第7話 2つのビジョン・コントローラー
──ビジョコンだ。
いや美女コンテストではなくて、俺と同じビジョン・コントローラーだ。
シルフォは、ポケットからビジョン・コントローラーを取り出したんだ。
「………………いや待って? 何でビジョコン二つもあんの? え? 大体こういうのって一つずつだよな? 何でこの種類だけ二つなのどういうこと? え?」
「落ち着けバカ」
困惑していたら、シルフォに嘆息された。誰がバカだ。落ち着いていられるかこんなもん。
シルフォの手にあるのは、間違いなくビジョン・コントローラーだ。見た目が丸っきり同じだし。
俺が目で説明を求めていたら、シルフォは再び息を吐いた。
「私はビジョン・コントローラーのマスターだった。それは覚えているな?」
「ああ。んで、そのビジョコンを俺が拾って俺がマスターになっちまったから、変身出来なくなったわけだろ」
「貴様が手にしたのはビジョコン・コントローラーのリェイブ版だ。今私が手にしている物が、正真正銘普通のビジョン・コントローラーになる」
……久々に聞いた気がするぞそれ。初めて来た時は、ユーニに変な奴って疑われたな。
あの時の口振りからすると、そのリェイブ版ってのは変な物ってことに感じるが……?
「リェイブ版は、ビジョン・コントローラーにのみ存在する。……いや、もしかしたら他にもあるかも知れんが、確認されたのはそれだけだ」
「だからそのリェイブ版ってのは何なんだよ! 何処がどう違くて、どうして存在するんだよ!」
「知っての通り、リェイブ版はマスターを変えることは不可能だ。貴様と出会ったあの日、私は先の戦いで故障したビジョコン・コントローラーの代わりとして生まれたリェイブ版を持ち、アシュレイドとの戦いに挑んだ。しかし、不注意で落としてしまったんだ」
「……落とすなよマジでさ」
返さなかった俺も俺だけどさ。
それと、コントローラー故障し過ぎだろ。特にビジョコン。
「リェイブ版と通常の物の違いは、ユーニから説明を受けてくれ。以上だ」
「雑っ!! 結構大雑把な説明で終わったんだが!?」
「今はアノムスがいるのだから、喋っている余裕など本来はない。奴も興味を持ったから大人しく聞いていただけだろう」
「お前も呑気なもんだなアノムス!」
「いやぁ、無事直ったんだねぇ。よかったよかった」
「呑気にも程があんだろ! お前自分がラスボスだって自覚あんのか!?」
全力でツッコミを入れたら、明らかにアノムスの雰囲気が変わった。負ける気なんて一切ないような、強者の笑みを向けられる。
……チッ、この糸目。いくら呑気でも切り替えは早いんだな。
「勿論さアウドラ。僕はアシュレイドの後唐突に現れた、ラスボスたる者だよ。仲間であり、何年も共に生き抜いて来た君達と戦い、葬る決意もある」
「……そうかよ。だったら俺だって、心置きなく戦える。さっきから別に気にしてねーけど」
「私達も貴様が凶悪な敵であることを認識出来ている。たとえかつての仲間だろうが、挽き肉にする覚悟というのはとうにある」
「お前はもうちょい表現を抑えるってことが出来ねーのか」
俺達が話している間に、レインがストップを振り切った。その場に降り、コキコキと首を鳴らす。
俺とレインが至近距離、少し離れてココア。端の方にシルフォがいる配置となっているため、アノムスが何かをしても誰かしらは反応出来るだろう。
「とにかく、お前もまだコントローラー有りで戦えるってことでいいんだな? シルフォ」
「ああ」
シルフォは真のビジョン・コントローラーを握り締め、じっと見つめる。それからアノムスに刺すような視線を向け、声高に叫んだ。
「ビジョン・クローズ……オン!!」
シルフォの衣服が、俺と同じビジョン・コントローラーのクロスへと変化していく。初めて露出が少ない状態を見た気がするぞアイツ。
シルフォは、変身完了と同時にサシルベ・ブレードを展開し、低く構えて突進体勢に入る。
突っ込んで来るなら、アシストしねぇとな。
「シャドウ・ビジョン! 影! アノムスにうぜぇくらいまとわりつくぞ!」
「おう!」
俺と影で、アノムスの視界を遮るために猛攻する。何気に壁が近いからな、アノムスも躱し難い筈だ。
……普通に避けられてるが。
「戦闘慣れはしたみたいだけど、刃を振り回すだけっていう頭の悪い戦い方は、変わらなかったみたいだね」
「うるせぇボケ! このコントローラーで他に何しろっちゅーんじゃ!!」
「──おっと」
「うほっ!?」
俺とアノムスの間に、大量の弾丸が放たれた。危ねぇなココアテメェ。
「はっ……!!」
「……危ない危ない」
アノムスの隙を狙ったシルフォの攻撃も、低い体勢で素早く躱されてしまう。まだだ! 猛攻を止める気はねーぞ!
