第14話 パクってみよう
「ヨノギ……」
動かないヨノギを見たメガネが、小さく舌打ちをした。
「ふんっ!!」
そんで、俺の影を豪快に蹴り飛ばす。ようやく攻撃に移ったな、さっきまでは何だったんだ?
俺は影が消えたことで、恐らくもう視認出来るようになっているだろう。
ずっと思ってたがよ、影脆くね?
「……お前がやったのか」
「おーうその通りだぜ? 早く影を倒さねーからこんなことになったんだ。ヨノギが死んだのは、お前の所為だな? 先輩」
「……挑発のつもりか? 下らねぇ」
下らないか? その割には怒っているようにも見えるが、それは一体どういうことかね。
しかし、思ってたよりずっと取り乱してる感じだな。そんなにヨノギが大事だったか。
「アウドラ、私は嬉しいぞ。貴様もようやくぶっ殺すことを受け入れてくれたのだな」
「バカ言ってんじゃねぇ。マジで一緒にすんな。普通に一瞬躊躇ったわ」
「いっそこう考えればいい。『アシュレイドを殺すのは快感だ』と」
「そんな人でなしにはなりたくないね。狂人じゃねーか。幾らアシュレイドみたいな奴らが相手だと言っても、そんな異常者になんて成り下がりたくねぇ」
シルフォは何故か不満気な顔になった。……いやもう分かり切ってるか。お前は殺すのが楽しいんだろそうなんだろ。
味方に狂ってる奴がいるのって、中々気分悪いな。
案外、ビワの連中はイカれた奴が多いけど。
「さっきのお前と本体のお前は、同じなんだよな?」
不意に、メガネが質問を投げて来た。確かにそんなこと言った気がするな。
「おう、一応な。俺が特訓したんだから、影であるアイツも強くなってる。それがどうした?」
「フッ……」
あん? 何笑いやがってんのコイツ。舐めてんの? 鼻で笑ったってことはバカにしてるんだよな?
メガネは、メガネらしくメガネをクイッと直す動作をしてみせた。それ見ると何かナルシストに思えて来るんだよ、俺。
「なら、分析は終わった。これからお前の攻撃を受けることはない」
「はぁん?」
何言っちゃってんだアイツ。普通に当ててやるわボケ。
「お前と影とやらが同じであるなら、パターンも同じ。俺は影の攻撃を分析し続けていた。お前がどのように攻めて来るのかはコントローラーが自動で予測し、俺は脳に直接送られる指示で躱せる」
「ふーん……」
そんなん有りか。脳に直接送られるってことは、「次こう来るぞ」みたいなのが常に報されるんだよな?
いや、それだったらまだ余裕がある。ずっと攻めて行けば、寧ろその指示が邪魔になっていく筈だ。やかましくて。指示通りに避け続けられる訳でもないだろうし。
だからきっと、もっと面倒臭い能力だ。
たとえば、無意識に身体が躱すとかな。
「……そうだったら中々当たらねーだろうけど、逆に動き難くもなる。どの道そこまで使えそうな能力じゃねぇな。ハズレ引いたんじゃねーのお前?」
「甘く見ていると直ぐに死ぬぞ。コントローラーが俺を操り人形にしようが、俺はそれに対応して戦うことが出来る」
「マジか。やっぱ先に倒しておくべきだったなぁ」
「心配など何一つない」
少しヤベェかもなと身構えていたら、肩をシルフォに叩かれた。その口元は、自信に満ち溢れている。
「奴は一度倒している。それに、分析されたのはアウドラのみだ。奴に勝機はない」
おう、言うなシルフォ。大丈夫か? お前が倒した当時からアナライズ・コントローラーを持っていたんだとしたら、分析されてんじゃねーの?
