最終話 楽しんで生きてみよう
最終話は少し、長めです。
全てを見捨て、共に散るか。
一か八かの賭けに出て、最後の敵を葬るか。
俺は今、そんな二択を迫られている。正直、自分次第っていうのは好きじゃないんだけどな。めんどいし。
だが、今この場で俺に「やれ」と言える奴は、相当な図々しさだ。シルフォなら平然と言って来そうだけどな。
──たとえそうでなくとも、選択肢はそもそもないと言える。
「……ユーニ。改めて訊くが、全てのボタンを押した後、俺はあのアノムスと似た状態になるわけだな?」
不安を少しでも排除しておきたいし、レイン達が頑張ってくれている間に、ユーニに確認を取っておく。
『うん。僕が調べた限りではそう。十中八九ああなるって覚悟して。でも──』
「自我を失うことはないし変な声になったりもしない、だろ?」
『うん。リェイブ版はその点は安全ということが分かった。ただ、元に戻れるかどうかってところに問題が……もとい心配があるの。だから、使えるアウドラ次第でいい』
「うん、分かった」
元に戻れるか……の部分がってことは、俺も死ななければ崩壊は止まらないってわけではなさそうだ。
それを聞いて安心したぜ。普通に怖いからな。
「よし、いっちょやってみるわ。因みに、元の姿に戻れなくなったからって、殺そうとはしないでくれよな。何も害はないなら」
『もちろん。アウドラを元の世界に戻してあげることは難しくなるけど、僕達が責任を持って介護させてもらうよ』
「ははっ。……まぁ、それならいい」
介護か。ヨボヨボにでもなっちまうのだろうか? それはないか。
それと、元の世界には絶対に戻れなくなるな。フォルドアや母さんに別れの挨拶も出来なかったのは、悔やみどころだ。
……ま、まだどうなるか分かってねーけどな。
「行くぜ、ビジョン・コントローラー」
──オッス──
「頼むぜ!!」
機械音声を聞いて、決意を再確認。揺らぐことがないように、直ぐに全てのボタンを押した。
掌で。
──ああ、分かる分かる。何かが湧き上がって来る感覚がある。
自分の身体から、ドス黒いオーラが発せられている。つまり、アノムスと同様の姿となったわけだ。
「アウドラ……っ!?」
「えっ……?」
「なっ……!?」
「……まさか、そう来るとはね」
シルフォ、レイン、ココアだけでなく、アノムスまでもが衝撃を受けているようだ。それもそうか。
俺はグッパーグッパー手を動かし、身体が平常時同様にコントロール可能であることを確認した。何だ、違和感ゼロに近ぇわコレ。
「……アノムス。一応予定通りなら、お前はもう終わりだぜ」
『アノムスにも教えていない結果だったから、チャンスだよ!』
舐め腐った態度で、アノムスを指差す。なるほど、押しただけじゃコントローラーは無力化されないのか。面倒くせぇな。
シルフォ達はアノムスから離れ、俺に注目する。アノムスも、最早棒立ちで俺を見据える。
「ユーニが、僕に悟られずに何かしたんだね? まさか出し抜かれるとはね」
出し抜いたわけではないと思うがな。いや、気づかれなかったんだからそれでもいいのか?
『僕を誰だと思っているんだい? 世界最高の科学者だよ!』
まるでドヤ顔していそうなテンションで、ユーニは返す。残念ながら、この通信機はアノムスとは繋がっていないから、聞こえないと思う。
そんなことよりアノムスが攻撃体勢に入ってるヤベェ。アイツらが手を止めるからだ!
