第8話 リェイブ版の真骨頂
「とぉぉおおおおおりゃあああああああ!!」
──影と二人がかりで、アノムスにダイビングアタックを仕掛ける。躱された。
次いで、シルフォも影と二人で一気に攻め立てる。こちらは影が停止させられ、本体の攻撃は掠った程度だ。
だが、その僅かな隙に、優秀なレインとココアは攻撃を仕掛けられる。
「おっと……危ない危ない」
「……惜しい」
レインのシャイン・ソードが光速で貫いた──と思ったが、アノムスはほんの数センチ程の差で避けていた。直前に、進行方向をココアの弾が妨害したというのに。
クソッ、と悔しがりたいが、今一番アノムスを倒せるのは、休まずに攻めることだと感じているから、後回しにする。
俺とシルフォとレインとココアの、四人がかりでの猛攻は続く。
「ふふっ……」
「うおっ!」
棍棒は手放してあるが、再度地面が振動する。別に武器がないと使えないってわけじゃなさそうだ。
俺達から少し離れたアノムスは、段々と増えて行く掠り傷を見て、ニッと気持ち悪い笑みを浮かべた。
「息をする暇もないね。確かに、無理にでも追い詰めれば、僕にダメージを与えられるとは思うが……それでは早めにバテてしまうよ?」
「構ってられるかよ。一秒でも早くテメェを倒してやる」
「ああ、その通りだ。一秒でも早く貴様を肉片にしてやる」
「そうは言ってねぇ」
お前と一緒にするなサイコパスニンジャ。ヤバい殺人鬼レベルだよそれ。
ほれ見ろ。ココア達だってドン引きして…………ないな。何で一切無反応でいられるんだコイツら。おかしいよマジで。
「うーん。これでは僕も流石に、予定より早く倒されてしまいそうだ」
微塵も思ってなさそうな態度で、アノムスが笑う。あのロン毛燃やしてやれココア。腹立つから。
「──なら、もう始めてしまおう」
場面が急に変わったのかと、錯覚するくらい突如笑みが消えたアノムス。「一体何を始めるんだ」と誰かが訊く暇もなく、黄金の剣閃が襲いかかった。
その容赦のない不意打ちすら、まるで予測していたかのように簡単に躱されるのだが。
「余裕なんて思わないで」
「ふふっ、そうだねぇ。レイン君と、ココアだけは厄介かもね」
「ぁんだとテメェ!」
普通にカチンと来た。そんな清々しい表情でなんてこと言いやがるあのクソキツネ。
ムカついたのはシルフォも同じな様子で、コントローラーの武器ではなく自分の刀を、低く構えている。まぁ、ビジョコンの武器は正直使い難いからな。
──おっし。いっそ仲間達の判断力に委ねた攻撃、してみますか。
「コントローラー! アレだ! ラージバージョン発動!」
──《シャドウ・ビジョン》 large version ニンショウシマシタ──
久々にコントローラーの音声、表した気がする。けど一応、省略していただけで殆どちゃんと喋ってました。
今回は笑わなかったな、と油断していたら、思い切り噴き出したような音声も聞こえた。相変わらずうぜぇ。
何はともあれ、大量に影を召喚することに成功。流石にレインやココアがいたら、あの糸目野郎だって阻止は難しいだろうしな。
「アウドラ、それ……クロノスの時の」
「おう! あの時のだ。お前らどけぇ! 俺様達のお通りだああ!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
総勢二十人。この空間において結構邪魔になるくらいの、大量の俺。の影。波のように一勢に、アノムスへと突撃して行く。
ココアは呆気に取られ、他二人はあまり期待をしていないような張り詰めた表情。アノムスには鼻で笑われているこの手段。
──悪ぃが、俺の目的は数で押し切ることじゃない。
それこそクロノス戦でやったようなのと、殆ど丸っきり同じだぜ。お前ら。
「おふぇっ!」
やはり情けない声を出して消える俺達。その光景を、俺はただじっと見据える。
さぁ、果たして仲間達が俺の考えを悟ってくれるのか。もし察してもらえなければ、ぶっちゃけそこまでの意味はない時間となってしまう。
「アウドラ、あの時と同じなんだな?」
そんな不安を取り除いてくれたのは、シルフォの凛々しい声だった。
俺は振り向かずに、ニッと口の端を上げる。
「ああ、頼むぜ」
「任せろ」
いつの間にか回収していた棍棒を振り回し、次々と俺の影を葬って行くアノムス。あと三人。
「あへっ!」
あと二人。
「どぅおほぉ〜!」
ラスト、一人!
