コントローラー拾ったぜい
エブリスタで初めて連載した作品をこちらに移動し連載します。
この世は何て下らない所なんだ。
俺は小さな国、 カロインの学生、アウドラ・ロップディーズ。コンクリートなど簡単に素手で割る力と、 車も楽に追い越せるスピードを持つような身体能力をもつ。
えーと、 とりあえず超人だわな、俺。
今は高校の帰りで……何だありゃ、リモコン? にしては変な形をしているな。
俺はその日、 リモコンのような三角形の機械を拾った。
家に帰って暫くソレを眺めていると、 アニメで聞くような鉄を破壊したような音が聞こえた。
「母さんか誰かでも帰って来たか?」
自分で思ったが、俺は親を何だと思っているんだろうか。ま、いっか。
音のした玄関の方を見に行くと、 ドアにはドデケェ風穴が空いていた。
「わお、見事に綺麗にまーるく空いてらぁ。 どうやったのかしらね」
ふと俺は頭上に体を貫くような鋭い視線を感じた。
「あらま、 こんな感じ? アニメじゃないんだから」
俺はアニメ以外のことを考えられないのだろうか、 そう思った次の瞬間、 俺の右耳の横辺りからアルミホイルみたく綺麗~な銀色をした細長い刃が視界に入ってきた。
これは、 ちとまずいね。
「私の言う事をよぉく聞け、 そのコントローラーをこちらに寄越せ。 さもなければ……お前の右耳は地面にくっつく事になるぞ」
地面に耳がくっ付くわきゃなかろーよ。
そこそこ頭の悪そうな言葉を口にした奴の声は女の声だった。
刃が上に向かってのびてる感じ、172センチの俺より背が低いだろう。
それより……
「あ、 コントローラーってこれ? 何のコントローラー? テレビで使える?」
「貴様、 何もわからずに拾ったのか??」
思わず驚いてるようだが、言わせてもらうぞ、人は、分からないから拾うんだろうが! ……ちげーか。
後ろからとても深~いため息が聞こえた。
ぜってぇバカだと思ったろこんにゃろう。
何故か刃を降ろした後ろの人間? は手を差し出して来た。
「渡せ。 預かる。 何も知らずにソレを持っていたら危険だ」
コレ危ねーもんなの? うそん。
「んじゃ、はい」
危ねーもんなら要らねーから振り返って渡す。
プピッ
あ、何か鳴ったぞ? え、何々? ……ん? 心なしかこの女動いてねーような……??
─────────────────────
動いてねーぞ?? どういうこった?? もしかして、俺がこのコントローラーだっけ? のボタンを押したからか?
「せめてどんな物なのかを教えてくれよ……」
とりあえずボタンをもう一度押してみると、 その女は再起動した。
何だ再起動って……。
「貴様……スイッチを押しただろう。 迂闊に触るな! それはビジョン・コントローラーと言って時間に関する事を自由に操作出来る代物なんだぞ!」
彼女ははっと口を手で覆い、 こちらの表情を伺ってくる。
「へぇ、 時間を自由に、 ね。 いいなソレ」
「ちょ、 ちょっと待て! それは世界を大きく動かすチカラを持っているんだ! お前みたいなやつが使ったら……!!」
俺は彼女の言葉を聞く事もなく、 またボタンを押した。
「おもしれーな、 マジで止まるんだもんな。 こんなもんありゃ多少は世界も楽しめるかも……」
後ろから殺気を感じる。
止まっているこの女ではないのは確かだ。
……それにしてもコイツの格好、 ニンジャってやつみたいだな……それに黒髪ポニテか。 俺的には好きだな、うん。
そう考えつつも後ろを警戒し、 即座に振り向く。
そこには夏の瑞々しい葉のような緑色の左側サイドテールをした目つきの悪い女が立っていた。
「おじょーさん、 俺に何か用? それともやっぱこのコントローラーに用? コントローラーだよなやっぱ」
「誰がお嬢さんだバカ者。 俺は男だ」
あれま男だったわ、男の娘ってやつかな? 見た目だけの。
……何つー殺気だよ、本当に殺されかねねーな。
こんな物で命落とすくらいなら喜んで渡してやるよ。
俺はコントローラーをソイツに差し出した。
「聞き分けがいいんだか、 ただのヘタレなんだかは知らないが、 命拾いしたな」
ヘタレという言葉に身体が反応し、 手に渡る直前に俺はコントローラーを引っ込めた。
「死にたいのか? 渡せ人間」
「死にてーバカはいねぇよ。 ただ、俺はヘタレじゃねぇ」
相手は大きい袖から銃を出し、 俺に向けてきた。
「3秒待つ。 3、2、1……」
男が引き金を引く直前に俺はコントローラーのスイッチを押し、相手の動きを止めた。
……が、当然もう片方は動き出す。
「もう来たか……! 一回それを貸せ!」
