第17話 ボス推参
──おい、何だよコレ。一体何が起こったってんだ。
まさか、ビワの連中が早くも俺を殺しに来て──ナタリーを巻き込んだ訳じゃねぇよな。
「……ってちょっと待てよナタリー!! おい! 死んでねぇだろうな……!?」
放心してる場合じゃねぇ。さっさとこの瓦礫掘り起こして、ナタリーを助けねぇと。
「誰だ……!? 何で俺じゃなくてナタリーを殺しかけてんだよ!? コイツは何もしてねぇだろ!?」
それともさっきの会話を聞かれて、まずはこっちから……いや、アイツらはそこまで人でなしじゃないだろ。流石にアノムスを怪しむ筈だ。
だったら、どうして。
何故こんな事態になっちまってんだ。
「……あ。あ……? 誰だ、お前……!?」
破壊された壁の向こう、薄暗い夜闇の中に気配を感じた。
けど姿は視えない。でもそこには誰かがいる。もしくは何かがいる。
多分ビワの誰かじゃない。としたらアシュレイドの可能性が非常に高い。
誰だ、そこにいるのは。
「──ビワの戦士間で仲間割れでもしていたか。潰し合いを待つのも面白かったかも知れんな」
薄闇の中から姿を現したのは、全身を鎧で固めた大男だった。顔は見えないが、声で男だと分かる。
間違いなくアシュレイドの奴だよな。ボスクラスだってのも、言われなくたって感じる。
「テメェ、何でナタリーだけを狙いやがった……!」
「別に貴様を生かしたつもりはない。ただ一人ずつ、目の前で一人ずつ殺していく方が、貴様らの反応を愉しめるというものだ」
「何言ってんだお前……!?」
瓦礫を退かす手は無意識の内に止まり、コントローラーを掴んだ。コイツがアシュレイドなら何であろうと倒すだけだ。
仲間をこうも簡単に……殺されて、黙っていられる訳がねぇ。
ナタリーだけが、現状ただ一人の理解者だったってのに。
「おお……貴様はマスターだったか。偶然にも、真っ先に狙うべき相手と巡り会えたとはな。ラッキーというべきか」
「今、壁を破壊して俺を潰せてりゃあ簡単に回収出来たのにな。テメェのミスで、テメェは今から死ぬ」
「貴様はビワの人間ではないだろう……? そんな者に、俺が倒せると思うか」
「知らねぇよ、誰なんだテメェは。アシュレイドだってのは分かり切ってんぞ」
「フッ……」
小馬鹿にしたように鼻で笑った鎧野郎は、右手に持つデカい槍で地を叩き、顔が見えなくても分かるくらい堂々とした態度で明かした。
「俺は、『イギル』。アシュレイドの頂点に立つ者だ。覚えておけ」
「あ……!?」
──アシュレイドのボス!? とうとう自ら戦いに来やがったってのか!
つまり予想通り、アシュレイドは少なくとも残り僅か。全滅を避けるために出て来たと考えられるだろう。
「さぁどうする。この俺のコントローラーは『ギガント』。貴様如きが、抗えるものか……?」
不敵に笑う顔面の見えない鎧野郎。俺は少し、動悸がして来た。
アシュレイドの頂点ってことは、名前だけのボスじゃないってことだよな。当然、メガネやヨノギよりも強ぇんだろう。
だとしたら、今この場俺一人で勝てる相手じゃないことは確かだ。もし生きていたらのことも考えて、ナタリーの近くで戦う訳にもいかない。
ギガントと言っていたし、巨大化する可能性もあるしな。
「……む。おい貴様、この喧しい音は何だ?」
ユーニ作の警報が鳴り響いた。あのサイレンだ。今更だが、コイツを感知したらしいな。
「お前が侵入したことがバレたって音だ。今に、ビワの連中がここに集まって来んぞ」
「なるほど、ならあやつらの存在も知られているだろうな。であれば、囲まれる前に貴様を葬るべきだな」
「望むところだってんだクソ野郎。どの道、テメェらとは戦わなくちゃなんねーんだ。ナタリーへの敬意も持って、やってやるよ!」
コントローラーは残り、三つだった。その内一つはこの鎧野郎が持っていることが分かったが、最低でも他に二人敵がいることだろう。
恐らく、さっきのサイレンはコイツを察知したのではなく、そっちを捉えたものだ。遅かったからな。
「ビジョン・クローズ オン!!」
これが最後の戦いになると信じ、コントローラー中央のボタンを押す。黒いスーツに身を包み、直ぐ様 《サシルベ・ブレード》を展開した。
その様子を静かに眺めていた鎧野郎は、コントローラーを使用することなく槍を構える。変身せずとも勝てるってか、ムカつくぜ。
「最初から全力投球でいかせてもらうぞアシュレイドのボス! 考える時間なんてくれてやらねぇ!」
「来い」
音声認証は要らない。素早くボタンに触れて、シャドウ・ビジョンを発動した。
なぁ、影の俺思わねぇか? 何で選りに選って二の腕にコントローラーが埋め込まれんの? 押し難いったらありゃしねーよ。
(そんなことよりさっさと動こうぜ。もしも効いてなかったら意味ねぇけどな)
だな。まぁ全部が全部ダメだってことはないだろ。物は試しだやるぜ!
