第6話 クロノス・コントローラー回収
俺、 レイン、 シルフォの3人と、 ウォーブは睨み合っていた。
ウォーブは1番最初に戦った男の娘の様に片目のみ白目になって、 少しずつ人間味を無くしていく。
これが本当にラストスパートだな……そう思った。
シルフォは自分の砕けた左腕を見ながら呟いていた。
「果たしてこの腕は治るのだろうか……もし治る事が無かったら、 私はもう二度と戦う事は出来なくなってしまう……」
落ち込むシルフォを横目で見た後、 レインはフォローする様に言った。
「君の人生は戦う事だけじゃない……何か有ったら私達が助けてあげるよ。 1人じゃないからね」
2人の会話を聞き、 俺は少し微笑みながらそこそこ最低な事を思っていた。
『私達』ってまさか俺も入ってる? メンドクセーんだけど。
レインには気付かれたらしく、 軽くど突かれた。
その状態でやるなよな……いてーから。
「とりあえず……アイツ倒すには猛攻が1番だよな? 」
俺が問いかけるとレインは首を縦に振り、 それに付け加える様に答えた。
「なるべくバラバラに攻撃しなきゃ当たらないよ。 止められちゃうからね」
確かにそうだ、 アイツの厄介な所は殆どコントローラーにある。
『クロノス・コントローラー』の能力専用武器の《スォイフ・クロッグ》によって動きを遅くされたり止められたりするのがとても面倒なんだ。
「どーにか突破出来ねーかねぇ」
俺が溜息を吐きながら考え始めると、 レインは自分の手を見つめ剣を握り直した。
「私が最初に突っ込むよ。 もしかしたら止められる直前に一撃当てられるかも知れないから」
「じゃあその怯んだ所を私達でトドメを刺す訳だな。 お前の作る一瞬を突く……スピードが物を言う作戦だな」
俺達全員の決心が固まったと同時に、 再び《スォイフ・クロッグ》を取り出したウォーブの姿は、 人間型だが最早人では無かった。
白目、 充血……そして殆ど自我もある様に感じないその狂気の眼は俺達の動きを把握されている様だ。
シルフォは床に刺さっていた剣を抜き、 レインは《シャイニング・ソード》を構えた。
そして俺は準備体操で行うジャンプに酷似した動きをし、 深呼吸をすると鮮赤の刃をウォーブに向ける。
「うっし……行くぜ! 」
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その掛け声と共に俺の真横で暴風レベルの風が吹いたが、 俺とシルフォはその風に負けずに猛スピードでそれぞれ別の方向へ走る。
「なるほド……3人同時攻撃カ……」
残念だが外れだぜ怪物!!
レインは走って1秒も経たずに数十メートル先のウォーブの眼の前に出て来た。
そして輝く軌跡を横向きに描きながら剣を振る。
ウォーブはいち早く察知し、 1歩後ろへ飛びソレを掠めながら避けた。
「くっ……!! 」
それと同時に予想通りレインは止められてしまったが、 その隙を逃さず俺とシルフォで挟む。
「……!! シルフォ! 」
「くっ! 失敗か!! 」
俺とシルフォが失敗と言ったのには訳があった。
まず、 奴の左側から来た俺の動きが止められ、 大怪我で動きの鈍ったシルフォの攻撃は軽々と避けられてしまうのが分かったのだ。
ウォーブは予想通りシルフォの攻撃を最小限の動きで回避し、 そのままシルフォを蹴り飛ばす。
「ぐあぁっ! 」
「シルフォ! 」
続いてシルフォを心配し叫んだ止まったままの状態の俺を蹴り上げ、 床に叩き落とした。
「ごわぁあばば! ……どんだけ鼻やんだこのヤロー!! 」
もうほんとに鼻砕けるっつの……でもまだ折れてねーんだぜ? すごくね? 俺の鼻頑丈だな。
そう考えていると、 時間に逆らい少しずつ動き出すレインも蹴り飛ばされた。
蹴るの好きっすねぇ。
「お前ノコントローラー……厄介ダな、 頂クゾ」
時々発音もおかしい喋り方になったウォーブは揺ら揺らと俺の方へ歩いて来る。
げ、 過去に戻ったとかの……コイツの記憶には有るんだった。
俺が立ち上がろうとすると、 すかさず蹴り飛ばして来、 高速で俺に膝蹴りをし壁に減り込ませる。
「ごあぁああ!! 」
俺の背骨は軋む様な音を立て、 俺の口や頭からは少量の血が出てきた。
くそっ……! 今回はマジで激痛だ! そろそろこの戦闘服ダメなんじゃねーか!? 耐性が弱くなってきてる気がする……!!
「今息ノ根ヲ止メテやル……」
一瞬だけ《スォイフ・クロッグ》が光ると、 シルフォの持つ剣が消え、 ウォーブの手に現れた。
巻き戻しか……! やべぇ、 このままじゃ串刺しにされる……! !
