第8話 シルフォの想い
フォルドアと歩く河川敷。この川何処から続いてんだよ、元々なかったから気になるわ。
そんなことを思いつつ、少々ひんやりしている風を肌にそっと感じる。
因みに、日が暮れたりとかはしていない。当然だ。ナポリタン食ってコーヒー牛乳買ってここまで歩いただけだし。そんなかからねぇ。
「さーて、う〇い棒買って帰るかぁ。いや、他にも色々買って行こう。マトモな飯が食いてぇ」
「普段は何か変な物でも食べてるんですか?」
「いいや? 一応、現地の人達にとっちゃ普通の飯だよ。けど、俺らの口には合わな過ぎるんだ」
「……異世界、でしたっけ?」
「そうそう。まぁ、口で説明しても分からねぇよな。とにかく、人間の見た目以外は全然別って思っときゃ大丈夫だ」
「想像つきませんね……」
フォルドアがしゅんとなる。安心しろ、イメージ出来ないのが当たり前だ。
異世界って、魔法が使えたり精霊とか異種族がいたりとか、もしくはパラレルワールドみたいなもんを想像してたよ俺は。
実際は超巨大な神木を中心に、緑が広がってるだけだった。つーか木の中に住んでた。空は日中が緑で夜は紫。
もうやっぱり、一言で説明するとなれば「緑」だな。
「つーか、異世界のこと信じてんだな。てっきり頭のヤバい奴だって思われてんじゃないかと」
「そ、そんな訳ないです! 私の住むこの町がおかしくなったのは事実なんですし……殆どいないアウドラさんは異世界に住んでいるって考えれば」
「ま、何だっていいんだけどよ。じゃあ一つ、1回約束しておこうぜ」
「……約束?」
少し不安気に見えるフォルドアの手を握って、自分にとって安心出来そうな笑顔をイメージ。そして実行。
すんげぇビビられた。目を見開いたぞ。
「俺が次帰って来るのは、決着をつけてからだ。それまでの期間で向こうの食事にも慣れ──って脱線したわ思い切り。そうじゃないそうじゃない」
俺が次にここへ戻る予定なのは、本当にアシュレイドと決着をつけてからだ。どんくらいかかるのかは知らん。
けど、そのくらい集中していた方がいい気がするんだ。
今度はもしかしたら、またあの髑髏杖メガネ野郎と戦うことになるかも知れない。今のままやったら、また負けるだけだ。
だから、ビワの連中に鍛えてもらう。出来る限りパワーアップして、アシュレイドのボスって奴も全部倒す。
それで世界が元に戻るかなんて分かんねぇけど、分かる目的はしっかり見据えとく。
「前にも言ったけど、必ず元の世界を取り戻す。敵も倒し切る。これを約束しておく」
正直なところ、ネグロのじじぃで相当厳しかったんだが、何とかなるでしょう! 何とかしますでしょう!
「はい、待っていますね。たとえどれだけ時間が経っても、きっとその日を待ち続けます」
「おう、諦めんなよ」
優し過ぎるその笑顔に、少しだけ気後れした。待っててくれるってのにプレッシャーが……。
とにかく、帰ったら直ぐに特訓だ。アシュレイドに関してはビワの連中がプロだし、早速シルフォとかに相手してもらおう。
戦闘狂だし、喜んでボコボコにして来るだろ。
「────ぐふっ」
「おい、もう終わりなのか?」
予想通り、シルフォは俺を遠慮なくボコボコにして来た。クッソ、こんなパンチラニンジャなんかに……。
あまりにも呆気ないのは悔しいし、腕に力を込めて立ち上がった。シルフォは浅い溜め息を吐く。
「全く……貴様はそもそも、コントローラーを使用しない戦いでは充分に強いだろう? 身体能力は我々にも劣らない。この特訓はあまり有意義とは言えないと思うが」
「はんっ、ブァカ言ってんじゃねーよ。そのつよつよな俺が今、何秒でぶっ倒れたと思う? 全然充分じゃないんだよ」
