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ビジョン・コントローラー  作者: ☆夢愛
第3章(最終章)最後の戦い
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最終話 楽しんで生きてみよう

最終話は少し、長めです。

 全てを見捨て、共に散るか。

 一か八かの賭けに出て、最後の敵を葬るか。


 俺は今、そんな二択を迫られている。正直、自分次第っていうのは好きじゃないんだけどな。めんどいし。

 だが、今この場で俺に「やれ」と言える奴は、相当な図々しさだ。シルフォなら平然と言って来そうだけどな。

 ──たとえそうでなくとも、選択肢はそもそもないと言える。


「……ユーニ。改めて訊くが、全てのボタンを押した後、俺はあのアノムスと似た状態になるわけだな?」


 不安を少しでも排除しておきたいし、レイン達が頑張ってくれている間に、ユーニに確認を取っておく。


『うん。僕が調べた限りではそう。十中八九ああなるって覚悟して。でも──』


「自我を失うことはないし変な声になったりもしない、だろ?」


『うん。リェイブ版はその点は安全ということが分かった。ただ、元に戻れるかどうかってところに問題が……もとい心配があるの。だから、使えるアウドラ次第でいい』


「うん、分かった」


 元に戻れるか……の部分がってことは、俺も死ななければ崩壊は止まらないってわけではなさそうだ。

 それを聞いて安心したぜ。普通に怖いからな。


「よし、いっちょやってみるわ。因みに、元の姿に戻れなくなったからって、殺そうとはしないでくれよな。何も害はないなら」


『もちろん。アウドラを元の世界に戻してあげることは難しくなるけど、僕達が責任を持って介護させてもらうよ』


「ははっ。……まぁ、それならいい」


 介護か。ヨボヨボにでもなっちまうのだろうか? それはないか。

 それと、元の世界には絶対に戻れなくなるな。フォルドアや母さんに別れの挨拶も出来なかったのは、悔やみどころだ。

 ……ま、まだどうなるか分かってねーけどな。


「行くぜ、ビジョン・コントローラー」


 ──オッス──


「頼むぜ!!」


 機械音声を聞いて、決意を再確認。揺らぐことがないように、直ぐに全てのボタンを押した。

 掌で。


 ──ああ、分かる分かる。何かが湧き上がって来る感覚がある。

 自分の身体から、ドス黒いオーラが発せられている。つまり、アノムスと同様の姿となったわけだ。


「アウドラ……っ!?」


「えっ……?」


「なっ……!?」


「……まさか、そう来るとはね」


 シルフォ、レイン、ココアだけでなく、アノムスまでもが衝撃を受けているようだ。それもそうか。

 俺はグッパーグッパー手を動かし、身体が平常時同様にコントロール可能であることを確認した。何だ、違和感ゼロに近ぇわコレ。


「……アノムス。一応予定通りなら、お前はもう終わりだぜ」


『アノムスにも教えていない結果だったから、チャンスだよ!』


 舐め腐った態度で、アノムスを指差す。なるほど、押しただけじゃコントローラーは無力化されないのか。面倒くせぇな。

 シルフォ達はアノムスから離れ、俺に注目する。アノムスも、最早棒立ちで俺を見据える。


「ユーニが、僕に悟られずに何かしたんだね? まさか出し抜かれるとはね」


 出し抜いたわけではないと思うがな。いや、気づかれなかったんだからそれでもいいのか?


『僕を誰だと思っているんだい? 世界最高の科学者だよ!』


 まるでドヤ顔していそうなテンションで、ユーニは返す。残念ながら、この通信機はアノムスとは繋がっていないから、聞こえないと思う。

 そんなことよりアノムスが攻撃体勢に入ってるヤベェ。アイツらが手を止めるからだ!