……あ、でも、新しいコントローラーに変わったんだから、元のデータは殆ど無駄か。
なら行けるか? まぁ、2対1なら行けるか。
「じゃあ基本は任せたぜシルフォ。俺はどうやら分析されちまったらしいからな」
「任せろ。足手纏いにさえならないでくれれば問題はない」
「……へいへい」
やっぱムカつくなーコイツ。マジで腹立つなー。何なのその言い方。
普通さ、わざわざバカにしたような表現するかね? もうちっとマシなこと言えねーのかよ。俺も思いつかんけど。
「直ぐにお前も分析し尽くしてやる。かかって来い」
真っ黒メガネの所為で威圧感とかあんまり感じねぇけど、声だけは凄みがある。本当にクロスが邪魔だなアレ。
これまでもロプトの医師みたいな格好とか、変な衣装は見て来た。でもコイツが1番ダサいだろ絶対。
シノビらしく、シルフォはクナイを構えた。もう片方の手には、短刀が握り締められている。
「1分も要らん。瞬殺だ」
「出来るものならやってみせてみろ」
2人の間で火花が散る。メガネな瞬殺されるとこは、俺も見てみたい。
けどシルフォ。お前そんなこと出来るくらい余裕あるんなら、前回会った時に倒しておいてくれよ。
……まぁ、ヨノギのダメージもあったしムズいか。
「ふん、躱せるといいな……?」
ボソッと呟いたシルフォが、一瞬にしてその場から消えた。気づけば、既にメガネの至近距離まで詰めている。
振り上げられた短刀はメガネの喉元に迫り──
「お前の速度はもう通用しない……!」
──なんと、ギリギリで躱された。
マジかよ。生物ってそんな速度で動けるっけ。
「これで終わりだとでも思っているのか? おめでたいおツムをしているようだな」
「……!」
超スピードのまま回転したシルフォの右手には、さっき構えていたクナイが握られている。連撃を狙っていたみたいだ。
「躱すだけだと思うな!」
メガネもメガネで、直ぐ様それに対応。身体を気持ち悪いくらい仰け反らせて、攻撃を躱した。
どっちも人間を超越し過ぎた動きをしている、正に強い奴らの戦いって感じだ。そう見える。
でも実際はそう錯覚しているだけで、恐らく違う。
全部ギリギリで躱し続けているんじゃ、シルフォの速度に敵わない。!
──シルフォが身体を更に捻ることで、3度目の刃が襲いかかる。
「ぐっ……!」
「躱すだけではない? 貴様は何をしたかったんだ? 速度は通じないのではなかったのか?」
直撃した胸部から脇腹にかけて、切り裂かれてはいない。最早打撃のような音もした。
だが、これで明確になった筈だ。分析をし続けたところで、シルフォの速度を越えられなければ無意味でしかないってな。
「チッ……」
「おやおや、そのコントローラーがなければ既に死肉だったのではないか? 私はまだまだ、本気を出していないが」
自信に満ち溢れた様子のシルフォが、残念でならない。何で斬られた瞬間死肉になるんだよ。
何でそんなに偉そうなのに言ってることはバカ丸出しなんだよ。
シルフォを睨みつけて黙ってしまったメガネに警戒しつつ、ゆっくりシルフォに近寄る。
なるべく邪魔をしないように、少しだけ離れて横に並んだ。
「なぁ、アイツは分析し続けるんだろ? んで、コントローラーの力で勝手に避ける。としたら、今結構ヤバめな状況なんじゃねーか?」
「何? 奴が意志とは裏腹に動いてしまうのならば、寧ろ殺しやすいだろう。下手くそなマリオネットと同じだ」
「その表現はよく分かんねーけど、取り敢えず一旦落ち着いてみ? んで、よ〜く考えろ」
メガネの野郎は、アナライズ・コントローラーの能力で俺達の動きを学習していく。
そしてアナライズ・コントローラーの指示によって、無意識に攻撃を躱すことが可能だ。反応速度も殆ど関係ないんだろう。
つまり、幾ら速くても段々手がつけられなくなって行く筈。
なのに、その短刀で切り傷がつきもしない。
「平然とガードされちまうんなら、こっちの攻撃を受け続けることも出来るかも知れないんだ。その間に全部学習されて、当たらなくなる。そんなのが続いたらこっちがバテる。最終的にアイツは、弱った俺らを倒すことが容易になるって訳だ」
メガネはコントローラーが勝手に避けさせるから、恐らくスタミナ切れでも問題はない。
時間をかけてたら無理ゲーになる。出来るだけ早く、アイツのことを倒さねーと。
「……ならばどうダメージを与える? 私の短刀では、服すら切れなかった」
「そこは俺も画策中。あんな勢いで当たったっつーのに傷もないかんな」
そんじょそこらの攻撃じゃ体力の無駄になるだろう。
何とか一発で大ダメージを狙わねぇと。何なら行ける……?
