第2話 サウンドとブロック
アノムスの両肩の上方に現れたコントローラーは、片方だけ俺が知っているやつだ。
何せ、俺が必死で戦った相手が持っていた物だから。
「──サウンドか。嫌なもんだな、もう一度それと戦うことになるってのは」
異世界コード『Missto』、ネグロ王国。そこの王様を殺してその座を奪っていたアシュレイド……名前は聞いた覚えがないが、そいつがマスターとなっていたコントローラーだ。
超音波攻撃をしてきたり、人間じゃ聞き取れない音を感じ取って、消えている俺を見つけたりと、非常に厄介だった。マジでやり合いたくない。
「クソ……もう対峙することないと思ってたのによ。何でまた苦労しなきゃなんねぇんだよ」
「ふふ。過去のおさらいと考えるのも有りかも知れないよ。どの道、このコントローラーと戦うことは避けられないさ」
「んなことは分かってんだよクソ野郎。もう一回戦うのが嫌なだけだ」
ニヤニヤ気持ち悪い目を向けて来るキツネ目に、中指を立てる。分かんだろそんくらい。
サウンド・コントローラーはめちゃめちゃ厄介だが、以前やり合ったことで対策や対応は考えられる。より警戒すべきなのは、もう一方だ。
「シルフォ、右側に浮いてるコントローラーは何だ? 分かってるだろうが俺は見たことがない」
中心に立つシルフォに耳打ちする。別に聞こえてもいい気がするけど。
前に言ってたフレイムかブロックの可能性があるが、アイツが奪っていったのは計十一個。他にも知らないのがある筈だ。
シルフォはアノムスから目を離さず、シノビ・コントローラーを起動した。こんな近くで変身すんなビビるわ。
「貴様が来る三年程前に手に入れた『ブロック・コントローラー』だ。以前は他の者がマスターとなっていた」
「……」
つまり、元々はアシュレイドがマスターであって、倒して奪って、ビワの誰かがマスターになったわけか。
……んで、そいつは死んだんだ。浮かばれねーなこんなの。
ブロックをコントロールするってのは、どうなんだ? どうなるんだ? どんな能力があるんだ? 全く想像つかない。
努めて冷静に脳を回転させていたら、視界の端でココアも変身した。何を思うのか、マグナムっぽい銃を睨みつけている。
「思えば、彼の死は唐突だったな……アレも全て、お前が仕込んだものだったのか……?」
銃をギュッと握り締め、アノムスに鋭い眼光を向けるココア。その目には怒りだけじゃなく、悔しさも混じっているように見える。
「フェオが命を落としたことに、僕は関係していないよ。残念ながら、彼は実力で負けただけだ」
アノムスは肩を竦めて、悲しそうな声色で答えた。あの感情が本心なのかは、もう一切信じられない。
俺の場合、元から信用はしていなかったけどな。
「アウドラ、君も変身しなくていいのかい?」
「……っ! 今しようとしてた所だよ!」
急にこっち来たから驚いたが、アノムスのオーラに気づいて直ぐに変身した。もう誰も音声認証しねぇな。めんどいからか?
──そしてアノムスも、二つのコントローラーのスイッチを押した。
「さ、始めよう。僕と、君達にとっての最後の戦いだ」
キツネ目を少し開いて、おぞましく微笑むラスボス。バカが考えた衣装みたいに、半分ずつのコントローラーのクロス。
頭おかしい奴にしか見えねぇ。
「お前なんかに殺されるべきじゃなかったんだ、ロプトも……!」
変身したばかりのアノムスに容赦なく弾を放つココアと、出会ったばかりにも使用していた気がする、起爆札をばら撒くシルフォ。
「「死ね……!!」」
そして、元々仲間であった奴に軽々と言える筈のない言葉を、二人同時に叫んだ。ヤベェよコイツらやっぱ。
──なんて唖然としている内に、大爆発が起きる。思いの外近かったのか、爆風が凄ぇ。
「……開幕を祝う花火かな? 凄い迫力だったねぇ」
…………おお? 何だありゃ。デカい立方体が固まってやがる。
「って分かるわな。それがブロック・コントローラーの能力か」
「そうさ。ブロック・コントローラーは塊を操る。このようにガードしたり──広範囲に攻撃することだって可能だ」
「ストップ!!」
反射的に叫んだ。アノムスも、シルフォもココアも、周囲に待機している仲間達も停止する。
──その仲間達の上方に現れた、直径2m程のキューブも降下を中断する。
「これ、味方だけでも解除出来ねぇのかよ! クソッ!」
シルフォを揺らしてみるが、反応はない。ココアも同様だ。
ってことは、俺が仲間達を避難させなきゃならないわけだ。
「ダメだ、この人数を全員移動させることは不可能……!」
全力で仲間達を担ぐが、十数名を、ほんの一分程度の間に安全な場所へ、運べるわけがない。
間に合わない────なら!