「あふぁっ!」
──今だ!!
「──────やっぱりね」
最後の一人がやられた瞬間に、俺とシルフォは走り出した。全力で、飛びかかるように。
もう既にゼロ距離……ではないが至近距離だ。この近さ、このタイミングならば棍棒を振られることはまずない。時計も出て来ていない。
二人のシルフォと俺との、三人同時攻撃。
食らえコラァアアアアアアアアア──!!
「オルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「「はぁああっ──!!」」
全力で振り上げた腕。確かに、直撃した感覚があった。
間違いなく当たった! あとはコレが、どのくらいのダメージになっているかだ。
アノムスの苦悶の表情を拝めるか。そんな気持ちで顔を上げた。
──アノムスは、弾かれたように飛んで行く。
「よしっ!!」
「まだこれで終わりじゃない……!」
俺がガッツポーズを決めた時には、アノムスの進行方向にレインが構えていた。力一杯、その煌めく剣を叩きつける。
地面に、亀裂が入る程の力で叩き落とされたアノムスだが、見た感じ血飛沫などは舞っていない。
「終わりだアノムス──!!」
この連続攻撃の締めは、ココアの特大ブラスター。かなり至近距離で、大爆発を起こす。
……痛い。熱い。めちゃくちゃ吹っ飛んだんだが。
「……やったか?」
身体を起こして、煙の中倒れているアノムスに目を向ける。レインもシルフォも、爆発を躱したようでケロッとしている。
お前らの反応速度はどうなってんだよ。
「……私は、腕が捥げてしまいそうな程には、全力で斬ったぞ」
腰を下ろしたままの俺の隣で、アノムスを見つめるシルフォが呟く。ああ、分かってるよ。
「俺だって、マトモにアイツを見れないくらいには思い切り叩いた。手応えだって、あった」
「私も、あれだけの力を込めて振り下ろしたんだから……」
「今のが、最高級の威力を誇る弾だ」
続けて、皆口々に言う。だよな、今の隙を突けずしてどうやって生き残って来たんだって話だもんな。
分かってる。分かっているよ。
全員が今、さっきの一撃で殺すつもりだった。最早そこで終わらせるつもりだったんだ。
なのに、な。
俺達皆して、悔しがっているんだよ。
「……」
──煙の中、ドス黒いオーラを纏ったアノムスが立ち上がる。俺やシルフォの分の傷は、無いに等しい。
俺はよっこらせと立ち上がって、静かに息を吐く。お前が狙っていたのは、それだったかアノムス。
「気分はどうだゲス野郎。世界を崩壊させるのは楽しいか?」
墨で塗りたくられたような右目をしたアノムスに、嫌なくらい落ち着いて声をかける。
あの姿は、ウォーブがクロノス・コントローラーの全てのボタンを押した時と、ほぼ同じだ。
世界を消滅させる、自爆スイッチみたいなもんだな多分。
「それとも、マトモに喋れねーか? 化け物になったか? 元から化け物だろうけどよ。もしもし、聞こえてますか〜?」
「僕をアシュレイドなんかと同等に見ないことだね」
もう気味の悪い笑みは見せないが、アノムスは平然とした口調で返して来た。ウォーブみたいにはならないってか。
「君達も、倒せたと思い込むのが早過ぎる。見てごらん? ……って、屋内じゃ分からないね。とにかく、この世界は消滅が始まっている。もう時間はない」
……やっぱりな。その姿はそういうことなんだろうな。世界をぶっ壊す代わりに、自分は変になるってことなんだろ。
レインの過去のことを思い出せば、アノムスは消滅して行く世界でも生きていられる。消滅した後は知らんが。
だが、俺達は死ぬ。そして、この世界が崩壊したら次はビワを狙いに来るだろう。これは憶測でしかないが。
だから、この世界があとどれくらいで消えるか知らねーけど、その前に奴を葬らなきゃなんねーってわけだ。
たくっ、毎度のことながら面倒なんだよ。この時間制限。
「結局、テメェもアシュレイドと変わんねーんだよボケが。好き勝手引っ掻き回して、ビワの……かつての仲間も容易く殺してみせて、最後は世界を消す。やってること、アイツらと何が違ぇってんだ!」
時間がないのは承知しているが、言わずにはいられない。ストレス発散みたいなもんだけどな。