「おらぁあああああ!」
端の方へ追い詰めるつもりで、アノムスに刃を振るい続ける。流石と言うべきか、円を描くように避けられ追い込めない。
シルフォと俺が至近距離で攻撃し、アノムスが躱したタイミングでココアが銃をぶっ放す。クロノスのストップは全てココアの弾に使用され、俺達にはバイブレの能力だけで対抗して来る。
中々当たりやしねぇけど、この調子でやり続ければ、いつかは倒せる気がする。
「──ん」
視界が、目が潰れるんじゃないかってくらいの閃光に覆われた。
「目がぁあ! 目がぁあああ!!」
「下がれアウドラ!」
「目がぁあああああああああっ!!」
人がゴミのようだ、なんて言っていないのに。バルス発動されたわけじゃないのに、目が痛てぇ。
一応シルフォに投げ捨てられ、アノムスとの距離は取れた。けど何でお前は平気なんだよ。
「おおぁクッソ涙出て来た……」
今の光は絶対レインだよな。俺達の攻撃の間、アノムスに出来たコンマの隙を狙って、攻撃したんだ。
にしても、いくら全力でやらなきゃ勝てない戦いだからって、これはねーよ。レイン後で朝チュンコースな。
……俺の方が先にへばりそうだな。
「アウドラ、痛がりながらニヤけるな理解不能だ。目は無事か?」
「……おお、何とかな。あと俺ニヤけてた?」
「ああ、キモかったぞ」
「男だからってことで許せ」
「……何を考えていたんだ不潔な」
「うるせーよ集中しろ」
「貴様に言われたくないわ」
仕方ないじゃない、男の子だもの。まだ18歳の健全な男だもの。
自分の彼女見てそりゃ邪な想像くらいするべさ。
「……不意を突かれてしまったね、流石レインだ」
壁に減り込んでいたアノムスは、不敵に笑いながら脱出する。この要塞めちゃめちゃ硬いけど、アイツ頑丈だな。
レインは俺やシルフォと違って無駄に言葉を発さず、ただアノムスに目を向けるだけ。強者の風格みたいなのがあるな、本当に。
「君はいつでも隙がない。だから僕はあの時見殺しにしたつもりだったんだけど、アシュレイドが無駄に計画を始めたせいで、苦労することになってしまった」
「……下らない話は要らない」
「やれやれ、せっかちだ。君との夜が待ち遠しいアウドラと同じだね」
「バッ……!!」
一斉に目を向けられた。見んな皆見んな見んな。
何で見透かされてんの俺。そんなに顔に出てた!?
「テメェ何誤解されるようなこと言いやがる! ふざけんな! マジでふざけんな! 別に夜が待ち遠しいわけじゃねーし! レイン帰って来て嬉しいだけだし!」
「動揺し過ぎだろう」
「別に動揺してねーし! あの枝野郎が変なこと言うから焦っただけだし!」
「動揺してるんじゃねーか」
「ししtねーし!」
ヤバい、何で今が一番焦っているんだ俺。アノムスだってまだピンピンしているのに、一気に寿命が縮まった気分だ。
「そうだね、レインが戻って来たのは喜ばしいことだ。恋人であるアウドラなんて、一度は逃した初夜を迎えられるかも知れないという、興奮もあるだろう」
「お前いい加減にしろやコラァアアアア!!」
マジやめて! もうそういう精神攻撃するのやめて! 女共に凄ぇ目で見られて胃が痛いからやめてお願い!
「レイン、アウドラはやる気満々だけど、ちゃんとリードしてあげるんだよ。女の子に不慣れな男は、気持ちだけで失敗しがちだからね」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」
この場から逃げ出したくなった。シルフォとココアに顔を背けられて、血を吐きそうだ。
今まで、「女に興味ありませんよ」アピールをして来たのに、嫌な方で意味を知られてしまった。最悪だ。
布団に潜り込んで来るレインを受け入れておけばよかった。
「……アウドラとのことは、帰ってから考える。まずはお前の首を刎ねなきゃ、のんびり〇〇〇〇も出来ない」
「「「レイン!?」」」
あの娘とんでもない発言してくれちゃいましたよ今! 皆聞いた!? 早くこの戦い終わらせようぜ!