「ダメだ思いつかねぇ。分析されんのは厄介だが、手当り次第試してみるしかないみたいだな」
「ならまずは私から行こう。──気流椿刃!」
シルフォが投げたのは、いつものあの花柄の札。毎度毎度敵が惨殺されるあの技である。
正直、それ当たれば勝てるんじゃね? と思って、一瞬気を抜いた。
「バカが。こんなもの、食らってやる必要などないだろうが」
メガネは、迫る花弁をいとも簡単に躱した。ぶっちゃけ、横に移動しただけだ。
そう言えばあの技、直進しかしないのか。そりゃあこんなに広い道で当たる訳がねーよ。
「隙だらけだ。死ね……!」
「チッ……!」
すっかり丸腰状態のシルフォに、拳を握り締めたメガネが突っ込む。
いや殴られるだけで死ぬとは思えんが……
「『ストップ』!」
取り敢えず時間を止めてみた。シルフォも停止したが一応、メガネも停めることが出来るらしい。
……あ、でもやっぱり微妙に動いてんな。
「…………お?」
一旦シルフォを持ち上げて救出を試みたが、あることに気がついて手を放した。
顔から倒れるシルフォ。まるでマネキンだ。
んでんで、コレは何だ?
まるで、残像のようなものがうっすらと、メガネから飛び出している。
「あ、見覚えあるぞコレ。丁度このクソメガネと初めて戦った時に見たやつだ」
ヨノギのバイブレ・コントローラーによって、異世界コード『ANDBENA』は崩壊現象に包まれた。凡そ5分で全てが消えてしまうってのに、シルフォ達は諦めずに戦い続けた。当然俺も。
その時、このメガネともう1人チビッ子……ヨノギの先輩らしい2人が現れ、更に激しい戦闘が始まった。
味方側はほぼ全員満身創痍。それでも何故か逃げることなく、俺とレインが戦っていたのがこのメガネ。
その最中、俺は何もねぇ宇宙空間に放り投げられてしまった────が、この残像が現れ、それを辿るように元いた場所へ戻れたのだ。
「……つまりコレは、戻すことが出来るってことなのか? 逆再生が可能だってことなのか? リワインドが出来てしまうのか?」
実際はこの場合リワインドじゃないだろうけど、クロノス・コントローラーの真似ってことで。
あと、フィルムとかを巻き戻せるみたいな状況だから、そっちでいいよな。別に。
って、さっさとしねーとストップが解除されちまうよ。えーと、どうすんのコレ。
「メガネに触れたら何か起こん──おわぁああああああああああっ!!」
メガネに触れた瞬間、メガネが物凄い速度で残像を辿って行った。シルフォの花弁攻撃を躱した位置に戻っている。
……ビビったぁ。怖過ぎんだろ今のは。
「コレ、ピンチを切り抜ける時とかに便利だな。問題は使い方が分かんねーとこだけども」
そうだよ、クロノス・コントローラーをパクって『リ・ワインド!』とか言ってる場合じゃねーよ。どうやって発動すんだよコレ。
コントローラーにも残ってるボタンなんてないしな……ランダムで発動すんのか? タイミング分かんねーし、ストップ使ってなきゃ難しいよな。
「取り敢えず、まだストップが解除されねぇみたいだし、一発試してみるか!」
たとえば、露出している顔面を攻撃してみたらどうだろうか。俺のビジョン・コントローラーの能力みたいに、鼻はやたら頑丈になっているのだろうか。
つっても、メガネ型コントローラーを破壊してしまったら終わりなんだよな。何か特大のエネルギーが爆発するらしいし。この星自体無くなるくらいの規模で。
「……メガネ、外してみるか? いやどうなんだ。外せるのか!?」
コントローラーは基本的に、変身すると何処かと一体化して取れないようになる。らしい。
ビジョン・コントローラーの場合は、左上腕部だ。服というより、俺自身に減り込んでいるようにも見える。
そう考えるとやっぱ取れないか? 外せないようになっているか?
「……よし、物は試しだ。1回触れてみよう」
コントローラーからの攻撃とか、ある可能性はゼロではない。だから慎重に、メガネのブリッジに指をかける。
いやかけられるんかい。
「外……せた。外せた! 外せた!?」
嘘だろおい!? コントローラーがこんな簡単に外れちまっていいのか!? 大丈夫なのか!?
おいおいおいおい変身解けてんぞ! 止まった状態で、ただの服着てる人間になってんぞ!? あらららららら……。
「…………えーっと」
何だか凄ぇ複雑な気分だが、まぁ、その……絶好のチャンスってことだよな。大チャンス到来なんだよな。
最早、勝ち確なんだよな?
「何かすまん!!」
あまりにも無防備なメガネの首を、一思いに斬り裂いた。
本当にすんません!!