「コントローラー! 全てのコントローラーの機能を停止させろ──!!」
棍棒を構えて突進して来るアノムスにビビって、早口で叫んだ。
シルフォとレインが何とか反応してくれて、アノムスの前方を遮る。
そして、
「……やってくれたね、見事だアウドラ」
──留守番電話サービスみたいに「ピー」という音が鳴り、アノムスの手から棍棒が消滅した。更に、虫食いのようにクロスも失われていく。
アノムスだけでなく、シルフォにレイン、ココアも順番に。
──オールコントローラー 機能ヲ停止シマシタ──
そして、俺のクロスも消え、私服姿となる。今更だが、シルフォの私服が忍装束なのも、水着が解除されて普通の服に変化するココアも、かなりおかしい。
シルフォの方はまだギリ、想像で何とか理解出来るが。
「えっ? ち、ちょっと待てアウドラ。貴様これ、どういう……」
「悪ぃなお前ら、コントローラーを使った戦いはここまでだ。あとは、そいつをこのまま倒す」
『世界の消滅速度、著しく減少。けどやっぱり終わらない。……だから、お願い皆』
「……ああ」
今の通信は三人にも繋がっていたらしく、ハッとした様子になる。
躊躇いがちにアノムスを見るココアと、クールに黙るレイン。少し狼狽えたように見えたシルフォは──
「よし、殺そう」
忍刀をさっと取り出した。
……ふん。ふふん。
「アノムス、貴様何か言い残すことはあるか? 『ごめんなさい』の六文字程度ならば聞いてやろう」
いやそれ「ごめんなさい」で終わりなんだから、聞いてやろうも何もないだろ。
それにまだ、アノムスの眼は死んでねぇぞ。元からそういう顔なだけの可能性もあるが、諦めたような表情はしていない。
「そうだね……流石に、シルフォがいる限り現状を打破するのは厳しいかな? 僕の強みはコントローラーを複数使えることだったが、それも無力化されてしまった」
──と思ったら、あっさりヘラヘラ笑い出す。油断を誘っている恐れもあるからな、乗らねーぞ。
ココアでさえも無防備ではいないから、誰も流されていないな。よかった。
「……けどね、皆」
ヘラヘラぶん殴りたくなる態度から一変し、アノムスは穏やかな面持ちになる。脱力し、完全に隙だらけな体勢になった。
「君達の誰かが僕に手をかける必要はない。何故なら、もう終わったからだ」
「……あん?」
「僕は、十一個のコントローラーと融合した。君達と違って、変身しただけじゃない」
アノムスの説明を聞いて、「いや知っとるがな」と言いたくなったが、一応自重した。言葉の意味をよく考えてみる。
俺が悩んでいる間に、驚愕したような顔のシルフォが、向けていた刀を下ろす。
「貴様、まさか……」
「気づいたかい? そう、多分その通りさ。僕はもう時期消えていなくなる。──コントローラーの機能が停止され、僕の生命も途絶えることとなるからだ」
納得した。なるほど、心肺停止させられるようなものか。ただ、普通に死ぬわけではなく、ログアウトするような感じだろうけど。
永遠に戻って来れなくなるであろう、ログアウトだ。
次第に、アノムスの身体が優しいを発していく。
「お見事、君達の勝利だ。ただ戦闘を続けるのであれば僕の勝ちだったろうが、結果はね」
パチパチと拍手されるが、正直殴りたくなった。実際は自分の勝ちだってか? クソチート野郎。
「僕が人とは違う、アシュレイドとも違う存在として生まれて二十七年。何をすべきか苦悩した果てが仲間達との戦いだった。そして現状に至る」
思い出を振り返るように目を閉じて、アノムスは続ける。
何気に苦労してんだなお前も。自分が、何なのかよく分かっていなかったってことだろ、それ。
何故そんな答えに辿り着いたのかが不思議で仕方ねーけどな。ぶっ飛ばすぞマジで。
「礼を言わせてもらうよ、皆。僕は全てを破壊するか、君達の手によって消滅するかのどちらかを求めていた。けど、どうせなら君達に挑戦したかったんだ」