「それは私が貴様より遥かに強いだけだ。貴様は一般人だったが、私は戦闘を得意とする血筋に産まれた。幼い頃からひたすら過酷な修行をさせられていたからな、そう簡単には負けん」
「……お前が強ぇのは知ってるけど、案外負けてないか?」
「格闘術ならば、レインにも負けん。コントローラーを使う戦いではそうもいかないがな」
意地悪してみたら、膨れっ面になった。ビワの連中はどうも、この顔が得意らしいな。ココアもレインもやってたし。
レインは実際ビワの人間じゃないんだけどな。
「そうだよ、忘れてた。レインの安否も知っておきたい」
「だから、それは我々には分からんことだと……」
「分かってら。アシュレイドを倒す時、あのメガネとかに会った場合訊いておきたいってだけだ。今直ぐにって訳じゃない」
本当は知りたいんだけどな、今。レインが何処かで生き延びているのか、あのまま死んでしまったのか。
後者は出来るだけ、考えたくないことなんだけどな。あの場面だとそっちのが濃厚だ。悔しいが。
「まぁ、そうだな。私にとってもレインは特別だった。一方的なライバル視ではあったが……とにかく、アシュレイドを倒し真実を知るというとこは同意だ」
シルフォはうんうん、と頷く。そりゃあお前らの目的がアシュレイド倒すことだもんな。
あと、多分レインのことは認めてるだろ。認めてるからこそのライバル視だ。……何が言いたいんだ俺。
「んじゃあ、まぁ、その……もういっちょ頼むわ。たとえば、ネグロ王みたいな不意打ちに強い奴に攻撃当てる方法とか、鼻に打撃を受けまくる際に取るべき行動とか」
「かなり限定的な話だな」
「なぁに言ってんだ。2つ目は最早ネタだけど、1つ目はそこまでないことじゃねぇ。ネグロ王は別格だったけど、ウォーブとヨノギだって全然当たらなかった」
「ウォーブは言う程ではなかったぞ。《スォイフ・クロッグ》の時間停止が厄介だっただけだ」
「あれ? そうだったっけ?」
思い出してみたら、本当にシルフォの言う通りだったかも知れない。
アイツに当たらなかった時は、大体停止させられていたりしていた。レインの攻撃の殆どはヒットしてたけどな。
ヨノギの時だって、言ってしまえばバイブレ・コントローラーが強過ぎただけだ。……だけっつーのは違うか。
でもとにかく、あのコントローラーさえなければ当たってた攻撃はもっと多い筈だ。当然だけど。
「それに比べて、ネグロ王と名乗っていたあのアシュレイドは……確かに異常だな。貴様が言うことが事実なら、時間を遡った時にも気づかれたのだろう?」
「…………あれ、俺話したっけ?」
「忘れたのか、凄いな貴様は。情報共有ということで話し合った時に言っていたろう」
「凄いなって何だよ。でも言った覚えはあるな。思い出した」
シルフォがじとっと見つめて来る。ほほう、お前は露骨に態度に出るな。そんなに人をバカにするのが楽しいか。愉しいのか。
いっそ拗ねてやろうか。
「あーあー! やっぱりお前はレインとは違うな! アイツならこの程度でそんな顔しねーよ! せめて真顔だよ!」
「なっ……」
手でペタペタ頬を触り出した。何か、あまり見ないリアクションだな。
それと、レインが真顔なのを想像したら微妙にムカついたわ。どっちもどっちだわ。
溜め息を吐いたら溜め息の音が聞こえて、シルフォを見下ろす。さっきまでより格段に元気がないように見えた。
「いつかは伝えようと思っていたことだが、私はなアウドラ」
「……ん? 何? 表情は何か理由があるとか……」
「私は、レインの代わりになりたいんだ」
「はい?」
シルフォの意外過ぎる告白に、3秒くらい思考停止した気がしただけでしてなかった。こうしてちゃんと考えられている。
だけど、強い衝撃を受けたのは冗談じゃない。レインをライバル視している筈のシルフォが、レインの代わりになりたい……だと?
