第12話 超人なんだな
「……大、丈夫だな。俺の身体に異変はない。足が消えてたり髪の毛がなくなってたり心臓が止まりかけてたりもしてない。大丈夫だ落ち着け俺」
両手を地面に着け、四つん這いの状況。そのまま、深く息を吸った。んで吐いた。
電気の塊っぽいもんにも見えたけど、感電とかしなくて助かった。
無事だったことに胸を撫で下ろし立ち上がる。白煙が上がる先で、髑髏メガネもゆらりと立ち上がった。
「言っておくがな、今のは俺だって知らなかったからな。関係ねーからマジで。文句があるなら乳デカアホ女にでも言え」
「敵に狙われるのは当然だろう、何を言っている。お前を殺してから、その女も殺すだけだ」
「あーそうかよ。そういやお前は敵だったな。お前はよ」
おかしいぜ本当によ。何で仲間の俺も巻き込まれかけてんだ。
ナタリーあの乳女、射撃は得意なんじゃなかったのか? それが事実なら、今意図的に撃って来たことになるよな? ふざけんな乳捥ぎ取るぞ。
「……だが、狙撃手がいるのは確かに面倒だな。この幅であの弾の速度なら避けることに支障はないが、敵は1人ではない……」
髑髏メガネが、身体は俺に向けたまま遠くを睨む。ナタリーをどうするか策を練ってるってとこか。
だったら見過ごせる訳ねぇよな!
「敵は目の前にいんだよおおおおおお!! 余所見してんなぁあああ!!」
煙を切り裂くように突っ込み、《サシルベ・ブレード》を連続で振り下ろす。
「そんなこと分かってる。お前如き、わざわざ視界に入れ続ける必要もない」
「うおっ!」
呆気なく躱され、腕を杖で殴られた。相変わらず、変身しても痛ぇなコイツのは。
……実はそうじゃないかと思ってたんだが、大したガード力ないよなこの服。
「まぁどの道毎回瀕死で戦い抜いて来たんだ。いつもいつも誰かの助けはあったけども! それでも生きてる。俺は──」
勢いがついて倒れそうな身体を、力一杯足で支える。そのまま強引に、腕を振り上げた。
身体を捻りながら全力で、髑髏メガネに刃を叩きつける。
「簡単には殺せませんけどおおおおおおおおおお!?」
「うるせぇな」
これまた簡単に、今度は刃を弾かれる。
さっきから全力過ぎるためか、身体を投げ出しそうになるな。
けど、諦めねぇ。何度でも何度でも明日足が筋肉痛に支配されることになろうと、踏ん張ってやる。攻撃の手は止めねーぞ!
「殺せません殺せません!」
「黙れ」
また強く弾かれる。けど踏ん張る。
「殺せません殺せません殺せません殺せません!」
「知るか」
今度は叩き落とされた。けど必死に踏ん張って、思い切り腕を振り上げた。
「……チッ」
「ベホッ!」
下手くそなアッパーみたいに繰り出された刃は、髑髏メガネの胸部を裂いた。けど、血は目立つ程飛んでないから結構浅めだ。
カウンターみてぇに蹴り飛ばされた俺は、家の扉を突き抜けて中に。あの野郎、多分焦ったな。
そうと分かりゃあ、弄りまくってやらねーとな?
「おーい、クソメガネ。今ビビったろちょっと。俺の攻撃が当たるなんて思ってなかったから、反射的に手が出たんだろ! 手じゃねーや脚だ!」
家の中からバカにしてやると、メガネは自分の裂けた胸をすっと撫でる。クイッと顎だけで、他の生きていたアシュレイドを俺の方に向かわした。
……ヤベェ、入り口塞がれた。5人入って来た。
「お前なんかにビビるか雑魚が。確かに、アレを踏ん張るのは想定外だったが、関係ない」
「おいテメェ何処行くんだコラ! 敵はこっちだぞ!」
「敵は他にもいる。お前の仲間は、どれだけいるのか考えてみろ?」
「待ておい!!」
声だけで分かる。髑髏メガネは、俺を放置して仲間達を狙い出した。
アイツらが纏めて殺されたりでもしたら、シルフォ達に何て言えばいいか……!
