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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
99/205

第98話〜魔王廃城//再会〜

〜道夫達がアルリアに回収される少し前〜


「……ッ!?」


 飛び起きる様に私は身体を起こす。あの時からどうも意識を失っていたらしい。自身の体を改めると淫魔の(コア)も肉体も元に戻っていた、まるで何事も無かったかの様に。


(何が、あったの…?)


 自分は確か”モルモット”から逃げた実験体を追っていたはず、何かもう一人側にいた様な気がするが、思い出そうとしても頭痛が酷くてそれどころではない。


(任務の続行は無理ね……)


 私は奇跡的に無事だった『携帯』を開いて、順番通りに番号を打つ。


「……こちら”モルモット”所属、識別番号3-ki。任務続行不可につき、回収を求む……」


『了解、発信源特定。そこにいろ』


 通話が終わり、私は携帯を閉じる。回収の機体が迎えに来るまでの間、私は今の心と同じ何も無い青空を眺めていた。


〜〜


『もうすぐ廃城へ着陸する、そう浮かない顔をするな。あの方ならきっと寛大な判断を下されるだろうよ』


 回収用の『ヘリコプター』に乗り、私は通信機越しの声を聞き流しながら拠点である魔王廃城を上空から眺めていた。

 元々この大陸にあった、とある捨てられた城をそのまま拠点にした物で、ここでは異なる種族の魔物達が秩序を持って日々の作業に勤しんでいる。


(表向きは、ね……)


 正直に言って、私はここが嫌いだ。秩序だなんだと言ってはいるが、蓋を開けてみれば誰が誰を出し抜くか、若しくは出し抜かれるかの競争世界だからだ。


『こちら回収班、3-kiを回収。これより着陸する』


 ヘリポートに着地し機体が揺れる。自動扉が開き、その前に意外な人物が待っていた。

 黒いコートを身につけ、黒の長髪が風に揺れる。その手には相変わらず『ライトノベル』とやらを持ちながら。


「よく戻ってきてくれた。早速で悪いが、詳しい話を彼も聞きたがっている」


 彼の名は宝典教授。人間の青年でありながら、あの方の側近であり。私の所属する”モルモット”の所長でもある。


「……はい、教授」


 力の無い声で応え、私は教授と共に謁見の間へと向かうのだった。


〜魔王廃城・謁見の間〜


「……報告は、以上になります。魔王様」


 玉座の前で跪き、私は事の経緯をあのお方へ報告する。

 言い終えた瞬間、私は死を覚悟していた。こんな大失態を犯しておめおめと帰って来たのだ、この場で即刻殺されてもおかしくない。目の前におられる方が普通の魔物であったなら。


「そうか、任務ご苦労だった」


 優しい声色で玉座を立ち、霊体であるのにも関わらずポンと私の頭に手を触れて撫で始める。

 そう、この方は決して同族を殺したり、使い潰そうとはしないのだ。曰く「ここにいる全ての民は母の代から受け継がれた宝も同然、それを個人の感情で切り捨てるなぞ馬鹿のやる事だ」と。


「今回の経緯を聞いて宝典、お前はどう思う」


「まぁ、少し予定が早まったが大体計画の内だな。そして気になるのは……」


「道夫か、まさかあいつが同族だった事にも驚いたが……あれだけ経ってあの程度というのも驚かされた……」


「あ……あの……」


 撫でられ続けて恥ずかしくなってきた私は、話の途中にも関わらず声をかける。


「あぁすまない、お前は任務を充分に果たした。もう戻って構わない」


「しかし…」


「二度は言わんぞ」「後は我々の話になる。今日はゆっくり休んでくれ」


 若干の威圧感を含んだ魔王様の声を聞き、私は頭を下げて謁見の間を後にし、長い階段をぼんやりと降りていく。


(本当に、これで良かったのかな……それにこのモヤモヤはなに?)


 私の心の中に、あの時と同じ真っ黒な虚無が見える。その奥が気になって仕方ないが、覗こうとする度にあの痛みの記憶が私を追い出そうとする。

 何にせよ、良くない兆候だ。教授の言う通り休んだ方が……。


「あら名前無し、戻ってきたの」


 聞き慣れた声に立ち止まって右に振り向く。ニヤニヤしながら此方を見ていたのは、大嫌いな淫魔の三人組。

 私をいじめていた、シャルテとその取り巻き達であった。


「このシャルテに挨拶も無いなんて、随分偉くなったわね?」「独りぼっちの名無しの癖に〜」「フフフ……」


 煌びやかな金髪を揺らしながら、シャルテが近づいて来て私の胸ぐらを掴む。彼女は魔王様による『拝命』を受けた才能ある者の一人だ。

 力は兎も角、残念な頭の単純な奴だから次の台詞なんてすぐに分かった。


「「ちょっと顔貸しなさいよ」」


 言葉が重なったその時、彼女は私の腹に膝蹴りを浴びせるのだった。


〜〜


「……」


 誰も来ない城下の路地裏、三人がかりで蹴られ殴られた私はボロ布の様に地面に倒れていた。


「聞いたわよ、あなた任務に失敗しておめおめと帰ってきたんですって?それを魔王様がお許しになるなんて、一体どんな色目を使ったのかしら?」


「こいつじゃムリムリ」「だって下手だもの!アハハハ!」


 下卑た嗤い声が、遠のく意識の中で聞こえてきた。気を失い心の中に沈んだ私は、何故か真っ黒な虚無の部分へと進もうとしていた。


(痛い……でも私、その先に行きたがってる。その先にいる、誰かに会いたがってる……)


 気を失いそうな痛みに構わず、私の心はその先へと進んでいく。その中心にある扉を開けた時、小さな部屋の中心にあのお方はいた。


「……」


「あぁ、やっぱり……あなただったのですね……『あなた様』」


 ミチオが椅子から立ち上がり、全てを思い出した私を抱きしめてキスをする。互いの舌が絡み合う度、同化による激痛を拒む事なく受け入れる。

 全部思い出せた私にとって、この身体を巡る激痛全ては彼の私への愛その物なのだから。


「んっ……どうぞ、あの時の続きを、してください。『あなた様』」


 名前を呼ばれた彼が、私の首元に食らいつく。核に走った亀裂が彼から溢れる黒によって『繋げられた』。


〜〜


「つまらないわね、そろそろ行くわよ」「はい〜」「じゃあね、弱虫」


 呆れた顔でシャルテは踵を返し、二人の取り巻きもそれに続こうとしたその時だった。

 ドクン、と脈打つ音と共に路地裏の床も壁も全てが黒に染まりだした。


「なに!?なに!?」「シャ、シャルテ…!」


「これ、は……」


 まさかと思ったシャルテが後ろに振り向くと、そこには先程まで倒れていた彼女が立っている。

 そしてその周りには、見た事もない真っ黒で巨大な力が渦巻いていた。


「……kihya」


 彼女の歪んだ笑みと共に迫り来る何かに、シャルテ達はなす術なく飲み込まれるのだった。

次回、第99話


 眠っていた虚無の余燼が目覚め、彼女を嘲笑った三人へ襲いかかる。圧倒的な力の差で三人を追い詰め、形勢は一気に逆転する。

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