第91話〜衝撃//再起する黒〜
〜学城院・学長室〜
「……成る程、ミチオくんがそんな事を」
プスプスと服の一部が焼け焦げ、顔を煤だらけにしながら私は呟いた。
目の前には今、イビシュエルで道夫達と行動を共にしたあの三人が、自分への敵意を剥き出しにして立っている。
まさか扉を爆破までしてしまうとは、あれは流石に死を覚悟しましたね。死なないけど。
「もう一度だけ聞く。ミチオは何処に向かった」
「まぁ、そこに行けと言った訳ではありませんが。恐らく死の大陸でしょう」
「ふざけてるのか!?死地は人間が碌な準備も無しに行ける場所じゃないんだぞ!」
ラクリオ君がすっごい顔しながら怒鳴ってきました。胸ぐらまで掴んじゃって、彼も成長しましたね。
「分かっていますとも、無論彼を死なせるつもりはありません。助けも手配済みで……」
後少しで言い終わる所なのに、抜刀したクラウくんがその切っ先を私に向けて突き付けました。
「御託はいい、私達をミチオの所に」「やめておきなさい」
彼の言葉を遮る様に言い放つ。ラクリオ君達はそれで離れてくれましたが、クラウ君だけはそうもいかない様です。
「今の君らが行っても、恐らく彼の足手纏いになるだけですよ」
「なっ……!?」
自分が足手纏いだなんて思いもしなかったか、流石の彼も動揺している様です。出来れば余り広めたくなかったですが仕方がない、事実を今ここで話してしまう方が良さそうですね。
「何故なら……彼の力はもうとっくに君達を超えてしまっているのですから」
〜〜
(斬られてない……!そして前から風…!?これか!)
淫魔が軍刀を鞘に収めた瞬間、前から突然吹き出した風。道夫は自らの直感を信じ、従う様に量子剣を振るう。
するとどうしたことか、風の他には何も無い筈が、その剣に刃が当たる感覚が響く。
(当たった!?やはりこれか!)
「シィッ!!」
理屈では無く、ただ己の直感を頼みに道夫は刃を振るった。振り下ろした一撃で時間差の斬撃を弾いたその時、吹いていた風がピタリと止んだ。
「うそ、アレ防いじゃうの!?」
「せやぁ!」
動揺した隙に道夫は即座に振り向いて、彼女の横腹から左へ一気に斬りつける。その剣は完全に急所を捉えていたが、振り抜いた直後にはもう傷が塞がってしまう。
「……はは、残念」
顔前に拳銃が突き付けられ、彼女は躊躇いなく引き金を引く。
「しまっ」
脳天に衝撃、吹き飛ばされた身体は仰向けに倒れる。頭を撃たれ、走馬灯すら見えずに即死した道夫。開いたまま動かなくなった両目は、雲一つない空を見つめるのみであった。
〜〜
「うそ、死んだ?でも通常弾で頭を撃っただけだし、確実にいくならやっぱり『核』を…」
死体の心臓へ銃を突き付けたその時、何処からか刃が走る音が聞こえた。それは時間差を伴って、彼女の右手を拳銃諸共バラバラに切り裂いた。
そこにいた誰もが、死体が動くなんて微塵も思いはしなかっただろう。
先程まで確実に死体だった筈の身体が動き始め、ゆらゆらと揺れながら立ち上がる。その目は前髪に隠れて見る事が出来ない。
(な、何よ彼!?そんなのあり!?)
いつ斬られたのか、仮に斬ったとして今何をしたのかさえ分からない。
慌てて距離を取り、堂々巡りの思考は放棄。右手を再生し、二丁拳銃を連射する。でも彼は指一本も動かさずに全て弾き返してしまった。そして再び刃の走る音がして、次は両手がバラバラに斬られた。
「もしかして、ダルマ趣味でもある?流石にそれは、悪趣味かな!」
痛みを遮断する様に耐えながら、彼女はバク宙で大きく空へと飛び上がり両手を再生、数十本もの短剣を空中に形成し雨の様に降り注ぐ。
道夫は最早構えすら無しに量子警棒の壁を生成し、襲い掛かる短剣の雨を凌いだ。
「かかった!『これでもくらえ』ってね!」
霊子で生成した長槍を壁に向けて思い切り蹴り飛ばす。それは壁を容易く貫き、直後発生させた局所的な爆発がその壁諸共彼を粉微塵に吹き飛ばした。
(やったやった!これで……)
一度生き返るとは驚いたが、これなら流石にあの得体の知れない人間でも……、そう思ったその時だった。
「ぐぶっ」
空中にいたにも関わらず、一本の剣が突然自分の身体を貫いた。知ってか知らずか『弱点』を突かれた彼女はそのまま地面へ落下してしまう。
空には何故か、先程吹き飛ばした筈の男が立っていた。
(ぐ、うぅ!ま、まずい、核に傷が……!だめ、力入らない!)
地を這う彼女の前にゆっくりと降り立つ道夫。その目に映ったその姿に、彼女は戦慄する。
左手に持った剣は先程とは全く異なり、荘厳でより歪な形へと変わり、首のマフラーは何故か影を帯びたかの様に黒ずんでいた。
涙が溢れ、歯はガチガチと音を鳴らす。この恐怖感を、彼女は良く知っている。核をそのまま握られ、潰されてしまいそうなこの感覚は、あの方と同じ……。
「な、なんで……」
目の前まで歩み寄られ、彼の顔を見たその時、彼女の中で何かが折れてしまった。
理解されてしまったのだ。こんな未知の怪物に自分が勝つ事なんて出来ないという事実を。
「なんで、笑っているのよ…!!」
顔の左半分は黒く覆われ、残る右半分だけが見えた。その口角は歪に上げがっており、深紅に染まり切った瞳は倒れ伏す彼女を見つめるのだった。
次回、第92話
突如死から蘇った道夫は、そのまま彼女を嬲り殺しにしようとする。
偶然が生み出した怪物に、もう声は届かないのだろうか……。