アノムスはそう言って微笑むと、俺達一人一人の顔をじっくりと眺める。レインだけが「見るな」と冷たくあしらった。酷い子だ。
気づけば、アノムスの手や足首より下など、頭部以外の先端部分は既に消えている。
そろそろ、完全にお別れだな。
「今度は……君達と同じ人間で。またビワの戦士として、とは願わないけど、仲間になれることを祈るよ。それじゃあ……さようならだ」
「ああ。次、俺がニワトリになってる可能性もあるけどな」
「ははっ、確かに。人間だけとは限らないもんね────」
俺のせいで最期の言葉が変になったアノムスは、炭酸飲料のCMみたいに、シュワっと弾けて消えた。すまん。
改めて、三人の仲間達の表情を窺ってみる。レインは最早無で、ココアは切なく俯いている。シルフォは──欠伸なんかしていやがった。
俺が言うのも何だけど、シルフォとレインは人間として何かが欠けている気がします。
『……皆、お疲れ様。僕からもお礼を言うよ、ありがとう。アノムスの、願いを叶えてくれて』
「気にすんな。どの道、勝っても負けてもお別れだったんだしよ」
自分でも、言葉に脈絡がなさ過ぎて、違和感だらけな返事をしたと思う。結構恥ずかしいが、誰も気にしていなさそうなのでよしとしよう。
──アシュレイドも、アノムスもいなくなったためか、この世界も崩壊が始まった。
俺達は全員、消えゆく要塞を目に焼き付けてから、ビワへと帰還した。
※
アノムスとの戦いから、凡そ五日が経過した。枯れていた世界樹は嘘だったかのように綺麗に元通り。このビワの世界も、穏やかな景色に変わっていた。
もう戦う必要がなくなった戦士達は、各々の幸せのため、新たな暮らしを進めているのだ。
そんな中、俺は一人支度を整える。
因みに、今更なのは筋肉痛で動けなかったから。
「──アウドラ、準備は終わったのか?」
「お。よぉシルフォ。丁度、今終わったぜ。あ、うまい棒置いて行くから食っていいぞ」
「……いただいておく」
心底要らなそうな顔をするシルフォを見て、思わず笑みがこぼれた。最後だからって、無理しなくてもいいのによ。
「アウドラ……貴様は、私達と出会い共に戦ったことを、どう思う? 完全に強引な入隊で、散々な目にも遭って来た筈だが。貴様は、どう感じているのか聞かせてくれ」
とても不安そうに、拳を握り締めるシルフォ。俺は今一度、その答えを探してみる。
「……戦いはキツかった。結局、ビジョコンは大したこと出来ねーし。最後は役に立ったが」
上位互換のクロノスになんて、フルボッコも同然だったからなぁ。
「けど、お前らと会ったことは誇れることだと思ってんぜ。人知れず世界救って、絆だって深まった実感もある。……楽しかったぜ、中々な」
「……そうか」
俺の答えに満足してくれたのか、シルフォは優しく微笑んだ。普段のゴリラ感はない。
──俺は三回転して床に伏した。全然あったわゴリラ感。
この世界……ビワ国での生活はかなり厳しかった。まず食い物が全く違うのが最もしんどい。ぶっちゃけ、百階以上もあるからエレベーターでの移動もキツい。
思い返してみれば、さっさと帰りたいと思えるような日々だった。
でも、さっきの言葉は嘘じゃない。暮らしこそ耐え難いものだったが、シルフォやレイン達……仲間達と共に生き抜いて来たことは、誇りだ。
「俺はな、元の世界で言うところの超人なんだ。ずっと日常がつまらなかった。けど、アシュレイドとの戦いやビワでの生活は、退屈なんて感じてる暇なんかなかった。色々嫌なこともあったが、最高の経験だったと言える。これからが一層つまらなく感じるだろうなってくらいにはな」
「……だったら」
「悪ぃけど、俺は帰るぜ。母さんを待たせてるからな」
引き留めようとしたであろうシルフォの言葉を遮り、ケラケラ笑って見せる。そして、寂しそうにしているコイツの目をじっと見る。
「ありがとうな、シルフォ。いや、正直お前の暴力は訴えたくなるレベルだったが……この世界で諦めずにいれたのは、お前の存在が大きい」
