第73話〜目覚めし魔物//新たな力〜
〜数分前〜
「ようし行くぞお前達!」
道夫の言う通りに配置に着いた陣達が頷く様に光り出す。
それを見た道夫は助走を付けて一気にそこに向けて走り出した。
「その一!階段!」
マフラーが光り、多数の陣が道となった。駆け上がる様に走りながら、警棒に力を込めて次の段階へと移行する。
「その二!切断!」
練気と共に鐘を吊るしている部分を断ち、大質量の鉄塊となった鐘は重力に従って落下を開始する。
しかし、正直に従い過ぎたソレは、四隅の螺旋階段を砕きながら落ちていく。
これでは威力が足りないと踏んだ道夫は、陣達へ即座に指示を飛ばす。
「大きいのは床で待機!他は俺に集まって強化の後射出!」
陣達は道夫の指示通りに動き、数秒も経たずに準備を完了させてくれた。
足の強化を終えた道夫を鐘に向けてバネの様に射出した。道夫は急激な加速を食いしばり、鐘に向けて足を突き出した。
「大口開け!いっけぇぇ!!」
道夫渾身のヒーローキックは、予想の三割増しで鐘の落下を加速させた。その後は下に広がる諸々を貫いて大聖堂へ到着し、偶然にもその下にいたサザーを押し潰したのだった。
〜〜
「じゃあサザーは今、あれの下敷きに……?」
「あぁ、全くの偶然だったが助かった」
「本当、話に聞いた通りのお方なのですね……」
道夫から受け取った回復薬を飲み終えたナクが立ち上がる。まだ所々痛む様だが、大丈夫だと本人は言って一丁のクロスボウを構え出す。
少し軽口を言い合って、三人は険しい視線で鐘の方を見る。無限に続く空間も戻っていない、戦いはまだ終わっていないのである。
「…二人共、分かるか?」
「あぁ…」「はい…」
さっきから漂っていた血の臭いが、口の中にさえ鉄の味が広がっていく程に一層濃くなっていた。そして、下敷きになった筈の場所から感じる身の毛もよだつ様な気配。
先程とは明らかに異なる何かが、その中で殻を破ろうとしていた。
「ここは時間を稼いで……!」
警棒を呼び出そうとしていた道夫の肩に、ツゼは手を触れて首を横に振る。
「それじゃ時間稼ぎにもならない。ミチオはココを手伝ってやれ。できるな?」
「何とか、やってみる」
上等だ、とツゼは頷く。次の瞬間、彼を押し潰していた筈の鐘が木っ端微塵に吹き飛んだ。
そこには、余りにも変わり果てたサザーの姿があった。白かった髪は肩まで伸びて漆黒に染まり、右腕には謎の赤い線が血管の様に広がっていた。
「よくも…よくもヨクもヨクモ!オマエ達のせいでぇ!」
ミチオとナクが後ろへ飛びながら警棒とクロスボウを発射する。サザーは一歩も動かず、彼の右腕が動いたと思った時には、放たれた筈の警棒とボルトの姿が消えていた。
「死にたくない……でもまた頼ってしまった。もう止められない……でも生きなきゃ……」
左手で顔を抑え、サザーは何かを呟きだす。それは兎も角として、問題は彼の右腕の攻撃だ。
先程も速すぎて全く見えなかった。その上、放った警棒が斬られた、叩き落とされたならまだしも『跡形も無く消えた』のだ。
「あの右腕……」
ハッキリ言ってヤバいと勘が告げている。恐らく触れる事すら危険だ。
「作戦は変わらない、あの右腕は俺が封じよう。二人が頼みの綱だ、頼んだぞ」
だがツゼは全く口調を変えず、それだけ言って前へと駆ける。激しい剣戟と魔法が炸裂する中、道夫は折れてしまった弓を確認して頷いた。迷っている時間は無い。今こそアレを実践する時だ。
「ナク、手短に聞く。弓があって、隙があれば奴を倒せるか?」
「えぇ……でも弓が無いと…」
「倒せると分かれば充分だ。弓は俺が何とかする、でも奴を撃つのはナクの役目だ……出来るな?」
ナクはそれに無言で頷く。視線は少し震えていたが、その表情の闘志はまだ消えてはいない。
「ナクならきっと出来る。俺は信じてる」
そう笑顔で道夫は答え、首のマフラーが再び輝き出す。次の瞬間、道夫の周囲から漆黒の粒が無数に現れ彼のかざした右手に集まっていく。
今は細かい事を考える必要は無い。あるのはただ一点、完成されたその姿のみ。描いたイメージそのままを右手の先へ移していく。
(くっ……流石に厳しいか……)
イメージは完成しているにも関わらず、未だ持ち手の部分しか出来ていない。こうしている内にも状況は悪くなる一方だと焦る道夫の右手を彼女は強く握った。
「……一緒に!!」
「あぁ!」
輝きは更に強まり、遂にその形は完成する。漆黒の弓は羽を開く様に上下に展開され、水色に光る弦が二人を照らしていた。
新たな力『量子警棒』の輝きを、サザーは有り得ないという表情で見つめていた。
〜次回、第74話〜
新たな力を発現した道夫。それを見たサザーは血相を変えて道夫に襲い掛かるも尽くを捨て身で掛かるツゼによって阻まれる。
痛みと焦りの中で、彼は何故か過去の記憶を思い返していた……。