どーゆーこっちゃねん。
「アウドラ、貴様はレインを失って以来、少々がむしゃらに突っ込んでいる印象がある。これまで以上に、焦っているように見えるんだ」
マジかよ、そんな? そんな風に見える? 俺自身はむしろ、前より冷静に判断出来る様になったと思うんだけどな。
「焦っているが故に、相手の隙を突けていない。更には攻撃を諸に受ける。そんな調子では、アシュレイドとの戦いには勝てないだろう」
「……言われてみりゃあ確かに、攻撃受ける頻度は上がったよなぁ。ウォーブの鼻への打撃程じゃないけど」
「アレは面白がっていたのだろう、趣味の悪い。とにかく、私は今の貴様が心配でならない。自分では立ち直ったつもりだろうが、まだ傷は癒えていないようだ」
なるほど、そういう考えもあんのね。指摘されちまえば、的外れとは考えれなくなるな。
最後に戦ったネグロ王の時、コントローラーの能力が使われるのを、呑気に見てただけだしなぁ。あの棒立ちジジイなんて、動き回るヨノギより妨害しやすいだろうがよ。
相当食らってんだなぁ、俺。このままじゃお荷物じゃねーか。
「で、シルフォは何故にレインの代わりに?」
「レインはアウドラを守り、支え合って戦っていただろう? 私もそうするべきだと思ったんだ」
「へぇ、それはありがた」
「今のままでは貴様が直ぐにくたばると悟ってな」
「……けっ、必殺ゴリパン変態コスプレくノ一がよ」
──宙で5回転くらいしてから床に叩きつけられた。この女の暴力は仲間に向けるもんじゃねぇだろ。
世の中には暴力ヒロインなるものがある。それらの繰り出すパンチは人のレベルではなく、やられた相手が殺られてないのが不思議でならない程だ。
このシルフォ嬢も例外ではない。果たしてヒロインと言える器なのかは難しいところだがな。
「さて、休憩は終わりだアウドラ。いつ次のミッションが来るかは分からないからな、やれる時に出来るだけ鍛えておくぞ」
「1番怖ぇのは、この直後にミッションが来ることなんだよ。疲れ果ててっ時に戦うとか無理無理」
「安心しろ、その場合は私とココアとロプトで行く。貴様を置き去りにしてな」
「その言い方はクッソ腹立つな。いちいちバカにしねぇといらんねぇのか」
「貴様が貧弱なのが悪い」
ほくそ笑むシルフォにめちゃくちゃ苛立った。俺の世界じゃ超人って言われんだぞ俺は。普通じゃねぇんだぞ。
因みに、勢い任せに挑んだら足かけされた。漫画かよ。
「アウドラ、シルフォ、一旦来てくれるか? 大事な話があるんだ」
アレから2時間程続け、くたびれているところにココアがやって来た。何だか、BARの女店主みたいな服装してんな。
「ココア、大事な話というのは? ミッションではないのか?」
「ああ、それとは違う。関係なくはないんだけどな、取り敢えず来い」
「疲れてんのにぃ?」
「早く来い」
「へーい……」
ココアは顔可愛いんだけど、睨んだ時は凄ぇ怖いんだよな。大人しく向かうかしょうがねぇ。
「おわっ、やっぱ皆集まってんのか」
「当然だろう」
まぁそうよな。そりゃそうよな。大事な話なんだし、普通は全員集めるよな。そりゃな。
あのキツネ目アノムスすらも、珍しく引き締まった表情してやがる。これは本当に心して聞く必要がありそうだな。
俺とシルフォが来たのを確認したアノムスは、モニターにどっかの町らしき景色を映し出した。それは何処?
「全員、見えているね? ここは異世界コード『Sinpin』だ。僕らはこれから、ここに移住する」
なるほど、移住か。何度することになんだ移住。
それと、もうツッコまねーぞ。頭の幼いガキンチョが考えたみたいな異世界コードには、もう二度とツッコまん。ツッコんだら負けだ。
────いやちょっと待て移住? 移住??
「「移住!?」」
リーダー、キツネ目、男の娘を除いた全員が、同時に声を上げた。
しかし、何故皆して反応が遅れたのか。俺みたいなことでも考えてたのか? シンクロ率90%以上だったぞ今の。余裕で10人以上いるのに。
「ここよりも遥か遠い世界に、大量のコントローラーを発見した。反応があっただけだがな」
「そこに行くには、ビワからじゃ少し時間を要する。だからショートカット用の拠点を手に入れたいんだ。ここには住民はいないし、それでいて崩壊していない自然に滅んだ世界なんだ。中々いい場所だろう?」
誰もいなくなった世界って、ぶっ壊れるんじゃなかったのか? それとも、アシュレイドが関わったらってことだったのか? まだまだ知らないことばかりだ。
けどショートカットってことは、直ぐには戦わないってことだよな。
「うん、少し疑問に思ってる子達もいるみたいだね。それについても簡単に話すよ。大量のコントローラーがあるその世界は恐らく──」
アノムスが溜めたことにより、何人かが唾を飲んだ。俺は無意識に持って来た水を飲んだ。
──そして全員、驚愕することになる。
「アシュレイドの、本拠地だ」
目を見開いたアノムスにビビって反応が遅れたが、直ぐに脳内を整理した。へぇ…………………………?
「マジ!?」