「頼んだ俺!」
「おう!」
シャドウ・ビジョンで影の俺を召喚。残りの仲間達を移動してもらう。
俺は、こっち側は何とかなったから、今は様子を見よう。キューブがどんな動きするか分かんねぇし。
──そしてストップが解除されると、宙にあったキューブが勢いよく落下。物凄い振動だし、食らったら一溜りもないな。
仲間達は全員避難させられたようだ。全員「何事?」って顔をしているが。
「シルフォ、サウンドもだがブロックにも充分な注意を……」
「アウドラ、ストップを使ったのか? 皆をありがとう、助かった」
「おう! 気にすんな!」
……。そうだった。今俺、影がいるから視えてないんじゃんな。
どうでもいいことだけど、影を出すと総スカンされてるみたいで寂しいんだよな結構。
「流石だね、アウドラ。ここに来る前から怪物だっただけはあるみたいだ」
「「……おう、お陰様でな」」
俺と影の二人で答えた。理由としては、アノムスは今、向こうに言ったわけじゃないからだ。
影も答えたのは、シルフォ達に気を遣ったから。
アノムスの視線は、確実に俺に向けられている。
「何だよ、やっぱり視えやがるのか」
「そうだね、ハッキリと。ついでに、ストップにも抵抗出来る。完璧に動けるわけではないけど、戦うくらいなんてことないよ」
「はっ……そこまでのバケモンとはやりたくねぇな本当に。これがゲームなら苦情が来るんじゃねーの?」
「ゲームはプレイしたことがないからねぇ」
「知るかロン毛ギツネ」
またまた中指を立てる。ついでに舌打ちもしておいた。
因みに、今の会話は本体の俺が喋っていただけだから、シルフォは影の俺を見て困惑している。口開いていないからな。
でもお前、ここまで何度シャドウ・ビジョン見て来たんだよ。影だって分かれそろそろ。ココアは理解してるっぽいぞ。
「それじゃあ、続けよう。攻め続けるけど、どうにか出来るよね? 期待しているよ」
「おお! 期待してやがれクソが!!」
俺何回「クソ」って言うんだよ、お口が悪うございますなぁ。
──なんてふざけている場合ではないことを、一瞬で悟った。
アノムスの左手の上に、無線機のような物体が現れたからだ。アレはマジでヤバい武器の一つだと思う。
「シルフォ、ココア!! あん時と同じだ気をつけ……」
「分かっている! 使わせるものか!!」
ネグロ王との戦いを思い出して叫んだら、シルフォが弾丸みたいな速度で突っ込んで行った。無線機はまだ起動していない。
サウンド・コントローラーの武器……アレ名前知らねーな。とにかくあの無線機から発せられるのは、強力な超音波だ。
以前の戦いでは、アレを使われて呆気なくぶっ飛ばされた。クロノスの停止や巻き戻しもクソみたいだったが、身動きが取れなくなるのはアレも同じだ。
「シルフォ、正面から突っ込むのはいいけど、防がれたら意味がないだろう」
シルフォの短刀が、一瞬で現れた一つのキューブに邪魔をされた。
「くっ……!」
「ほら、どうにかしなきゃ」
──そして、超音波が襲いかかって来る。
頭が割れるうううううううううううううううううっ!!
「踏ん張れお前達! っぉおおおおおおお!!」
「ココア……っ!」
一人攻撃に耐え、ブラスターをぶっ放すココア。今シルフォ、アノムスの目の前にいるが!?
「……っ!!」
ほら、爆発でシルフォが吹っ飛んで来たじゃねーか! 一応超音波は止まったから助かったけど!
