第1話 勝てると信じましょう
「シルフォ、こんなところにいたのか。部屋にいるんだとばかり思ってたから、探し回ったぞ」
いつか来た、壁画のある最下層。そこにシルフォはいた。
まさかこんな場所に行ってるとは思わないから、地上は全部訪ねたぞ。物凄い疲れたわ。
「……私に用があるのか、アウドラ」
「ああ」
壁画に向いたまま返事をされた。何だか、いつもの雰囲気とは違って見える。
凡その見当はついてるけどな。俺も、それについて話しに来たんだし。
「アノムスは、結局敵だった。お前らが必死こいて集めたコントローラーを、全て自分の物にした。そんでもって、挑戦状を叩きつけて来た」
アノムスはビワの参謀、そして2番目に強いか何かの戦士だ。皆が信頼していた奴が最後の敵となるなんて、そんな裏切りはない。あって欲しくなかった。
今度は何も返さないシルフォだが、俺は構わず続ける。
「言っちまえば俺は、結構初めの頃からアイツに違和感があった。怪しさを感じていた」
俺の視界に入るところでは絶対に、戦う姿を見せない。コントローラーを使う様子もない。なのに、ビワのナンバー2だからな。
怪しくないと思う方が、どうかしていると俺は思う。
そう言ってしまえばビワの連中、殆どが当て嵌るが。
「……お前が気づいたのは、やっぱ少し前か? 俺が言った後なのか?」
少し訊き難い質問だったため、一瞬口篭った。
でも訊いておきたいんだ。俺はシルフォをバカだと感じているが、アイツの嘘を見破れないマヌケとは思えない。
「ナタリーから聞いたんだ。世界樹が枯れた時、アイツはユーニと共にいたと。お前が敵を一掃した後、直ぐに世界樹を見に行ったわけじゃないって。アイツは嘘をついていた。それが今なら分かるだろ」
俺だけじゃなく、ナタリーだって勘づいていた。
ナタリーはずっと俺の背後、遠くの建物から援護してくれていたが、恐らくアノムスを監視していたんだ。独断で。
俺がシルフォ達に敵視されてもただ一人、共通の認識を持つがために俺と接触した。きっと俺と二人で、協力するつもりだったんだよ。
「ここからは容赦なく言わせてもらうぞ。俺が間違ってたか? あの、世界樹が枯れた時。あのアイツを確保しておけば、こうはならなかった。お前らビワの連中が招いた悲劇だ。仲間だからって油断してるから……」
「質問の後に喋り続けて、いつ答えろと言うんだマヌケ」
──お前が中々口を開かねぇから、答えねーんだと思ったんだよクソニンジャ。
シルフォはすくっと立ち上がり、澄んだ瞳を俺に向ける。悔しさでも悲しさでも怒りでも侮蔑でもなく、決意したような、凛々しい顔をしていた。
「貴様の言う通りだ、アウドラ。コレは、私達ビワの戦士が、苦楽を共にした仲間を疑うことが出来ず、招いた結果だ」
気味の悪いくらい素直に、自分を責めている。大丈夫か? アシュレイドとの戦いで疲れ切ったか? 熱でもある?
──俺は空中で三回転半して床に伏した。絶好調じゃねぇかコノヤロウ。
「貴様の質問に答えてやろう。私がアノムスの異変……いや、異様さに勘づいたのは1年程前だ」
髪を掻き上げるシルフォは、気づけばシノビ・コントローラーを持っていた。襲いかかって来るかは分からないから、俺もビジョン・コントローラーをポケットの中で触っておく。
まぁ、大丈夫だとは思うが。
「一年って、何でその間アイツを問い詰めたりしなかったんだよ」
「仲間を疑いたくなかったのもあるが、確証などがなかった。『怪しい』だけで敵と決めつけるのは、私の正義反する」
「……ケッ。アイツを疑った俺のことは殺そうとしたくせにな」
「仕方ないだろう、信じたくなかったんだ」
仕方ないわけないだろうが。何で変な奴を疑うだけで殺されなきゃなんねーんだよふざけんなバカ。
信じたくないことくらいは分かる。それでも俺を抹殺するのはお門違いだ。それこそ、アノムスの掌で踊ることになる。
もう、遅いけどな。
「アノムスは、これまで、貴様がやって来るより昔から集め来たコントローラーを全て、持ち去った。そしてどういうわけか、全てのコントローラーのマスターとなった。いわゆる、最強の敵になったということだ」
「ああ、そんなことに今頃気づいてんのはお前くらいだと思うぜ」
「奴の正体は不明。アシュレイドでもなければ、ここで生まれたわけでもない。未知の生命体というものなのだろう」
「ああ、そーだな」
正直、改めて話す内容じゃないよな。とっくに分かり切っていることだと思うんだよな俺は。やっぱバカかコイツ。
何より、シルフォと和解出来たのはよかった。一応、戦闘中に多分出来ているんだが。
「貴様のお陰で目が覚めた。やはりアノムス……奴は、生かしておくべきではない」
「名前じゃなくて別の部分を躊躇って言えよ。それと俺のお陰だってんなら、謝れ一回でいいから」
「断る」
「断んな」
全く悪いと思ってなさそうなシルフォは、シノビ・コントローラーをリュックのような物にそっと入れた。
襲われることはないみたいだな。俺も、手を離しておこう。殴られるのは警戒したままだが。
「……ところで、アウドラ」
「あん?」
シルフォが、俯きながら名前を呼んだ。何だか、モジモジしている。
……トイレ行きたいのか? いや、多分違うよな。何だ?
