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ビジョン・コントローラー  作者: ☆夢愛
第3章(最終章)最後の戦い
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第5話 絶望的な組み合わせ

 巨大な注射器での突き。その容器から飛び出す、無尽蔵の謎な液体。どの道よく分からん聴診器。

 それらの攻撃は大したことがなく、メディカル・コントローラーは、やはり最弱クラスと言えるだろう。


 ──結局問題なのは、もう一つの方だ。


「クッソ……! またかこの野郎……っ!」


 自分の身体が、空中でピタリと止まる。力は入れられるが、微動だにしない不気味な感覚だ。懐かしいな!

 この、クロノス・コントローラーの武器。スォイフ・クロッグは、意識だけを残して時間を停止させることが出来る物だ。

 動けずに殺される気分がして、本当に大嫌いだ。


「アウドラ!」


 俺に注射器を向けて来たアノムスに、シルフォの刀が襲いかかる。残念ながら躱されたが、俺の身体も時間を取り戻した。


「助かった、シルフォ! ……それにしても、マジで怖ぇ能力だなアレ。心臓と脳だけは生きてるって感じがして」


「ああ、似たようなものだろう。それと、ビジョン・コントローラーは己以外の時間を止めるが、クロノスは特定のもののみを止めることが出来る。向こうは融通が利くわけだ」


「周囲が全部敵だってんならこっちのが有利だが、効かねぇ敵も多いしな」


「つくづく弱々しい能力だ」


「元々マスターだった奴がそんなこと言うな」


 ビジョン・コントローラーの場合は、アノムスが止まらねぇのにシルフォ達止めちまうからな。まぁ、状況に合った使い方は望めない。

 人数的には有利なのに、不利に感じるのは何なんだろうな。


「ココア、そっちはどうだ?」


 ニヤニヤと、気持ちの悪い笑みを浮かべ続けるアノムスを越して、シルフォがココアに問いかける。

 この質問をする理由は、ココアが隙を見て撃っていたからだろう。

 俺は向き的にはココアと似た位置だから、一応見えていた。


「……全ての弾は、辿り着く寸前で停止した。最早速度など関係ないようだな」


「ま、俺らは知ってたけどな。ただでさえ弾丸スピードで突っ込めるレインすら、止められちまうし」


「先に言えクソガキ。今の時間私がバカみたいだっただろうが」


「……悪い」


 確かに言ってなかったわ。でもレインがボコボコにされたことは伝えたんだから、察してくれてもよかったよな。

 ……すみません説明が足りてなかったこちらの責任でござりまする。

 怖ぇから睨むな。


「取り敢えず、そこの水着痴女はバイブレの時同様、役立たずというわけだアウドラ。私達だけでどうにかするしかない」


「あのさシルフォ、お前のそのココアを煽る言い方マジで何なの? そこに挟まれる俺の気にもなってみろよ」


「知るか。撃つことしか出来ないそいつが役に立たんのは、当たり前だろう」


「いやでも、ヨノギの時だって何とか戦えてただろうよ」


「誰だそいつは」


「嘘ん」


 コイツ、唯一勝てなかった相手のことを忘れてるよ。凄ぇな。

 忘れてると言っても、名前を忘れただけなんだろうけど。実際、ちょっと前に戦ったし。


 シルフォの悪口では大体膨れっ面になっていた、ココアの方をチラッと見た。

 いつもと打って変わって、反論せずに下を向いている。


「ココア……? あそこのマウンテンゴリラの言うことなんか気にすんな? お前は頭がいいんだし、何か思いつくって。その間俺とゴリラで攻めるから、ゆっくり考──どはぁっ!?」


