第9話 新天地
田舎から都市に引っ越したり、単純に旅行に来た際に、「来たぞ!」みたいなノリになるネタを結構見たことがある。ドラマでも、本などでも。
アレって、声に出してる奴が殆どだけど……絶対注目浴びるよな。マジで半端じゃない精神力が必要だと思うわ。
つーか、都会に来ただけであそこまではしゃげるか? 俺は全く理解出来ないね。人がやたら多いだけだろ。
例えば隣の町に移動したら都会〜って場合、一瞬で別世界に来たような気分にはならないだろ。「ここから先が都会です」って区切られてる訳でもないし。
次第に景色が変わって行くんだから、「おお〜!」とはならねーよな。
──まぁ多分、俺が言ってることとは違う意味での感動なんだろうけど。
「……おお」
そんで今俺は、自分のことを棚に上げて語っておりました。
来たぜ更なる異世界!
やっぱ、全然違う場所に来たってだけでテンション上がるな。こっちは世界を移動した訳だけど。
はい、つまり異世界コード『Sinpin』に到着したってことっス。
「さて、荷物を置かなきゃね。この世界は人が住んでいないから、全ての建造物はどう使ってもいい。危険そうなのは諦めて。あまりに遠くだったり分かり難い場所もダメ。各々住む場所を決めよう」
アノムスの声かけを聞いて、仲間達が楽しそうに動き出す──が、直ぐに呼び止められた。
探すんじゃねーの? 要するに早い者勝ちだろコレ。
「まずは女性に譲ってあげようか。さ、ユーニ、シルフォ…………達行って来ていいよ」
「はぁん? 何だよビワにもレディファーストとかあんのかよ。この世界の女共は別にか弱くねぇだろ」
つーか強ぇのばかりいる。シルフォだとか…………アレ? ビワだとレインは違うし他は強くはないし違うのか。
ココアも実は男だしな。女顔負けの顔してるけど。
「レディファーストは、どの世界にも存在するんじゃないかな。多分。アウドラは何か、文句があるかい?」
「いや、よく考えたら別になかったわ。俺は別に少し汚い場所でも寝れないことはないし、どうせ戦って汚れるんだから特に気にならない」
風呂だって頻繁に入る余裕ないだろうし。
「ふん、器の小さな男とでも呼んでやろうかと思ったぞ」
「うっせぇ。お前は所詮ゴリラなんだから寝床なんて何処でもいいだろうがよ。言っとくが俺は別に困らないからああ言っただけで、お前だけは本当に俺らと同じ扱いでいいと思ってるかんな」
「ふふ、そうか。ところでアウドラ、私は少し身体が鈍っているのかも知れない。スパーリングに付き合う気はないか?」
「いや遠慮しとく。それより早く選びに行けよ、他の女共に良いとこ取られるぞ」
「それもそうだな。ではまた後程な」
「うぃーっス」
少しシャドーボクシング風の動作をしてみせたシルフォは、大人気なくダッシュして行った。
どんだけ欲深いんだよお前。血塗れでも平然としてる癖に今更何を気にするのやら。
お前なんて野宿でも余裕だろ。
「さ、アウドラも行って来な」
キツネ目が、更に細くなった目で微笑みかけてきた。マジで恐怖なんだが。
「……って、いいのかよ。まだシルフォ達行ったばかりだぞ?」
「どうせロクに確認もしないさ。うちにいるのは、そこまで繊細な子達じゃないよ」
「やっぱり野生動物の集団じゃねーか。違うとしてユーニくらいな気もする」
「ユーニは確かに、綺麗好きだからねぇ。でも、そのくらいだったら自分でどうにかするさ」
「あー、かもな。じゃあ行って来るわ。つーか俺らは早い者勝ちにしようぜ。俺も別に厳選する気はないし」
「そうかい? それなら、皆一斉に動こうか」
「ああ、時間もかける必要ないしな」
後、遠くには行かないといっても、この中から住処を選ぶなんて面倒臭過ぎる。
何ヶ所見て回るんだよそれ。1人だけでどんだけ時間かかると思ってんだ。最後報告するんだとしたら一層怠いわ。
……因みにロプトとココアは、さも当然のように2人で選んでいた。
「──さてと、荷物は整頓し終えた。ここが今日から俺が住む場所なんだな」
ちゃんと覚えられるように、なるべく目立ちそうな家を選んだ。
2階も庭とかもない地味なとこだが、そこまで重視する必要はないだろ。取り敢えず風呂が使えそうなことは確認したから、問題ない。
