第3話 フレイム・アナライズ
──刃は、コントローラーのクロスに覆われた肉体を裂くことはない。
それでも、この全力を持ってすれば、少しくらいはダメージになる筈だ。
「オラァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
振り下ろした腕に更に力を込め、アノムスの細長い身体をぶっ飛ばす。《サシルベ・ブレード》に持ち手があれば、もっと楽なんだがな。
何でこんな、腕から伸びるタイプなんだよ。リーチは思いの外あるが、戦い難い。
……それより、あの野郎何でガードもしなかったんだ。
「ま、受けて立つって意味なのかも──」
咄嗟に、高速で突っ込んで来る何かを躱した。危ねぇ、目を狙われた。
「……わざと吹っ飛ばされたってわけか」
「隙を狙ったつもりなんだけどね、流石だ」
ゆらりと立ち上がったアノムスのクロスは、先程までと違っていた。
右はブロックのままだが、左は紅蓮に揺らめき、実体がないようにも見えるクロスだ。
まさか、この短期間でもう一度見ることになるとはな。
「そのコントローラー、フレイムか」
ヨノギ戦の最中、髑髏メガネと共にやって来たチビ。そいつがマスターとなっていたのがフレイム・コントローラーだ。
アノムスは「御明答」と手を叩くと、その左手に炎を出現させた。
多分だがアレは、能力専用武器だ。見た感じ、炎の剣ってとこだろう。
「アノムス、お前俺と近接格闘でやり合うつもりかよ? 言っておくが、それに関しては自信がある。負けねーぞ」
「武器の使い方は一つじゃない。確かに、君の刃みたいな直接叩くしか脳がない物ならそうだけど、《ブレイズ・ソード》はもっと別の使い方が可能だ」
「あ? やっぱめんどくせぇ感じなのか」
「うん、当然」
フレイム・コントローラーは、炎を操るだろ? で、あの剣は燃えている。さっき飛んで来たのは恐らく炎だ。
……火を飛ばして来るとかそんなとこか?
「あのチビは首切り包丁だったからなぁ。多分自前だったし」
能力専用武器を使ってくれなかったし、シルフォとココアが喧嘩してて集中出来なかったしで、イマイチ把握出来てないんだよ、フレイム・コントローラーのこと。
まぁ、分かりやすく炎を操るけど。それくらいは名前だけで察せるけど。
「どの道全部に警戒……」
「考え事は済んだかい?」
「今喋っただろうが丁度!!」
言い切る前に炎の斬撃波が飛んで来た。反射的に転がったから躱せたが、深く息を吸い込んでたから結構苦しい。
──斬撃が直撃した背後の壁は、横一線の切り込みが入りそこから、チロチロと炎がはみ出している。
「バカみてぇに破壊する武器じゃないってことは分かった。切れ味だって《サシルベ・ブレード》より数段上だな」
もう、とっくに《サシルベ・ブレード》が最弱クラスの武器だってのは察してるけどな。
圧倒的に何も出来ねーもん、この刃。赤くカッコつけた感じにされてるだけで、特殊能力も無く、ただ叩き切るくらいしか出来ねー武器だもん。
そんで、クロスが邪魔で大したダメージ行かねーし。
もう分かってるし弱いって。
「うーん、外れちゃったねぇ。もうちょっと精度をあ・げ・た・い・なっと」
人知れず愚痴っていたら、アノムスが気色の悪い喋り方で何か言った。精度がどうとか。
その手には、またもや最近対戦した覚えのある、真新しさも懐かしさをも欠片も感じない真っ黒メガネが現れた。
「アレだ。史上最ダサコントローラーだな。マグロだか何だかっていう髑髏杖野郎が使ってたやつだ」
リーダー・ロプトのメディカル・コントローラーにも度肝を抜かれたが、見た目だけに絞れば最もマヌケに見えるのが、あの……
「アナライズ……だな」
隣でそう呟いたシルフォに、「そうそうそれ」と頷いておく。
そうそれ。炎とかキューブとか超音波に比べると、凄ぇ地味なやつ。
と言っても、動きを計算されてしまうのは非常に厄介だ。一旦キューブの方は放置して向こうを狙おう。
にしてもフレイムの出番クソみたいに短かったな。
そう考えている間に、アノムスの変身が完了した。
「分析を開始しよう。……と言っても僕は、アウドラ以外の面々がどんな動きをするかは、大体把握出来てるけどね。それに──」