影と同時に外に飛び出し、左右から挟むようにして突っ込んで行く。
さぁ、俺が見えているのかどうか。
「……なるほど、ビジョン・コントローラーはこのようなことも可能なのか。この視認出来るのは偽物だな?」
意外にも、俺本体の姿は視えていないらしく、堂々とこっちに背中を向けた。
その目的は、影の攻撃を槍で受けるため。物凄い隙だらけなんだが。
「──ってしまった! よく考えたらこんなガチガチの鎧着てんだし、刃なんか弾かれる!」
「む、本体は背後にいたか」
直前で気づいたため急ブレーキは踏めず、鎧に打撃を与えただけとなった。しかも触れたから凡その位置は特定されただろう。
チッ……この隙がないフルアーマー状態じゃ、幾らやっても無駄だぞ。
早くも精神的に不安定になって来た。攻撃手段が刃だけの俺では、コイツに勝てないかも知れない、と。
あの鎧をひっぺがすことが出来たら話は違うんだろうが……あの貫禄でストップが完全に効くイメージが湧かない。
まずい。コレは結構詰みかけてるんじゃ。
「この影を消せば姿が見えるのか……?」
「うおっと危ねぇ!」
敵がボスってこともあっていつも以上に真剣なのか、影も全力で槍を躱している。
鎧も邪魔だけどあの槍だよなぁ。コイツ自身デカ過ぎて、槍のサイズも比例してやがるから……何センチあるんだこの鎧野郎。
目測で2メートルちょいってとこか?
「……どうした? 何故攻めて来ない。本体の方は隙を狙えばいいだけだろう? 遠慮は要らないぞ」
「「分かってんだよそんなこと」」
けど、その槍の射程範囲が思いの外広過ぎるんだ。わざわざ薙ぎ払うように使いやがって。
それに視えないことが分かってんのに、堂々と立ち止まっているしな。誘われてる感満載なんだよ。迂闊に突っ込めるか。
「やっぱ、試してみなきゃ分かんねぇよなぁ……」
「そうだな、試してみるがいい。俺はいつでも歓迎だ」
「何を試すか分かってんのかお前?」
「分かる訳がないだろう。俺はビジョン・コントローラーに触れたことは一度もないからな」
「じゃあ何でそんな警戒もしてなさそうなんだよ」
「コントローラーの能力すらも耐え、その上で貴様を殺す。絶望的だろう?」
「それが出来りゃあな」
中々アホみたいな理由だったな。
……と言っても、ビジョン・コントローラーに残された能力はあと二つ。ストップと過去に戻るボタンだけだ。
それだけでコイツを倒すなんてのは不可能とも言えるし、幾ら鎧の上から攻撃したところで耐え切られるのは目に見えてる。
俺とコイツが二人切りなのはまずい状況だ。いや、俺とビワがすれ違っている時点で、俺は生き残れやしない。
「だったらやれるだけ足掻いてみるか。おい、鎧野郎」
「俺はイギルだ」
「わーかったわかった。おいイギル、俺は今から最っ強の能力を使う。先にコントローラーを使うことをオススメするぜ」
「……ふん。そんな見え透いた虚勢で誰がノるというんだ」
「ま、それならそれでいいけどよ」
ただストップ使うだけだし、下らない脅しでしかねぇんだよな。虚勢というよりは。
でも、思い通りになった。わざとらしさを全面に出せば、逆に使わないでおいてくれるだろうってな。
「ストップ!」
自分以外の時間を停止させる、有能なボタンを押した。クロノス・コントローラーじゃねぇ限り動けやしないだろ多分。
「……おい影の俺。コイツさ、ちゃんと俺に返してなかったさっき?」
「あ、やっぱ思った? 俺前半喋ってねーのよ。『じゃあ何でそんな〜』ってとこからだぜ俺」
「……視えてやがったのか?」
だとしたら、コイツが堂々としていた訳も分かる。視えてたから、どの道いつでも躱せたってことだ。
危ねぇ、コイツが墓穴を掘ってくれなかったら俺の墓を掘ることになってたな。
「なぁ、相棒」
「何だ影の俺」
「お前さ、どうしても名前で呼んでやらねーんだな」