「殴るぞ貴様」


 戦闘中なのに容赦なく殴り飛ばされた。この、クソゴリラニンジャが。

 しかも殴ったのに「殴るぞ」はマジでおかしいからな。頭のネジちゃんと締めとけバカゴリラ。


「……ココア?」


 俺の、ちょっとふざけた言葉にも反応されなくて、不安になった。

 けど、ココアは少しだけ間を置いて顔を上げてくれた。ふっ、と微笑みかけても来た。


「大丈夫だ、二人とも。確かに、あのコントローラー相手では私は……何も出来ないかも知れない。だが諦めはしないよ。絶対にな」


 ココアの言葉を聞いて、俺とシルフォで目を合わせる。大丈夫そうだぜ、マウンテンゴリラ隊長。

 もしかしたら、ココアも疲れているのかも知れない。

 共に古株であった、アノムスはラスボスとなり、リーダーであったロプトを失った。そして、現リーダーはココアみたいなもんだ。心労がない筈がない。

 それだけならいいが、ココア本人が大丈夫だと言ったんだからきっと大丈夫だ。


「んじゃ、俺もトラウマを乗り越えて行くしかねーな! クロノスがなんぼのもんじゃい! ってな!」


「そうだな、私も意を決してアノムスを惨殺しよう」


「お前は殺すつもりしかなかっただろうがよ」


「敵を殺して何が悪い」


「お前……もういいよ」


 クロノス・コントローラーは確かに脅威だ。そんな言葉では済ませられないくらいに強いしズルい。

 けど、倒せなかったわけじゃない。

 だったら倒せる。行ける。でも今、時間を遡っても無駄だろうし、かつての戦い方は出来ない。

 だったらどうする? 知らねーよんなもん。テキトーに攻撃するしかない。


「よし! やるぞお前ら!」


「すまん、私は少し用事が」


「「ええええええええええええええええっ!?」」


 全員でココアに叫んだ。軽い感じで手を挙げんな。

 しかも平然と部屋から出て行きやがった。何してんの? マジで何してんの?


