第13話 あばよ
──思った通りだ。このコントローラーは、強くない。
「お前の太刀筋は全て分析出来ている。闇雲に振り続けていたところで、俺に当たることはない」
噴き出すのを堪えるのでいっぱいいっぱいなんだよな、この真っ黒メガネのせいで。まぁちょっと脱線。
重要なのは、「分析出来る」ってとこだ。
──そこだけだ。
「っと、休憩休憩。あまり暴れてもバテるだけだかんな。その隙を狙われても面倒くせぇ」
一旦攻撃の手を止めて、休めのポーズ。
こんな余裕ぶっこいた戦い方してりゃあ当然、
「ならこっちが攻めてやる。しかし実力が対等ではないからな、30秒だけ猶予をやろう。その間に逃げでも隠れでもしてみるか?」
……こうやって警戒心を煽って来る。
でもコレは嘘だ。きっとコイツは、30秒過ぎても何もして来ない。攻撃だけはして来ない筈だ。
何故なら、コイツはコントローラーに頼り切っているから。
もし場面を目撃していた人がいらっしゃるのであれば、思い出して欲しい。俺が奴の、髑髏杖を奪い取った後からのことだ。
──アイツは一度足りとも、攻めの姿勢に移らなかった。
つまり、あのコントローラーを起動している間はロクな打撃も使えないのか、やっぱり杖が何らかの力を持っていて、弱体化しているのか。そのどちらかだと推測出来る。
もしくは何か待っているって可能性もあるな。
「だとしたら、俺も守りに入りゃあ時間稼ぎにはなるよなぁ? 見た感じ、お前らのとこには指揮する者がいないだろ。応援が一切来ないもんな?」
「……何か勘づいたつもりか? 生憎だが、ここは俺が任されている。間抜けなことに地雷で、隊が半壊しただけだ」
「はっはっは、何だよそうだったのか」
尚更ダセェなおい。
お前、初めて会った時は絶望感じるような…………チート野郎だったってのに、久々に戦ったらダセェの神様みてぇになってんじゃねーか。
言葉に詰まったわ今何故か。
あまりにも戦況を想定していなさ過ぎる。未だに俺も挟まれてるってのに、あまりにも攻めて来ない。あまりにも様子見をし過ぎている。
コイツが分かっていない筈がない。ここには俺1人しかコントローラー保持者がいないことと、自分以外の隊も決して余裕ではないってことを。
時間をかけるだけ、リスクが高まって行くだけいうことを。
「──は。何考えてんのかと思ったら、そういうことかよ」
「どうした? 今度こそ何か勘づけたのか? それが正解かは……」
「悪ぃけど、多分正解だ。中々後ろの奴らが手ぇ出して来ねぇと思ったら、仲間に連絡してやがったのか」
メガネの口元がピクリと、ほんの一瞬動いた。どうやら間違いないみたいだな。
少しずつだけど、気になってたんだよ。俺の背後でアシュレイドが何をしているのか。
今この静かな時間で聞き耳立ててみたら、ボソボソ喋ってやがるのな。まるで状況を報告しているかのような口調で。
そんで今、メガネの後方にいるビワの仲間達が何かに気がついた。恐らく俺の背後から迫って来るソイツを見て、一歩下がる選択をしたんだろうな。
ああ、何だろうな。全く見えていないのに、誰か分かっちまったぜ。
「先輩はぁ、そのコお願いね〜。僕はこの先にいる、スナイパーちゃんでも殺して来るからさ」
元『バイブレ・コントローラー』保持者、ヨノギだった。前に会った時より女っぽくなってる。デケェけど。
因みに、元保持者なのだが、今はビワにコントローラーを奪われた状態だ。マスターのままではあるが、使用不可能の筈。
だってのにこの態度ってことは、コントローラーなしでも充分な戦闘技術を持ってるってことだよな。
「よぉ、頼れるコントローラーがない気分はどうだ? 俺は存在だけで軽くトラウマだから、なるべく会いたくなかったんだけどなぁ」
「わわっ。あーぶないよー」
声と足音を頼りに、ヨノギが過ぎて行くであろうと思った方に刃を伸ばした。ピンポンピンポン大正解。やったぜ。
「あー、やっぱあの時のコかぁ。強かったね君〜。多分〜。それより、トラウマなんて誇張しなくたっていいよ。僕が強いのは分かってるからね」
「はぁん? 全然誇張してねーんだわ。トラウマ部分があるんだわ。つーかお前らに文句言いたいくらいなんだわ。鼻ばかり狙って来んじゃねぇ」