「アウドラ……! 」
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「……!! 」
黄金の剣が光速で飛び、 ウォーブの持つ剣を弾き飛ばすと、 レインはウォーブに猛スピードで突っ込んだ。
そしてそのまま壁に叩きつけるが、 蹴られて宙を舞う。
「……っ!! 」
諦める事なく見えない程のスピードでウォーブに蹴りを入れるレインだが、 その蹴りは全て防がれている。
光の残像が見える程の超光速の蹴りを喰らいながらも吹っ飛ばずにガードをし続けるウォーブを見ると、 もう完全な怪物だった。
「あの光速の蹴りをどうやって受け止めてんだ!? 」
「もう奴は化け物も同然だ……!! 」
ウォーブの避けるフェイントに掛かってしまったレインの蹴りは大きく外れ、 空を切る。
そしてバランスを崩したレインに力一杯正拳突きを食らわすウォーブ。
「……っ!! 」
レインは口から大量の血を吐き、 10m程吹っ飛んだが、 滑りながらも着地をし左斜め下を見る。
そこに在った先程飛ばした 《シャイニング・ソード》 を手にした。
だが、 眼の前には既に剣を拾い振り下ろして来るウォーブの姿が在った。
「ヴぅあ!! 」
レインの身体からは大量の鮮血が飛び散った。
そしてそのまま仰向けに倒れるレインを見下す様にすると、 ウォーブは再び俺の方へ歩いて来る。
「くっそ……!! 」
「レイン!! 」
レインがやられた! 早く抜けろぉ!! ちくしょう!
俺は必死に両腕に力を入れ、 壁から抜け出そうとする。
レインが……! くれた時間無駄にすんな俺!!
「ほんがっ! 」
俺は壁から抜け出し床に落ちると、 その勢いのまま跳ね上がりウォーブを睨みつけながら立つ。
俺は舐めてるかの様に、 バカを見る様な目で見てくるウォーブを見、 目を閉じ血を流し倒れるレインを見た。
「……俺のやる事は決まった……いや、 コントローラーを拾った時から決まってたんだ」
俺が呟くとウォーブは剣を一度振り、 付いた血を払う。
シルフォも動けない……レインも危ない……なら、 こいつを倒すのは……!
「俺が……テメーを斬る!!! 」
そして俺とウォーブは互いに走り出し、 お互いが装備する刃を合わせ、 火花を散らす。
俺の真紅の刃とただの剣、 どっちが強いかなんて知らねぇ……とにかく! 俺は……
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こいつを倒すんだ!!
「おぉぉおおらああぁ!! ……ゲホ」
俺は《サシルベ・ブレード》を一心不乱に振り回す……当然当たらないのなんか分かってる。
俺が狙ってるのはそこじゃない。
奴が持つ《スォイフ・クロッグ》だ!!
「オラァどうした来いや恋や鯉や!! 」
何かよく分からない事を叫びながら俺は止まらず攻めて行く……こうも簡単に避けられると本当に腹立つよね~ ──皆さんそう思いません?
俺はシルフォがクナイを構えているのに気付き、 突きと見せかけてしゃがんだ。
「こっちだ! 」
「 ! 」
シルフォは大声で叫ぶと同時にクナイを勢いよくなげウォーブの注意を逸らしたが、 あまり意味はなく次の俺の一撃は難なく躱された。
「くっそこいつ強ぇなちくしょー! 」
直後に蹴り飛ばされた俺は壁に当たると同時にに《シャドウ・ビジョン》 を発動させた。
「よう相棒、 先行くぜ! 」
出て来た俺の『影』は土煙を突き破りウォーブの元へ駆けていく。
そして現在消えた状態の俺自身も走りだし、 ウォーブへ接近し2人で攻撃を仕掛ける。
「ナンダ……!? もウ一体何かガ居ル……!? 」
避けてる筈なのに斬られている事にすぐ気付き、 辺り一帯を薙ぎ払うウォーブ。
その衝撃で『影』は消え、 俺の姿は見える様になった。
「ヤハリお前の能力カ……厄介だ」
「いやいや、 オメーの能力専用武器に比べりゃ屁でもねーって」
俺は振り下ろされた剣を跳び避け、 一旦距離をとる。
ウォーブは忘れてた様な素振りを見せ、 また《スォイフ・クロッグ》を出す。
あ~れが厄介なんだよマジで。
動き止めるとかザケンナよな、 アニメじゃあるまいし……ゲームとか。
ゲーム、 アニメ……? あ、 ちょっと試したい事出来たわ、 やってみよ。
俺はコントローラーの4つのボタンの内、 1つを押した。
「『シャドウ・ビジョン・large version』 ヘイカモン!! 」
ーー《シャドウ・ビジョン》large versionププッ。 ニンショウシマシタ ーー
今笑ったな……このクソコントローラーが。
まあいいか、 とりあえず認証したって事は出来るって事だもんな。