──────────────────────
女は俺から強引にコントローラーを取り上げると、近所迷惑とも言える大声で叫ぶ。
「ビジョン・クローズ オン!」
俺は大衆の面前でコケた人を憐れむような眼差しで中二病みたくその言葉を口にした奴を見つめていた。
女が数回試すも、何の反応もないコントローラーから、急に音声が流れた。
ーープピッ。 アナタハマスターデハナイデゴザンスーー
ござんす。
俺が言葉に疑問を抱いていると、 女は気を失った様に壁に寄りかかっていた。
ただとりあえずコントローラーが役に立たないのも分かった。
「クソ! お前が勝手に拾うからだろうが! 責任をとれ!」
女が俺に向かって切れて来たが、 俺は気圧される事なく叫び返した。
「バカだな、 落ちている物は拾うだろーが! つまりは落とした者が悪いんだ! それより俺の説明全然ねーの気づいてる??」
人にバカにされそうな理屈と自分のことがほぼ説明されていないという不満を俺は吐き出した。
これにはさすがに女も呆れている。
うぜーなおい。
はい、 ここで俺の説明開始! えー、 俺は18歳で、 学生で、 男で、 銀髪で、 首の真ん中くらいまで伸びてて、 目つきが悪いらしいです。
……箇条書きになった。
「……仕方がない、 お前がコントローラーを使いコイツを倒せ!」
コントローラーを使えって何だ? つまりはアレか? さっきの小っ恥ずかしい台詞をあの小っ恥ずかしいポーズと共に叫べと? ヤダよヤダよ噂になっちゃうよ。
そうこう考えているとコントローラーから電話のような音がなる。
その瞬間に男が動き出す。
「くっ」
男が放った銃弾を漆黒のクナイで弾く女。
何てこったよ。
「早くしろ! 貴様がコントローラーのマスターになったんだ! 貴様がやるしかない! 中心のスイッチを押して叫べ! 『ビジョン・クローズ オン』 だ!」
「それをこっちに渡せ人間。それは俺達が頂く」
ふう、 殺されたくなきゃやれってか。
父母よ、 せめて俺のせいで恥をかかないでくれ。
俺はコントローラーの中心ボタンを押し、右手ごと天に掲げる。
そしてヤケクソでスピーカーのような大声で叫ぶ。
「ビジョン・クローズ オン!」
だああああああああああああ!!!
─────────────────
いくつかの戸が開いた音がしたが、 今の俺には最早関係のない事。
とりあえずこの場を去りたい、 そう思い閉じた瞼を開けると、 目の前が見えない程の光が俺を覆っていた。
「何!? 何これ!? 目ぇ痛ぇ!! 」
一瞬、 稲妻の様に赤い閃光が俺の周りを昇っていき、 豪風と共に消えた。
何だったんだ、 さっきのは……と目の前を見ると先程まで険しい表情をしていたくノ一は明るめの表情に変わり、 逆に相手側の男はより険しい表情になっていた。
「上手くいった様だな、 よし、 貴様! コイツを倒せ!」
いや、 急に……じゃないけどようわからんし……。
「くっ、 ここまでか!?」
いやいや、 何で急に……ってうおぉ!?
俺の服装は変わっていた。
襟の立った黒いツヤのある、 太腿まで伸びた服に、 ポケットも何もなく、 何故か靴と結合している同じく黒いズボンに。
俺は黒尽くめの服装に変わった自分に驚愕していた。
「俺の服はどこだ……」
冷たく痛い視線を感じる方を見ると、 まさかの相手側まで冷めた目で見てやがった。
何なのこいつら。
「その男……ビジョン・クローズの使い方が分かっていない様だな。 ならば勝機はある!」
相手側の男……以降男の娘って言おうかな。
……殺されるか。
「うわっと!」
くノ一を吹っ飛ばした男の娘(笑)はその勢いのまま俺の方に突っ込んできた。
爆発でもしたかの様な轟音を響かせた男の脚は、 俺ん家に減り込んでいて、 あたりはボコボコだ。
「ガッデム!!!」
俺はその状態を見て思わず叫んだ。
「おい! 腕の 《サシルベ・ブレード》 を使え! 」
何だその名前! と聞いたら知るかと返された。
テキトーな設定だなオイ。
てかどこだよさしるべぶれーどとやらは! 俺の手には接合されてる手袋みてーなのと服しかございません。
「させるか!」
何も分かってないのに『させるか!』って言われて蹴り飛ばされ外に出る俺。
俺可哀想な主人公だね。
「あてっ!」
壁に頭を打ち、 鈍い音を立てる。
……でも大して痛くない、 この服のお陰なのかまたは打ち所が良かったのか……地面に落ちるほんの一瞬の間に俺は考えていた。
「とりあえず叫べ!」
─────────────────
はい? とりあえず叫べって何? 名前を?