「それはタイミング悪いだけだって〜」
ほぉ。揃いも揃って鼻を攻撃する癖に、偶然だと言い張るか。ナメてんなおい。
「何だろうが、通さねーぞ。俺の役目はお前らを倒すこと以上に、仲間を守ることだからな」
俺が視線を向けると、仲間達が一斉に爆弾を投げた。よし、ちょっと予想外のもん飛んで来たけどそれでいい。
地面を思い切り蹴って宙へ舞う。直後、大爆発が起こった。
「お前ら! アレで倒せたとは限らねーから一旦離れろ!」
「「おう!」」
仲間達が少し離れて行く間に、俺も着地。彼らより前で構える。
多分、俺の前にいたメガネの方は先に察した筈だ。俺の目線も分かるし、分析や解析が可能なコントローラーを使っているからな。
だから、そっちは対策したと考える。ヨノギも仲間達が見えていた筈だから、恐らく回避しただろう。
「死んでねぇのは分かってんだ、さっさと出て来い!」
「お前らは爆弾しか使う脳がないのか……?」
煙を裂いて突っ込んで来たのは、メガネ野郎の方。俺の少し手前で急ブレーキをかけ、即座に蹴りを放って来た。
「っと。シルフォの怪力パンチに比べりゃなんてことない速度だな」
軽く躱せる。これくらいなら余裕だ。
問題はガードしてるところや避けてるとこまで分析されるとこだな。そこまで有効活用出来ているのかは定かじゃないが。
「ヨノギ! テメェも出て来いや!」
メガネの連打を躱しつつ、コントローラーのスイッチを押す。シャドウ・ビジョン発動だ。
それを見たメガネは当然、一度攻撃の手を止めた。コレで俺はヨノギにも警戒出来る。
「仕方ないなー」
「あ、ちょっと待てコラ!」
ヨノギが煙から飛び出したと思ったら、空を駆けるようにして俺の頭上を越えて行った。アイツ飛べるのか。
影がいるから、俺は少しの間自由だ。影がやられて仲間が狙われることになるのは不安だが、ヨノギを止めなきゃナタリーが殺される。
メガネを一旦影に任せて、俺本体はヨノギを追いかける。
「あのクソ野郎……! 確かにスナイパーは面倒くせぇけど、あんな堂々と狙うとはな!」
ヨノギ達アシュレイドも速度はあるが、俺も負けちゃいない。けど圧倒的ではないらしく、先回りまでは出来ない。
「ん? あっ」
「お?」
突如、ヨノギが空中で立ち止まった。俺も無意識にブレーキをかけたが、まだちょっと離れてるからもう一度走り出す。
──そこに、シルフォが現れた。
「以前はよくもいたぶってくれたな? 今回はその礼をしてやる!」
「うわっ!」
まるめ瞬間移動。そう言える速度で出現したシルフォは、ヨノギに力強いかかと落としを放つ。
ドンッ! ……と大きな音を立て、ヨノギが地面に叩き付けられた。
「いたた……」
背中を摩りながら身体を起こすヨノギを、俺とシルフォで挟む形になった。俺は不可視化中だが。
「君も前にいたね。リベンジしに来たってこと?」
「リベンジ……? 見方によってはそうなるな。だが私としては違う」
「リベンジじゃないんだ?」
「負けたつもりはないからな。今回私は──貴様をいたぶりたいだけだ」
物凄く邪悪に満ちた笑みを浮かべたシルフォ。……アイツは本当にこっち側の人間なのだろうか。
悪役以上に悪役なんだよな、顔が。あと発言が。
戦闘狂ってだけでもアレだったのに。もうヒロインの座降りろよお前。
「僕をいたぶるなんて、出来るのかなぁ? 前は手も足も出なかったよね?」
「今の貴様にコントローラーはない。あの能力さえなければ、差程強敵でもない」
偉そうに姑息な発言をするシルフォ。要するに丸腰を狙った訳だ。
更にシルフォは、視線の先にメガネのことも見つけたらしく。
「また貴様か、懲りない奴だな。初めの頃、見逃さずに殺しておけばこんな面倒なことにはならなかったか」
「黙れバカ女」
ヨノギと視えない俺を貫通して、シルフォとメガネが火花を散らせる。
やっぱ前にシルフォが勝ってたのか。で、何の気まぐれか生かしてやったと。凄ぇ驚愕。
アイツにも人の心が残されていたのか。
「まぁいい、どの道今日で貴様らは死ぬ。1人残らず惨殺してやるから安心しろ」
人の心が残っていたのは、その時までのようだ。
一応味方であるソイツは、コントローラーの能力で作り出したピンクのクナイを構える。もう片方の手は、サムライみたいに腰に装着された剣にかけてある。
