第97話〜疾走荒野//自分の夢より大切な貴方〜
「ルギエ!実弾は魔法銃と違って、撃ちすぎると熱でひしゃげる!それしか無いから頼んだぞ!」
「ま〜かせろって、の!!」
車輌上部の掃討銃が火を噴き、迫る蟲達に風穴を開けていく。銃自体の精度が高い訳ではないが、彼女の指切り射撃によって無駄弾は殆どない。
「うりりりりりぃ!!あははっ!実弾なんてって思ってたけど!こりゃ中々ご機嫌じゃん!?」
「言ってる場合か!横からも来るぞぉ!」「横はイオち達よろしく〜!」
「はいはい」
開けた窓から少し身を乗り出し、イオレルは散弾銃で、アルリアは手製の薬剤機械弓で応戦する。
しかし、散弾は射程距離が適切ではない為か成果は芳しくない。実弾銃には詳しくないイオレルが、博士の所から適当に選んでしまったのが災いした。
「……教わった通りにやってるのに、もう手が痺れそう。選ぶの失敗したかな」
痺れる手を我慢しつつ、イオレルは弾切れの銃へ弾を込める。その隙に廃喰虫の一匹が車体の横に取り付き、開いた窓から顔を覗かせる。
その顔面に銃口を突きつけ、イオレルは前方のレバーを引いてコッキングする。
「生憎、満員よ」
発射された散弾は醜い蟲の顔を丸ごと肉片にして吹き飛ばす。力の入らなくなった身体は車体を離れ、高速で進む地面を転がった。
「…なんだろ、今日はやけに喋れる……彼が側にいるから、かな」
ルギエやアルリア程では無いが、イオレルも道夫の事を大切な存在として好意を持っていた。
もしかしたら、今まで無かったそんな気持ちが力を与えてくれているのかもと彼女は思うのだった。
「よし、出口見えて来たぞ!センセ頼んだ!」
「分かったわ」
一発撃ち込んで後方の群れを爆破させた後、アルリアは一丁の拳銃に持ち替える。
博士曰く、学城院にいたあるエルファタが作った物を改良した逸品であるそれは、世界で初めての『陣を破壊できる弾丸』が込められている。
「タイミング合わせ!………今っ!」
死の大陸との境界を越え、同時にアルリアは引き金を引く。弾丸は正確に道夫が描いた部分を撃ち抜き、開いていた境界を再び閉じる。
「ふぅ〜、やったなぁ」
速度を落とし、マスクを外しながらガレンが深く息を吐いた。
「意外とギリギリだし〜、こっちも銃口真っ赤だわ〜。ミッチ抱いて休む〜」
銃座から車内に戻ったルギエはマスクを放り捨て、疲れた顔で道夫を抱き枕にしてすぐにも熟睡してしまう。
「さ、第六研究所へ急ぐよ。みんな後少しだけお願いね」
ガレン達は頷き、第六研究所に向けて再び車輌を走らせる。
〜森林奥、第六研究所〜
「長いこと点検だけだったけど、動力がちゃんと動いてよかったな」
人の立ち寄らない暗い森林の奥に建つ一軒の小屋、ここはアルリアが主に周辺の素材採取時に使う拠点の一つだ。
アルリア達は二人を運び出し、それぞれベッドに横にさせる。
「……よし、シダラにスエティル、蜜もまだ使えるしそれに幽月花もある。ここからは私の出番ね」
「俺達も手伝うぜセンセイ」
「えぇ、みんな後少しだけお願い」
そしてアルリアの指示の下、それぞれの素材を擦り潰しては調合していく。残り一つであった幽月花は毒である細かな種を取り除き、同じく擦り潰した所に他の素材も混ぜ合わせていく。
そんな三人の協力もあって、調合の最終段階までに10分も掛からなかった。
「しかし、薬草はいいが霊格剤になる物がないぞ?」
霊格剤とは主に生物の角や性器といった霊気や精気が蓄積する箇所を用いた素材の事だ。
獣の持つ毒等は、より霊格の高い気によって体外へ押し流される特性がある。
「大丈夫『コレ』をその代わりにするわ」
アルリアは首にかけていた一つの結晶を手に取る。それは大昔この星へ落ちた『星の欠片』の更に一欠片である。
星の霊気が込められたその欠片は、彼女がずっと追い求めてやっと手に入れた『万能薬』の材料でもあった。
「センセイ、いいのか?それ使って」
「……大丈夫。万能薬よりも、大切なのが目の前にいるんだもの……」
心の中に残る躊躇いを吹き飛ばす様に、彼女は欠片を指で潰す。いとも容易く粉々になったそれは、星の様に光りながらすり鉢の中へと落ちて混ざり合う。
「後は蜂の蜜で練り合わせれば、完成ね」
完成した一粒の丸薬『クロモルス』を持って、アルリア達は道夫の身体を起こして何とか飲み込ませる事に成功した。ただ少し荒っぽい方法だったからか服に水が幾らか着いてしまった。
「う……やっぱりちょっと無理矢理過ぎたかな?」
「い、いいんじゃねぇか?なぁ?」
「そ、そうかな…?とにかく濡れた服お着替えしなきゃね?いや別にやましい気持ちは無いよ風邪ひいちゃうと良くないからひひひ……」
「あーセンセイ遂に発作が出てきたか〜。でもむしろ良くもった方か」
薬も飲ませて一件落着、と場の空気が和やかに変わる。アルリアは気色悪い笑い声で道夫の服に指を掛ける。
その時、彼の胸元の部分に違和感を感じた。ガラス玉の様な形状と手触り、アクセサリーでも無い何かがそこにある。
アルリアはその正体を確かめるべく服のボタンを外し、曝け出されたソレに目を疑った。
「な……なによ。これ……」
「センセイ?どうし……」
ガレンが近づこうとしたその時、研究所の上空から何かが近づく音が聞こえ、その隙にアルリアは急いで着ていた服を戻す。
四人が外に出ると、上空に浮かぶ一機の輸送ヘリコプターがローター音を響かせながらホバリングしていた。
「諸君!迎えに来たぞ!!とおう!!」
浮遊中のヘリから飛び降り、一人の少年がヒーローの様に見事に着地した。思った以上の衝撃に足をビリビリさせていたが、四人は見て見ぬふりをする。
「丁度呼ぼうと思ってたわ、ナルイショウ博士」
「う……む!その必要は無いぞ!諸君らが入った瞬間から急行していたからな!あと!鳴井翔と呼んでくれるな、私はあくまで博士だしこう見えて六十歳だからな!敬いたまえ!」
幾らか大きめの白衣と共に、十二歳程の赤髪の少年は尊大な口調でズイズイと研究所に向けて歩き出す。
「さぁ合わせておくれ!久しぶりの同郷人に!」
〜次回、第98話〜
一方その頃、黒の道夫との戦いで幸運にも生き延びた一人の淫魔は、事の顛末をあの方に報告する為に魔王廃城へと帰還する。