どうせ、俺達が死んでもアノムスが死んでも、その後言えるタイミングなんてありゃしねぇんだ。なら先に言っておく。
ビシッと指を差して、アノムスのきたねぇ顔を見据える。
「諦めたとか勘違いしてんじゃねーぞキツネ。化けギツネ────残り僅かな時間で、俺達はお前を倒す。そんで、全部終わりにしてやる……!!」
俺の言葉を聞いた仲間達が、各々再度戦闘態勢に入る。何かリーダーになった気分だ。
元、こちら側の参謀であったアノムスは……
「ああ、止めてみなアウドラ。シルフォ、レイン、ココア……! ビワの戦士達よ……正真正銘、ラストスパートだ!」
──先陣を切るのはレイン。圧倒的なスピードを巧みに操り、アノムスに絶え間のない猛攻を仕掛ける。
ただ、クロノスの時に分かっているが、あの姿の時はコントローラーが強化されている。あのナンタラクロッグで、光すら止めてしまうのだ。
ところで、マジで今更なんだが「クロッグ」は時計じゃなくね? いや別に、シャイニング・ソードくらいしかマトモな名前聞いてねぇけども。
そういうもんなのかも知れねぇけど。
「……っ!」
「レインを止めても私達がいる! 死ね! 生首にして頭をかち割ってやる!」
シルフォとココアも戦っている中、一人出遅れた俺も、一歩前に進む──が、
『アウドラ! 一旦ストップ!』
ユーニからの通信が入り、バックしておいた。なになに? この土壇場で一体何?
『アウドラ、申し訳ないんだけど……あの状態のアノムスを撃破するには時間が足りない。ゲームオーバーだよ』
「…………はい? お前何言ってんの? 何で戦意喪失しそうになるようなこと言ってんの?」
冗談にも程があるだろうが。たとえ、マジでピンチなんだとしても、それを打破する手段を考えるのがお前の仕事でしょーが。
今からやってやろうって奴に何言ってんの?
『話を聞いて。このまま戦っても、無駄ってだけで方法はあるの。……君に、やるかどうかの判断は任せるよ』
「……妙な言い方しやがるな。どういう意味だよ」
『アノムスの……いや、全てのコントローラーの機能を停止させる、唯一の手があるんだ』
「……は?」
素でマヌケな声が出た。いや基本、マヌケな声は素でしか出ないとは思うが。
全てのコントローラーを停止、させる!? それは俺だけが出来ること!? マジ意味分かんない。
『追って説明するよ。まず、この戦いが始まるより前……君が、ビワとの対立によって僕達と離れていた時。僕はとうとう、ようやく、リェイブ版のコントローラーを解析出来たんだ』
「俺のビジョコンは、俺が持っていた筈だけどな」
『僕の技術を舐めないで欲しいな。離れていても、一度取ったデータは消えてなくならないよ』
「ああ、そうか。とにかく時間ないから、手短に頼む。俺は何をどうしたらいいんだ? そんで、どうなるんだ?」
どうなるんだって、さっきコントローラーを停止させるって聞いたけどね。まぁ気にしない気にしない。
ユーニは、まるで覚悟を決めるかのように息を吸う。音が聞こえる。それから、真剣な声色で答えを教えた。
『君も、ビジョン・コントローラーの全てのボタンを押すんだ』
「えっ」
結構衝撃的なことを言われて、思わずアノムスを見る。
アレと同じ状態になれと? いやいやいやいや。
「ちょっと待てそれはその……」
『安心して、多分アシュレイドやアノムスみたいな状態にはならない。異世界の人間だからね』
「多分じゃ恐ろし過ぎんのよ!」
『でもそうすれば、ビジョン・コントローラーも含めて全てのコントローラーが停止する。らしい。僕の解読が間違っていなければ』
「不安要素強過ぎ!」
『もう勝つには、世界を救うにはそれしか残されていないんだよ! 使ってしまった後、君がどうなるのかは僕にだって分からない未知の世界だ。けど、コントローラーを失ったアノムスなら、その場にいる四人でどうにか出来る。だから!』
──全て君の判断に任せる。
ユーニはそこで、言葉を止めた。
「なるほどな……」
どうやってそんな解析が出来たんだかは知らねーけど、そういうことなら、分かったよ。理解はした。
けど、未知ってか。どうなるか分かんねーのか。怖ぇな、それ。
「……」
どっちを選ぶか、か。
ラスト1話です!