いやでもアレだな、キッチンは見当たらないな。別に料理は出来ないけど、インスタントラーメンとかも作れやしない。
「おい、外から見た景色は俺の世界と大差ないからよかったのに、文化が違うんじゃ生活し難いんだが。何食べろっていうんだよ。う〇い棒食い続けたって限界があんぞ」
しかも、苦手な明太子味ばかりだってのに。ココアに渡すの忘れてたわ。
「腹が減っては戦は出来ぬ……? とか言うだろ? こんなんでどうしろってんだよ。他の連中はどうすんだ?」
あまりの衝撃に項垂れていたら、扉が2回叩かれた。ここはインターホンとかもなさそうだし、ノックの代わりだな。そりゃそうだろうけど。
「何だシルフォか。何か用か? 見て分かると思うけど、ここ何もねぇぞ」
「ふん、そうだろうと思ったんだ。バカか貴様は。こんなところでどう生活するつもりだ」
「うるせーな、気づかなかったんだよ。てかその口振り、お前のとこにはキッチンあったのか?」
「ああ、ビワとは勝手が違うようだがな。……仕方ない、荷物を纏めろ」
「はぁ?」
何言ってんだコイツ。今荷解き終わったばかりなんだが? つーか何のために? 何言ってんだコイツ。
腕組みをして目を逸らす、やたら腹立たしいシルフォの顔を覗き込んだら、顔を押し退けられた。何しやがんだテメェ。
「近いんだバカ。……いいから荷物を纏めろ。こんなとこでは暮らせないだろう」
「だから、荷物を纏めてどうすんだってーんだよ。ちゃんと説明しろ」
「はぁ……」
何か溜め息なんて溢しやがって、シルフォはまた腕を組む。本当にムカつくなおい。
「私は、予め大きめな家を選んでおいた。風呂もついているし、先程も言ったがキッチンもある。全域合わせて電気は切れているらしいが、それはユーニが何とかしてくれるそうだ。そして……」
シルフォは少し躊躇うように肩を窄めると、上目遣いで俺を見上げた。
「寝室が2つあった」
遠慮がちに放たれた言葉を聞いて、一旦脳内を整理する。
設備はまぁまぁしっかりしていて、家はデカめ。で、寝れる部屋が2つあることをわざわざ伝えに来て、荷物を纏めろっていうことは、
「なるほど、同居させてくれるって訳か」
「そういうことだ」
「お誘い感謝。でも、お前も嫌だろうし断っておくわ。自力で別の場所を探す」
「残念だが、アノムスが決めた範囲内に住めそうな家はもう残っていない。分かったらさっさとついて来い」
「だったらせめて野郎に頼むわ。アノムスだったら軽く受け入れてくれるんじゃねぇか?」
「人の厚意を踏み躙るな。いいから来い!」
「んだよお前引っ張んな! 荷物も纏めてねぇだろ今!」
※
シルフォの家は、確かにデカかった。想像してた大きさの2倍は間違いなくある。
中も別段汚くはないし、使えんのか知らねぇけど水道から水が出る。汚染されてるなら見なかったことにする。
最早無理やり連れて来られた俺だが、キッチンがあるため甘えることにした。つーか他より汚くないからなんだが。
「水はまだ使用するな、無害とはまだ判断されていない。喉が乾いたら言え。水を持参しておいた」
色々教えてくれる。何かしっかりしてんなコイツ。カップもあるし。
因みに、ここら一帯はユーニが色々作ったり何かしたりして、取り敢えず使えるようにしておくらしい。詳しいことはよく分からない。
ただ、水や電気などに関しては任せてとのこと。シルフォが言うには。
更には、何処かにスピーカーを建てて指示したりするらしい。
「しかし、シルフォと同居か……いや、ビワでも一応1つの建物に一緒だったたんだけど。今は、建物内には2人だけだかんなぁ。変な感じだな」
親と2人切りなのとはやっぱ別モンだな。血の繋がっていない他人ってだけで緊張する。
しかも凶悪な戦闘狂ゴリラだし。そんでもって手が早いし。吹っ飛ぶくらいのパワーで殴って来るし。
そんなのといたら緊張するわそりゃ。
「変な感じ……か。それは私もだな。今まで同室になった相手もいなかったから、不思議な気持ちだ」
「何でビワの連中はわざわざ1人ずつ部屋分けてんだ?」
「元々は一部屋に2〜3人だった。しかしアシュレイドと戦って行く内に、いつの間にかガラ空きの部屋が増えていたんだ。だから分けた。それだけだ」
「……そうか」
訊くべきじゃなかったのかもな。少し空気が重たくなった。