「そんなことさせねぇ! やらせるかクソ野郎!!」
「おいおい、そんなことさせねぇったって、どうするつもりだ? 外に出るには俺らを倒すしかないぜ? ま、その間にマクロ様が他の連中を皆殺しにする!」
「うるせぇ! だからさせねぇって言ってんだろ!」
各々武器を構えた、名も無きアシュレイドを見据えたまま、無線機みたいな機器を口元に近づけた。
「ユーニ! ナタリーに援護を要請する! 早くしろ!」
返事は聞こえなかったが、動いてくれるって信じるしかない。
ナタリーは1人だけ場所が離れている。だから、あのメガネを足止めするくらいは可能な筈だ。
俺はその間、この5人のアシュレイドを撃破すればいい。
「来いやコラァア!!」
既に斬りかかって来ているアシュレイドに向かって、威嚇する。
部屋も広くはないため、 上手く移動すれば1人ずつ倒していけるだろう。
「シャドウ・ビジョン! 2人でやるぞ相棒!」
ーーシャドウ・ビジョン ニンショウシマシターー
無愛想な機械音声の直後、影の俺が隣に登場。で、俺自身は不可視化。
多分、一瞬で場所が変わったから、見えてる俺が俺じゃないのくらいはバレてるだろう。
「何を言ってやがるマヌケが!」
いや、えええええええええええええええええええ!?
……さっきから喋ってる、巨漢のアシュレイドは、物凄く可哀想になるくらい思クソ影に向かって飛びかかった。しかもガードされている。
アイツ…………バカだ。
と思いつつガラ空きの背中をぶった斬る。
「うぎゃあああっ!? な、何かに斬られた!」
俺だよ。それは俺の影。本物は今視えてないけど、状況把握出来てないの多分お前だけだぞ。他の4人は周囲を警戒してるっぽいし。
「おりゃ」
「ぐっ……!?」
更に、影が首を突き刺し巨漢は死亡。
アシュレイド、お前ら全員強くて厄介なのかと思ってたよ。早とちりだったみたいだ。
「ん?」
ドカーーーーーーーンッ。ぎゃー、壁が爆発したー。
「──俺の影があああああああああああ!? 今の電気みたいなの、またナタリーじゃねーか!!」
影消えて姿丸見えなんだが!? アイツ何処狙ってんの!? ココアにも負けないとか自信満々に言っておいて何なの!?
慌てて4人のアシュレイドに目を向けたら、ぶっ壊れた壁を見て惚けていた。気持ちは分からんでもない。
「……ってコレ、そっから出れる!」
敵が放心してる間に、破壊された壁から飛び出した。ナタリーの奴、まず俺を助け出すって選択をしたのか? ちょっと遅かった気もするけどナイス!
「メガネ待てやテメェエエエ!! やらせるかぁあ!!」
道に出て、状況を確認。結構遠くで、仲間達が殴り飛ばされている。
けど、メガネの服とかもかなりボロボロだ。……強くね? あんたら。
「後ろから追いつかれる前に向かわねーと! てかコレ使おう! ひっさびさだけど──ストップ!」
腕に装着されたコントローラーの、最も初めに押した記憶のあるボタンを押した。
時間を止める、《ストップ》のボタンだ。でも多分範囲が決まってるから、メガネは効かない。
ほら、効いてない。
「ん? あの人数でしくじったのかアイツら。アシュレイドの面汚しもいいところだな」
「マジで面汚しだと思う奴ならいたけど死んだぜ! 次はお前だインテリっぽく見せてる実はそうでもなさそうな髑髏杖持ったクソメガネ野郎おおおおおおお!!」
「走りながらよく言えるな」
自分でも内心驚いてるから言うな。
──髑髏メガネは、珍しく一歩も引かずに応戦して来る。時々こっちの仲間達を警戒してる素振りを見せてるが、俺が休まず猛攻してるので殆ど意味ないだろう。
人間味のない身体能力は生まれつきなんだ。当然、他人より疲労を感じるのも遅い。
このまま地獄に叩き落としてやるよ!
