第20話 挑戦状
「粉砕してやる──轟けミョルニル!!」
切り傷が目立つようになって来た全裸野郎は、再びハンマーを叩きつける。コレはストップでは回避出来そうにないため、一回目と同様に全力で逃げる。
色々試してみた感じ、厄介だったのは鎧みたいだ。ほんの一瞬だけだが、奴にも一応ストップは有効らしい。
「シルフォ! どの道最後の敵だ! 出し切るぞ!」
「ああ……!! 薄汚い化け物は、ここで浄化してやる……!!」
コントローラーの耐久力を上回る破壊力は、俺達の身体にもじわじわと傷を追わせていた。俺は回避に必死なためそこまでじゃないが、ココアとシルフォは腕やら頭やらから流血している。
俺達から少し離れた位置でサポートしてくれている仲間達も、疲労の色が見えて来ている。
──え? 状況が一気に変化しているって? 悪いな、割愛だ割愛。
凡そ二十分くらいは経過したが、斬っては逃げて斬っては逃げてを繰り返していただけなんでな。
個人的な理由だと、実況するだけの余裕が出るのにかなりかかったから、だ。
「私に続け! 一気に畳みかけるぞ!」
ココアの呼びかけに、仲間達が雄叫びを上げる。
まず、ココアの特大ブラスターが火を噴き、その他仲間達はバズーカなどで殺意高めの追撃をする。なんとここに来て、異世界技術関係ない武器の登場だ。
ユーニが用意したらしいが、何処にあったんだアレは。
「アウドラ、終わらせるぞ」
不意に、シルフォが微笑みかけて来た。珍しく、殺気のない穏やかな表情だ。
中々ヤバい奴だというのは、今更。
「そうだなっ。あの超巨大オヤジに、天誅を下してやろうじゃねぇか!」
「首を刎ねて内蔵をグチャグチャに掻き混ぜてやれ!」
「断る!!」
あの全裸野郎にとって、ココアのブラスターはともかくバズーカの弾は小さい。そして高速だ。全てを躱すことは、流石に叶わない。
自分がデカい所為で。
弾が全て発射した時点で、俺とシルフォは既に駆け出している。奴が体勢を立て直した頃にはもう──目の前だ。
「これにて! 完結うううううううううっ!!」
「地獄で全ての苦行に追われろ世界最大級の汚物がぁあああああ!!」
それぞれ、思いの丈を叫びながら猛突進して行く。俺が狙うのは、男の泣き所。シルフォが狙うのは心臓だ。
因みにコレは、各々が提案した部位。
俺はやはり、致命的なダメージとショックを与えられるといったらそこだろうと思ったんだ。柔らかいしね、例えクソデカくても。
シルフォは当然、即死狙いだ。
だが、そこは相手も警戒している訳で、簡単には近づける筈がない。首なども然り。
──だから先に、ココアの音速の弾が奴の両目を撃ち抜く。
「ぬぐぁおおおおおおおおおっ!! よくも……!!」
「シルフォ今だ! ぶった斬るぞ!!」
「私の場合は貫く!」
「どっちでもええがな!!」
俺もシルフォも、高低差はあれど同時に跳び上がる。嫌だな、アレ目掛けて飛んで行くの。
シルフォはニンジャっぽい刀を構え、先にある心臓をその目に捉えている。
あばよ、アシュレイドの変態! じゃなくてボス!
こんな間抜けな死に方するボスがいて堪るかよ。
「こんな豆鉄砲と目潰しくらいで、勝てると思うなぁあ!!」
──と思ったのがフラグとなってしまったのか、全裸野郎がハンマー急遽、シルフォに向けて振り下ろした。
「シルフォ────!!」
視界の上の方に見える、ハンマーを見上げるだけのシルフォの姿。俺もシルフォも空中にいるため、身動きなんて取れやしない。
アイツは取れるのかも知れないが、今は刀を構えての猛突進。勢いは止められる訳がない。
「くそぉおっ!!」
体勢を崩しながら、咄嗟にストップボタンを押した。多分押せた。きっと間違ったボタンを押してはいない筈だ。
けど、空中でよく分かんないくらい回転しちまった所為で、脳が働かない。気持ち悪い吐きそう。おえぇ。
このまま瓦礫に突っ込むかアレに突っ込むか、落ちた挙げ句踏み潰されるのか……どれも死ぬ程嫌だ。特に二つ目……いや最後か流石に。
……ああ、ダメだ停まってねぇや。俺はこのまま踏み潰されて死に、シルフォは恐らくこの一瞬後に、ハンマーが直撃して死ぬだろう。
もうちょっとだと思ったんだがな。惜しかった。
アウドラの異世界奮闘記、ここに完結──。
──タイム・ストップ。
「…………あっ? ん? は?」
俺は気を失っていたらしく、どうやったのか知らんが一部整備された瓦礫の上で、目を覚ました。ココアとシルフォが、チラりとだけ俺を見る。
「起きたか、アウドラ。安心しろ、私達の勝利だ」
「ああ…………だよな」
シルフォの言葉に簡単に納得したのは、あそこで倒れている、元のサイズに戻った全裸野郎を見てじゃない。
──俺も、奴が倒される瞬間は見ていたからだ。
