第11話 奇襲
午前七時くらいの時間帯。俺は風呂に入って身体を癒していた。
起きて直ぐに筋トレは疲れるな、マジで。やめておけばよかったわ。
汗かいて風呂入って……んじゃ次は朝飯でも食うか。シルフォはまだ寝てるっぽいし、カップラーメンを。
昨夜、熱湯の出し方は聞いておいたし。
「コンロみたいな音はしないか。熱湯も直ぐ出て来るし、やっぱ俺の世界とは違うみたいだな。進歩し過ぎじゃね? 異世界。別の部分がとんでもねぇくらい劣ってる場合が多いけど」
そのパターンだと、ここは何だ? 異世界コード『Sinpin』さんよぉ。おおん?
……電気かな。ユーニがナントカするまで点かなかった訳だし。
いやでもショートしてただけでなかった訳じゃないのか。じゃあ「人」でいいや。劣ってる部分。
「おぉ……あしゃから異様なかおりがしゅるとおもったら、きしゃまがかっぷらーめんを焼いてたのか……」
「……」
寝起きのシルフォ、滑舌悪いな。──元からか。
つーか焼いてねぇよ火事になるわ。下手したら。
「シルフォ、まぁだ寝てていいぞ。俺はこの通り、1人で朝飯だって確保出来る。持って来たから。だ〜から寝てろ」
タンクトップを着崩してのそのそ歩いて来るシルフォを、強制的に回れ右させる。あ、左だった。どっちでもいいわ。
んで、何故このマウンテンゴリラニンジャを寝させようとしているか、というのは少なからず疑問に思うだろう。
ハッハッハ、そんなの分かり切ってるって?
──起きてたらうるせぇから。
「誰がうるさい」
「どふぉっ!?」
俺は何度目か分かんねぇからもーう数えねぇけど、3回転して床に倒れた。寝起きでもコレかい怪力ニンジャめ。
……ここでふとした疑問。超スピードと超パワーって、兼ね備えられるもんなの? コイツ平然と高パラメータだけども。
やはり、異世界は何でも有り感があるな。
恐らく知能指数は猿の方が高いと思うが。
「あー、こっち来て初っ端からえげつないモン食わされたからなぁ。食い慣れた…………訳ではないけど確実に美味いのは有り難い」
明太子さえ入っていなければ、俺は基本的にラーメンは不味くは思わないけど。
いや、明太子が不味いということじゃない。俺の舌は受け付けない類いのモノだったってだけだ。
「……シルフォも食うか? 俺の世界の食い物だし、口に合うかは分かんねぇけど」
まだぬぼ〜っとしてる、シルフォに差し出してみる。コイツ、こんな朝弱かったか? 毎日飯作ってくれてたのに。
「ん……いただこう。段々、貴様の世界にある物に興味も湧いて来たしな」
「そうか」
俺が手渡したカップラーメンを、ほぼ目を閉じながら食べてやがる。口調はいつも通りに戻ったが、まだ眠いのか。
でも確か、昨夜外出してたんだよなコイツ。訊く暇もなかったし眠かったしで理由は知らないが。
夜更かしして眠いのか? バーカバーカバーカバーカ。
──ウーーーーー! ウーーーーー!
「……何の音だ?」
突如、パトカーのサイレンによく似た変な音が鳴り響いた。それは、未だ継続している。
何かの警告音か? だとしたら、緊急事態なのかも知れない。直ぐにシルフォの目を覚まし……
「コレはユーニが取り付けた装置の音だな」
……てたわ。ほんの一瞬前までアホ面だった癖に、いつの間にか服まで着替えて戦闘スタイルになっている。
まぁ、隙が少ないっていうことだろうからいいんだけど、ちょっと腹立つわ。
「つーか何の装置だ?」
「この音は警報。コレは私の憶測に過ぎないが恐らく──侵入者だ」
「侵入者……?」
「行くぞ!」
シルフォに腕を引かれたから、偶然テーブルに置いてたコントローラーをギリギリ掴む。そんで引き摺られる。
痛てぇな敵だったらどうすんだテメェ。隙だらけじゃねーか。
外は、仲間達が殆ど全員、家の前で武器を構えているという光景だった。警報なのは分かってても、何かまでは察していないんだろう。
俺は不意に手放され、左側頭部を地面に強打。後で殴る。
「この音は昨夜ユーニがプログラムしたものだ! 目的は侵入者を速やかに報せること! 状況はまだ不確かだが、警戒を怠るにゃ!」
シルフォの呼びかけに、仲間達は勇ましく返事をする。そして俺は再び引き摺られる。
服がダメになったらどうにかしろよなこのクソッタレニンジャ。噛み噛みニンジャ。戦闘狂。脳筋。
「アウドラ、コントローラーは持って来ているな?」
いつもみたいに心を読まれたかと身構えたが、違ったみたいだ。
けどせめて1回手を離せ。
「ああ、ギリギリ持って来れた。やっぱ敵か?」
「この場所を見つけ出し、わざわざ乗り込んで来るのだからそれ以外ないだろう。侵入者であるならば、アシュレイドが攻めて来たとしか考えつかん」
「まぁ、異世界行き来出来る奴らが幾らでもいるってのは、何か微妙だしな」
「……? そう、だな? とにかく我々は、ここで全力で応戦する。最終決戦に向けてアシュレイドの数を減らすのだ」
「りょーかい」
シルフォと共に、ロプト達が住処とした家に押しかける。
──その前に、ユーニとアノムスが慌てながら出て来た。いや充分遅いけども。
「キツネ目、敵は何処にいるか分かってんのか?」
「君ら、何故場所を移動してしまったんだ!」
「え、いや俺はシルフォに引き摺られただけなんだけど」
「私達も状況を知っておきたくてな」
駆け出すアノムスに並ぶようにして、俺とシルフォも移動する。俺らの家の方向かってるけど、そっちから来てんのか?
