第93話〜同化する黒//命の光〜
「いやァァァぁぁあ!?やだ!やだやだやだ食べないで食べないで食べないで食べないで食べないでぇぇぇ!!」
「gGggrhi…」
彼女の声をもっと聞きたいと、道夫は更に深く歯を食い込ませる。
「あアアアアアアぁぁぁぁ!!!!」
淫魔の絶叫が辺りに響く。さっきまで暴れていた足も今度は押さえつけ、血が流れ出す首元から、ずずっ……と血を啜る音が聞こえていた。
最後にその肉の一部を食い千切り、そこから噴水の様に血が噴き出してきた。
「かっ……ひっあ……あが……ごぼっ」
食い千切った肉を吐き捨て、道夫は血の泡を出し始めた彼女を静観する。
これ位しても彼女は死なない、それを彼は既に知っているのだ。
「あ、あ……」
彼女は最早叫ぶ力も無く、下半身から漏れ出た生暖かい液体によって黒い地面を濡らしていく。
緩やかに再生を始めながら、私はこれから『食べられてしまう』と思った瞬間、遂に彼女の中で何かが外れてしまった。
「はは、はははハはは……」
狂気に呑まれ口角が歪に上がっていく彼女の姿を見て、道夫は笑みを浮かべながら四肢の拘束を解き、自分の両手で彼女の胸を掴み始める。
「あはは……あっ、い、いま、脱ぎます。脱ぎますから……」
彼女は自由になった両手で耐刃コートのボタンを外し、中のワイシャツごと彼の手によって破かれ、桃色の突起が露わになる。
今まで事務的な吸精ばかりでまだ誰にも見せた事のない双丘を、道夫は玩具の様に弄びだした。
「あ…あっ。は、はは…どう、ですか?喜んで、頂けてますか……?あん」
痛みで一杯だった身体への刺激で彼女の身体がビクンと跳ね、それと同時に多量の『淫気』が溢れ出す。人間であれば既に正気を無くしているのだが、彼は全く変化が無い。
次に彼は馬乗りから正常位へと体勢を変え、私は脚を開いて受け入れる。
「えへ、えへへへ……わたしのこと、たべて下さい……」
さっきの所はきっと美味しくなかったんだ。今度はどうか、私を召し上がって欲しい。
彼の顔が近づき悪魔の様に黒く伸びた彼の舌を、私は口を開けて受け入れた。
〜〜
「うぅ……ミチ、オ……」
道夫に助けられ、意識を無くしていたナナシが目を覚ます。身体の痛みや損傷は既に回復しており、後の二人がどうなったのかと起き上がると、黒く染まった大地の中心であの女に覆い被さる男の姿が見えた。
「え…?ま、まさか……ミチオ?」
道夫と思しきその悪魔は、自分を追ってきた彼女と舌を絡ませ合っていた。彼女の脚は彼の身体を挟み込んで、時折ビクンと跳ねる。
二人が何をしているのかもそうだが、それよりもまずは今の道夫だ。
あれだけの黒く大きい力を纏っているのもそうだが、何より今の彼からは『命』を全く感じない。それどころかまるでマイナス、死という終わりの先にいるかの様だ。
何があったか分からないが、このままではきっと取り返しが付かなくなる。
「ミチオ!ミチオ!」
自分の直感を信じて。彼の名前を叫びながら走って近付こうとする。しかしその足は、突如地中から現れた黒の剣によって阻まれてしまう。
道夫は一瞬だけこちらを見た後、再び彼女の方へ視線を戻す。
「ミチオ!目を覚まして!!きゃあ!?」
襲い掛かる黒の剣を避けながら進もうにも、まるで「邪魔をするな」と言っている様に、近づく度に剣の密度が増していく。
迫る不可避の一撃を防御するが、彼女の身体では耐えきれずに吹っ飛ばされてしまう。
「がっ!くっ…うぅ……」
転がった先で、ナナシは何とか体勢を立て直す。その先では舌を絡め合っていたの身体が、道夫と同じ黒に少しずつ染められていった。
「んんっ…!ぷはっ、あぁ…♡もっと……♡たべて、くらひゃいぃ……」
彼女は恍惚の表情を浮かべ、彼の力を受け入れる。その身体は更に侵食され、一部は既に同化を始めている。
襲ってきた魔物達と同じ様に、道夫は彼女を取り込もうとしているのである。
「だ、だめ…!そんなことしたら!」
上級の魔物だけが持つ核は、それだけで半永久的な命をもたらす『生命の実』だ。
同じ魔物でさえ取り込もうとはしないそれを、ましてや人間が取り込もう物なら何が起こるかなんて想像も付かない。
「そんな事……ぜったいにさせない!」
彼を助けたいとそう思った時、ナナシは胸の中が熱くなるのを感じた。
普通なら、誰もこんな事しようとしない。つい先程出会ったばかりの、更に言えば魔物の敵たる人間を見捨てもせずに助けるだなんて。
だが同時に、そんな普通なんていらないとも思った。何故なら自分の胸には今、彼が抱きしめてくれた時と同じ暖かさが確かに感じられたから。
「「だって、ミチオの事が『好き』なんだから!」」
意味も話の脈絡も関係ない只一つの想いを叫んだその時、誰かの心と私の心が繋がった。
熱くなっていた胸から数えきれない程の光の糸が溢れ始め、光を浴びた黒の大地は元の姿を取り戻していく。
「こ、これって……」
開いた右手の中に光の糸は束ねられ、一つの光として形を変える。その光は胸の中にあった物と同じ温もりを感じる。
(もしかしてこれ、あいつが言ってた……)
『それで教授、特零零は……』
『問題ない。『命』という概念を力とするこいつなら、マイナスに振り切った命をプラスに変える事が可能だ。問題は概念という物を形に変えられるかどうかだが……』
自分がまだ『試験管』の中にいた時の記憶。あの『教授』と呼ばれてた男の言う通りなら、これで道夫を助けられる筈だ。
「ミチオ、あと少しだけ、まってて……!」
奇跡が生んだ光を手に、ナナシは再び彼に向けて走り始めた。
〜次回、第94話〜
彼女が生み出した命の光を手に、ナナシは走る。果たして奇跡は起こり得るのか……