「コントローラー! 全てのコントローラーの機能を停止させろ──!!」


 棍棒を構えて突進して来るアノムスにビビって、早口で叫んだ。

 シルフォとレインが何とか反応してくれて、アノムスの前方を遮る。

 そして、


「……やってくれたね、見事だアウドラ」


 ──留守番電話サービスみたいに「ピー」という音が鳴り、アノムスの手から棍棒が消滅した。更に、虫食いのようにクロスも失われていく。

 アノムスだけでなく、シルフォにレイン、ココアも順番に。


 ──オールコントローラー 機能ヲ停止シマシタ──


 そして、俺のクロスも消え、私服姿となる。今更だが、シルフォの私服が忍装束なのも、水着が解除されて普通の服に変化するココアも、かなりおかしい。

 シルフォの方はまだギリ、想像で何とか理解出来るが。


「えっ? ち、ちょっと待てアウドラ。貴様これ、どういう……」


「悪ぃなお前ら、コントローラーを使った戦いはここまでだ。あとは、そいつをこのまま倒す」


『世界の消滅速度、著しく減少。けどやっぱり終わらない。……だから、お願い皆』


「……ああ」


 今の通信は三人にも繋がっていたらしく、ハッとした様子になる。

 躊躇いがちにアノムスを見るココアと、クールに黙るレイン。少し狼狽えたように見えたシルフォは──


「よし、殺そう」


 忍刀をさっと取り出した。

 ……ふん。ふふん。


「アノムス、貴様何か言い残すことはあるか? 『ごめんなさい』の六文字程度ならば聞いてやろう」


 いやそれ「ごめんなさい」で終わりなんだから、聞いてやろうも何もないだろ。

 それにまだ、アノムスの眼は死んでねぇぞ。元からそういう顔なだけの可能性もあるが、諦めたような表情はしていない。


「そうだね……流石に、シルフォがいる限り現状を打破するのは厳しいかな? 僕の強みはコントローラーを複数使えることだったが、それも無力化されてしまった」


 ──と思ったら、あっさりヘラヘラ笑い出す。油断を誘っている恐れもあるからな、乗らねーぞ。

 ココアでさえも無防備ではいないから、誰も流されていないな。よかった。


「……けどね、皆」


 ヘラヘラぶん殴りたくなる態度から一変し、アノムスは穏やかな面持ちになる。脱力し、完全に隙だらけな体勢になった。


「君達の誰かが僕に手をかける必要はない。何故なら、()()()()()()からだ」


「……あん?」


「僕は、十一個のコントローラーと融合した。君達と違って、変身しただけじゃない」


 アノムスの説明を聞いて、「いや知っとるがな」と言いたくなったが、一応自重した。言葉の意味をよく考えてみる。

 俺が悩んでいる間に、驚愕したような顔のシルフォが、向けていた刀を下ろす。


「貴様、まさか……」


「気づいたかい? そう、多分その通りさ。僕はもう時期消えていなくなる。──コントローラーの機能が停止され、僕の生命も途絶えることとなるからだ」


 納得した。なるほど、心肺停止させられるようなものか。ただ、普通に死ぬわけではなく、ログアウトするような感じだろうけど。

 永遠に戻って来れなくなるであろう、ログアウトだ。

 次第に、アノムスの身体が優しいを発していく。


「お見事、君達の勝利だ。ただ戦闘を続けるのであれば僕の勝ちだったろうが、結果はね」


 パチパチと拍手されるが、正直殴りたくなった。実際は自分の勝ちだってか? クソチート野郎。


「僕が人とは違う、アシュレイドとも違う存在として生まれて二十七年。何をすべきか苦悩した果てが仲間達との戦いだった。そして現状(いま)に至る」


 思い出を振り返るように目を閉じて、アノムスは続ける。

 何気に苦労してんだなお前も。自分が、何なのかよく分かっていなかったってことだろ、それ。

 何故そんな答えに辿り着いたのかが不思議で仕方ねーけどな。ぶっ飛ばすぞマジで。


