第78話〜刹那//想い重なって〜
「抜刀『零閃』」
「ク、クラウ…」
「遅れてごめんミチオ、とにかく今はこれを噛んで」
クラウは一粒の玉を道夫の口に入れ、道夫は言われた通りにそれを噛む。すると身体中が酸素に満ち、先程までの重さが嘘の様に治っていった。
「助かった……。それでクラウ、それが抜けたって事は……払えたんだな、迷い」
「ま、まぁ…ね。迷いというよりは、自分の想いに正直になっただけさ……。師も、愛はラブボンバーだって言ってたし」
(何言ってんだこいつ)みたいな顔をする道夫。
先程口にしたのは、空玉と呼ばれる、元々水中での酸素補給として用いられる道具である。
地上で使う事は過剰として推奨されていないのだが、酸素スプレー的な使い方も出来るとは思いもしなかった。
「とにかく、ありがとうクラウ。リリテにラクリオも、やっぱりいつも助けられてばかりだ」
クラウの手を取り、道夫は立ち上がる。その後ろではリリテが目を回している一方で、ラクリオが肩で息をしながらも親指を立てていた。
「あったり、まえさ……。ミチオは、俺たちの一番の友達で、俺たちの、希望なんだから……」
リリテを抱えて後ろへ下がるラクリオ、それと入れ替わる様にナクが戻って来た。
新しい弓を携え、その目頭は赤い。それでも彼女の目には強い決意が込められていた。
「もう大丈夫か?」
「…はい、師匠は安全な所へお連れ出来ました。私も、戦います」
「あぁ、ここで全部終わらせるんだ。行くぞ!」
目配せの後、再び前へ踏み込む道夫。対する無尽は本来の短気な所を抑え切れないのか、苛立ちと怒りの顔を明らかにしていた。
「お前達……お前達人間はどこまで邪魔をすれば気が済む!どこまで私を苛立たせれば気が済む!私を!苛立た!せるな!」
無尽の怒りのままに、肉手の牙が彼らに迫る。だが走っていたクラウの姿が掻き消え、瞬きを終えた時にはその肉手の全てが断ち切られ、無尽の目前にクラウが迫り今正に首を狙わんとしていた。
「遅い」
「(速い…!)チィッ!」
何をされたのかすら分からない無尽は、攻めではなく守りに転じた
咄嗟に彼が指を鳴らすと、クラウの身体が反転。足が天井の方に向いてそのまま落下していく。
無尽の配下『三星』の技、局所的な重力変更の力である。
「くっ…!」
「まずはひと……り」
刀を振るおうとした右腕が動かない。腕を見ればそこにはいつのまにか幾つもの矢が突き刺さり、その動きを妨げていたのである。
「今です!ミチオさん!」
「ミチオ、使って!!」
天井へ落ちるクラウが、持ってた零閃を道夫へ投げつける。
「応!!」
持ってた警棒をクラウに投げ、交換するかの様に刀を受け取る。握ったと同時に呼吸を始め、刃に水が集っていく。
(凄い、技のノリが警棒の時と全然違う!)
確かな重みを手に、道夫は無尽へと突き進む。再び血の糸が道夫に襲い掛かるが、今の彼には及ばない。
「水天、三の舞!『流水』!」
技を唱え、糸に向けて刀を振るう。水流はそのまま斬撃となり、遠くの糸すらも切り裂いた。
糸が解れ、遂に無尽の目前にまで接近する。今度は領域による不意打ちも無い、道夫と無尽の一対一だ。
「人間、如きにぃ!」
互いの刀がぶつかり合い火花を散らす。鍔迫り合いが続くも、立ち待ち無尽の刀に亀裂が走る。
「忘れたか!そう言ってお前は!負けたんだ!!」
道夫は力の限りを込めて、血の刀を遂にへし折った。その勢いのまま無尽の身体を斜めに斬ったが、まだ倒れようとはしない。
斬られた身体がグパァと開き、巨大な牙を持つ口となって道夫を噛み砕こうとする。
「舐めるなぁ!人間!!」
「人間舐めんなぁ!!」
そう叫んだ直後、聖堂の窓が砕け散り、一人の影が飛び込んだ。そこに現れたのは、何故か顔中血だらけのレジョーニである。
「ヒィィハァァ!!レジョーニ・準備・バンタン!ただいまぁあぁ!!登場!」
レジョーニは持っていた特殊メイスを、無尽の口へと無理矢理突っ込んでしまう。
しかし閉じた口によってメイスごと振り回され、呆気なく吹っ飛ばされてしまう。飛ばされて宙を舞っているにも関わらず、彼は冷静な顔で中指を立てた。
「言っただろ、バンタンだって『BOOM』」
無尽の身体から爆発が起こり、口になっていた身体の大部分を肉片へと変えてしまう。
最早人の形を為していない大変グロテスクな光景だが、その首は正に残り皮一枚で繋がっている。
「行ってミチオさん!今なら!」
「トドメを刺して!」
「うぉぉぁぁぁ!!」
透き通る様な水を纏い、両手で振った渾身の一太刀は、今度こそ無尽の首を確かに捉えた。
「忘れたんなら思い出せ!これが、仲間達との想いが!お前に無い人間だけの特別な力だ!!」
切れ味に特化した『羽衣』の一撃によって、無尽の首は激しい火花と共に宙に舞い、残された身体が動く事は無かった。
〜次回、第79話〜
遂に無尽の首を断ち、祝福ムードな仲間達。
しかし彼の残した不自然な血痕が、地下へと続く様に残っていた……。




