第3話 最強の戦士
「なあ、 レインって何者なんだ? コントローラーも何も使用しないで剣一つでドラゴンすら瞬殺してたが」
敵を数十体とドラゴン1頭を数秒で惨殺したレインの正体が気になり、 シルフォにこっそり聞いてみた。
シルフォは前を行くレインを見つめ、 何やら悔しそうに答えた。
「あれは怪物だと言っても過言ではない。 ビワ国最強の戦士とも言われ、 任務に行く時も基本単独だ」
ビワ最強……確かに、 先程の戦い振りを目の当たりにしたらそう思えてくるかも知れない。
だけど単独で任務を行う筈なのに今回ついて来たのは何でだ? もしかして暇つぶしか?
……いや、 俺が心配って言ってくれたじゃねーか。信じよう。
「それとは別に、 お前もさっき1人で終わるって言ってたろ? て事はお前も同じくらい強いのか? 」
シルフォは俺を睨み、 不貞腐れた様な態度を見せると、 少し経ってから話してくれた。
「確かにさっきのレベルは私でも倒せるが、 あんな一瞬で惨殺するのは不可能だ。 ……最強と同じと考えるなバカが」
へいへい、 相変わらず口悪りーのな。
まあ、 そこがコイツのコンプレックスなんだろうな。
俺はどっちにも勝てる気しねーけどな。
「そうだ、 今って食い物持って来てる? 有んなら
くんねーか? 腹減って仕方ないんだよ」
「こんな時に何を言ってるんだ貴様は。 それに腹拵えくらい先にしとけ! 」
シルフォは呆れて頭を右手で押さえていた。
俺さ、 こいつの呆れ方腹立つんだよな、 何か冷めた目で見て来るんだよ。
俺とシルフォが話している間に、 建物の目の前に到着した。
「よし、 んじゃさっさと……」
自動ドアらしき物から入ろうとすると、 シルフォは俺の前を左手で遮った。
入らないのかと聞くと、 レインは耳に装着する様に言われたイヤホンの様な物のボタンを押した。
「ユーニ、 ここのバリア、 触れたらどうなる? 」
ここにはバリアが張ってある様だが、 俺には何も見えない。
「バリアは見るものではなく感じるものだ。 貴様は分からなくても仕方がない」
『かなり大量の電気が身体中に流れて来るよ』
トンデモねーな、 そんなん当たったら焦げんじゃね? そう思っていると、 レインは石で出来た剣を構えた。
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「下がって」
レインはそう言うと石製の剣を建物の方へ投げた。
すると、 建物にぶつかるギリギリの所で大量に放電し出した。
レインはすかさず剣を出し、 石製の剣に突き刺し、扉を破壊した。
「ユーニ、 バリアはどう? 」
『バッチリ消えたよ! 皆、 1回携帯型映像装置を出してくれる? 』
何だそりゃ、 俺は他2人がベルトに付いている四角いものを手にしたので、 俺も同じ様にそれを見た。
すると、 黒い画面が変わり、 建物の構造らしきものを映し出した。
「助かる。 しかし、 最上階が60階でそこの広間にコントローラーが有るらしいな」
シルフォは画面も指で操作し、 細かく見て発言した。
「ほぼ確実に……この世界のトップの生物がいるだろうね」
レインはシルフォに続けて言った。
そうなのか、 なるほど、 そこはボス部屋の様な物なんだな? 分かりやすいな。
「雑魚共を相手する体力は要らないな。 やはり強行突破と行こう」
「雑魚敵なら私が瞬殺して進めるよ。 確実に倒していこう」
シルフォは一瞬不満気にしたが、 すぐに首を縦に振った。
そして俺達は建物の中へと入って行った。
「なあ、 緊張感無いのは分かってんだけど、 マジで腹減ってるんだけど……」
俺が苦しそうに訴えるとシルフォは全くの無反応だった……虚しい。
シルフォと打って変わり、 レインは俺を心配してくれてるようだった。
やっぱ優しいよな。
「飲み物でいいならあるけど、 飲む? 」
何で飲み物は有るんだか気になったが、 とりあえず俺は何か口に出来りゃ良いので頷いた。
するとレインは赤面し、 近づいて来た。
「美味しくないかもだけど……」
そう言うとスーツのズボンの部分に手を当てるレイン、 そしてそれを殴ったシルフォ。
え、 何で殴ったんだ? よく分からないな……。
「アホ共には付き合ってられん。 ほら、 コレをやるから少し黙っていろ」
そう言うとシルフォはクッキーの様な物をくれた──あまり美味しくはないな。
その感情が伝わったのか、 俺はシルフォの手により、 また宙で回転していた。
これお約束になってきてるけど毎回毎回どんな力を込めて殴ってきてるわけ? 俺そろそろ倒れるぞ。