「コレが邪魔くせぇんだよなあ!?」
「……! 放せ雑魚野郎!」
「その雑魚に苦戦強いられてんの誰だよ!」
俺は、笑顔なのがムカつく髑髏杖をガッチリとホールドする。一瞬背後に目を向けたが、まだ敵は来ていないみたいだからチャンス。
「なぁ、お前こそ放せよこの杖。俺は雑魚なんだろ? こんなん要らねーよなぁ? それともコレがないと弱かったりすんのかねぇ!?」
「な訳あるか」
「おわわわわわわわわ」
引っ張り合いしてたのに急に放されて、尻もちついちまった。よし、コレで杖はなくなった。
……が、油断は出来ねぇな。「な訳あるか」って言ったろコイツ。素手でも余裕こける強さだってことだ。
「へへっ……素手での殴り合いなら負ける気はねぇぞ。なんたって俺は超人なんでね!」
コンクリートを破壊出来る人間のパンチを、受けてみやがれってんだ。中々存在しねーぞ。
因みに心の中だけでだけど暴露してやる。何度か言ってるように、俺は普通にコンクリートを壊せるが、痛くないかどうかと言ったらまぁまぁ痛ぇ。あんな硬いの殴っておいて痛くない奴はバケモンだろ。
更に更に、俺が超人と呼ばれるのは俺の住んでいた世界の中での話だ。ビワの連中は、鉄の塊を握って千切れる。ユーニ以外。
素直にどうなってんだか知りてぇ。
「素手での殴り合い……? いいだろう、乗ってやる。だが、お前だけコントローラーの力を使うのはフェアじゃないな?」
軽くジャンプして、殴り合いに見せたかけた刃での不意打ちを企んでいたら、髑髏メガネが怪しく笑った。
ポケットに手を突っ込んで、透明度ゼロな真っ黒のメガネを取り出す。
なーんか、嫌な予感しかしねぇ。
「お、おおいおいおい何言っちゃってんのお前? フェアじゃない? 俺はビワの連中やお前らと違ってめっちゃ頑丈な訳じゃねーんだけど? 別世界のか弱い男の子なんですけど?」
ぶっちゃけ、余裕ぶっこけるのは自分の世界でだけだ。トラックに撥ねられでもすりゃ当然大怪我するけども。
ビワの連中みたいに、何発受けてもくたばらないでいられる生命力なんざ持ってねぇ。そんなイカれた世界で産まれてねぇ。
思いの外直ぐにあの世行きになる、脆い人間でしかねーんだぞ俺は。
「《アナライズ・コントローラー》──オン」
ーーアナライズ・コントローラー クロス・チェンジーー
何かやたら発音のいい機械音声が聞こえて来て、メガネの姿はガラスみたいに変化。気持ち悪い。
ツヤツヤなガラスっぽいのは弾け飛んで、膝までのコートみたいな真っ黒い衣装へと変貌を遂げた。敢えて言おう、めちゃくちゃダセェと。
……こんなカッコつけ過ぎて空振ったオタクみたいな奴、拍子抜けするんだが。そんなオタク知らんけど。
「やーっぱ、テメェもコントローラー持ってたか。使おうとしなかったのは無くても倒せるって自信があったからか?」
「まぁな、その通りだ。しかしあまり時間をかけるべきでもないと判断してな、使うことにしたんだ。これでお前らに勝機はなくなった」
「言ってろっつの。ヨノギのバイブレとか、ウォーブのクロノスとかに比べりゃあ負ける気がして来ないね」
テキトーに返しておいて、その間に相手の姿をよく確認する。やっぱダセェ。あのメガネが悪い。
……さてと、『アナライズ』って言ってたな。こっちの行動や強さとかを分析して戦うってか? そこまで強くなさそうだよな。
てかアナライズをコントロールするってどういうことだよ。ビジョン、クロノス、バイブレ、シャインはまだ分かるけどその他は意味分かんねーよ。
メディカルもサウンドも能力と名前が一致しねーし、シノビなんて鼻で笑えるし。アレのはユーニ作だけども。
「ブレーキは必要ない。直ぐに殺してやる」
「そりゃこっちのセリフだぜ。武器がなくなった分有利だしな」
「バカが。コントローラーには能力専用武器が存在するだろうが」
「ああ……」
忘れてたな、そういや。だから俺も《サシルベ・ブレード》があるんじゃんな。
なんて乾いた笑みを浮かべていたら、ボタンを押されちまった。集中しねーとマジで殺られる。
「《デンジャー・レーダー》」
ーーデンジャー・レーダー カモンーー
いやレーダーかよ。それで刃をどうやって受けるつもりでいるんだよコイツ。武器かそれ本当に。
つーか名前がめちゃくちゃにダセェ。ダセェの塊かそのコントローラー。
「この武器を甘く見──チッ!」
「おわっと!?」
髑髏メガネが何だっけ? デンジャー・レーダーだったか? 浮かび上がって来たソレを掴もうとしたら、またもナタリーの銃撃が襲いかかった。何気にタイミングいいね。
俺も反射的に駆け出し、メガネに背を向けることにはなるが、レーダーを俺がいた方へと蹴り飛ばした。コレで武器も結局ないぜ。
「へっへっへ! いやぁ何だろうな? 段々自信が湧いて来たなぁ? 何でだろうなー?」
正解は、ナタリーという頼れる仲間がいるからである。そんで今、俺と仲間達でメガネを挟んでいる状況でもあるから。
まぁ俺も挟まれてるっちゃ挟まれてるが。
「……っと、そういや名前知ったんだったなさっき。ようやく名前覚えたぞおいメガネ。────『マグロ』ってんだろ?」
調子に乗りながらビシッと指差す。決まったな、まぁまぁ。
「俺は『マクロ』だ」
「……ふっ」
──きまってなかったわ、残念なくらい。