「んなもん同じ思考してんだから分かんだろ? 自ら名乗るような敵の名前って、極力呼びたくねーの」
「無邪気っぽく見えたヨノギとかはまぁ、バカっぽくてよかったけどな。コイツみてぇな自信に満ち溢れた奴の名前はな〜」
「正直どうでもいいもんな〜」
俺と影の俺で、呑気に談笑する。ま、俺にも拘りっつーもんがあるってことで。
……っと、あまりモタモタしてっと解除されちまうな。
「止めたところで、どうするコレ?」
「全身鎧で覆われてるからな……」
「「うーん」」
アイディアその1。武器を取りあげて寝転がしておく。
……いや、槍を握る力が強いし重いしで無理そうだ。
アイディアその2。メガネのメガネを外したように、鎧を剥がして行く。
……頭部は届かねぇし、ていうか全体的にサイズがあり過ぎて重い無理。前と後ろで繋がってもいるし。
「外せて脚だけか……?」
「どの鎧を剥がすかは決まったか?」
「「うおおおおおおっ!?」」
ピタッと停止していた筈の鎧野郎が突如声を出し、俺と影の俺は同時に飛び退いた。心臓に悪いなコイツよぉ!?
「つーか、効いてなかったか」
「いや、効いていたぞ? ほんの数秒間だけだったがな」
「……あ?」
自分自身も不思議そうな声色で語る鎧野郎は、キョロキョロと周囲を見回した。……待てよ? 何で戦ってる音がするんだ。
「ビジョン・コントローラーの能力を打ち消した者がいるということだろう」
「は!? そんなこと出来る奴ビワにはいなかった筈だぞ!?」
「こっちにもいない。クロノスは奪われてしまったからな」
「クロノスだったとしてもじゃあ、マスターは誰だよ!」
「そんなこと俺が知るか。万が一、貴様らを欺く裏切り者が潜んでいたら……どうする?」
「んな奴いるわけ……………………っ!?」
「心当たりがあるようだな」
予想が的中して満足、といった感じに、鎧野郎は佇まいを堂々とさせた。
……ああ、いるよ。俺がここでナタリーと二人だけでいたのは、そいつを疑ったからだ。
もしコイツの言うことが正しかったら、それは間違いなくアノムスだ。絶対そうだ。
「貴様が思い浮かべた者は、コントローラーを持っていたか? マスターだったか?」
「……ああ、そういやそうだ。だから、もう一人怪しかったユーニの可能性が……」
「その者は我々との戦いで、コントローラーを使用したか?」
「……!!」
使っ……てねぇ。アイツが何かしらのコントローラー保持者ってことは聞かされてるが、それを使って戦う場面なんて一度も見てない。
それどころか、俺が視界に捉えている間は絶対に、敵を攻撃しなかった。回避を続けて、俺が目を逸らしたらいつの間にか……倒してるんだ。
ずっと違和感があったが、やっぱり変だよな!?
「うおっ!?」
「──えっ」
影の俺が、アサシンもビックリ仰天の不意打ちを受けて消滅した。鎧野郎の顔はこっちに向いている。
「その裏切り者は決して我々の味方ではない。第三の、謎の勢力である可能性が高い。あるいは、ただ一人の狂人か……」
「アシュレイドではないってことか……! ますます分かんねぇなあのキツネ目!」
苛立って地面を蹴ったら、その瞬間目の前に槍の先が向けられた。反射的に後退る。そして尻もちをついた。
「テメェ話してる時にいきなり……っ」
「第三の『何か』が存在しようとも、我々の戦いが中断されるわけではないぞ?」
「そんなこと分かってんだよ!! 腹立つなおい!」
「──何やら盛り上がっているようだな。私も混ぜろ」
「あっ」
俺と鎧野郎の距離を離すように、間にシルフォが着地した。既にシノビ・コントローラーを発動しているみたいだ。
まだ怒ってやがるのか、表情が般若の面。そういや俺は、コイツを止めたまま移動したんだった。そりゃキレるわ。
「貴様がアシュレイドの王か……」
「その通り」
──いや、もっと格好よく「いかにも」とか言えよ。