「俺のストップは、発動しなかった筈だ。多分押し間違えてな。実は途中で、影の俺が見えたし」
「ああ。姿の視えない貴様を運んでいたから、正直不気味だったぞ」
「そっちはいいんだよどうでも。……シルフォ、お前何で助かった?」
「……さぁな」
時はどれくらい遡るのかは知んねーけど、取り敢えず、シルフォが殴られる直前のことだ。俺が吐きかけてた時。きっと気持ち悪過ぎて気を失ったんだろう。
その時なんだが恐らく誰もが、「シルフォは死ぬ」と感じ取った筈なんだ。避けられる体勢でもなかった。
──だけど、シルフォは助かった。
ボス野郎が突然、ピタリと停止したからだ。
まるで、身体が硬直したかのように。時間停止状態ではなく、金縛り風に。
「シルフォ、何となく想像出来てるよな……? ココアは知らないだろうが、俺も同じ状態になったことがある」
「ああ……貴様との、初めてのミッションでだな」
俺とシルフォが見合って頷くと、理解出来ていない筈の一般兵まで頷いた。貴方はその場にいませんでした。
ユーニは今現在、この世界での拠点でギガント・コントローラーを保護している最中らしい。
だったらもう、一人しかいない。ここにいないのはユーニを除いて二人だが、疑うべきはそいつしかいない。
「クロノス・コントローラーだ……!」
「マスターはアノムス・ヒット・ロラ。全員、覚悟を決めろ」
──この場の空気が一気に凍りついた。信じていた参謀が、何かを企んでいることが確定したのだから仕方がない。
中でも古株のココアは、キュッと下唇を咥えている。
「先程の現象は、アノムスが意図的に取った行動ではないのは確かだ。たった今ユーニから知らされたが、奴は今ビワに戻っているらしく、こちらの状況は一切確認出来ていないからな」
「つまり、アイツは向こうでクロノス・コントローラーを使用したのか……?」
「そうなるな、どうしてこの世界にまで干渉したのかは不明だが」
不可解過ぎるアノムスの行動。ここまで分かりやすく証拠が挙がっているんだから、もう全員信じざるを得ないだろう。
シルフォの言う「覚悟を決めろ」は、仲間であるアイツを疑えという意味だと思う。
「アシュレイドとの戦いは終わった! 乗り込むまでもなくな。そしてギガント、エキゾチック、アサルトの全てを回収した! この土地ももう使い物にならん! 総員、故郷に戻るぞ!」
「ロクなコントローラーなかったな!?」
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「──アノムス。お前が何を企んでいるのか、長く共に戦って来た俺が気づけなかったと、本気で思ってたのか?」
「いいや、とっくに勘づいている想定の下動いていたさ。初めからね」
枯れ果てたビワの世界樹は、すっかり元の姿に戻っていた。あの変化は、クロノス・コントローラーによって何百年も時間を進められたために、起こったものだった。
つまり、意図的なものだったのだ。
そして、アウドラ達の予想通り、それを操るのは参謀アノムス。
彼を哀しい瞳で睨みつけるのは、リーダー・ロプトだ。
既にどちらも、コントローラーで変身している。
「お前が、コントローラーを所持していないのにマスターであると嘘をついたのは、もう四年も前になるな。その時点で、今のビジョンが浮かんでいたのか?」
「ああ、その通りだよ。予定通り行くのか不安だったからね、持たないようにしていた。それでも勝てたのは、ユーニのお陰だね」
「で、お前の思惑通りにことが進んだって訳か」
「そう。皆本当に頑張ってくれたよ、先祖もいない、ただの泥人形に過ぎない生き物のくせにさ」
アノムスの嘲笑に、ロプトの眉がピクりと反応する。しかし、拳を握り締めて堪えることにした。
「別に先祖なんか関係ねぇよ。俺らは、かつてのリーダー達に倣って、アシュレイドからコントローラーを回収し続けただけだ」
「それが僕の目的だとも気づけずにね」
「……」
絶え間なく挑発を続けるアノムスだが、ロプトは至って落ち着いている。アノムスは頭が切れるということを知っているため、流しているのだ。
そしてロプトがそれ程察しがいいことも、共に生きて来たアノムスは知っている。
「……コレは知らなかったろう?」
アノムスはそう前置きをすると、普段は細く目立たない目を、ギョロっと見開いた。
「僕は──ビワの人間じゃない」
アウドラ達の知らない所で、驚愕の事実が発覚。主人公乗り遅れである。
しかしそんな真実に、ロプトは鼻をほじってテキトーに返した。
「知ってた知ってた。だーってお前、壊れかけの世界からレインを連れ出したろ? んなもん俺らに出来る筈がねぇし。バレバレなんだよ。隠してるつもりでいたのが凄ぇわ」
呆れたというように、鼻糞を弾き飛ばす汚ねぇリーダー。アノムスは表情を失っている。
