第79話〜最後の夕陽//最後の呼吸〜
「やった……やった!ミチオがやったぞ!!」
「ミチオ!」
道夫は重力が戻り、ゆっくりと降りてくるクラウをお姫様抱っこで迎えた。その顔は安堵に満ちていて、涙が一滴頬を伝っていた。
「心配したんだ……ケガは無い?」
「あぁ……クラウこそ、大丈夫か?」
対する道夫の顔は全く晴れない。クラウからは死角になって見えないが、道夫の視線は地下の階段へと続く不自然な血痕を見つめていた。
「…ミチオ?」
後ろで勝利の歓声が響く中、道夫はクラウを降ろし、彼女の口に指を当てる。
「ごめんな」
そう言って彼は『偶然』側に刺さっていた一振りの剣を握り締め、焼ける様な熱さを耐えて階段の方へと走り出す。
その剣を見た時に、奴はまだ生きている。今こそ全てを終わらせてくれという彼の声が聞こえた気がしたからだ。
「えっ!?」「ミチオさん!?」「おぉい!?どこ行くんだよぉ!?」
「あっ!待って…!うっ…」
当然クラウも追おうとするが、重力変化に身体が慣れず足がもつれてしまう。
次に顔を上げた時には、もう彼の姿は見えなくなっていた。
〜〜
「ぐうぅぅ!くそっ!クソッ!何故…何故!」
無尽は身体から流れる血を無理矢理操作し、新たな身体を形成し直した。そして彼は地下から感じる膨大な力に向けて、長い階段を駆け降りていく。
(力の大半を失った。視界も霞む……。だが、まだアレがある。辿り着きさえすれば……)
さながら街灯に群がる蛾の様だ。生きる為、尻尾を巻いて逃げ出すのは構わない。
だが何より屈辱なのは『屍滅士』でも何でもない人間一人に首を断たれてしまった事だ。
(寒い……。だがもうすぐ、ここだ)
吐息も白く染めながら重く硬い扉を開く。妙に広い空間の左右には何かが納められたガラスの棺によって埋め尽くされ、部屋の最奥に一際大きい力を感じる。
「これだ…これが……」
「山吹鬼無尽ッ!!」
その力が何かは全く分からないが、縋る様に伸ばしたその手に何かが突き刺さる。
後ろへ振り返れば、心に炎を宿した人間がたった一人でそこにいた。忘れもしない、かつての私を滅したあの炎を。
『一人じゃない、皆んなの想いは此処にある。繋がって、託されて、そうした沢山の気持ちがこの炎には詰まってる。忘れない限り、この想いは決して消えやしない。人間だけの『不滅』だ』
「大和…炭介」
間違いない、彼だ。あんな炎を宿せる者がそういてたまるか。何故居るかも分からないが、これは私にとっても好機でもある筈。
今度こそ誰の邪魔も入らない真剣勝負。ここで自らの禍根を絶ち、次こそ私は前へと進む。お前の不滅はまやかしだと証明する為に。
〜〜
夕日が差し込む地下空間。道夫は何も言わずに剣を構える。だが、見覚えのある構えを見て無尽は嗤う。
「成る程、またソレか。忘れたか?私は一度それに敗れた事を。あの中にいた後もただの一度として、その炎を忘れた事は無い」
「……つまり?」
「ソレで私は殺せない。今度こそ、終わりにしてやる」
無尽は手を伸ばし、幾つもの肉手が道夫へと迫る。対する道夫は目を閉じて、構えも解かずに動かない。
終わった、不可解だがとにかく勝ったと無尽は思っただろう。否、今の彼はもう動く必要すら無かった、ただそれだけなのだ。
「なら、これはどうだ」
次の瞬間、肉手の全てが細切れになる。死角にあった物でさえも、一滴の血も飛び散る事無くその全てが塵に帰った。
「なっ……!?」
こんな物は見た事が無い。最後の場にいた水使いが似た様なものを使っていた。だがこれは知らない。
それに、辺りに咲き出した花は一体。
「知らないだろ、何せ『没設定』なんだから」
彼の前に辿り着くまで、道夫の頭では何度もその漫画が読み返された。自分は強くない、自分だけでは奴を倒せないと、今まで得た情報を元に活路を探ろうとした。
だが幾ら思い返しても見つからなかった。相手は原作を経て此処にいる上、彼の性格上あの技を見逃す筈がない。
『あ、屍滅の最後のじゃん。買えたんなら読ませてくれよ』
その時、読み返す記憶に誰かの手が映った。そこに現れたのは、七夏の幼馴染で友達の『井嶋光喜』だった。
『知ってるか?最後の大技のトコ、実は長過ぎるってんで没になった物が一つあるんだってさ。嫌そんな顔すんなってよぉ、個人的に凄いエモかったんだから!どんなのかって?それは…』
(成る程、見つからなかった訳だ)
求めていた答えは漫画の中では無く、その外にあったなんて。誰が想像つくものか、普通なら誰も思いつかない。そう、誰もが。
それは無尽とて例外ではない。確証は持てないが、これが活路だ
「何なのだ……それは。本当に同じ呼吸なのか……」
道夫を中心に、四季折々の花が咲き誇っては散っていく。生まれては死に、また生まれゆく命の流れを彼はいま司っているかの様だ。
「知りたいなら、教えてやる」
当然本人にそんな自覚は無く、先程とは別の構えを取ると、剣に夜空の光が絡みつき、その軌跡はまるで満天の星の様に輝いていた。
呼吸を整え、道夫はその名を唱えた。
「空の呼吸、全の舞『森羅流転』」
〜次回、第80話〜
無尽も知らない最後の技で決着を挑む道夫。
夕陽が照らす空間に、今こそ命が溢れ出す。