アノムスが、全く似合わない真っ黒メガネ姿で気味悪く笑う。
しかしコントローラーが作動する暇もなく、アノムスは強烈な斬撃を受け吹き飛んだ。シルフォの攻撃だ。
「……君達ならアナライズを、ちゃんと警戒するだろう」
仰向けで倒れるアノムスは、ぶっ飛ばされる前の言葉に繋げる。ゆっくりと身体を起こして、メガネをクイッと上げた。
その光景を黙って見ていたら、少し手前に立つシルフォが舌打ちをした。
「チッ……外したか」
悔しそうにというよりは、苛立っている様子のシルフォ。俺はよく分からないまま頷いた。
……いやだって、アノムス吹っ飛んだだろ? 切り傷がないとは言え、確実にヒットしたのをこの目で見てるしな。音もしっかり響いた。
なのに「外した」は、おかしいよな。
「予測出来ていたからね。言っただろう? アウドラ以外の君らがどう動くか……共に戦って来た中で学習したんだ」
「ふん、まるで『当たるわけがない』とでも言いたげだな」
会話を聞く感じだと、本当に外したらしいな。正確には躱された、か。
うん、分からん。
「君とアウドラは既に一度、このアナライズ・コントローラーと一戦を交えている。シルフォに関しては、二度かな。だとしたら、真っ先にやることなんて限られているだろう?」
アノムスが不敵な笑みを浮かべつつヒントをくれたため、俺もようやく答えに辿り着けた。なるほどなるほど。
シルフォは、アナライズ・コントローラーを要警戒しているから、先制攻撃を仕掛けたわけか。変身はされたけど、何かされる前に倒そうとしたんだ。
「ああ、メガネを外してやればクロスは解除されるからな」
「ふふ。そう上手く事は運ばないよ」
「……」
……………………あー、そっちか。あーあーそっちかなるほどなるほど。へぇ。
シルフォは先制攻撃を仕掛けたというよりは、アナライズ・コントローラーそのものをひっぺがそうとしたのか。あーそっちかへー。
「……ってシルフォ何やってんだ! もしコントローラーに傷でも入って爆発したら──」
「そんなヘマをするか。貴様じゃあるまいし」
「やんねぇって保証は何処にもないだろうがよ……!?」
「私を甘く見るな無能人間」
「何だとテメェ」
「──騒ぐな」
俺とシルフォがいつもの様に言い合いをしていると、超大型ブラスターを構えた状態のココアに止められた。
呆れたような感じだったよな今の声。バカにしてんのかお前。
「そもそも、コントローラーが破壊されることくらい奴も注意しているだろう。爆発には自分も巻き込まれる筈だからな。そうならないよう自分から避けるだろどうせ」
「どうせって」
ココアが少し不満そうに右頬を膨らませる。まるで、「アイツの考えは分かってる」的な言い方だった。
ま、納得が行く筈ねぇもんな。ココアにとっては、今ここにいる中で、最も古い仲間だった奴なんだからよ。
──にしても、アイツは思いの外簡単に口を滑らせてくれるな。有り難い。
「俺以外の連中がどう動くかは予測出来るんだな? だったら、まだ付き合いが浅い俺が相手してやりゃあいいわけだ。これ以上深い関係になることもねぇがな!」
シルフォよりも一歩前に出て、ニヤニヤして気持ち悪いアノムスに刃の先を向ける。いい感じに決まった。
──と思ってたら、後頭部に軽い打撃が襲いかかって来た。シルフォの手刀だった。何しやがるバカニンジャ。
「バカか貴様は」
「何だと? 戦闘中に手刀噛まして来るバカに、バカとか言われたかねーよバカ」
「貴様、アナライズ・コントローラーの能力を、もう忘れたのか?」
「あ?」
忘れるわけねーだろ、簡単な名前ついてんのによ。「分析」「解析」だ。そもそも髑髏メガネと戦ったばかりだっつんだよ。
「はぁ、哀れだな。何故そこまで低能に生まれて来てしまったのか」
シルフォは、やれやれといった感じで深い溜め息を吐く。ぶっ飛ばしてぇこのクソ痴女ニンジャ。
まるで「バカでも理解出来るように」、みたいな口調で、シルフォは「いいか?」と指を立てる。うぜぇ。
「あの巨大キツネは、我々、貴様以外の戦士の動きを予測出来ると言ったんだ。ここまでいいな?」
「んなこと分かってるわ」
