第10話 最後の戦いに向けて
──「最後の戦い」
アノムスの言葉に、この場にいる全員が息を呑んだだろう。
俺にとってはまだ全然長くはないが、ビワの連中は果てしない戦いのように感じていた筈だから。
それが今、終幕を目前にしている。緊張感は言うまでもなく最高潮だろう。
……いや、分からん。もしかしたら最後の敵と戦う時かも。
とにかく、かつてない空気になっていることは確かだ。
「……と言ってもね、断言は出来ない。『恐らく』と言っただろう? そこで片がつくってだけだ。どの道、僕らにとっては最後になるだろうけどね」
間を空けて続けたアノムスに、おもくそ疑問が浮かんだ。何故お前はいつもいつもハッキリ言いやがらないんだ?
「どういうことだ、アノムス。私やアウドラにも伝わるように説明しろ」
「そうだそうだ。いちいち勿体ぶってんじゃねぇ!」
シルフォがムスッとしながら抗議したから、俺もそれに乗っかってみた。分かり難いことに間違いはないし。
そんな俺達にアノムスがもう一度説明しよう、と口を開けたら、ココアの声が遮った。
「要するに、全面戦争をする訳だろ。勝っても負けても最後の戦いとなる」
「だから何で負けても?」
「アウドラ、アシュレイドの連中が我々を生かしておくと思うか? こちらも同じことをする。負ければ全員死ぬということだ、互いにな」
「……ああ、マジか」
そういや俺達って殺し合いしてるんだったな。つい最近も、シルフォが目の前でネグロ王殺したばかりじゃんか。
勝てばコントローラーを保管して勝ち。負ければ殺されて終わりどころか、アシュレイドはコントローラーを使ってヤベェことを企んでた筈だし、アウト。
何がどうあれ、勝たなきゃ助かりはしないってことか。
「けど何で確定じゃねぇんだ? 負けたら皆殺しにされるんなら、そこで試合終了だろ?」
シルフォが小声で「しあい……?」と呟いたのを、アノムスはスルーする。勿論俺も。
「もしかしたら、誰か1人くらいは離脱してビワに戻れるかも知れない。その場合、アシュレイドは追いかけるだろうから、今度は残ったビワの人間達が戦うことになる……っていう可能性が、僅かだとしてもあるからね」
「そんな保険かける必要なくねーか?」
ビワの残りって、戦士じゃないだろ。勝ち目ゼロなんだから、「戦争」じゃなくて蹂躙・虐殺が待ってるだけだと思うわ。
正直、負けるつもりはないけどな。負けたくはないけどな。死にたくないしな。
だから俺は、アシュレイドとの勝負に勝ってみせる。絶対に。あんの髑髏メガネにだってやられるもんか。
「最後の戦い……いよいよだな。ここまで戦い続けた甲斐があった」
嬉しそうに、シルフォが指を鳴らす。流石戦闘狂、喜び方が一般的な人間とはまるで違うな。
「だがよ、アノムス。アシュレイドの拠点を見つけたのはいいが、いまいち戦力が足りてなくねーか? 向こうにはコントローラー持ちが最低5体以上いる上、雑兵だって少なくはねぇ」
リーダー・ロプトが超珍しく真剣だ。今のを聞いた感じアシュレイドの拠点には、コントローラーが五つはあるってことだよな。
ヨノギの『バイブレ・コントローラー』はレインのお陰で奪えたし、どんなのがあるのか分からないな。
アシュレイドのボスってやつも当然、持ってんだろうな。
対するこっちは、知ってるのだと4人。アノムスも持ってんのかな。
「うん、正直勝機は薄い。けど、僕は皆を信じているよ。コントローラーをこれ以上悪用させないため、絶対に勝とう」
気合いの入った呼びかけを聞いて、シルフォ達が満足気な顔をする。しかし俺はむしろ不安になった。
だってそれ、策も何もないってことだろ? コントローラー持ちがどうにかしてくれって言ってるようなもんだろ。ほぼ投げやりじゃねーか。
まぁ、これまでも策という策はなかったけど。
「最後の戦いか……」
「……そうだな」
ロプトと、ココアがぽつりと溢した。この落ち着いた空気を察して、何となく黙り込む。
今のは感慨深いからなのか、はたまた不安からなのか。どっちなのかは俺には分からない。
ただ言えることは、次勝てなければ、全てが無駄になるってことだ。
──つってもよ、レインもいなくて前に惨敗してんのに、勝ち目あんのか?