珍しく顔色が悪いアノムスは、手に見知らぬコントローラーを握り締めていた。
「アシュレイドとの、総力戦になるだろうね……! 物凄い大軍だよ。数で潰しにかかるつもりだ」
「うぇえ!? そんなんアリかよ何も準備してねーぞ!?」
それどころか、俺は思い切り疲れた。朝から筋トレし過ぎて。
そりゃそうだよな……。フィクションじゃねーんだから、敵が待ってくれるなんて都合のいい話はないんだ。
一応武器などは全員に配った。万全とまではいかないが、心の準備以外は皆出来てる筈だ。
「なら、いっそかかって来いやって気持ちでやってやるか……!」
※
──ロプトとココア。シルフォとアノムス。そんで何故か俺は1人だけで別れたコントローラー保持者。
アシュレイドは、徐々に姿を現して来る。それを、最前線の俺らが撃退していく作戦だ。
無線機、オンにしておくだけでユーニの指示やアノムスの指揮が、脳に直接響いて来るなんてな。凄ぇこれ。
「来たな、アシュレイド。何を間違えたんだか知んねーけど、めちゃくちゃ遠いとこにゲート開いてくれたみたいで、陣形すら準備出来たわ」
この町は道が広いだけの住宅街みたいな場所だ。道は、建物で隔てて三ヶ所ある。一応横にも移動は出来るが、基本は正面からの衝突になる筈だ。
コントローラーを持たない仲間は、保持者の後方で援護することになっている。俺の場所だけ多めに配置してくれた。
「お前ら、気をつけろよ! アシュレイドには何人コントローラー持ちがいるか分かってねぇから!」
仲間達に合図をしつつ、変身完了。省略省略。
……さてと、まーた嫌な奴が向かって来たもんだなおい。見覚えあるぜ、その面。
「あの時はしてやられたな、雑魚。まさか大当たりだとは。これで確実に1人、コントローラー持ちを潰せる」
異世界コード『ANDBENA』にて、『バイブレ・コントローラー』を取りに行った時。崩壊現象が進む中、戦闘に割り込んで来やがった迷惑な奴。
「だ〜れが大当たりだクソ眼鏡! 余裕でぶっ殺せるってか!?」
「以前、コントローラーを持たない俺に手も足も出なかっただろう。ハズレな訳があるか」
髑髏杖を持った、顔を見るだけでムカついて来る眼鏡野郎だ。
てかその髑髏何で笑ってんの? 前もうざかったんだけど。
「言っとくが前は満身創痍みたいなもんだったし、後から来た奴が勝ち誇ってんじゃねぇぞ。結局殺せてねぇんだからな」
「こっちこそ言っておくが、今回は俺1人が相手ではない。見ろ、コレがアシュレイドだ」
「……うじゃうじゃ出て来やがって」
髑髏メガネに続くように、凡そ20人程のアシュレイドが迫って来る。人数差はほぼ倍。いや多分、それ以上だ。
状況だけ見れば絶望的。だけど、髑髏メガネが率いているならアイツが1番強いってことだろう。そしたらコントローラーを持っている奴がいない可能性が出て来る。
コントローラーが全てだとは思わねぇけど、いるより全っ然マシだ。
「クソメガネ、お前の相手は俺がしてやる。正直な話、俺じゃ1人で複数相手には出来ないしな」
「だろうな。お前は俺1人に殺されるだけだ」
「いーーーーーや死なないね。今回は絶対に負けねぇ。レインはいなくなっちまったけど、前と違ってサシにはなるけど、俺が勝つ」
「いい夢が見られるといいな? お前ら、雑魚を殺せ」
髑髏メガネが指示を出すと、他のアシュレイドが下品な目付きで進み出した。何でそんな気持ち悪い顔してんだアイツら。
「チッ!」
俺は、二、三歩後退する。仲間達は武器を構えて、対抗する気満々だ。
見掛け倒し……ではないか。アレだアレ。えーと、芝居だ。大根芝居。普通に芝居でいいか。
よく考えてみろよ、マヌケ共。平然と進んで来てるけど。
作戦練ってる暇があったってのに、何もしない訳ねーだろ。大量に攻めて来たってのが分かってんのによ。
「……待て」
髑髏メガネが、俺は睨みつけた。引き留められたアシュレイドが振り返るが、も〜う遅いんだな残念ながら。
範囲内だぜ、約10名!