「ロプトが亡くなり、古参の一人であるココアは泣いていた。それを、ユーニが頭を撫でて慰めていたんだ」
「へぇ、何かそれ、想像すると凄ぇ光景だな……」
身長が低いユーニと、高いココア。きっと、ココアは膝枕をされていたに違いない。
身長差的に、ココアが立ってたら、ユーニが何かに登るしかない。ココアがソファーに座っていても、ユーニは立つ必要があるだろう。
……普通に立ってかな?
「……で、それが?」
ココアが泣いて、ユーニに慰められていたと伝えられたところで、特に何もなくないか? ユーニ優しいなぁくらいしか感想なくね?
俺が少々困惑していると、シルフォはギロッと睨みつけて来た。と思ったらキュッと口を結んで、またモジモジし始めた。
「わ、私もアノムスが敵なんだと受け入れて、ショックだったんだ! これから仲間を切り刻んで肉片にしなくてはならないのかと、怖かったんだぞ!!」
怖ぇのはおめーだ。
「私がやらなきゃいけないの? そんな……」とかみたいな切ない話じゃない。倒さなきゃというだけで、何故切り刻まなくてはならないという思考に至るんだ。
流石にアノムスに同情したくなるわ。お前のサイコパスレベルは一般人とは程遠いんだよ。
「くっ、ここまで言っても察せないのか……! この鈍感が……っ!」
何故か悔しそうに睨みつけて来るシルフォ。熱湯被ったみたいに真っ赤だぞお前。怖っ。
──本気で心配しかけたら、胸ぐら掴まれて血の気が引いた。いつもと違う! 殴るんじゃねぇのか!?
「私を慰めてくれって言っているんだバカアアアアアア──ッ!!」
────────は?
何、叫んでんのコイツ。涙目で。
多分俺今信じられないものを見る目になっちまってる。マジで信じられないし。
とにかく頭を整理して、と。
「……いや、何で俺がお前を慰めなきゃなんないんだよ」
「し、ショックを受けたんだと……」
「だからって!? 泣いてもないしそこまで落ち込んでいるように見えねーんだけど!?」
人を三回転半させる元気もあるし。今涙目ではあるけど。
でも本気で意味が分からないからな……。
「いいから……私だって、誰かに甘えたいんだ……」
「甘えたいって言われても……」
シルフォが再び俯く。何か俺が悪いことしてるみたいで気分が悪い。
よく見たら胸の前で手を握り締めていて、無性に頭を掻きたくなった。だからめっちゃ掻き毟った。
コイツも、確か俺よりも若い頃から戦って来たんだもんな。しゃーない。
「……言葉は見つかんねぇから、黙ったままな」
「……っ」
頭を撫でるのは何だかめっちゃ恥ずかしいから、シルフォの視界を覆うように抱き寄せた。
シルフォは俺にピッタリとくっつかると、小さく肩を震わせた。顔を胸に擦りつけて、途切れ途切れに息を吐く。
気持ちが溢れたのか、嗚咽を漏らす。その身体を、包み込む様に抱き締めた。
「あーっ! シルフォのこと泣かしちゃってる〜。レインに教えてあげなきゃ!」
「おわっ!? ユーニ!? エリナさんまで……!」
「中々やるじゃないアウドラ君」
ニヤニヤする二人にハッとして、シルフォを引き剥がす。シルフォも涙を拭った。
「違うかんなコレは……っ! ていうか、レインにどうやって教えんだよ!?」
「二人共、皆に知らせてくれ。アシュレイドのアジトへ向かうと」
ユーニ達が俺のツッコミに反応する前に、シルフォがいつもの凛とした声で言った。お前はそうじゃなくちゃな。
シルフォに優しい笑みを向けたユーニは、何かを手渡した。丁度シルフォで見えなかった。しかももうしまってやがる。
「もういいの? 甘えたいだけ甘えてていいんだよ?」
「いやそれ俺のセリフじゃね? 何勝手なこと言ってんだよおい」
「大丈夫だ。帰って来てから、奪うからな」