特典映像つけるから!
「──皆、油断が多いね」
飛び跳ねそうな俺を他所に、アノムスの冷めきった声が聞こえた。地面が、また大きく揺れる。
既にボロボロでバキバキな床は、コケたら痛いので、何とか耐えきらなくてはならない。が、それでアノムスの攻撃も警戒しなきゃいけない。
「全員纏めて、天国に送ってあげるよ。男女の営みなどはその後するといい」
嫌だそれ結局味を知らないままじゃん。
──棍棒が叩きつけられた床が浮き上がり、破裂するように吹き飛ぶ。俺達も同時に宙に打ち上げられ、最早身動きが取れない。
せめてガード出来るようにアノムスの方を見たら、振動をものともせず、レインが飛びかかっていた。
「私は微塵も油断していないけど」
「おやおや、参ったな。コレは直撃だ」
レインの振るシャイニング・ソードが、アノムスの首を狙う。こう表現してはいるが、あのコントローラーは光速なため、既に動作を終えている。
結果は、ギリギリ躱されて胸部が裂かれた。
「やっぱ、シャイン・コントローラーは別格に感じるな。クロスの耐久力、殆ど無視じゃねーかアレ」
と言っても、深くは斬れていなそうな辺り、クロスにダメージを削られているものと思われる。生身の人間が食らったら真っ二つになりそうだな。
「なぁシルフォ、レインばかりに任してられねーから、俺とお前で……」
ふと隣を見たら、シルフォが二人着地した。
──二人。
「うおおおお!? しる、シルフォが二人!?」
「いや、貴様も二人いるだろうが。シャドウ・ビジョンも使えるからな」
「ああそっかお前今ビジョコンだった使ってんの……」
「その『ビジョコン』という略称は何なんだ」
なるほど、ビジョン・コントローラー同士なら消えてる自分も視えるのか。アシュレイドに取られなくてよかったなマジで。
胸に横一文字で傷を負ったアノムスは、タラタラと血を流し、それでも膝をつくことすらせずに口の端を上げる。痛がりもしねーのは、かなり不気味だ。
「斬られるのは……いつ以来かな。六年前に、アシュレイドの一体と戦った時以来かも知れない」
「知らない」
「おっと」
思い出を振り返っていたであろうアノムスに、堂々と斬りかかるレイン。躊躇いはないみたいだ。
……まぁ、アイツ最初からアノムスを嫌っていたらしいからな。自分以外を見捨てたアイツを、ずっと許せないって言ってたもんな。
俺も許せねぇよ。救った振りをして、自分と戦える相手を増やしていたとか……遊び感覚でやってやがったことに、憤りを覚える。
「アウドラ、二人分のストップなら何とかなると思わないか?」
シルフォが、最早隠す気もない大声で言う。確かに、アノムスには消えてる俺らも意味ないから別にいいけどよ。
てか皆見えてるけどよ。何故か。
「俺的には無理だと思うが?」
「試しもせずに言うなクズ」
「その馬のしっぽ掴んで振り回すぞ」
「普段の数倍の力で殴るぞ」
「ごめんなさい」
いつもの数倍って。ただでさえ三回転はするってのに、死んじまうよ怪力ゴリラ。
俺達はレインとココアが攻めている間、何か有効な戦術はないかと話し合ってみることにした。極力、注意はしつつ。
「正直な話、この中で攻撃力が高いのはレインとココアだ。私達は、どちらかと言えばサポートタイプのコントローラーだからな」
「だと思ったぜ。能力も時間稼ぎみたいなのばかりだしな。役に立たないってわけではねーけど」
「だから我々でアノムスの注意を引き、先程のようにレインに一撃で大ダメージを与えてもらう。それが最も、有効である手段だろう」
「了解。んじゃあま、影を出して撹乱戦と行きますかね」
シャドウ・ビジョン、ラージバージョンを使いたいところだが、それでレイン達の視界まで悪くするのはよくない。俺とシルフォそれぞれが二人ずつで突っ込み、可能な限り攻め立てよう。
「終わらせるぞ、我々の戦いを……!」
「ああ、勝ってハッピーエンドと行こうぜ」
残り2話です!




