第15話 VS『フレイム・コントローラー』
「『アナライズ・コントローラー』、回収完了だ。よくやったアウドラ」
「どーも」
ヨノギとメガネは無事亡骸となった。ストップが解除されたシルフォは、メガネの『アナライズ・コントローラー』をケースにしまう。
他のアシュレイドは状況が不利と見たか、いつの間にか居なくなっていた。
「ユーニ、残党は何処かへ消えた。他の応援に向かったと考えられる。今一番苦戦している奴は誰だ? 私とアウドラも向かう」
『今は、ココアがコントローラー保持者と交戦中だよ。その他のアシュレイドとはリーダーが戦ってる』
「了解した、直ぐに向かおう。コントローラー持ちが四人もいれば問題ないだろう」
シルフォはユーニと会話を終えると、俺に着いてくるよう顎で促した。うぜぇ。
つーかな、四人もいれば〜とか言ってたけど、前にヨノギに負けかけたじゃねーか。レインしかマトモに戦えてなかったぞ。
「そういやお前が担当してた場所は今どうなってんだ? アノムス達は?」
コイツ、ココア達の場所を挟んで、俺とは一番離れた位置に待機してた筈なんだが。思いの外早かったよな来るの。
まさか、アノムスに全部任せたなんて鬼畜なこと言わないよな。アイツも恐ろしい程に強いみたいだが、流石に可哀想だ。
「安心しろ、アノムス達は休憩中だ。多分な。敵は私がサクッと殺しておいた。あの道は今血の海だ。ふふっ」
「素直には喜べねぇなそれ」
何で血の海とか言いながら笑ってんのコイツ。マジでサイコパスなんだが。狂ってんだが。
俺は敵を殺すことに、未だ躊躇いがある。それがいつか大きな隙になるとは分かっているから、ヤケクソで即殺すが。やっぱり慣れない。
けど、ビワの連中は違う。コイツらは躊躇いなんかしない。
むしろ殺さなくてはならないという使命感すらあるようだ。気持ちは分からないが、俺も殺されるのは嫌だからな。先にやるのは同じだ。
「……待てよ? 俺らの場所にはもう敵がいない。シルフォの担当した場所は血の海。だとしたら、アシュレイドの残りは全部ココア達のとこにいんのか? コントローラー持ちも」
「だろうな。ユーニの口振りからすると、コントローラー持ちは1体だけのようだが」
「そりゃおかしくねーか? 残りが全部いるんなら、コントローラー持ちも複数人いる筈だろ。それとも、アシュレイドの本拠地に待機している奴らもいるってことなのか?」
「……さぁな。奴らのアジトに、どれだけ残っているかは見当もつかん。しかし本当に総力戦を挑んで来たのなら、コントローラー持ちを待機させる訳がない」
「……んじゃあ、コントローラーを持ってたのは、髑髏メガネとココアと交戦中の奴だけだってか?」
「そう考えるのが妥当だろう」
シルフォは面倒臭そうに溜め息を吐く。俺はまだ、納得していない。
……それじゃやっぱりおかしいんだよ。思い出せ、コントローラー保持者とユーニでした会議を。
アシュレイドにはメガネを除いてあと、最低4人はコントローラー持ちが存在する筈だろ。残りの3つは何処だ。
「分からんことに気を割いている場合ではない。そのくらい分かれ。見えたぞ、炎の柱だ」
「ずっと見えてたけどな」
ココア達の場所とは、家を幾つも挟んでいるとはいえ隣だ。あんだけ空に向かって伸びてる火柱が、見えない訳がない。
「アレが何を意味してんのか……まぁ分かってるよな」
「当然だ。貴様が察していて私が不思議に思うなど、一度たりともありはしない」
「は? お前どの口が言ってんの? 今までのこと思い出してみ? 何処かしらに一回はあっから」
「自分でも分からないのに言うな」
シルフォと横並びで走りながら、互いの顔を殴った。俺は女だからとめちゃくちゃ手加減してやったのに、シルフォのパンチは目眩がする程の力が込められていた。
まさかそれで手加減したとか言わねーよなマウンテンゴリラ怪獣。
──肘で顔面を殴られて、鼻血が少し出た。アシュレイドの打撃でも出なかったのに。
「お前の小人のような身体には当てづらいな、ガキ。その醜き肢体に感謝しろ」
相変わらずの水着姿で、身長くらいのサイズがあるブラスターを構えるココア。確かにお前は、手足クソ長ぇもんな。
……で、そのお相手は宙に浮いているみたいだ。
「八ッ! 戦場では小せぇ身体の方が有利なんだよ。お前みたいにバカデカい奴は的が広くてやりやすいぜ。その立派に育った身体を恨みな!」
