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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
76/205

第75話〜決死の弾丸//先行く者へ〜


「……」


 血の糸刃が身体を斬り刻む。斬られた端から影が繋いでいく。

 喉も先程斬られ、もう声は出せない。ヒュウヒュウと音を出しながら、それでも彼が死なないのは変身によって魂を身体に繋ぎ止めているからだ。

 変身が解ければすぐにでもバラバラになって死ぬ、だがそんな事はどうでも良い。


(今は少しでも、二人に……)


 目で追えない高速の攻撃が身体を抉る。血の代わりに黒い影が水溜りの様に広がっていくが、ツゼは決して動きを止めない。止まれば最後、もう二度と動く事は無くなってしまうだろう。


「津是さん!」


「くっ……!」


 二人の声が後ろから聞こえる。だが彼らには彼らの戦いがあり、それに全力で向き合っている筈。

 若者二人が頑張っているのなら、尚更ここで自分だけ負ける訳にはいかない。


(ははは、歳を取ったな。俺も……)


 心の底から笑みが溢れたのは『隊長が初めて笑った日』以来だったか。

 遠い思い出の中、ずっと何かを取りこぼして来た両手に力を込める。しかし、その思い出が何よりも自分を強くさせてくれた。


(もう俺は逃げない、迷わない。そして……)


 サザーの腕が迫る。相変わらず速いが今度は捉えられた。

 鞘に剣を納め、力を抜き深呼吸をする。クタラがかつて教えてくれた『居合い』の構え。意外にも普段冷めきっていた彼の心は今、かつて無いほどに熱く燃えていた。


(もう何も、失わせない。そして生きる、彼女達と共に!)


 渾身の抜刀は、寸前まで迫った右腕を見事に断ち斬った。腕は上空へと飛び上がり、攻撃を中断された腕はサザーの元へ戻って行く。


「ギャぁぁアァァぁぁ!!」


 悲鳴が響き渡り、その動きが止まった。後はその隙に一直線に走って右腕ごとサザーを抑える。


(それで俺達の、勝……)


 そう思ったと同時に『ザシュ』と間近で何かが貫かれた。何があったかも分からないが、その音と共に視界の左半分が何も映らなくなっていた。


(……?)


 思考が完全に停まり、項垂れた視界には噴水の様に噴き出る黒血だけが映っていた。


(……)


 やはり、これが自分の運命らしい。ただ三人で一緒にいたいという願いすら世界は叶えてくれないらしい。


(これが最後、お前との契約を果たす時だ)


 片手に持っていた銃を強く握る。中にあるのは最後の一発、つまり自分の精霊『ゾール』との最後の契約。

 契約を終えた先に待つのは死よりも凄惨な現実かもしれない。でもそれよりも怖い事が今目の前にある。


(それは、今ここで諦めてしまう事)


 それだけは、絶対に出来ない。諦めるという事は、今までとこれからの全てを否定するのと同じだ。


「今度こそ終わりだニンゲン!」


 死んだ仲間達の想いを。


「津是さん!やめて!!」


 彼女達が示してくれた希望を。


「ナクだめだ!離れて!」


 世界の未来、希望を。


(すまない、ココ。クタラ……さよなら)


 サザーの剣が身体を貫き、発砲音が虚しく響く。それを聞き届け、遂に意識は暗い暗い影の中へと沈んでいった。


〜〜


「あ、あぁ……」


「……なんだ、どうなった?」


 ツゼが変身銃を掲げた時、リアーシェの前例を思い出した道夫はナクを抱えて距離を取った。

 周囲の状況に変化はなく、彼は微動だにせずその身体を血剣に刺されていた。だが、彼から突き抜けて見える筈の剣は全く見えない。


「こ、これで終わりか……長年の割りには、あっけな……」


 サザーが言葉を言い終える直前、彼の左腕がふきとんだ。そして項垂れていたツゼの頭が上がり、彼はその顔を見て戦慄する。

 最早顔と呼べる物すらない。闇より暗い影がその顔を覆っていたのだから。


「な、何だこいつぶはぁ!」


 離れようとするサザーよりも速く、ツゼがその腕を伸ばして彼を壁へ押さえ付けた。そしてその腕や背中から更に無数の腕が現れ、遂にサザーの右腕を封じ込んだ。


「クソッ!!離せ離せ離せハナセハナセはなせはなせぇ!!!」


 サザーは再生させた片腕で何度もツゼの身体を刺した。だがそれを全く意に解する事なく、彼は伸ばした腕で磔にされていたクタラを解放する。


「何だよアレ……。本当にあれが津是さんなのか……」


 ナクを降ろしながら、道夫は圧倒的とも言える光景をただ見ているしか出来なかった。


「えぇ……ツゼさんはもう、私達の手が届かない所へ……」


 ナクは今にも泣き崩れそうな顔をしていたが、持っていた弓だけは決して手放さない。

 幾つもの腕が彼女を優しく抱え、ゆっくりと道夫達の方へと向かって行く。


「ミチオさん……師匠をお願いします」


「あぁ、そっちは任せた」


 道夫はクタラを抱き抱え、後方へと連れて行った。ナクは弓を引き絞り、サザーへと狙いを定めていく。

 視界は涙でよく見えないが、彼女には撃つべき場所がハッキリと見えていた。


「津是さん、お師匠!みんな!どうか力を!届けぇぇぇ!!」


「ヤメロォォォォ!!」


 別れの想いと思い出を込めたその一射は、銃弾の如く真っ直ぐにサザーの心臓をツゼの身体諸共に撃ち抜かれ、完全に動きを止めた。

 その直後に辺りの空間が歪み、元の大聖堂へと戻って行く。


「はぁ……はぁ…」


 ナクの震える手から弓が零れ落ちる。後に残ったのは静寂と、虚しい勝利の味だけであった。

〜次回、第76話〜


勝利、そして集う仲間達。そして……。

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