「礼を言わせてもらうよ、皆。僕は全てを破壊するか、君達の手によって消滅するかのどちらかを求めていた。けど、どうせなら君達に挑戦したかったんだ」


 アノムスはそう言って微笑むと、俺達一人一人の顔をじっくりと眺める。レインだけが「見るな」と冷たくあしらった。酷い子だ。

 気づけば、アノムスの手や足首より下など、頭部以外の先端部分は既に消えている。

 そろそろ、完全にお別れだな。


「今度は……君達と同じ人間で。またビワの戦士として、とは願わないけど、仲間になれることを祈るよ。それじゃあ……さようならだ」


「ああ。次、俺がニワトリになってる可能性もあるけどな」


「ははっ、確かに。人間だけとは限らないもんね────」


 俺のせいで最期の言葉が変になったアノムスは、炭酸飲料のCMみたいに、シュワっと弾けて消えた。すまん。

 改めて、三人の仲間達の表情を窺ってみる。レインは最早無で、ココアは切なく俯いている。シルフォは──欠伸なんかしていやがった。

 俺が言うのも何だけど、シルフォとレインは人間として何かが欠けている気がします。


『……皆、お疲れ様。僕からもお礼を言うよ、ありがとう。アノムスの、願いを叶えてくれて』


「気にすんな。どの道、勝っても負けてもお別れだったんだしよ」


 自分でも、言葉に脈絡がなさ過ぎて、違和感だらけな返事をしたと思う。結構恥ずかしいが、誰も気にしていなさそうなのでよしとしよう。


 ──アシュレイドも、アノムスもいなくなったためか、この世界も崩壊が始まった。

 俺達は全員、消えゆく要塞を目に焼き付けてから、ビワへと帰還した。


 ※


 アノムスとの戦いから、凡そ五日が経過した。枯れていた世界樹は嘘だったかのように綺麗に元通り。このビワの世界も、穏やかな景色に変わっていた。

 もう戦う必要がなくなった戦士達は、各々の幸せのため、新たな暮らしを進めているのだ。


 そんな中、俺は一人()()を整える。

 因みに、今更なのは筋肉痛で動けなかったから。


「──アウドラ、準備は終わったのか?」


「お。よぉシルフォ。丁度、今終わったぜ。あ、うまい棒置いて行くから食っていいぞ」


「……いただいておく」


 心底要らなそうな顔をするシルフォを見て、思わず笑みがこぼれた。最後だからって、無理しなくてもいいのによ。


「アウドラ……貴様は、私達と出会い共に戦ったことを、どう思う? 完全に強引な入隊で、散々な目にも遭って来た筈だが。貴様は、どう感じているのか聞かせてくれ」


 とても不安そうに、拳を握り締めるシルフォ。俺は今一度、その答えを探してみる。


「……戦いはキツかった。結局、ビジョコンは大したこと出来ねーし。最後は役に立ったが」


 上位互換のクロノスになんて、フルボッコも同然だったからなぁ。


「けど、お前らと会ったことは誇れることだと思ってんぜ。人知れず世界救って、絆だって深まった実感もある。……楽しかったぜ、中々な」


「……そうか」


 俺の答えに満足してくれたのか、シルフォは優しく微笑んだ。普段のゴリラ感はない。

 ──俺は三回転して床に伏した。全然あったわゴリラ感。


 この世界……ビワ国での生活はかなり厳しかった。まず食い物が全く違うのが最もしんどい。ぶっちゃけ、百階以上もあるからエレベーターでの移動もキツい。

 思い返してみれば、さっさと帰りたいと思えるような日々だった。


 でも、さっきの言葉は嘘じゃない。暮らしこそ耐え難いものだったが、シルフォやレイン達……仲間達と共に生き抜いて来たことは、誇りだ。


「俺はな、元の世界で言うところの超人なんだ。ずっと日常がつまらなかった。けど、アシュレイドとの戦いやビワでの生活は、退屈なんて感じてる暇なんかなかった。色々嫌なこともあったが、最高の経験だったと言える。これからが一層つまらなく感じるだろうなってくらいにはな」