「ふふ、油断ならないね。サポートも」


「あん? お前はココアの行動をお見通しってわけか? 気色悪ぃ」


「無駄口叩いてる暇があるなら、早く僕を仕留めなよ? じゃなければ全滅だ。この世の全て、消えてなくなる」


「は? また崩壊でもさせる気かよ。悪趣味な野郎だな」


 アシュレイドに滅ぼされて、レインの世界は消滅したらしい。が、消えゆく世界でもこのキツネ目は恐れてもおらず、他を見捨てレインのみを救った。

 つまり、何かしらコイツも関係してるんだろうと、そう思っていた。

 多分、正解だよな。


「俺には、お前が何をしたいのかは全然理解出来ねーけど、もうこれ以上好き勝手はさせねぇからな」


 レインを救ったのもきっと、この時のためだったんだろう。自分とやり合えそうな人間を、厳選したんだ。残念ながら死んでしまったが。


「好き勝手……か。確かに僕は自由にやって来たね。これからもそうするつもりさ」


 アノムスは、自嘲するかのように笑う。舐めとんのか、という感想しか湧いて来なかった。

 ──ただ、そのマヌケな思考回路の所為で、また反応が遅れてしまったのも事実。


「今もね────」


 普段は開いてるのか疑えるようなアノムスの目が、大きく開かれる。顔ばかり見てたから正直ビビった。

 そして、更にビビることになった。


 形と色はビジョン・コントローラーと似た類い。そんなクロスに、メディカルの部分が変化していく。


「君達が、手も足も出なかったコントローラーだ。僕も近くで見たが、最も強いコントローラーとも言えるだろうね。覚えているかい? この姿を。この武器を」


 メディカルの注射器に替わり、現れた棍棒。アレに鼻を砕かれかけたことを覚えている。

 アイツらどんだけ鼻狙って来んだよ本当に。何度クレーム入れてやったと思ってんだ。


「アウドラ、見ろ。笑えるか? 最悪な組み合わせだぞ」


「……ああ。楽しくねぇ笑いなら出るぜ」


 振り上げられた棍棒を見つめて、肩が脱力するのを感じる。諦めではないが、絶望しかけているかも知れない。

 さっき、ユーニの指示で仲間達は全員逃げて行った。ココアにもきっと、現状は伝えられているだろう。

 つまるところ、後は自分の身を守ればいいってだけだ。


 ──棍棒が叩きつけられた床は、大きな揺れと共に砕けて行く。悪くなった足場では、マトモに立つことが出来ない。


「バイブレ・コントローラーとクロノス・コントローラー。最早死ぬしかねぇ気分だわ」


 バランスを崩しそんな弱音を吐きつつ、シャドウ・ビジョンを発動する。飛び出した影は、直後停止した。

 何となく、止めて来るって分かったから、身代わりになってもらった。これで俺達は動ける。動き難いけど。


「アウドラにしてはいい判断だね」


「アウドラ今、シャドウ・ビジョンを発動したのか! なるほど、ただの飾りじゃなかったようだな」


 ……シルフォ、お前は余計なんだよいちいち。余計なこと言ってんだよお前は。飾りってのは頭のことかコラ。


 振動はかなり収まって来た。これなら普通に動ける。

 そんで、アノムスにはどうせ本体の俺が見えているんだし、このままでいよう。


「たくっ、こんな凸凹にしやがって歩き難いな。おいアノムス、そのままストップを続けることを勧めるぜ。切った瞬間、俺の影はお前に襲いかかる」


 影は俺の意思と繋がっているからな。解除されたら即動くってことも可能だ。

 二つ同時には止められない。それがクロノスの弱点だ。


「だとしても、問題は一つもないよ。クロノスの能力はそれだけではないし、バイブレだって……あるんだからね──」


「おっ」


 アノムスが、振りかぶることもなく棍棒を払った。あと一瞬飛び退くのが遅けりゃあ、鼻に直撃していただろう。

 テメェも鼻を狙うのかコラ。


「チッ。怪力なんてもんじゃねぇな。どうやって力入れ……」


「この要塞ごと破壊するつもりで行かせてもらうよ」


 アノムスの上に掲げた手は、ノータイムで振り下ろされる。


「ヨノギ風に言うなら、『エアー・バイブル』かな?」


「シルフォ!」


「分かっている!」


 ──突如発生する大地震。俺とシルフォは、それぞれ高く跳び上がって回避した。

 が、当然ずっと浮いていられるわけでもない。案の定、アノムスは俺を目掛けて突っ込んで来ていた。

 甘く見んじゃねーぞ、このクソギツネ!


「おや、直撃は避けたのか。君にしてはやるね」


「……っ! あんなデケェ棍棒を、空中で受け止められるわけねぇか」


 壁に叩きつけられたが、クロスのお陰もあってか大したダメージじゃない。サシルベ・ブレードでガードもしたしな。


「分かってんだろうなアノムス。俺を撃墜しに跳んだってことは、自分も同じように狙われるってことをよ」


 直ぐに立ち上がって、アノムスに刃の先を向ける。


「ああ、承知の上さ──それでも僕は敗れない」


 アノムスが、複数の爆発に姿を晦ました。

 アレはアノムスの力ではなく、先程、俺と共に宙に跳んだシルフォの起爆札だ。確実に直撃した筈。


「出て来いアノムス! 貴様がゴキブリ以上の生命力を持っていることも、気づいているぞ!」


「そんなんじゃくたばんねーだろ!? 顔が見えたら一思いに首落としてやるから、さっさと姿見せろ!」


 シルフォと俺で、安否の確認は出来ていないが、間違いなく生きているであろうアノムスを挑発する。

 そんな挑発に乗るような奴じゃない。そんなことは理解してる。

 けどな、いくら冷静に見えても、アイツは確かに大きな自信を持っている野郎だ。

 この場で逃げるようなマネは、絶対にしない。


「──その程度で僕を殺せると思わないことだね。君達とは、造りが違うんだ」


 冷徹な声と、僅かに、一瞬だけ、長い髪の毛が見えた。

 それで充分だぜ。


「分かってんだよ、テメェはアシュレイドよりも凶悪な化け物だ」


 力一杯踏み込んで、消えゆく黒煙の元へと跳び上がる。反対側からは、忍刀を構えたシルフォも向かって来ていた。

 アイツ、何処で踏み込んだんだ?


「死ね腐れ外道! その首を捨てて私達に内蔵を掻き回され原型を留めずに死にあの世でかつての仲間達に八つ裂きにされもう一度死ぬがいい!」


「……」


 トンデモねー早口でトンデモねーこと言ったバカニンジャと、すれ違う形でアノムスを斬る。

 手応えはあった。手応え自体は感じた。

 それでも俺とシルフォは、未だ空中に留まるノッポキツネを見据える。


「首を刎ねるんじゃなかったのかい?」


 不敵に、口元だけを綻ばせるアノムス。クロスが邪魔をして、大した傷にもなっちゃいない。

 大丈夫だ、問題ない。あんなの想定内だ。だから俺とシルフォはこうして、気を緩めずにいるんだよ。


「ああ、悪ぃな。今の一撃で首を落としてやりゃあ、楽に死ねたのに」


「貴様がガードなんかしなければ、グチャグチャになる未来は変えられたのにな」


 俺は挑発目的で言ってるが、シルフォは何食わぬ顔で言っているので、間違いなく素だ。頭がおかしい。

 俺はアイツのせいでしっかり集中出来てもいねぇ。


「僕だってやられるつもりはないさ。君達が僕を倒せるかどうかには興味があるが、そこで手を抜いちゃ非常につまらない」


「そうかもな。俺は、テメェのそのチート能力が一番つまらねーんだよ」


「君達には絶望をプレゼントしてあげよう」


「聞けよ──って、クソ!」


 ヤベェ、反応が送れてバランスが! あの野郎また振動を……!

 しかも、クロノスの時計が動いてんじゃねぇか。自分が揺れていて見え難いが、多分アレ、巻き戻ってるな!


「シルフォ! リワぉっとと、リ・ワインドが来んぞ!」


「くっ!!」


 俺が言うのも間に合わずシルフォの身体が宙に浮く。巻き戻され、アノムスに背を向けた状態で、停止した。

 当然、背中はガラ空き。アノムスの棍棒が、高く振り上げられる。


 「クソッ! シルフォ!!」


 「さようなら、シルフォ」


 「……っ!!」


 俺は、揺れ続ける地に踏ん張れず、棍棒が振り下ろされる様を見届けることとなった──。

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