立派と聞いてココアの股間を凝視してしまったそこの君。普通は胸を見るんじゃないかね? 仲間として悲しいよ俺は。なんつって。
まぁ、予想はしてたよ。敵が誰かってのは。髑髏メガネとヨノギがいたんだから、あの時俺らとやり合った奴らが来てんじゃねぇかって思ってた。
金髪がカールした、藍のコートを纏う小学生──ではないと思うが、とにかくチビッ子な女だった。
あの時、髑髏メガネと共にやって来た、アイツだ。
「相変わらずドデケェ剣持ってんだな!」
「……ん? ああ、あの時のガキか」
チビの武器は、あの背丈以上の首切り包丁に掌から噴出される炎。それ以外にはコントローラー。……てことくらいは知ってる。
その上浮遊能力を持っているみたいだな。前回絨毯を浮かしてたのはコイツだったか。
「ようチビッ子、ヨノギとマクロは死んだぞ。お前の仲間はもう、ここにいる奴らだけだ!」
「そうかよ、んなもん想定内だ。今回私らは捨て駒扱いだ、前のが原因でな。だから勝てるなんて思ってねぇ」
「……あ?」
溜め息を吐きながら着地したチビは、静かに息を吸って首切り包丁を構えた。
スゥッと開かれた眼には、炎のような揺らめきが確実に見えた。
「けどやられたまま終わるなんてのは気に食わねぇんでな。生かしたことも問い質すつもりだし、そう簡単に死にゃしねぇよ」
首切り包丁からは炎が噴き出し、刀身を覆っていく。
ありゃあどんなコントローラーだ? つーかコントローラーはどれだ?
「アウドラ! シルフォ! 奴は『フレイム・コントローラー』のマスターだ! 炎を操る気をつけろ!」
いいタイミングで、ココアが説明してくれた。非常に分かりやすい。
なるほど、シンプルなのが出たなようやくよ。炎ってか。
「シルフォ、アイツは確か強かったよな。多分、髑髏メガネよりも」
「そうだな。奴の反応速度には驚かされたが、些か弱過ぎる。奴のが強いだろう」
「あのメガネを弱ぇって思うならお前はバカだ」
「貴様も私も大したダメージは受けていないだろう。先に行くぞ」
「直ぐそこですが」
──シルフォに後ろ蹴りをされて吹っ飛んだ。アイツ何してくれてんの? ってもういねぇし。
「貴様の首を取れば後は雑兵だけなのか?」
突っ込みながらシルフォが問いかける。チビは少し後退して、ココアではなくシルフォに向けて構えた。
「お前もあの時にいた奴だな? その質問には答える理由がねぇ」
「そうか、ならいい。貴様さえ殺せば直ぐに分かることだしな」
シルフォが高速で接近するのを、チビは刃を振り回して牽制する。炎も相まって、上手く近づけない。
それにココアの射撃を気にしていない訳でもなさそうだ。アシュレイドは警戒を怠らないらしいな、ヨノギ以外は。
「シルフォ、下がれ!」
ココアの呼びかけで、シルフォは反射といった反応速度で飛び退いた。
ココアの銃口は既にチビを捉えているが、チビもココアに目を向けている。あれは避けられるか防がれるかするな。
「──お前のコントローラーも、私らが回収する」
チビが呟いた直後、地面から特大の火柱が噴出した。アレはヨノギ相手にも使った技だ。
「コントローラーは渡さん。私達は、お前のコントローラーを奪取するだけだ」
「当たるかよ。甘く見すぎだ痴女が」
「ち、痴女……!?」
火柱に風穴を空けたチビは、そのままココアに向かって直進。その間に放たれた侮辱の言葉は、ココアの集中を途切れさせるには充分だったみたいだ。
まずい、実況してる場合じゃなかった!
「ココア! 事実を指摘されたからといって、その程度で取り乱すな!」
「チッ……」
流石の速度でチビを蹴り飛ばしたシルフォが、ココアにとんでもない追い討ちをかける。お前最低だよ本当。
ほら見ろ、ココアが内股になっちまっただろーが。ある訳ない胸を隠してんじゃねーか。
「だ、だだ誰が痴女だバカ女! 人のこと言えた口か貴様! 下半身殆ど露出しているくせに!」
「はぁああぁあっ!? こ、これは好きでこんなのを着ているんじゃない! ユーニが変なデザインにしたからだバカ者!」
「私はそもそも女じゃない! だから痴女なんかじゃない! ふざけるなゴリラ!」
「誰がゴリラだ女装野郎がああああ!!」
「このコントローラーが女性専用だなんて知らなかったんだよコスプレ女あああ!」
……お前ら何してんの? この状況で何で口論なんてしてられんの? 神経どんだけ図太いの?