「……だったら」


「悪ぃけど、俺は帰るぜ。母さんを待たせてるからな」


 引き留めようとしたであろうシルフォの言葉を遮り、ケラケラ笑って見せる。そして、寂しそうにしているコイツの目をじっと見る。


「ありがとうな、シルフォ。いや、正直お前の暴力は訴えたくなるレベルだったが……この世界で諦めずにいれたのは、お前の存在が大きい」


「世辞は結構だ。私こそ、礼を言う。ただの一言だが。──共に戦ってくれて、ありがとう」


「へへっ……おう」


 ──久々に見る、異世界とを繋ぐゲートの前に立つ。

 あ、アノムスと戦う直前にも見たし、頻繁に見てたわ。ごめん何でもない。


「アウドラ」


 名前を呼ばれ、その声の主の方へと身体を向ける。

 最後くらい、ちゃんとお別れしたいしな。


「よっ、レイン。悪いな呼んじまって」


「本当に帰るの……?」


 レインの、深紅の瞳が俺を見つめる。

 俺が元の世界に戻るということは、レインとも別れることになる。もうここには帰って来ない。これが、最後の会話なんだ。


「ああ、帰るよ。昨夜はありがとうな」


「……私はアウドラのこと、好きだよ」


「俺も、まぁ……その、好きだけども。お前はここに残るんだろ? だったら、俺とは永遠の別れになる」


 誘ってみたけれど、レインは別れることを選んだ。今更別の世界には行けねえってよ。ま、それもそうだよな。

 ──黙っていたレインが、力強く抱き着いて来た。痛い力強い。


「アウドラ。私は忘れない、ずっと忘れない。アウドラのことが好き。これからもずっと」


「それはキツいだろ、精神的に。俺のことは覚えておいてくれた方が嬉しいけど、気持ちは忘れろ。新しい相手、探して、幸せになってくれ」


「……うん。アウドラも、幸せになってね」


「ああ──レイン」



 レインの身体を抱き寄せて、長い長い、想いを乗せたキスをする。



 レインは目尻に涙を浮かばせ、儚い笑顔を俺に見せた。


「さようなら、アウドラ」


「さようなら、レイン」


 最後まで、恋人の顔を目に焼き付けて、ゲートの中へと進む。真っ暗な道を進み、まだ薄暗い故郷へと出る。

 振り返れば──もう、ゲートはない。


「じゃあな……」


 ※


「あ、いたいた。おーい! フォルドア!」


 かなり久し振りな気もするしそうでもない気もするが、捜していた人を見つけることが出来た。

 異変が起こり、突如現れた川はもうない。


 「あ、アウドラさん! お久し振りです。……戦い、終わったんですね」


 「おう、やっとな。この世界も元通りになったみたいでホッとした」


 「ええ、学校もありますよ。人も皆、戻って来たみたいです」


 「そりゃあよかった。んじゃあまたな」


 「ええっ!?」


 流れるように帰ろうとしたら、手を掴まれた。おっと?


 「どうした? 報告はしたしもう用事ねーぞ?」


 「もうちょっとお話しませんかせめて」


 「明日じゃダメか? 俺、向こうで恋人と別れて来たから傷心中なんだけど」


 「えっ……じゃあ、明日湯屋に来てくれますか……?」


 「……いいけど」


 面倒くせぇなと思いながら頷いたら、フォルドアは嬉しそうに微笑む。うんうんよかっな手を離してくれ痛てぇ。


 「──というかアウドラさん彼女、いたんですね。意外です」


 「何で意外なんだよ」


 「えっと……何となく」


 「お前、思いの外失礼だな」


 「ご、ごめんなさい」


 ペコペコと頭を下げるフォルドアを見て、溜め息を吐く。俺そんなモテなそうか? 別にいいけどよ。

 その後も少しの間フォルドアと会話を続け、時々母さんのことも考えていた。


 異世界にて、世界を救うための戦いを終えた。元通りとなった故郷に帰って来た。新しい幸せを見つけられるのも、何となく早い気がする。

 たまに「あれ? コントローラーどこだ?」とか、リモコンを見てコントローラーを思い出したりはするが、いずれ慣れるだろう。

 因みにコントローラーは無人の世界にて、封印されている。


 ──あんな日々があったんたんだから、これからどんなことが起こっても、大して驚かないだろう。

 だから、退屈なのはもういっそ受け入れて、俺はこれからを目いっぱい、楽しんで生きてみようと思う。










 ─END─

エブリスタからスタートし、凡そ4年と10ヶ月。

ようっ……やく!完結です!

ありがとうございました!!

ここまで読んでいただき、本当に、ありがとうございました!

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