「「ぐああああああああああああああああああっ!?」」
──爆発。そこそこ大きめな爆発で、範囲内のアシュレイドが吹き飛んで行った。
「簡単にハマりやがったなバカがよ! シルフォ特性遠隔地雷!」
見たかボケ──と言う間もなく、煙の一部を髑髏メガネが突っ切って来た。すかさず、《サシルベ・ブレード》を展開する。
が、髑髏メガネは急ブレーキをかけた。
「チッ、流石に勘づくのが早いな。それか、ネグロ王みてぇに見えてやがるんだったか……」
爆発の瞬間、音声認証なしでの《シャドウ・ビジョン》を使っておいた。今アイツらに見えてるのは、本物の俺じゃない。
髑髏メガネは俺のことが見えてる訳ではないみたいだが、どうせ殆ど意味ない。目的は、他のアシュレイドには視えているかだ。
「お前ら、こいつは偽物だ! 本物に警戒しろ!」
……相変わらず口は軽〜いみてぇだな、クソメガネ。今のセリフのお陰で、他の奴らじゃ分からないってことが察せたわ。
俺が心の中で合図すると、影の方も《サシルベ・ブレード》を出現させた。
「本物じゃなくたって攻撃は出来るんだよ。俺のことも気にしておかねぇと死ぬぜ?」
「姿が見えるお前如き障害にもならねぇ」
「ケッ、言ってろ」
影の俺が走り出すと同時に、俺自身も走る。影が狙うのは髑髏メガネで、俺は他のアシュレイドだ。
「邪魔だ!」
「ほっ!」
「……!?」
「ずーっとシルフォに鍛えられてたんだ。もう簡単にやられやしねーんだよ!」
何事かと見てみたら、影が髑髏メガネの攻撃を防いでいた。
影がやられない限り、俺の姿は消えたまま。強くなってくれたのは非常に助かる。
まぁ一応俺だしね、アレも。
「おらぁあ!!」
「うぉあっ!?」
姿が視えない相手には手も足も出ないだろ、この野郎共。ボス連中が異常なだけってのが分かりやすいな!?
アシュレイドも結局ビワと同じで、数人がバカ強いだけみたいだな。
「そこか!」
「うおっ!! 危ねぇ!」
髑髏メガネが、視えない筈の俺に蹴りかかって来た。やっぱ何かで気づかれてんだよなぁ。
「外したか……!」
「余所見してんじゃねぇ!」
「ふんっ!!」
「ドハァッ!!」
影は蹴りを受けて消える。再び、俺の姿が丸見えとなった。
けど先に、至近距離まで近づいててよかったぜ。近づいて来たの髑髏メガネの方だけど。
「せいっ!」
「チッ……!」
うーん、思いっ切り隙を突いた筈なのに、浅い傷しかつけられなかった。どんな反応速度してんだよコイツ。
さて、一応4、5人の首は落とせたけど。
「コントローラーの性能でも上がったのか? お前」
「いいや、さっき影が言ってたように鍛えただけだ。お前もめちゃくちゃ動き早いけどな、シルフォ程じゃない。アイツの怪獣パンチを死に物狂いで躱す特訓が活きたんだよ」
「あの女か……」
髑髏メガネが恨めしそうな顔をする。そういや前に会った時、「前の御礼」とか言ってたよな。シルフォに負けたのか?
……アイツが生かしておく気は一切しないけどな。何かあったのは間違いないだろ。
「ん? 何だこの音」
「そこか!」
ピピピピ、という音が聞こえて来て、髑髏メガネは俺らの後ろの方に聳え立つ、マンションらしき建物を睨みつけた。
そこって確か、あの乳デカ……ナタリーが狙撃のために移動した筈。
────って、
「どわぁあああああああああああああっ!?」
髑髏メガネが立っていた、丁度俺の正面に、雷みてぇな弾が着弾した。
危ねぇなあのアホおおおおおおおおお!!