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5階辺りに来ると、 何やら壁の向こうから重機の様な音がしてきた。
もしかして、 敵居る? てか、 何で1~4階までは敵居なかったよ。
俺が細かい事に疑問を抱いていると、 目の前で2人は見合い、 頷き合っていた。
何だ? 何かするのか? ……2人は俺の事も見たが、 また見合って首を振った。
何だよ腹立つな、 しかもシルフォは間違いなく人をバカにしたようにニヤけながら振っている。
シルフォはクナイを両手で一つずつ持ち、 レインは直後、 また弾丸速度で壁から飛び出した。
様々な機械音が響き、 爆発する音などが聞こえてきた。
10秒経つとシルフォも壁裏を飛び出し、 レインに当たらぬ様にクナイを投げ、 敵を倒す。
10数秒後、 音が聞こえなくなったから覗いてみると、 そこには大量の敵の残骸が散らばっていて、 返り血をたっぷり浴びた2人が立っていた。
絵面的にアウトー。
青い血ってマジキモいからな? それを頭から被って平気ならお前達は女失格だ、 ペンキ塗る作業でもしてなさい。
「1、 2、 3……。 たったの17人か。 これじゃまだまだ湧いて出てきそうだな」
シルフォが言うとレインは頷き、 剣を振って血を払う。
そして俺達はどんどん先へ進んで行く……が、 敵は毎度毎度同じ場所に居るので倒すのに全く苦労しないでいた。
そんな拍子抜けの状態で俺達は58階に着いた。
「お前らよく疲れねーな、 俺は何もしないでただ登ってるだけで超疲れてるのに」
俺が疲れきって2人に言うと、 立ち止まり、 返事をして来た。
「「 別に疲れてないわけじゃない」」
じゃあ、 何で息切れすら少しもしてねーのか説明を頂けるだろうか、 それともビワの人間は息切れをしないのかね?
俺が2人に疑問を抱き、 眉をハの字にした腹立つ表情をしていると、 どちらもある事に気付いた様だ。
「殺気が今までと格が違う……そろそろ手強い奴が出て来るんじゃないか? 」
そんな事を言い、 何やら楽しそうな表情のシルフォとは別に、 真剣に廊下の奥の方を見つめるレイン。
「来た」
レインが言った直後に、 数十m先から長いトゲの様な巨大な物が高速で伸びて俺達を狙って来た。
「うわっと! 」
これには俺も気づき避けた。
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シルフォは天井に逆さでくっつかり、 レインは1番前で剣を構える。
3人が見据えた先には、 燃える炎のような赤色をした、 今までとまるで雰囲気の違うドラゴンが居た。
そしてその前脚の部分に人らしき姿が見える。
「今のを躱すことが出来るのか……中々なもんだ」
後ろに逆立った短い黒髪で、 顔には大きな切り傷の後のようなものが残った30代くらいの男だった。
そしてドラゴン使いである事は言うまでもないだろう。
「クロノス・コントローラーが欲しいんだろう? 俺は構わないが上に居る奴がそれを許さなくてな。 それで俺達の部下ばかり死んでたら、 守るもんも守れなくなるってのにな」
上にまだ敵が居るらしいが、 今までの奴らとの格の違いがハッキリと分かるくらいの強者のオーラを放っている男はドラゴンの首を撫でながら言った。
「火球を飛ばせウォイズ」
その瞬間、 ドラゴンは口から廊下の幅と同じ位の大きな炎の球を飛ばして来た。
シルフォが俺達の前に出、 印を結びながら札を投げた。
「水爆の術! 」
そう叫ぶと札からは大量の水が一気に放出され、 ドラゴンの噴いた炎を消した。
「ほお……中々面白い奴が居るじゃないか。 驚いたぞ」
俺も驚いたぞ、 初めてリアルで忍術見たからな。
にしてもシルフォもレインも強ぇな。
そうこうしてる中、 俺はある事に気付いた。
俺達の後ろに階段が有ったのだ。
「なあ、 後ろにあるんだから先に進めばいいんじゃねーのか? 」
俺がそう言うと、 レインとシルフォは険しい表情でお互いを見始め、 少し経つとレインが頷いた。
レインは剣を降ろし、 階段の方へ向かったがシルフォは未だ動きもせず敵を睨みつけている。
「行くよアウドラ。 シルフォ、 ここはよろしく」
「私を誰だと思っているんだ。 さっさと行け」
追われないよう、 シルフォが奴と戦う様だ。
俺は事を理解した後、 シルフォに一礼して階段を駆け上がって行った。
1人残ったシルフォは漆黒のクナイを手にし、 不敵な笑みを浮かべている。
「さあ、 貴様の血肉をバーベキューの材料にでもしてやろうか。 誰も食わんがな」
「ククク……口の悪い女だ」
恐らく俺がその場に居たら『ですよね』と言ってしまうだろう。