……こんな一瞬しか食らってないのに、ふらふらする。チクショウ。
「シルフォ、無事か」
「ああ、助かったココア……」
「立てるか? 休んでいても構わないぞ」
「ふん、水着ガンマンに借りを作るなどごめんだ」
「……終わったら決闘だな」
「望むところだ」
「お前らバカみてぇなこと言ってんじゃねぇぞ」
何でラスボスを前にしてまで、喧嘩ばかりしていられるんだろうか。ビワの連中は血気盛ん過ぎるだろ。
──さて、吹き飛んだわけじゃなく、バックステップからキューブの盾で身を守ったアノムスは、どんな顔しているだろうか。
「……」
無言でただ、柔らかく微笑んでいただけだった。薄気味悪い。
ところて気がついたんだが、あの野郎二つしかコントローラー使わないな。十一個のコントローラーのマスターになったくせに、一度に二つが限界、とかか?
……いや多分、違うな。一定数ダメージ受けたら次に、みたいなゲーム感覚なんだろう。今のアイツはそういう奴の筈だ。
「だとしたら、後々にクロノスとかが控えてんのか。地獄だな。簡単に食らうつもりもねぇみたいだしよ」
「……だな、確実に過去一大変な戦いだろう」
俺と考えていることが同じなのか、シルフォも溜め息を溢す。だよな、十一個分ってしんど過ぎるよな。
今まで一つで限界だったのによ。
『皆、よく聞いて!』
「ユーニ!」
外でこの部屋を観察しているユーニからの通信だ。イヤホンとかを必要とせず、直接脳に届ける技術、俺の世界にもあれば便利だろうなぁ。
『アノムスがやろうとしているのは、正にゲームだよ。一つ一つ、コントローラーを解除するんだ!』
「解除!? どうやって……!?」
これまで、いくら追い詰めても変身が解けたことないぞ!? そんな無理難題押し付けられても……
『アノムスは今、十一のコントローラーと一体化してる。アノムス自身にダメージを与えれば、コントローラーを解除することが出来る!』
「取り敢えず、どの道ぶっ飛ばせってことだよな。つまりは。シンプルに言ってくれた方が助かるんだが」
『まぁ、とにかく最初はアノムスからコントローラーを剥がすことだけ考えて!』
「了解」
剥がすってのは、解除すればいいってことだよな多分。ひたすら攻撃するしかないって状況は理解した。
けど、十一個のコントローラーを解除出来るくらい攻撃したら、アイツでも流石に死ぬんじゃねーの? 普通に。
「アイツを普通って見るべきじゃないか……っていうか、ユーニ。お前何でアイツがやろうとしてることが分かってんだ?」
『……アノムス自身が、教えてくれたんだよ』
「……そうか」
なら仕方ないな。本当にそういうゲームってわけか。
自分を倒せるのかどうか。勝てるのかどうか。アイツは本気で試しているってことだろう。
余計なことをするんじゃねーよ。お前は何か別の生物なのか、もしくは生物でもないとか言うのかも知れねーけど、あのまま終わりでよかっただろ。リーダーを殺す必要もなかっただろ。
仲間で終わりじゃ、何か許せなかったのかよ。
「はああああああああああっ!!」
再び突っ込んで行ったシルフォだが、さっきと同じようにキューブに阻まれた。
──だが、まるでそれが狙いだったかのようにキューブを蹴り、高く舞い上がる。アノムスも追うようにシルフォを見上げた。
その隙を狙った、ココアのライフル。
「おや……」
ライフルの弾速はかなりのもので、キューブが現れる前に無線機を弾いた。アノムスも間の抜けた声を出す。
そして、上空から降り注ぐ、クナイの雨。勿論シルフォだ。
「ああ、危ない危ない」
危なげなくキューブで防いだアノムスに、間髪入れず影と突っ込んで行く。既に《サシルベ・ブレード》は出してある。
こんな攻撃食らわないだろうってことは察してる。それでも、一瞬でも俺に集中させれば、誰かは仕掛けられるんだ。
「アノムスうううううううううううううううううっ!!」
それでも決して手は抜かない。クナイの雨が止むタイミングで、射程範囲内に入る。
お前は折角戦って回収したコントローラーを奪った。そして力にした。
お前はあんなにも信頼してくれていたコイツらを裏切った。それでも「愛しい」なんて言いやがる。
ふざけんじゃねぇ。俺はよくても、コイツらにとってはどれ程ショックだったか……!
「来い、アウドラ……!」
「オラァアアアアアアアアアアアアア──────ッ!!」
俺の振り下ろす刃が、何故かガードをしなかったアノムスの腹に、叩きつけられる。