「大体な、俺以前の連中はコントローラー保持者もぜ〜んぶ死んでんのに、何も持たないお前が生きてるのは変なんだよ。別に、ユーニみてぇにサポートに徹してる訳でもないのによ」
「……それもそうだな。僕としたことが、時々ボロを出してしまっていたようだね」
「出まくってんだわ。ガキ共だって、ココアだって、全員気づいてんだよ」
「アウドラは思いの外、早かったね。やはり作り物ではないからか……?」
「とにかく、俺はここでお前に、最後の問いかけをする。いいな?」
ロプトはメディカル・コントローラーを操作し、能力専用武器である《メスニカル・ナイフ》を出現させた。
「──今、考え直すのか貫き通すのか、どっちた」
「貫くさ、最後までね。本当はもう少しだけ待つつもりでいたんだけど……君がそのつもりなら、仕方ないね」
即答したアノムスに対して、ロプトは深い溜め息を吐いた。その双眸に映るは、幾つもの強烈な威圧感を放つ、かつての仲間────。
※
「アノムスは、我々の敵となったようだ……」
呼吸をすることなく瞳を閉じるリーダーを見下ろし、シルフォは溢す。その顔は何を思うのか、いつになく真剣なものだった。
リーダー、多分最後までアイツを信じたんだろ? あんたは初対面の印象クソ悪いけど、そういう人間だって知ってる。
「クロノス、メディカル、バイブレ、サウンド、アナライズ、フレイム、ブロック……今まで集めたコントローラーは、全部なくなってるね……」
研究室から戻って来たユーニは、暗い表情をしていた。全部盗んで、あのキツネ目は何をする気なんだろうとは思ったが、まずコイツにも疑問がある。というか質問がある。
「なぁ、ユーニ。お前はアノムスとグルだった訳じゃなさそうだが、知ってたのか……?」
いつもは温厚で知られるユーニは、バッと顔を上げて睨んで来た。ちょっとビビりました。
「知らないよ……! アノムスは絶対に、僕らの味方だって思ってた。アシュレイドと戦ってコントローラーを回収するのも、世界のためだって思ってたよ! それなのに!」
「ごめん悪かった。すまん。……はぁ」
「どんだけビビってんだ」
「いや、今のは小休止というかね」
一旦、周囲を見回してみる。明らかに人数が減っているのは、あのハンマー攻撃による衝撃波に巻き込まれた者がいるからだ。
もう残り人数も多くない。クロノス・コントローラーの異常さも覚えている。勝ち目は……あるとは言い切れない。
けど、世界を救うんだとしたら、行かなきゃだよな。アイツ何処にいるんだか知らねぇけど。
『──あ、あ、あ。マイクテストマイクテスト……なんてね』
「アノムス……!?」
「貴様何処から……!?」
突如、ビワの世界に響き渡るキツネ目の声。慌てて外に飛び出したら、空にアノムスのバストアップが映し出されていた。
せめて縦に見えるようにしてくれ。真上だと首が辛い。
「テメェ何処にいやがる! 出て来いこの野郎!」
『そう焦るなよアウドラ。今、僕はアシュレイドの本拠地にいるよ。一応残党も残っていたみたいだから、全部始末しておいた』
まるで「お掃除しておきました」とでも言うかのように、アノムスは笑顔で続ける。気持ち悪いわボケ。
『本当はね、もっともっと生き残ってもらう予定だった。時間かけ過ぎたね。本題に入るけど──全員で僕を倒しに来て欲しい』
「……あ?」
とんでもないドM発言に、ドン引きが隠せずにいた。あのキツネ目は一体いつから、そんなドギツイ趣味が出来たのだろうか。
なんてふざけていられない。たった今アノムスは、恐ろしい光景を俺らに見せつけた。
『僕はビワの人間ではないが、アシュレイドの一員でもない。おふざけ感覚で大雑把に言うと……一番近いのは神様かな。それも悪神。言うなれば破壊神だ』
「アシュレイドですらなかったのかお前……」
『僕はここにある、全部で十一個のコントローラーのマスターとなった。君達では勝てないかも知れないね。勿論嘘じゃない』
映像に、その十一個のコントローラーが浮かび上がる。それぞれ、アノムスの至る所に埋め込まれて行った。
要するに、アノムスはコントローラーを生み出した何かみたいな化け物だろうか。
『君達ではきっと倒せない。だけど、僕を殺せなければ世界を消滅させる。阻止したければ、いつでもいい。一ヶ月以内にここに来い!』
目を見開いた顔、不気味過ぎる。人の顔にとやかく言うつもりはなかったが、お前は別だキツネ目。特徴的過ぎる。
ビワの連中が完全に静まり返り、数秒の沈黙が流れる。アノムスは一人一人を我が子のように眺めてから、慈愛に満ちた笑顔を見せた。
『期待して待っているよ、愛しき仲間達──』
最後の最後に、吐き気のするセリフを言い放って。
いよいよ最終章です!