おいチビ、お前もこっち見んな。ビックリしてんな。気持ちは分かるぜ? ココアの顔見たら女だと思うよな。
でもまずは身体を見てみろ。流石に男だって分かるから。
「……貴様、この戦いの後覚えておけ。勝負だ! 貴様が負けたら全裸で謝罪しろ」
「……嫌だ。私が勝ったら……」
「貴様が嫌なら私だって断るに決まっているだろうが!」
「全裸は嫌だ。絶対」
「じゃあ、アレだ。土下座ってやつをしてもらおう」
「ふん、いいとも。ならお前が負けた時は──アウドラに告白しろ」
「「何でだああああああああああああ!?」」
思わず、俺も叫んだ。ココアは満足気な顔をしている。
アイツマジで何言ってんの?
「テメェら私を無視して何言い合いしてんだ……!?」
ハッとして、声のした方に見向く。シルフォの直ぐ後ろにチビが迫っていた。
「殺し合いの最中に背中向けてんじゃねぇよ!!」
──物凄い剣幕で叩きつけられた首切り包丁によって、砂埃が巻き上がる。
普通に考えたら、シルフォが今のを躱すことは不可能だろう。普通に考えたらな。あくまで、俺の世界での「普通」で考えたらだ。
もう流石に理解したよ。どういう流れなのかもう分かったよ。
「……テメェ」
チビの顔面はシルフォにアイアンクローされており、シルフォは間一髪とも言えるギリギリの位置に避けていた。
その目つきは、最早鬼と言っても過言ではないくらいに迫力を感じる。ブチ切れてますね。
「邪魔……」
「すんなぁああああああ!!」
ココアが、アニメやゲームで見かけるような、散らばる光弾をぶっ放す。シルフォのことなんか一切気にせずに。
チビではないその他のアシュレイドも纏めて吹き飛ばし、着弾した家は燃えている。ココアは満足気に鼻息を出した。
「……いや、ココア。シルフォ巻き添えなんだが。死んでたらどうすんだよ」
「あの程度で死ぬような女じゃない。死んでいたとしても一向に構わない」
「な訳なくね? まだアシュレイドはいるんだが?」
「私達だけでも何とかなるだろう」
「それ定かじゃねーよね!?」
「──私は死んでいないが、貴様は後で本当にぶっ飛ばす。ココア覚悟しておけ」
「お前凄くね!?」
いつの間にか屋根の上にいたシルフォの手には、チビの生首が握られていた。
──おい、とんでもねーもん見せんじゃねぇテメェ。夢に出て来たらどうすんだ。
「私がシノビ・コントローラーの使い方を理解していてよかったな。このガキは貴様のを受ける前に斬っておいた」
「私もお前なら躱すと信じていたからな。感謝しろ、より確実に殺せる隙を与えてやったんだ」
「ほう……中々仲間思いなことをしてくれるじゃないか。お陰でボロボロだがな」
「おや、それは大変だな。早くエリナに治療してもらおう」
また、今度は静かな殺意をお互いに向ける2人。きっとこの場の、敵味方関係なく思っていることだろう。
アイツらバカだ……と。
ほら、敵を倒し切ったロプトも呆れてんぞアレ。
「お前ら、仲間割れだけはしてくれんなよ? アノムスやユーニが言うには総力戦なんだ。まだまだ敵が湧いて来る可能性だってあんだからな?」
俺も、リーダーに賛同しておく。ココアとシルフォは一瞬ロプトを睨むと、目を合わせて頷いた。
「私は一旦エリナの元へ行く。貴様らも必要がない、という場合は備えておいてくれ」
「了解した」
さっきまで殺し合いでもしそうだったシルフォとココアは、お互いクールに戻った。軽いなお前ら。
因みに、さっき俺が予想出来た結末は、「どうせシルフォは避けている」ということではない。結果的にはそうなるが、そうじゃない。
──今回攻めて来たヨノギにメガネもそうだったし、あのチビもどうせあっさりやられるんだろうなぁってことだ。
そしたら本当にあっさりなんだもんな……。前の苦労は何だったんだ。