「世辞は結構だ。私こそ、礼を言う。ただの一言だが。──共に戦ってくれて、ありがとう」
「へへっ……おう」
──久々に見る、異世界とを繋ぐゲートの前に立つ。
あ、アノムスと戦う直前にも見たし、頻繁に見てたわ。ごめん何でもない。
「アウドラ」
名前を呼ばれ、その声の主の方へと身体を向ける。
最後くらい、ちゃんとお別れしたいしな。
「よっ、レイン。悪いな呼んじまって」
「本当に帰るの……?」
レインの、深紅の瞳が俺を見つめる。
俺が元の世界に戻るということは、レインとも別れることになる。もうここには帰って来ない。これが、最後の会話なんだ。
「ああ、帰るよ。昨夜はありがとうな」
「……私はアウドラのこと、好きだよ」
「俺も、まぁ……その、好きだけども。お前はここに残るんだろ? だったら、俺とは永遠の別れになる」
誘ってみたけれど、レインは別れることを選んだ。今更別の世界には行けねえってよ。ま、それもそうだよな。
──黙っていたレインが、力強く抱き着いて来た。痛い力強い。
「アウドラ。私は忘れない、ずっと忘れない。アウドラのことが好き。これからもずっと」
「それはキツいだろ、精神的に。俺のことは覚えておいてくれた方が嬉しいけど、気持ちは忘れろ。新しい相手、探して、幸せになってくれ」
「……うん。アウドラも、幸せになってね」
「ああ──レイン」
レインの身体を抱き寄せて、長い長い、想いを乗せたキスをする。
レインは目尻に涙を浮かばせ、儚い笑顔を俺に見せた。
「さようなら、アウドラ」
「さようなら、レイン」
最後まで、恋人の顔を目に焼き付けて、ゲートの中へと進む。真っ暗な道を進み、まだ薄暗い故郷へと出る。
振り返れば──もう、ゲートはない。
「じゃあな……」
※
「あ、いたいた。おーい! フォルドア!」
かなり久し振りな気もするしそうでもない気もするが、捜していた人を見つけることが出来た。
異変が起こり、突如現れた川はもうない。
「あ、アウドラさん! お久し振りです。……戦い、終わったんですね」
「おう、やっとな。この世界も元通りになったみたいでホッとした」
「ええ、学校もありますよ。人も皆、戻って来たみたいです」
「そりゃあよかった。んじゃあまたな」
「ええっ!?」
流れるように帰ろうとしたら、手を掴まれた。おっと?
「どうした? 報告はしたしもう用事ねーぞ?」
「もうちょっとお話しませんかせめて」
「明日じゃダメか? 俺、向こうで恋人と別れて来たから傷心中なんだけど」
「えっ……じゃあ、明日湯屋に来てくれますか……?」
「……いいけど」
面倒くせぇなと思いながら頷いたら、フォルドアは嬉しそうに微笑む。うんうんよかっな手を離してくれ痛てぇ。
「──というかアウドラさん彼女、いたんですね。意外です」
「何で意外なんだよ」
「えっと……何となく」
「お前、思いの外失礼だな」
「ご、ごめんなさい」
ペコペコと頭を下げるフォルドアを見て、溜め息を吐く。俺そんなモテなそうか? 別にいいけどよ。
その後も少しの間フォルドアと会話を続け、時々母さんのことも考えていた。
異世界にて、世界を救うための戦いを終えた。元通りとなった故郷に帰って来た。新しい幸せを見つけられるのも、何となく早い気がする。
たまに「あれ? コントローラーどこだ?」とか、リモコンを見てコントローラーを思い出したりはするが、いずれ慣れるだろう。
因みにコントローラーは無人の世界にて、封印されている。
──あんな日々があったんたんだから、これからどんなことが起こっても、大して驚かないだろう。
だから、退屈なのはもういっそ受け入れて、俺はこれからを目いっぱい、楽しんで生きてみようと思う。
─END─
エブリスタからスタートし、凡そ4年と10ヶ月。
ようっ……やく!完結です!
ありがとうございました!!
ここまで読んでいただき、本当に、ありがとうございました!




