第87話〜運命の手紙と//運命の呪縛〜
『したい様になさい、今はそれで構いません』
(あんな事話して……俺は一体どうしたかったんだ)
自室への帰り道、道夫は思い悩んでいた。あの事を話した時、自分はレイルスに何と言って欲しかったのだろうか。
助力でも請えるとでも思ったのか。それとも、止めて欲しかったのだろうか。
入り混じる思考が心を乱す。そして次の一歩を踏み出そうとした時だった。
「……さま!ミチオさまってば!」
「……えっ」
後ろ手を引かれて振り向くと、息を切らしたティラが自分の手を掴んでいた。
どうやらいつの間にか、ロープウェイのある場所まで来ていたらしい。
「ふぅふぅ。心配だったので、色々すっぽかして来ちゃいました。一緒に乗りませんか?」
丁度開くロープウェイの扉、ティラは道夫を半ば引っ張る様に車内へと乗せていく。
二人きりの車内で、道夫とティラは隣り合って座席に着く。
「…ミチオさま?」
彼女は道夫の手を握り、不思議そうな目をこちらに向ける。
当の道夫は、どこか上の空な顔をして遠くを見ていた。
「……え?あぁ、なんだ?」
「何か、悩んでいるんですか?私じゃ、力になれませんか?」
彼女が道夫の手を握り身を乗り出すと、ポケットから一枚の手紙が床に落ちる。何かしらの魔法が掛けられたそれには、道夫自身の姿が記されていた。
「これは、俺か……?」
「……はい。それは私の家に古くからある『運命の手紙』です。持つ人にとっての運命の人を記し映す魔道具です。だから貴方様は」
ティラは座る道夫の手を握り、キラキラした瞳で彼を見つめた。
「私の、私だけの運命の人なのですよ。パパママもそうやって結ばれました、だから私たちもきっとそういう運命にあると思うんです」
『柊くん、やっぱり私達って結ばれない運命なのかな…』
(っ!?)
唐突にフラッシュバックする数年前の記憶。あれはまだニホンにいた時の事、運命を信じて、最後は『不思議』に囚われてしまった一人の少女、水坂幸希。
助けられる筈だった命は、自分の半端な優しさによって目の前で消し炭に変わっていった。
(な、なんで今になってこんな鮮明に……)
『お前の戦いに勝利は無い』
全く関係もないのに、魔王の言葉とシーンが頭の中で繋がっていく。
止めようと思っても、脳内で始まった連想劇は止まらない。
痛み出した右目には、幸希やオランド、そしてある人々の顔が浮かびだす。その誰もが、道夫の前で命を落としていった者達であった。
『あるのはただ、代償を伴う終わりだけだ』
「ち、ちが……そんな……」
繋がってしまった思考は、道夫の心をぐちゃぐちゃに染めていく。
「ミチオさま?ミチオさま、しっかり!」
明らかに様子がおかしい道夫を見て、ティラは声を掛ける。しかし、完全に囚われてしまった道夫にその声は届かない。
「ミチオさま!!」
「っ!!うルさい!!」
感情のままに放った道夫の拳は、ロープウェイの一部を凹ませ窓に幾つもの亀裂を走らせる。
それが後少しズレていたら、ティラに恐らく直撃していた事だろう。
「あ……あぁ……」
ティラは悲鳴も挙げられないまま座席にへたり込む。そんな彼女には、目の前にいる彼の右目が赤く紅く変わろうとしていたのが見えた。
「あっ……いや、違う。これは、これは……」
我に返った道夫はその光景に後ずさる。先程の一撃で彼は能力なんて全く使っていなかった。
怯えた彼女の目が自分を見る。恐怖に染められたその視線は、まるで『化物』を見ているかの様だ。
『分かるか?私達とお前は……』
「やめろ……!やめろ!」
頭を抑え、その先の言葉を拒絶する。だがそんなものは今更無駄だ。何故ならその言葉はきっと、間違っていないのかもしれないのだから。
『同類なのさ』
「違……!うわっ!?」
後方の扉が開き、道夫は足を取られ尻餅を着く。丁度授業終わりなのか、そこにいた多くの生徒がそれを目撃してしまう
「あれ?ミチオさん?」「何で、っていうか前前!」「何だあれ、凹んでっぞ!?」「中の子ってもしかして手紙ちゃんじゃない?」「あの亀裂ってもしかしてミチオさんが……?」
伝播する声はもう止められない。道夫は只逃げる様に生徒達をかき分けて走る事しか出来なかった。
ひたすら走って、誰も追いかけなくなるまで道夫はひたすらに走った。
『それを終わらせたいなら、ここに来い』
限界が来た足を止めると何の偶然か、目の前にはイナランへの転移ゲートが開かれていた。
『探している女もそこにいる』
(……るあ)
彼女に会えば、全部終わる。
ゲートへ手を伸ばす道夫の瞳は、まるで何かに縋る弱虫の様であった。
〜〜
「あ、ミチオ!待てって!何があったんだよぉ!?」
ミチオのヤツ授業にも来ないで何してんだと思ったらまさかの偶然、本人が人混みの中を無理矢理走ってるのを発見しちまった!
あんま良く見えなかったが、これまた何か面倒な事になったに違いない。そう思ったラクリオさんはすぐにミチオを追いかけた!
「な……!アイツはっっやい!?おーいミチオー!ラクリオなんだからー!!」
追いかけて欲しくないのかそれとも眼中に無かったか、ミチオはあの棒による加速でどっかに走り去ってしまった。
「ひぃ、ひぃ……こりゃだめだ。俺一人じゃどうにも、ならん……ふぅ」
完全にミチオを見失った俺は、すぐにユィンスで連絡を取る。『作戦班』と称した連絡先には、俺よりもずっと頼れる仲間がいる。
『え〜っと、ラクリオさん?わたくし今皆様とお茶会中なのですが……』
『珍しい、どうした?』
「緊急事態だ、ミチオの様子がおかしい」
画面を見るに二人とも取り込み中の様だったが、ミチオの名前が出た途端表情を変えた。
『すぐ行く』『分かりましたわ、わたくしもすぐに』
(結局あっちじゃ使わなかったけど、作って残しといて良かった〜……)
ミチオの強さ、そして危うさというのは前々からまぁ勘づいてはいた。
それでもその力に頼らざるを得なかった俺達(まぁ主に俺なのだが)が、あいつを支える為に秘密で連絡を取り合える様に作った物だ。
「来た」
「びぃやぁおぉ!?」
今さっき切ったばかりなのに、クラウはまるで最初からいたかのように背後から来やがった。
おかけで生まれて初めてな声出しちゃったじゃないか。
「ふぅ、ふぅ。クラウさん、もういらっしゃったんですの……?」
速いな、お前も大概だと思うぞリリテ。うん。
「聞かせて、ミチオがどうしたって?」
「あ、あぁ……うん。まずはな……」
一刻を争う訳でも、アイツの命が危うい訳でもない。ただいつもと様子が違った。話といっても言ってみればこんなもんだというのに。
(やったのがお前ってだけで、なんでこんなにも不安になっちまうのかな。頼むよミチオ、無茶な事だけはしないでくれ……)
〜次回、第88話〜
死の大陸。かつてイナラン大陸の一つだったその地は、ある者によって地図上から切り取られた封印の地。
今や溢れる瘴気が命を阻み、住まうはゴミ漁りの怪虫ばかり。
死地と呼ばれる無限の荒野に、今一人の命が降り立とうとしていた……。