「正面から向かったところで、8割方負けだろうな」
一度2人で戻って来たビワで、シルフォはしれっと言った。
あのさ、じゃあ何で挑むよ。アシュレイドもこっちを放っておくことはないだろうけど、だったらもう少し強くなってからにするべきじゃねーか?
「たとえば、全員が全員アシュレイドと1対1で戦えるくらいになるとか。コントローラーはない相手に。そうすりゃ勝ちが見えてくるだろ」
「残念だが、身体能力だけに限れば私達では敵わない。コントローラーを持たない者は、無駄に命を落とすだけになる」
「だったら、俺ら持ってる組だけで戦うのかよ。それこそ勝ち目ねーだろ。アシュレイドには、コントローラーを持たないで強ぇ奴らがいるじゃねーか」
髑髏メガネとかチビとかな。特に髑髏メガネの方。
アイツら、コントローラーで変身してる俺らを圧倒するくらいだ。生身の連中が対抗出来るとは思えねぇけど、コントローラー持ちとの勝負の最中に割り込まれたら、それこそ勝てない。
「こちらのコントローラー保持者は、レインを失ったことで5人となった。それだけでアシュレイドを潰せるなどと甘いことは、考えてはいない」
「ならどーすんだよ。このままじゃやられに行くだけになんぞ」
「コントローラーを持たない者達には、サポートをしてもらう」
「サポート?」
倉庫や自室などで、大量の物を袋に詰め込むシルフォ。お前は一体何をしているんだ。
こっそり覗いたら、爆薬のような物が見えた。
「ああ。私やユーニが、戦闘とは少し違った形で奴らに対抗する術を与える。私達は初めに雑兵共を片付け、その後コントローラー保持者を撃退しに向かう。だが当然、全て片付ける前に遭遇することにはなるだろうがな」
「とりあえず、やれるとこまではやるってことか」
「それにコントローラー保持者は2人1組で行動する。1体1体に時間をかけている余裕はないからな。1人即殺して直ぐに次だ」
「倒して、とかじゃねぇんだもんな……」
相手がアシュレイドだからだと信じたいが、そんな躊躇いもせず「殺す」って言うなよお前……。
実際、どうなるのかはやってみないと分からない。けど一応、何も出来ずに仲間が減って行くなんてことはなさそうで安心した。
その爆薬とかは仲間達に預けるんだな、多分。ユーニはコントローラー自作出来るんだから、何人かにだけでも渡してやればいいのに。
まぁそんな材料があるかなんて知らねーけども。
「さて、一通り詰め込んだな。帰るぞアウドラ。そっちの荷物を持ってくれ」
「へいへい──って重っ!? 流石に重過ぎるわ! どんだけ突っ込んでんだお前!」
「んん? 貴様は怪力の持ち主ではなかったのか? その程度も運べないのか。期待外れだな」
「何だとテメェ!」
同じくらいパンパンな袋を、シルフォは軽々持ち上げてみせる。凄い凄い。
凄いけどその腹立つドヤ顔やめろや。はっ倒すぞコラ。
シルフォにバカにされるのは正直嫌だし、どうにかして運ぶか。つってもアイツはゴリラだし余裕なのかも知れないけどな。
ゴリラの更に上を行く、大怪獣とも言える女だが。
「台車があるからそれを使え。私達とは違う世界の人間に、そこまで期待はしていない。貴様が役に立つのは戦闘時のみだ」
「はっ倒して泣かすぞ」
「『泣かす』……? 貴様が私をか? ふっ…………何の冗談だ。今は戯言に付き合う暇はないぞ」
鼻で笑いやがったシルフォを、どうにかして屈服させたくなって来た。何だコイツ。知ってたけど微塵も可愛くねぇ。
俺の方が力強ければな、強引にでも何でもやれることはあったんだけどな。悔しいぜちくしょう。
また異世界コードSinpinに戻って、ビワから持ち出して来た物を配って回る。爆薬以外は何なのか分からなかった。
無線機みたいなのがあったけど、コレは全員に渡すんだな。やっぱり無線機か?
