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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
85/205

第84話〜勝利の代償と//また会う日まで〜

〜〜


 何も映らない闇の中、聞き覚えのある声がする。


「同胞を倒したのは、お前だったかヒイラギ。改めて見たがその力……成る程、どうりで同じ匂いがすると思った」


 それが誰か中々思い出せない。だがこのドス黒い空気は…。


「分かるか?私達とお前は同類なのさ。だから一つ教えてやる。忘れるな、お前の戦いに勝利は無い。あるのはただ、代償を伴う終わりだけだ」


 声が遠ざかる、追いかけようにも身体が動かない。


「それを終わらせたいなら、死の大陸(ここ)へ来い。探してる女もそこにいる」


〜〜


「待て!魔王……!」


 飛び起きる様に身体を起こした道夫。多少夜更かししたとは言え、悪夢のせいで身体は重く、背中は汗でべったりしてしまっていた。


「夢……?後、皆んなは…」


 ラクリオは兎も角、クラウの姿すらない。窓から差す日の光は雪のせいかいやに白い。

 道夫は顔を洗い、浴衣から着替えて部屋のドアを開けた。するとナクが廊下を走り抜けていく姿が見えた。

 声を掛ける暇すらなく、彼女はどこか焦っていた。


『忘れるな、お前の戦いに勝利は無い』


(嫌な予感がする。あっちは確か、組織の人達が泊まってた方だ……)


 ドアを閉め、道夫も彼女と同じ方向へ走り出した。もう姿は見えないが、場所は覚えているので問題無い。


「……さん!…さん!」「おじさま!」「オランドおじさん!!」


 大広間は沢山の人だかりが出来、その視線の先を伺えない。


「何だよ、どうなってるんだ!通して!」


「ミチオ、だめっ…」


 その場にいたクラウの言葉を遮り、道夫は人だかりの中を通り抜ける。

 その先では仰向けに横たわるオランドと、汗だらけで必死にその胸を押し続ける仲間の姿があった。


「よし、後十で変わるぞ!今だ!」「任せろ!」


「……いや、もういい」


 医者らしき男性が光源魔法でオランドの目を照らしながら言った。


「まだ!まだだろ!続けて……」「もういいんだ!!止めろ……」


 医者が心臓マッサージを続けていた手を止めさせる。屈強な二人組は、息も絶え絶えに涙をこらえていた。


「午前7時、雪流れの日、か……」


 医者がぽつりと、彼がもう戻らない事を宣告した。


『あるのはただ、代償を伴う終わりだけだ』


 夢の言った通り、今ここで一人の代償を伴い、道夫達の戦いは終わりを迎えた。


 消えようもない、悲しみの中で。


〜〜


 旅館側の協力も得て行われたオランドの葬儀を終えた頃には正午を過ぎてしまっていた。

 港町が一望できる丘で、道夫とクタラは二人である墓標に手を合わせる。一振りの剣が立てられたそれは、命を賭したツゼの墓であった。


「ツゼ…約束通りにできましたよ。どうか安らかにお眠り下さい……」


「何もかも、貴方のおかげだ。どうか安らかに……」


 クタラが言うには、彼が生前墓標は景色の良い場所にしてくれと言っていたのだそうだ。


「ありがとう道夫さん、一緒にさよならを言ってくれて」


「当たり前だよ、これくらいは。ツゼさんがいなきゃ、きっと勝てなかったんだから…」


 お参りを終えて互いに立ち上がる。学城院(アカリア)まで行ける定期船の時刻までまだほんの少しだけ余裕があった。


「話を戻しますが、先程言ってた空の穴と天使の様な化け物ですが……ごめんなさい、私は目にしてはいないですね」


「そうか……」


 昨日聞き忘れた事も含め、ダメ元であの一件の事を話してみた。しかし彼女も此方と同じで何の予兆も無しに連れてこられた口らしい。


「ですが、確かに興味深いですね。街の立て直しとかで暫く残りますが、折を見てナッちゃんと一緒に調べてみます。道夫さんは?」


「ひとまず、帰って休みたい…かな。学城院(アカリア)じゃなくて、イナランの家の方に……。そちらもまだ暫くは安静にしてた方が…」


『終わらせたいなら、ここに来い。探している女もそこにいる』


 帰って休みたい、身体の疲労的に嘘は全くついていない。でも道夫の心は既に、イナランの果てへと向けられていた。


「そろそろ時間か、もう行かないと」


「道夫さん、待って」


 墓標を後にしようとした道夫の手をクタラが引き止める。


「えっと、何か…?」


「…ほんとうに、大和さんにそっくり。あの人もよくそうやって、一人で思い詰めた顔をしていたんです。私にも話さないで、一人で背負い込んでいました……」


 まるで遠い日を懐かしむ様に、彼女は道夫の手を両手で包む。もう会えない恋人の姿と重ねる様に。


「もしも思い悩む時があれば、仲間を、私達を頼って下さい。あの人達にとって、貴方の存在は貴方自身が思う以上に大きいんですから」


「できる限り……そうしてみる」


「……えぇ、そうして下さい」


 わかりやすい道夫の嘘を知ってか知らずか、クタラは手を離してそう言った。

 道夫としては、自分の目的に仲間達を巻き込みたくは無かった。

 彼女(るあ)を救ってニホンに帰る。彼の目標は最初からそれだけである。そして、夢の中とは言えようやく手掛かりを掴めたのだ。


(どんな危険があったって、見過ごす訳にはいかない。それにそうすれば……)


「道夫さーん!」


 既に結構離れてしまったが、クタラは大声で道夫を呼んだ。


「まだ何か〜!」


「次会う時は、もう少し砕けていいですからね〜!私、十九歳なので!きっと年下ですから〜!」


「エェ!?とししt…!?あっ!きゃぁぁぁぁぁ!!」


 余りのカミングアウトに足を滑らせ、柔らかい雪の中を道夫は乙女の様な悲鳴をあげてゴロゴロと転がっていった。


「あははは!……ほんと、そこまでそっくりにならなくても良いのに。ね、大和さん……?」


 遠くなっていく悲鳴を見送って、銀の首飾りを握りしめるクタラだった。

〜次回、第85話〜


 数ヶ月振りにも感じる学城院への帰還と、他の班との再会する道夫達。羽根を休める彼に届いたのは、懐かしい人達からの手紙だった。

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