」


「お父様は随分と彼を買っているのですね。しかたがありませんわね。私が考えるに現状、彼の拗らせた気の病には、彼の話を笑わず真剣に聴き、共感出来る様な方との対話しか無いと思いますわ。お父様」


 レインが患い、拗らせた気の病とは厨二病だ。『僕の考えた最強の魔法』という魔法が出ないだけである。

 

 ――夢見ちゃうんだろうね。病が治ったら俺、自分が考えた魔法を使うんだ、って。使えなくなるフラグとは知らずにさ。弟のレイフォンの妄想の逞しさを見習えば良いのに。


 あとは、大人たちでの話合いだ。故に私は自身の研究と考察を纏めた研究文書をお母様に託して部屋を後にした。


 ――レインの対処を聞かれたたけだし、あとは知らん。研究を活かすも殺すも領地運営している領主であるお父様とお母様次第。魔法士教育を改革して強化し、魔法士ではなくとも魔法を学び、研究を強化させ国家として先進国とするか、旧態然とした教育で弱体化させ、国を領地を衰退させるか、どっちかしらね。

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