俺は自覚があるんだが、何故余計なとこまで気になるんだ。少し考えれば分かるだろ理由なんて。
シルフォは表情を変えず、特殊なケースに入った『シノビ・コントローラー』を手に取る。
そして少し眉を寄せて、瞳を閉じた。かつての仲間達を思い出しているのかも知れない。
「……よし、一度アノムスの元へ行こう。私とアウドラはコントローラー保持者、主戦力だ。作戦会議などもあるかも知れない」
「だな。後々呼び出しくらって慌てて向かうより、先に向かう方がマシだ」
シルフォの言う通りにし、俺もコントローラーとう〇い棒明太子味と、ホログラムメール機を準備する。
コントローラーは取り敢えず持っておくべきかなって思って、無線機は途中で呼ばれるかも知れないから。う〇い棒はココアに渡すため。
もし集まってるとしたら絶対いるだろうし。最古参メンバーらしいから。
「やぁ2人共、いいタイミングで来てくれたね。次の目標について少し、話し合っておこうとしていたんだ」
「だと思っていた」
予想は的中。アノムス・ロプト・ココアの3人が、アノムスが選んだ家に集合していた。
そう言えば、最古参メンバーとエリナさんは30付近なんだよな? その次辺りに古参なのはシルフォとからしいが、まだ10代だった気がする。
もしかして、結構差があったりすんのか?
──あ、ココアまだ20代半ばか。
「まぁいいか何でも」
「急にどうしたアウドラ」
「ほいココア、コレやる」
「急にどうしたアウドラ」
繰り返さんでいいわ。前のハンバーグのお返しだよ、俺は嫌いな明太子味で。
取り敢えずソファーの空いているとこに腰掛けて、ココアが出してくれたココアを口に運ぶ。……ダジャレみたいなんだよな、毎度思うけど。
ていうかこのソファー、ビワから持って来たのか? だとしたら凄ぇな。
「この世界ではまず、生活に慣れることを優先する。環境が変わるだけ体調を崩す可能性もあるからね。出来れば1週間で慣れて欲しいけど、主戦力メンバーがダメそうだったら少し先延ばしにするつもりだよ」
突然話し始めるから驚いたじゃねーか。せめて何か合図しろよ。
んで? はいはい環境に慣れてくれってことな? なら多分、
「俺は平気だぞ? 元いた世界からビワに移動しても、食生活以外は余裕で慣れたし。食い物さえあればきっと、野宿もいけるんだろうな俺」
「それは心強いね、助かるよ。サバイバル能力が高いのはいいことだ。役に立たない時なんてない」
「私も問題ないな。食材がこの世界で採れないとしても、ビワに取りに帰ればいいだけだ」
「それなんだが、この世界に人はいない」
ココアが何かパソコンっぽいけど何かテレビっぽくも見える、直方体の何かをテーブルに乗せる。何かだ。取り敢えず、液晶画面みたいな部分もある何かだ。
何て説明したらいいのコレ。前後から画面を見ることが出来る、キーボードらしき物が取り付けられたテレビ……?
「ココア、人がいないことは既にアノムスからも聞いたぞ?」
「お前は最後まで話を聞けシルフォ。人はいないが、植物や他の生物は棲んでいるんだ。それらが食育可能であれば、取り敢えず問題はない」
「ま、ぶっちゃけ僕がいれば色々余裕だしね」
「お前いつからそこにいるんだよ」
「実は最初からいたんだけど、君達が気づかなかっただけなんだよね」
何食わぬ顔で、見た目は煎餅感触は餅みたいな不気味な食べ物を、ユーニは頬張る。
マジか、気づかなかったのか俺。やっぱチビ過ぎてか。
まぁ、ユーニがいれば諸々安心ということは分かったし、とにかく次へ進もう。進めるの俺じゃねーけど。
「と、まぁ生活については慣れることが目標ってくらいかな。それで、皆に伝えておくことが1つある」
キツネ目のアノムスが、また目を開いた。
いや別にさっきまで閉じてた訳じゃねーんだけど、開いてるようにも見えないからな……。
「伝えておくこと……次のミッションについてだな?」
「うん、その通り。今日、ここに来る前にも話したけど、アシュレイドのアジトにはコントローラーが大量に保管されている。その代わり、他の世界からの反応は見られなかった」
テーブルの上で指を絡ませたアノムスは、いつも以上の真剣な声色で告げた──。
「恐らく次が、最後の戦いになる」