「そして貴様は、身の毛のよだつ程の低能を存分に発揮し、奴の策に引っかかったんだ。分かるか? 理解してくれると助かるのだが」
「お前バカにしてんだろ」
「無論だ」
俺がアノムスの弱点を見抜いたつもりが、逆に誘われていたんだと言いたいんだろう。このバカは。
けどよ、俺が突っ込もうが何だろうが、お前らもいるんだから状況は変わらねぇじゃねーか。
「……ダメだったみたいだ」
「ああ、残念だな」
「何だテメェら人を憐れむように見やがって」
ダメだったみたいって何だこのクソニンジャ。絶対今の解釈で合ってるだろ。そんで、俺の考えも間違っていない筈だ。
「あまり、頭の方は成長していないみたいで安心したよアウドラ。一対一でやったのなら、僕は確実に君に勝つことが出来る」
「何だとキツネ目。言ってんだろ、俺だって身体能力には大いに自信があんだってよ」
「だから、その考えがもう既にいけないんだって」
おかしそうに笑われて、少し後ろからは蔑むような視線を感じる。何だっつーんだよテメェら全員。
「アウドラ、分からないのか? アナライズ・コントローラーがあるということは、お前の動きも段々分析されていくということだぞ」
「……でもま、お前らもいるから問題ないだろ」
「私達の動きは、既に分析されているも同然だ」
「あのキツネは、貴様を突っ込ませてアナライズで分析し、全員の行動パターンを予測出来る状態にしようとしていたんだ」
「……あー」
ただ誘われていたんじゃなくて、アナライズ・コントローラーの能力で俺を、ほぼ無力化しようとしてたってわけね。簡潔に纏めると。
だったら最初からそう言えや。
「だとしても、どの道戦っている内に分析されんだろ。変わらないのも事実だ」
「アウドラ、お前は本当に足りないようだな。倒し切れずに分析を済まされれば、勝ち目はなくなる。ただ闇雲に、普段通りに挑むのではなく、100%解析されないように器用に立ち回る必要があるんだ」
「……」
そんなこと言われても、このコントローラーで出来ることなんて限られているんだが。
普段からフルに使って戦っているから、本当に変わりようがないんだが。
「まずは手本を見せてやろう、アウドラ。──ハッ!!」
シルフォは刀を構えると、三人に増えた。確かに普段は見かけないな。この分身の術っぽいのは。
「私達の場合はパターンが既に、アノムスの脳に刻まれている。そのため足掻くことくらいしか出来やしないが、まだ新参者の貴様は違う。続け!」
「手本見せてくれるんじゃないんかい!」
「身体で覚えろ!!」
「それしかないんだろどうせ!」
三人並んで駆けて行くシルフォの後を追い、アノムスに突進して行く。えーっと、なるべく普段やらない行動を取ればいいんだよな?
──とか、数秒の間で必死に考えていたら、
「死ねアノムス──!!」
シルフォが三方向に分かれ、同時にアノムスに斬りかかった。
……いやお前増えただけでいつもと変わらないじゃん。
「視えているよ、君達の考えはね」
全員の攻撃をバックステップで躱したアノムスは、自分から向かって左側のシルフォの、頭を掴んだ。
──そしてその身体は、小さな爆発で散った。
「チッ……!」
ココアが舌打ちをする。今のは、シルフォとココアのコンビネーションアタックだったみたいだ。凄ぇな何も相談せずにって。
あ、正面のシルフォが退いた。つまりコレはアレか。俺もやれってことだよな。よし。
「フックーーーーーーーーーッ!!」
鼻フックに見せかけた、メガネ外し攻撃。極普通に避けられ、炎の弾でぶっ飛ばされた。まぁまぁ熱い。
「ダメか、クソ。マジで警戒してんだなそこは」
「当然だろう、マヌケが」
「うるせぇ、お前に言われたかねーんだよ」
何だあの三人同時攻撃は。せめてコンマ数秒くらいの時間差攻撃にしろよ。三人に増えた意味あんのか。
またも睨み合いの時間がやって来たが、相手は未だ気味の悪い薄ら笑いを浮かべている。
「さぁ、次に行こう。コレなんてどうかな?」
「「あ……」」
シルフォと、ココアが分かりやすく怯んだ。俺は別段、変わった気持ちはない。
──ただ、アレも奪われたんだと、少しムカついた程度だ。
「我らがリーダー・ロプトがマスターだった、『メディカル・コントローラー』のお出ましだよ」