「シルフォ、ニンジャなのに何で腰に差してんだ? ニンジャならこう、背中にだろ?」
……………………反応はなかった。そりゃそうじゃ、俺今消えてるもん。
「シルフォ、ニンジャなのに何で腰に差してんだ? ニンジャなら背中にだろ?」
俺の心と繋がっているからか、影が代わりに訊いてくれた。サンキュー相棒。
シルフォは呆れたように溜め息を吐いて、バカにしたような目を向けた。
「それは偏見だろう。腰に差す者も多い。……別に何でもよくないか?」
仰る通りで。目の前に敵がいるってのに何やってんだかって話っスよね。
俺らのやり取りを黙って見ていたアシュレイド達は、最早興味すらなさそうな虚ろな目をしている。今なら不意打ちが成功する気がする。
「……ヨノギ、お前がコントローラーを奪われていなければ、確実にコイツらを倒せた」
「えー、アレ僕のせい? 先輩だって油断してたじゃ〜ん」
「生意気言ってんじゃねぇ。自分のことくらい自分で何とかしやがれ。変身解いておけばよかっただろうが」
「あー、そういうこと言うんだ。先輩なんて大嫌〜い」
「もう二度と庇ってやらねぇからな。認めさせたきゃソイツのコントローラーでも奪ってみせろ」
「ちぇ〜、しょうがないなぁ」
なるほど、ヨノギがシルフォのコントローラーを奪おうとするなら、結局サシでの戦いになるのか。
てか、少しだけ教えておいてやりたいことがある。
シルフォのコントローラーはユーニが作った紛いもんだってことだ。まぁ代わりに俺が狙われるし言わないけど。
「ふん、貴様など取るに足らん。またたたくまに殺して、次はそっちだ」
「「ふん」」
自信に満ち溢れた笑みを浮かべるシルフォに対して、俺とメガネとヨノギは同じ反応をしてみせた。
……「またたたくま」って何だよ。「又田拓真」さんとかそんなとこか? 日本人かよ噛み噛みくノ一。
「さっさと始めるぞ。あまり時間をかけていても、意味はないしな」
「やりづらいなぁ」
シルフォとヨノギが、戦闘を開始した。俺の影とメガネも再開するが、やっぱりメガネはガードに徹している。
なら向こうは放っておいて問題はない。シルフォに加勢しよう。
「問題は視えてんのか視えてないのか……。前はまるでバレてたもんな」
これまでにも、何人かは不可視化した筈の俺が視えている敵がいた。ネグロの時にいたマスクマンもそうだし、ネグロ王自体もだ。
あのメガネもそうだと思ってたが、今日戦った感じ勘で避けていたってとこだろうな。
もしかしたらヨノギもその可能性はあるが、どの道シャドウ・ビジョンが殆ど無意味な相手ってことだ。
「チッ、ビワの連中は誰1人視えてねーってのに、ズルいなおい」
より強い者が視えるというならば、ビワの連中の方が弱いってことになる。だから違うだろう。見ての通りシルフォや、ココアはバカ強い。
だとしたら単なる素質……あるいは、コントローラーの能力でってとこか。
よく考えりゃあネグロ王も、サウンド・コントローラーで音を拾っていたか何かだったもんな。
「そうと分かりゃ、影が消えちまう前に……」
低い体勢から、一気にヨノギに接近する。音も充分に立ってるぜ、気づくか? それとも気づかないか?
コントローラーを失ったヨノギは、鉄製っぽい棍棒でシルフォとやり合う。
背後から急接近する俺に──
「やっぱり、コントローラーがなくても充分戦えるみたいだねぇ」
──気づいていない。
だったらこのまま倒すだけだ!
「前はよくもいたぶってくれたなクソ野郎! 鼻が骨折しなかったのは奇跡だぜ全く!」
一瞬躊躇ったのをヤケクソみたいな怒りで塗り潰し、一思いににヨノギの背中を──胸の辺りを貫いた。
「えっ」
「お……?」
シルフォとヨノギがそれぞれ、小さく声を漏らした。シルフォの表情は正面から見えるが、「何事?」といった顔をしている。
何事? そういうことだ。
「あちゃあ……油断したね」
ああ、俺のことをよ〜く警戒しておくべきだった。やっぱりコントローラーで感じ取っていただけってことみたいだな、ヨノギ。
「参った」
明るい声色で言ったヨノギは、口から血を噴き出して地面に倒れた。
あばよ。




