第80話〜//命は流転〜
『空の呼吸、全の舞・森羅流転』
光喜から聞いた話によれば、最後まで大和本人の技を昇華させた『紅蓮華』とは大きく異なる。
森羅流転は彼が今まで繋がり、そして託されてきた仲間達の想い全てが込められた技らしい。
「そんなものでっ……!」
無尽は再び肉手を伸ばして道夫を狙う。数も速度も先程とはまるで違うが、今の彼には関係ない事だ。
「……」
道夫が何もしなくとも、範囲内にあった全てが音もなく地に落ちる。彼がゆっくりと歩を進めれば、蓮の花が波紋も立てず水面に咲き始める。
「何をするかと思えば!」
斬られた肉手の中から、鋭い骨の槍が飛び出し道夫を貫いた。
しかし既に道夫の姿は花弁となって消え、それを見た無尽の視界が暗闇に染まる。
(……今?何、を……)
目も見えず、片腕の感覚がない。そして何より、そのどちらも再生できない。後ろに気配を感じた無尽はすぐさま新たな目を後ろへ生やす。
その頃には、道夫の攻撃が目前にまで迫っていた。
「……ッ!!」
盲目に乗じ、道夫は剣を思い切り斬りあげる。鋼鉄がぶつかり合う様な凡そ人体で鳴らない音と共に、無尽の身体が空中へと打ち上げられる。
「次…!」
道夫が構えると、その姿が五人に増えて無尽のいる空中へ飛び込む。代わる代わる一直線に、彼の身体を幾度も斬りつけていく。
「ぐぅぅ!!舐めるなぁ!!」
叫び声と共に轟く衝撃が、道夫の分身を完全に破壊する。
本物の道夫は咄嗟に華の壁を盾がわりに直撃を避けたが、完全には抑えきれず吹き飛ばされて壁に叩きつけられてしまう。
「か……あっ……」
余りの激痛に道夫は呼吸を忘れてしまい、周りの花達が消えていく。そして着地した無尽も、彼に向けてゆっくりと進み出す。
超特大の『破壊奏』は使用者側もかなりの消耗を強いられる。今や肉手一つ伸ばせないが、今の道夫相手には必要ない。
「ハァ…ハァ。今度こそ…うぶっ!?」
突然の吐血に無尽は足を止める。突然の変調に身体を見れば、その肉が少しずつ崩れて塵に戻ろうとしていた。
(こ、これは……あの女のど、毒か…!何故……そうか、腕を刺された時に…!お、落ち着け…ぶ、分解を、これは既に経験済みだ。なら分解が出来る筈だ……!)
無尽が毒を取り除こうと動きを止める。道夫はその間にゆっくりと、痛みを食いしばって立ち上がる。
『ミチオ!』『ミチオさん!!』
(分かってる……分かってるよ。今、立つから……)
皆んなの声が、聞こえて来る。支えてくれて、前へ前へと背中を押してくれる。
「とど!めだぁ!!」
「ッ!!」
目を開き居合の様に振り上げた剣が、無尽の刃をその腕ごと切り裂いた。
遂に両腕を無くした無尽は後ずさる。腕は血も流さず塵になり、身体中に亀裂が入って今にも崩れてしまいそうだった。
「これで…最後だ!少しだけでいい!皆の命と炎を今ここに!!」
「グアァァァァァ!!」
警棒に命、剣に想いの二つを纏い道夫は走る。
無尽の雄叫びと共に背骨が増殖、鞭や触手の様に道夫へ襲い掛かる。
苛烈な攻撃を掻い潜り、遂に警棒の一撃が無尽を捉えた。振り抜くと同時に命の光が消えるが、それでも彼は倒れない。
「ヤァマトォォ!!」
背骨が一斉に道夫に向けて直進するがもう遅い。さっきの一撃を受けてしまった時点で、お前はもう負けている。
「せぇいやぁぁぁ!!」
上から真っ直ぐに振り下ろした剣が無尽を斬る。間近に迫る背骨は動きを止め、無尽も道夫も動かない。
静寂だけが二人を包み、遂に無尽の身体は崩壊していく。
「嗚呼……」
全てが塵に帰ろうとする中、無尽はただ一滴だけ涙を流し、胸に感じる温もりに手を添えて完全に消滅する。
その顔はかつて一度も見せた事のない、穏やかな安らぎと諦めの表情であった。
「はぁ…はぁ……やっと、終わった」
その場に座り込む道夫の手から剣が零れ落ち、そのまま仰向けに倒れ込む。
「終わったぁぁぁぁ……!」
遠くから聞こえる仲間の声に、道夫は脱力しきった声と共に目を閉じる。
先程まで感じた光と炎は、まるで嘘だったかの様に無くなっていた。
〜〜
「ここは……そうか、これが『彼岸』か」
辺り一面、風に揺れる彼岸花に包まれた世界。身体の崩壊は既に始まり、後は塵に帰るのを待つばかり。
それでもまだ消滅しないのは、まだ彼がいるからなのかもしれない。
「負けちゃったね。自分……いや、僕たち。それにしても綺麗な花、見たこともないや」
此方に振り返ってサザーが呑気にも花を弄りながら話し出す。その身体ですらも少しずつ崩壊が始まっていた。
「……そうだな」
心無く返事をする。自分も諦めがついたのか、それともこの期に及んで死の実感が無いのか。
「怒らないんだな」
「別に。確かに辛かったけど、大体はヤマブキの言う通りだったから。それに……」
「それに…?むっ……」
彼……いや、サザーが私を抱きしめて互いの額を合わせる。
「ヤマブキの記憶を見たら、そんな気持ちもなくなった。だって僕達、似た者同士じゃないか」
「……ふふ、ふふははは」
「あっ、嗤ったな?結構真面目に言ったのに!」
サザーの言葉につい笑ってしまった。その表情が余りにも真面目過ぎたから。
その間にもお互いに身体の殆どが消えていってしまう。次の会話が、きっと最後になるだろう。
「サザー」
「なに?ヤマブキ」
「……死にたくない」
散々言葉に詰まって、やっと出たのはその一つだけ。視界が潤む私を、彼は強く強く抱きしめた。
「……大丈夫。もう誰も置いていったりしない、僕がずっと一緒にいる…から……」
「…ありがとう」
初めて言った礼の言葉と共に、二人の姿は消えて無くなった。
聞けば『命』は流転、生まれては死に、そしてまた生まれて来るという。
人の道を外した外道の私は当然、その流転から外れているだろう。でももし、もしもまだ望みがあるのなら。
どんな運命でも構わない。友である彼とまた会えますように……。
〜次回、第81話〜
完全決着、明かされる教会の秘密。一人の男の決断。そして、天まで届く命の光。