……いやでも、ホログラムメール機は全員持ってるらしいしな。違うよな。
「いやいや、どうもどうも。お使いご苦労さまご苦労さま。ふむふむ、幹部達がコレをって? なになに? わーお、ライフルじゃんね助かる助かる〜」
最後にサングラスみたいなのとステッキみたいなのを渡した女が、めちゃめちゃ個性的な奴だった。
コイツ何だっけ誰だっけ。えっと確か……この乳がデカい奴の名前は…………あ、そうだ。
ナタリーだ。
「えっと、それライフルなのか? もしかして俺の世界のとはまた違った『ライフル』?」
「うーん? 多分同じだよ。銃のこと」
「……へぇ」
トリガーすら見当たらないんだが。ほぼ魔法少女のステッキみたいなんだが。それが銃なの?
あと、あんたヤバいな。動く度揺れてるから自然と目が行くんだけど、デカくね? 乳。
そこまでの巨乳には流石に興味を持つわ。
「私はねぇ私はねぇ、スナイパーなのだよアウドラくん。近接格闘はビリッけつなんだけど、銃の腕前ならココアさんにだって負けないよ」
「じゃあアレか。援護射撃を任されるのか」
「んまぁそういうことだねぇ。しかもしかも今回は、ユーニさん特製ライフル! 私の専用武器を作って貰えた訳だから、サポートは任せてね〜!」
「おう、任せた」
「任されたっ」
ビシッと敬礼したナタリーは、嬉しそうにステッ……ライフルを撫でる。そのサングラスについては教えてくれないのか?
それにしても、スナイパーがいたとは。上手く行けば連携プレーが可能だし、雑兵くらいは倒してくれそうだな。
他の戦士達に渡った物も中々強そうな武器ばかりだったし、行けるかも知れない。
決して、想定外のことが起きたりしない限り。
「……って、フラグ立てようとしてどうすんだ俺。勝てる勝てる。全員で一丸となりゃ大丈夫だろ。コントローラー持ちにさえ警戒すりゃ、何とか」
のんびりシルフォとの家に戻ったら、部屋の電気は消えていた。……あ、違う違う。まだ電気通ってないだけか。
暗いな……。電気がないだけで、こんなに暗いのか。外なら星の光があるし、向こうのがまだ明るい感じがするな。
「む、アウドラか。先に帰っていたんだな」
まだ玄関前だったから少しビビったけど、シルフォも帰宅したみたいだ。
「お前こそ、もうとっくに帰ってるかと思ってたわ。もう夜っちゃ夜だぞ? 何処で何してたんだ?」
「アノムス達と少し、話していただけだ。アシュレイドとの戦闘についてな。それが長引いただけ……で、貴様は何をしていた?」
「ここら辺を歩いてただけだ。建物の配置とか、地形とかを記憶しておけば、もしここで戦うことになったりしても有利だろ?」
「確かにな。しかし、決戦の場はアシュレイドの本拠地だろう」
「アノムスは、脱出したら追って来るって言ってた。念には念をってことだよ」
「……ふむ、そうか」
一応納得はしてくれたようで、シルフォはそのまま風呂場へ向かって行った。
そういや女の風呂は長いらしいけど、シルフォはどうなんだろうな。野性的な性格をしていても、やっぱ長風呂すんのかな。
そんなことを冗談混じりに考えていたら、シルフォがひょこっと顔を見せた。
「私は汗を流すために風呂に入るが、貴様も入るか? 二人で」
「なーに言ってんだお前。大丈夫か? 入るわけねーだろ。まず狭いし、入れねぇ。つーか口元引き攣ってんぞ」
「……っ。じ、冗談だ本気にするな。夕飯は少し待て」
「あー、熱湯さえ出せればカップラーメン食うけど」
「夕飯は私が作るから、待っていろ」
「……はいはい」
何でいちいち睨んで来るのかねぇアイツは。レインの代わりに飯を作ってくれるようになってからずっとだが、譲らないんだよなぁ。
何か、俺を満足させられる物を作りたいんだとか。
戦闘に備えて栄養たっぷりの飯は食いてぇんだけど、マズかったら気分が沈むんだよ。出来ればカップラーメンがいい。
──女の後に風呂に入るのって、何か躊躇うんだよな。何となくではあるんだけど、悪い気になる。
まぁ、普通に入ったんだが。
「シルフォ、このエイリアンの卵みたいな食物は一体全体何なんだ。見るだけで胃の中のモノ戻しそうなんだけど」
「それはクロロフィ……貴様の世界では『貝』というのだったか。その体内にある、人間でいうところの肝臓みたいな物だな」
「要するにレバーってことか。貝の。普通に気持ち悪いな」
「ならコレがいいか? 同じ生物の睾丸なんだが……」
「レバーで我慢します」
腹を下したりはなかったけど、普通に吐いた。




