第71話〜太陽照らす//大聖堂と大主教〜
「あぁ分かった。クラウも気をつけて」
道夫は下や街での状況についてをクラウから聞き終え、一息つけるべく持っていた小瓶を呷る。
効果はすぐに現れ、身体に負った傷や疲労どころか空だった魔力まで回復していく。
治癒属の力を閉じ込めた、アルリア・エイギン印の正真正銘の『回復薬』である。
「流石、先生が作った薬だ。さて……」
空の小瓶を床に置き、次はどうしようかと考え出す。その時、ユィンスから着信音が鳴り出した。通信を開くと相手はあのエセ外国語みたいな喋り方をするレジョーニ・バンタンであった。
『あーミチオさーん!やーと繋がりましーた!すぐに大聖堂の方へ向かって下さーい!』
「何があった?後そっちは無事か?」
『こっちーは作戦どーり、思わぬ協力者のおかーげであの子達も保護しましーた!でもココさん達が二人だけでサザーの所にー!』
彼の声色からして、かなり急を要する様だ。道夫が了承すると、一際激しい銃声と共に年老いた一人の声が通信に割り込んで来た。
『聞こえるかミチオくん!オランドだ!大聖堂はそこの真下にある!そっちでなんとかできんか!?』
「その声まさか、オランドさんも戦ってるのか!?」
『その通り!私も今「とっておき」に乗ってそっちに向かっておる!だから急いで……』
爆発音と共に通信が途切れてしまう。同時に街の方では黒煙が昇っていた。
まだ終わっていないと、道夫は長い階段の下を見下ろしていた。
「ネオ大聖堂(自称)はここの真下……」
真下にあると言っていたが、今までの道中でそれらしい出入り口は一つも見当たらなかった。
いけない場所へどう向かうというのか、それなら二人はどうやって辿り着いたというのか。
「こういう時、皆んなもいてくれたらな」
ラクリオとあの陣達がいれば、何か突破口を見つけ出してくれるかもしれない。無茶な事だが、リリテなら大火力で無理矢理道を切り開けるだろう。
「まぁ、居ない奴の事を考えても……うぅ!?」
突然、道夫の身体を電流の様な感覚が走った。唐突な刺激にふらつく身体を抑えて何とか持ち直す。
顔を上げると、身体が先程とは段違いに軽くなっていた。そして不意に頬を突かれそっちに振り向くと、人型になった陣が小人の様な大きさで道夫の肩に乗っていた。
「なっ、お前たしか……でもどうして」
それは『よっ!』と言わんばかりに手を挙げる。気付けば足元でも、ズボンを引っ張ったり抱きついたりする者もいる。
人型だったり陣そのものがトコトコと歩く様は、不気味さを通り越して何だか愛嬌が湧いてくる。
「それにこの感覚、姿は無いのにこんなにも近くに……」
理屈は分からないが、道夫はラクリオの存在を近くに感じていた。
何をしているかは分からないが、彼もまた自分と同じ様に戦っているんだという事は伝わって来る。
「ーー」
人型の陣がクイクイと道夫の袖を引っ張る。そちらに目をやると、それは眼前に吊るされた巨大な鐘を繰り返し指差していた。
道夫が「まさか」って顔をすると、陣はぴょんぴょんと跳ねて何度も頷く。
「大火力……そういう事か。よし、みんな集まれ!」
道夫は手を叩いて彼らを集めさせ、それぞれに作戦を伝えるのだった。
〜一方、ネオ大聖堂〜
「津是さん、これ完全に私達誘われてましたよね?」
「あぁ」
大教会へ侵入に成功し、聖堂へ渡る大扉を通ったのが数分前。通った扉は既に影も形も無く、限りなく大聖堂の通路が広がっていた。
日の光が至る所に差す空間には、むせ返りそうな程の血の匂いに溢れていた。
「ようこそ侵入者共、歓迎しよう」
そして正面の玉座に座る青年が二人に向けて両腕を広げる。彼こそ、この街を乗っ取る大主教サザー本人であった。
艶やかな黒髪の一部は白く染まり、血のような真紅の瞳は彼が吸血鬼である事を誇示するかのようだ。
「っ!師匠!」
その傍らで磔にされている白髪の女性、ココノエクタラを見てナクは叫ぶ。余りにも変わり果てたその姿は生気を殆ど感じられない。
「この外道!よくも師匠を……!」
ナク達二人は互いに得物を抜く。津是がナクを守る様に前に立ち、彼女は皆から託された銀の釘を手に構える。
「久しぶりだな、サザー。数年ぶりだ」
「んん……あぁ、お前だったのかネウマ。まだ生きてたんだな?」
「セグントとエオマの仇を取らせて貰う。忘れたとは言わせない」
「勿論、覚えているとも。いたなそんなヤツ」
「ッ!!」
津是は怒りを露わにしてサザーに向けて突撃する。だが彼の力任せの一撃を、サザーは左手一つで難なく受け止めた。銀を含んだ剣に触れても、彼の手は何の変化も起こらない。
「ははは、そう熱くなるなよ。熱いのは、キライなんだ!」
剣を押し返して手刀で前方を薙ぐ。津是の方も既に後退して距離を取る。その顔は今まで彼女も見た事ない程に怒りの感情を露わにしていた。
「生憎、そこらの失敗作とは違うんでな。殺したかったら、ここでも狙ってみるんだな?」
サザーは左手で心臓部に当て、その後手刀のまま右手首を切り裂く。噴き出した血の一滴一滴が蠢き集まって、一振りの細身の剣へと形を変えた。
「お前ら纏めて、聖なる血の贄となれ」
一歩一歩と進むその姿を、日の光が照らす。だが彼の身体が灰になる事は無かった。
〜次回、第72話〜
日の光でも死なない吸血鬼サザー。かれの操る『血剣』に苦戦するツゼは、遂に隠していた一丁の銃を握りしめる。
全ては、数年前の仇の為に……




