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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
8/205

第7話〜死せるモノ//強大にて〜前編


「姉さん……姉さん!」


「んえっ!?ど、どうしたのミチオ?」


「何って……ずっと険しい顔してたし、呼んでも聞かないんだから。ほらごはんできてる」


 道夫はリアーシェの手を引いて食卓へ連れていく。ここ最近の村はピリピリした空気に包まれていた。

 ヒィスの実が腐り落ちた1件以降、森の木々も広範囲に渡り枯れ果てるという事態になりだした。

 村の中では常に警戒が続いており、道夫の仕事も村を囲んでいる門と壁の点検と、魔法壁の調整という風に変わっていった。


「ここの所、ずっとこんな感じだよ。姉さんもずっと険しい顔してる」


「あ、あはは…ごめんねミチオ。ごはん終わったらぎゅってしてくれる?」


「もちろん、幾らでもしてあげるよ。だからほら食べて」


 その時、ドクンと他人にも聞こえそうな程心臓が高鳴った。全身が総毛立ち、体が倍ぐらい重くなった様に感じた。

 彼女もそれを感じたのか、窓から遠くを見つめていた。


「ミチオ!」


「わ、わかった!」


 道夫は直ぐに自分の荷物を持って外へ出る。既に村の皆も外へ出ており、揃って山の方角を見つめていた。

 明視(センナ)を発動し彼がみたモノは、ゲームで出てくるようなドラゴンだった。

 しかし、その姿はゾンビの様に所々腐食し色々な物がこぼれ落ちている。


「シミア!奴は見えておるか!」


「間違いありません!『死竜』(ドラガ・ムウル)です!既に第1陣壁は食い破られました!」


「全員事前の打ち合わせ通りに、奴の軌道を変える!」


 死竜とは死を迎えた竜が転生を拒み生に固執し、朽ちた身体を再び入り込んだ魂が動かしているらしい。

 既に死んでいる為感覚はほぼ失っており、あるのはただ生きたいという欲望のみである。


(あんな怪物に勝てるのか…?)


 打ち合わせ通りに村人の皆が動き出す。魔法による撃退が不可能な場合、リアーシェが大規模転移陣と魔法を用意する為の時間稼ぎに移行する作戦だ。


「あんなの相手に成功するのか?する気が全くしないんだけど…」


「ミチオは知らないだろうが、これが初めてのことじゃない。その時もこの手は充分に通じた……上手くいく筈だ」


 熟練の狩人であるオーチスでさえ、その声に一抹の不安を抱えていた。

 そして全員の準備が完了し、道夫も言われてた通りに陣を描きだす。

 いつも使っていた陣とは比較にならないような大規模な陣を三人一組で描いていく。出来上がった陣は、今までにない程の大規模魔法を発動させる。


連結・太陽炎(テルラ・アギガ)!!」


 唱えた瞬間、太陽の位置から一筋の光が絶叫の様な音を響かせながらドラゴンに直撃した。

 既にドラゴンの周囲にはその身を覆う程の巨大な陣が展開され、その中心を光が通っている。

 聞いたこともない爆音と閃光が迸り、陣の中でキノコ雲が立ち昇る程の爆発が道夫の目に映っていた


「こ、こんな威力なのに…まさか」


 道夫の考え通り、あの陣は『放った魔法から周囲を守る』為の物だ。襲いかかるはずだった衝撃と爆風が来ないのは、陣がそれらを外へ及ばない様にしていたからだ。


「まだ終わってないぞ!第2陣発動!!」


連結・星墜(テルラ・メティカ)!!」


 まだドラゴンの安否も不明なまま、二つ目の大魔法を発動した。空を見上げれば、青空から此方へ落ちる一つの流星が目標地点に直撃。

 視界が白に染まる程の閃光は、辺りから音も奪っていった。


「…!!…オ!」


 視界が真っ白で、音もよく聞こえない。それでも目の前に彼女がいるのだけは分かる。道夫の手を握っている温もりは、自分が1番知っている温かさだったからだ。


「……ヤツ、ヤツは?」


 視界が戻ってきた道夫が見た光景は、ただの村人数人が起こせる様なモノには思えなかった。

 ドラゴンがいた場所はクレーターそのもので、大地が抉れ溢れるマグマが見える程であった。

 そして、そのマグマを全身に浴びながらも進行を止めないドラゴンの姿があった。


「もうすぐ第2陣壁へ着きます!」


「馬鹿な…今までなら星墜の時点で作戦は成功したぞ」


「だとすれば、変わってるのはアイツね」


 リアーシェの方を見やると、マントを外した彼女は全く見たことのない装いをしていた。

 綺麗な身体のラインをくっきりと出しているスーツに、スーツ各所に機械の様な装備、右手には短い杖、腰のホルスターにはなんと、一丁の銃を携えている。


「前のとは生きた年数も執着も段違いなのでしょう。そして、そんなこと滅多にはないわ」


「となれば、お前さんの当初の目的だった…だとすれば、本当に良いのか?」


「ええ村長、陛下が仰っていたことは本当みたい。それに、やっと使命を果たせるから」


 リアーシェはまるで別人の様に話し出す。道夫には何の話かも見当がつかない。

 それでも、彼はどこか焦っていた。ドラゴンが近づいている事以外に、彼女が戦いでも始める様な格好をしていたからだ。


「それよりも、あの怪物はどうする!もうかなり近づいているのに!」


「大丈夫だよミチオ、皆は転移陣の方へ」


 彼女の言う通りにそれぞれが動き出した。立ち尽くしていた道夫も手を引かれて陣の中へ入る。全員が入っても、リアーシェだけは入ろうとしない。


「姉さん!早く!」


「ごめんね、お姉ちゃんはいけない。だって…」


『ミチオ…』


 その先を言って欲しくなかった。これではまるで、3年前のあの日と同じだ。

 あんな事は、もうあの日の様な想いはしたくなかったと言うのに。


「お姉ちゃんが、あの悪い怪物を止めるから」



死竜ドラガ・ムウル


 魔物の中で頂点に立つドラゴン一族は本来、一つの魂を転生することで自身の記憶を持ち越すのだが、時に身体が命を使い果たした後もその身体と今の生にしがみ付く者がいる。


 身体から1度離れた魂が、無理矢理に元の身体へ戻り、自らの膨大な魔力で無理矢理に稼働させる。


 そうなってしまった者は、身体も魂も属性も変質し、ただ生きようと命を貪るだけの存在となる。

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