第81話〜真実//決断〜
「ミチオ……ミチオ!」
道夫は側で聞こえる声に薄く目を開ける。目の前には心配そうな顔をするクラウがいた。体勢と頭に感じる柔らかさ的に、今は膝枕されているらしい
「ミチオが行っちゃった後、残ってた兵隊達が現れて……。大丈夫だった?」
「……あぁ、終わったよ。今度こそ」
ゆっくりと身体を起こし、辺りを見渡す。今この場にいるのは、ナクとラクリオ達、そしてひび割れたポッドを忙しなく調べるオランドの姿があった。
「…見つけたっ!エナ!エナァ!」
血相を変えてそのポッドを調べるオランド。そして備え付けられた小型のレバーを引くと、満たされていた液体が抜かれてポッドが開かれる。
(あの子が、エナ……あんなに小さい子がこんな…)
それだけじゃない。これはつまり、左右の壁を埋め尽くしているポッド全てに『人間』が入れられている。
では、その内の幾つかには何も入っていないのは一体どういう事なのか。
「…ぅ、おじいちゃん……?」
「あぁ…!そうだよ…!おじいちゃんだよ…!」
オランドは涙を浮かべ、エナを抱きしめる。その姿に怨讐は無く、愛する孫娘を抱く祖父そのものである。
「おじいちゃん…さいごにあえて、よかったぁ…」
「最後なものか!一緒にお家へ帰ろう…!また二人で暮らそう…!」
「ううん…私わかるの。これからみんなと同じ一つになるんだって……それが、新しい聖なる血なんだって…」
「オランドさん……!」
何か、何か嫌な予感がする。漠然だが確かな直感を信じた道夫は彼の元まで向かおうとするが、身体が思うように動かず、声も出ない。
「おじいちゃん……エナ、今まですっごく怖かった。けど今は全然怖くないの……だってエナ、こんなにみんなと近くになれたの初めてだもん……」
「エナ……?」
彼女はオランドの頬に触れる。そして彼は気付いてしまう、その手の冷たさに。
「あぁ、神さま……」
笑顔で祈りを捧げようとする姿を最後に、エナの全身は緑の液体へと変わって床へと落ちる。
「あ……あぁぁ…!」
オランドの嗚咽が、悲しみがこれでもかと伝わって来る。エナだった物を掻き集めようとするも、液体は手の間からすり抜けていく。
「こんな…こんな酷い事…」
「そんな、そんなのありかよ……」
リリテは泣き崩れる様にラクリオへと身を寄せ、彼はその肩を抱き寄せる事しか出来ない。
「……街に流れてた物と同じ…最悪ね」
(……くそっ)
道夫は何も出来なかった自分に対し、その手を強く握り締める。
これでは、余りにも救われない。どんな強敵を倒したとて最後に待つのがこれなのでは、自分達は一体何に勝ったというのか。
「そうか…これが聖血の真実か……。なんという、なんということだ。だが、それなら……」
オランドは呆然と地霊点を見つめ、再び甲冑の中へ入って機械の方へ進み出す。近付くだけで核と思われる部分が開いていく。
開かれた小さな空間の中には、一振りの剣が地に突き立てられていた。
「なんだ、あれ……?ぐうっ!?」
「ミチオ!?どうしたおい!」
電気ショックの様な衝撃が頭を襲い、道夫の目に何処かの光景が浮かび上がる。
黒髪の青年と一匹の妖精、そして隣で微笑む虹色の瞳を持つ姫。そして空に舞う桜の花弁。
(彼等は……それにこの光景、何だこれは。イミュリーズじゃ……ない?)
この世界に桜は存在しない、であれば今見えたのはまた此処とは異なる世界なのか。
道夫は続く痛みに顔をしかめるが、次第にそれは収まっていく。当然見た事もない筈なのに、その風景も剣も見た事がある様な気がした。
「ミチオ、大丈夫か?」
ラクリオに頷きで返し、剣の方へと歩み寄る。剣は地霊点の魔力の中で、空色の光を纏っている。
「……今調べてみたが、学長の予想通り地霊点の魔力は本来の道を外れてある所へ向けられていたらしい」
思ったよりも冷静な声色でオランドは話し出す。だが力の限り握られたその拳は、限界寸前まで抑え込んでいる事がよく分かった
「…場所は?」
「イナランの方角、そして送り先から漏れ出る瘴気。恐らく、地図からも抹消された死の大陸『エッデ』だ」
「死の大陸……。後、その剣は一体…」
「地霊点の核……とされている物だ。これを抜けば、全ては終わる」
オランドが剣を握り、意味は無いかもしれないが、道夫もそれに続いて剣を掴む。
「さぁ…終わりにしよう。全部……」
「……えぇ」
二人で剣を引き抜き、機械はまるでコンセントを抜かれた様に静かにその稼働を止める。
遂にこの長い様で短い戦いは終わりを告げ、後は静けさと白い息だけが残るのみであった。
「…もう此処を使う事は無い、コレは君が持っていてくれ。何かに役立つかもしれんし、彼なら知っている事もあるかもしれない」
オランドから渡された剣には、確かな重みが感じられる。軽くて強く切れ味も良い、この世界の剣にしては大変珍しい感覚だ。
「帰ろう。皆が、待っている」
それだけ言って、オランドはゆっくりと階段に向けて歩き出した。決して振り返らず、真っ直ぐに。
最後まで甲冑も外さず顔も伺えないその背中が、道夫には只々寂しく見えてならなかった。
〜次回、第82話〜
決して華々しく、喜ばしい勝利でなかったとしても。彼等は静かにそれを祝い、戦いの傷を癒していく。
雪と星空、そして露天風呂。二人きりの空間に、光の幕が降ろされる。




