第76話〜勝利//絶望〜
「……終わったのか?」
静寂に包まれ、元の形へと戻った大聖堂で道夫は呟く。街を支配していた存在は今討たれ、道夫達は間違いなく勝利した筈である。
だが、彼の胸中にはただの虚しさだけであった。戦いに勝ったという歓喜も、漸く終わったという安堵も全く湧いてこない。
「ミチオォ!無事かぁ!?」
「ミチオ!」
扉が開かれ、真っ先にクラウが駆け付け、後からラクリオ達や組織の仲間達までやって来た。
その後ろからは二メートルを超える大きさの全身鎧型機動戦士『鉄士』通称フルプレートの姿もあった。
「ミチオ君、無事かね?」
「その声、オランドさん…?」
如何にも、とオランドはコクピット部分を開いて顔を見せてくれた。
前に言った『とっておき』とはこれの事だったらしい。
「……そうか、ツゼは逝ったか。そしてあいつがサザー……」
あそこだけはまるで時が止まったかの様に、二人の姿は全く動かない。
仲間達の何人かは生死の確認の為に彼らの方へ向かって行った。
「…やっぱり。ミチオ、下だ」
「下?下に何が?」
「地霊点の反応だよ。かなりの力なのか、陣の皆がピリついてる」
「あちらから行けそうですわ」
リリテの指差した先には、いつのまにか下に続く階段への入り口が開かれていた。
あそこへ行けば、こちら側の目的も果たせる。今度こそ終わる、と道夫は思っていた。
(なのに、それなのに……この胸騒ぎは何だ?)
道夫がその元凶を探っていたら、側で横たわっていたクタラが意識を取り戻しだした。まだ痛みに蝕まれているのか、息は荒く、薄く開けた目には力が無い。
「お師匠!お師匠!」
「ナクちゃん、それに……大和、さん……?」
「え…?」
クタラは確かに道夫を見て力無く、だがハッキリと『大和さん』と言った。
当然道夫には覚えがない、何にせよ彼女は素人目にもかなり弱っている。
すぐにも手当てが必要だと、即席の担架を形成し組織の仲間達に搬送をお願いした。
「やまとさん……あいつは、あいつはどうなって……」
「大丈夫、彼が……津是さんとナクが倒してくれた……」
「それは……だめっ、まだサザーにはアレが……!まだ中にっ…うぅ!ぐあぁ!」
クタラが突然痛みに苦しみ出す。そして彼女の胸元には、見覚えのある赤い線が頭を目指すかの様に伸びていた。
道夫はまさかと思って振り向いた。未だ何一つ動いていない二人が、日の動きで今正に影へ覆われようとしていた。
「全員そいつから離れろぉぉ!!」
道夫が叫んだ頃にはもう手遅れであった。二人の近くに来ていた仲間数人が此方に振り向いた後、見えない速さで何かが走り、彼等は肉片すら無い血液となって散らばっていった。
「なに……!?」
道夫が目を開けた時、降り注ぐ血の雨に身体を染める一人の男が見えた。
血の雨を悠々と進み、転がっていたツゼの頭を踏み潰す。それすら全く興味を示さず、彼は日向の中へと入っていった。
「念の為と思っていたが、やはり……。ふふふ、ハハはハハハハハハ!!ニホンでは終ぞ得られなかったが!遂に!遂にやったぞ!」
「やっぱり……目覚めていたのね。山吹鬼無尽」
「ニホン…!それに山吹鬼だって!?そんな、そんなバカな!」
クタラの言葉に道夫は動揺する。山吹鬼無尽。その名は決して現実に居ない、フィクション上の存在の筈だ。
そんな彼らに、無尽の目線が突き刺さる。凡そ全てを『邪魔』と見下して来た彼の目は、何よりも鋭く冷たい。
「あぁ……お前か。長い事私を閉じ込めておいて、哀れな物だな。そして…」
言い終わる寸前、クラウが道夫の前に躍り出る。その全身はラクリオが用意した陣達で強化と保護されている。
「無刀術『笑止ッ』!!」
すかさず繰り出した掌底による衝撃波が、目前にまで迫っていた触手の刃を弾き返す。
だがクラウの方も無事では済まず、吹き飛ばされそうになった所を道夫が受け止める。
「うっ…ごめんミチオ。後、刀貰う」
「もういいのか…?それに他のは……」
「ここに来るまでで全部使った。それに色々言ってる場合じゃない」
道夫は背中の刀を返し、クラウは抜刀の構えを取る。それを見た無尽は更に気を悪くしたか、嫌悪感剥き出しの表情を浮かべていた。
「刀、こんな所でもまた刀か。全く忌々しい……先程のを人間如きに止められたのも含めてだ。まだ身体が馴染んでいないらしいが……」
無尽が靴の踵で地面を叩くと、辺りに溜まっていた血が蠢き出して宙へと浮かんでいく。
「これだけの血があれば充分だろう。早速、頂くとしよう!」
彼が翳した左手に、浮かんだ血が吸い込まれ集まっていく。道夫達の背後からも大量の血が空を飛び、無尽の元へ集っていく。
「これ以上好きにはさせんぞ!」
オランドが鉄士用重機関銃を連射するが、一発も彼には届かない。
当たるどころか近づく事すら出来ず、何かによって火花を散らしながら細切れにされていた。
「『全能』掌握」
全ての血が集まり、掌程の塊となったそれを無尽は握り潰す。先程とは比べ物にならない威圧感と圧迫感が道夫達を襲う。
「さて、次は地下だがその前に……貴様達で試運転と行こうか」
あくまで興味なさそうに、彼は冷たく言い放つのであった。
〜次回、第77話〜
完全に復活し、望んでいた力を手にした無尽。その圧倒的な力に道夫達は立ち向かう。