ふっ、と。シルフォも柔らかに微笑んだ。何を盗るつもりだ。
ユーニとエリナさんは何を強奪するか分かるのか、ニッコリと笑いかけている。教えてくれと切実に思った。
「これから、最後の戦いへと赴く。敵はこれまでの相手より格段に厄介だろう。準備はいいか? 引き返せやしないぞ」
──いつもの広間に集まった戦士達に、シルフォが不安そうな目を向ける。失うのを恐れているように、一人一人をじっくりと焼きつけていく。
共に最終決戦へと向かう仲間達は、真剣な眼差しで頷いた。
「手を抜くな。予め言っておくが、奴のことは忘れろ。仲間だったことなど頭から捨てろ。アノムスは敵だ。いいな」
続いて、アイロン・コントローラーを握り締めたココアも。これにも、少し躊躇いの間があったが、全員が頷いた。
「そんじゃあ行くぜ、皆。あのキツネ目を倒してコントローラーを回収して、本当に戦いを完結させる!」
「おーう」
「何で俺が言う時だけダルそうなんだよ!?」
思わずツッコミを入れると、笑いが巻き起こった。緊張は解けているみたいだが、そんな風に笑わなくたってよくないか?
俺をいじっただけじゃねーか。
「行くぞ! アシュレイドのアジトへ──!!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
──アシュレイドのアジトは、何か如何にもアジトって感じの建物だった。全体的に黒い、要塞のようなデケェもんだった。
好きだねぇ、悪役。こういうの。
「こんだけ広けりゃアイツ捜すのも手間だな。どうするシルフォ、ユーニ。どう分かれる?」
「こっちだ、全員ついて来い」
「あら……?」
手分けした方がいいと思ったんだが、シルフォ達はどんどん進んで行く。お構いなしか。幾ら他の敵がいないからって。
「アノムスからのホログラムメールが届いてね、マップを送って来たんだ」
「あー、なるほど。あの野郎、正面から来られても負けねぇって意味か?」
本当に嫌な奴だ。初めて会った頃から思ってたけどよ。あの糸目が。
階段を上り下りしたりして暫くすると、長〜い廊下が現れた。こんなん外から見た時はなかったよな。
シルフォ達が躊躇いなく進んで行くから、俺もついて行く。
「罠ってことはないよな。辿り着いた瞬間攻撃とかよ」
俺がボソッと言うと、シルフォはこっちに目もくれずにフッと、鼻で息を吐いた。
「奴の自信からしてそれはないだろう。正面から堂々と私達に勝つつもりだ」
「……ま、そりゃそうだよな。アイツがこれ以上小細工をするとかは、俺も考えられない」
見えて来たぜ、大扉が。あの先から嫌って程感じる。
間違いなくアノムスだ。空気自体は別モンなんだけどな。
「覚悟はいいか、お前達」
扉に手を添えたシルフォが、恐らく最後の確認を取る。全員が、それぞれ決意表明をした。
俺もシルフォに微笑みかけ、そっと肩を叩いた。
「勝てると信じましょうぜ、リーダー」
「勝つさ」
俺とシルフォでグッと扉を押し開く。アシュレイドのボス戦にありがちな、異様に広い部屋が現れた。
円形のステージみたいな場所がド真ん中にあり、周辺はまるで観客席。落ちたら危ないな、戦ってる最中に。
──そして、その円形の舞台には、アノムスが笑顔で待ち構えている。
「相変わらず気味の悪い笑顔しやがって。向けられて心地いいもんじゃねぇんだよそれ」
「言ってやるな、あの顔が悪い」
「お前こそ言ってやんな」
ココアの指示で、コントローラーを持たない仲間達は観客席 (じゃないけど)から囲むように配置される。
俺とシルフォとココアの三人は、階段からアノムスのいるステージへと上がる。
「やぁ、僕の愛しい仲間達。正真正銘最後の戦いを始めようじゃないか」
アノムスの両肩の上に、コントローラーが二つ現れた。