周り見てこれ、 ギャラリーがたっくさん。
そんな中で、 さしるべぶれーど! って叫べと?? どんだけ俺を抹消してーの? 色んな意味で。
男は銃の弾を補充するとギャラリーを撃ち始めた。
「おい嘘だろ!? 周りの奴ら殺す気かよ!」
「これは見せ物じゃない。 お前も居ない方がいいだろ?」
いや、 確かに居て欲しくはねーけどさ、 この格好だし。
でも、 コントローラー拾っちった俺をやるならまだしも、 コントローラーの事すら知らねー一般人をやるのはどうかと思うんだ。
……とりあえず叫べばいいんだよな。
「さしるべぶれーど!!」
そう叫ぶと、 腕の辺りから機械音が聞こえてきだした。
ーー サシルベ・ブレード ニンショウシマシターー
そしてそのロボットの様な音声と共に袖の辺りから約40センチ程の刃が出てきた。
これが《サシルベ・ブレード》なる物らしい。
「おし! ……!? 」
立ち上がり攻撃しに行こうとしたが、 目線の先には弾の込められた銃口が有った。
まあ、 そりゃこうなるよね、 叫んでんだもんね。
俺が諦めかけたその時、 男は後ろから飛んで来たクナイを銃で弾き、 一瞬、 隙が出来た。
その一瞬の間に俺は男の後ろに高速で移動し、 紅に輝く刃で斬り飛ばした。
「げっ、 人切っちった」
俺が刑務所などを色々想像して絶望感に耽ていると、 後ろからくノ一が歩いて来た。
「安心しろ、 人を殺ったのは貴様だけじゃない。 私もコイツもだ」
いや、 余計安心出来ねーよ。
「見てみろ、 アレは人間じゃない」
あ?
俺はふと自分に付いている刃を見たが、 そこには赤い液体が付いてるのではなく、 青い絵の具の様なモノが付いていた。
「んだ……これ。 気持ち悪」
そんな事を言っている間に男は再び立ち上がる。
刃が当たり、 切り傷が出来た部分からは、 刃に付着している青い液体が垂れてきていた。
気ん持ち悪っ。
「おい、 ありゃ何だ!? 青い血が出る生物なんて俺は知らねーぞ!? 」
「私は知っている」
俺はこの腹立つくノ一を見て口が閉じなかった。
説明しろって言ってんだろがよ。
──────────────────
俺の気持ちが伝わったのか、 くノ一は溜息を吐きながら頷いた。
「終わったら全て教えてやる。 まずはコイツを倒すぞ」
男は銃を二丁構え、 空高くジャンプした。
「へいへい、 んじゃやっか」
くノ一は俺の頭上に跳び上がり、 男の放つ銃弾を弾く。
俺は一瞬、 パンツが見えたが気にしない様にし、 さらに高くジャンプをし、 男の右斜め上で刃を構える。
「よお、 空って気持ちいいな」
男は先程と別物みたいな雰囲気を醸し出し、 言うなれば怪物みたいな表情をしていた。
右眼は白目を向いており、 左目は充血し赤くなっている。
「本当だ、 人間じゃねーや」
男が俺に銃を向けるのをくノ一がクナイで阻止し、 俺はフィニッシュっぽく刃で男を叩き落とす。
「じゃーな、 男の娘君」
地に着いた男は地面に減り込み、 頭が割れそうな程巨大な音を立てた。
男が動かなくなると、 コントローラーで変わった服が元に戻った。
そしてくノ一が近づいて来る。
「ご苦労だった。 コントローラーは回収させてもらう、 さあ渡せ」
俺は差し出された手に、 犬の『お手』のように左手を乗せ、 寄り目をした。
「嫌だ。 まだ巻き込んでごめんなさいって言葉も、 アイツが何なのかも説明されてねぇからな」
恐らく殴られるであろうと思いながら俺は寄り目を続ける。
「なっ!? 巻き込んだって言うか、 アレは貴様が勝手にコントローラーを拾うから……!! 」
何度も言わせんなよ。
「落ちてる正体不明のモンは、 拾うのが当たり前だろおぉおが!」
「な訳あるかぁ!!! 」
くノ一の怒鳴り声と同時にとても人間を殴ったとは思えない高く鈍い音が響いた。
あ、 顔よりこっちで殴られるのか、 勉強になった。
俺は寝ている時のような横向きの体勢で3回宙で回転しそのまま落下した。
凄い力ですね。
「……だが、 そうだな。 コントローラーのマスターとなった以上、 貴様ももう無関係ではない。 来い、 私と共に母国『ビワ国』へ」
「ビワ国……変な名前だな」
その直後また宙を舞ったが、 高速で回るとこんな視界になるんだな。
吐きそうだ。
そして俺が行く事となった『ビワ国』では、新たな驚きが待っていた。