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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
DISC 1 前編〜灰色の世界〜
71/205

第70話〜奮えよ勇気//友のために〜

〜鐘が鳴る数分前、路地裏〜


 着火してから既に大分経つ。ラクリオは路地裏で一人炭の欠片を使って紙に陣を描き続けていた。

 大教会の方では壁から噴き出していた炎が先程から見えなくなった。あんな事出来るのは道夫位の物だ。もしもの事があったに違いない。


(どうしよう、さっきから震えが……)


 覚悟を決めた筈なのに、気付けば腕が震えていた。陣を描く手が止まってしまう程に。


「と、止まれ……止まって……」


 動かなきゃいけないのに、やる事を為せていない自分がたまらなく怖い。心の中で誰かが『逃げよう』と呟く声が聞こえてラクリオは首を横に振る。それだけは、それだけは今絶対にしてはいけない。


(じゃなきゃ皆んなの今までが……皆んな、みんな……)


 今までに会った人達の顔が浮かぶ。一際鮮明に浮かんで来たのは自分を産んでくれた両親と、道夫の姿だった。

 呪いともとれる『落ちこぼれ』の力を、両親と彼だけが認めて頼ってくれた。


(それに、道夫はもっと……)


 あの塔の中で今も彼は戦っている筈、そう思うといつのまにか手の震えは止まっていた。

 再び欠片を持って陣を描き始める、作戦開始前に道夫が言ってくれた『信じてる』という言葉を胸に抱く。

 


「爆破まで、三、二、一……!」


 作戦の一つとしてラクリオに任されていた『地下基地の爆発』が街を揺らがしていく。

 屍鬼の兵士達をわざと基地に誘い込み、爆破で一気に巻き込むという物だ。

 ラクリオも街に敷かれた一枚の紙に陣を描き終える。残された時間は後数十秒、正にタッチの差で彼は間に合ったのだ。


「頼む届いてくれ!みんなと、俺の大事な友達の為に!!」


 祈る様に右手に魔力を込めて紙に叩きつける。巨大な陣が輝き出し、鞄に納められていた紙が飛び出し舞い上がっていく。

 手をかざした状態を保ち続ける。取り込んだ一部が命を持ち始め、紙から離れようとするのを左手で抑えていく。

 魔力量的にも既にかなり厳しい。だが挫けそうになる心をラクリオは奮い立たせる。

 道夫達には遠く及ばないが、これがラクリオの大一番の戦いなのだから。


「後少し!三、二、一……!」


 鐘の鳴る時間を過ぎたが鐘は鳴らない、街では各所で魔法や銃撃の音が聞こえ始めていた。陣も紙の中へ綺麗に納められ、路地裏は静けさに包まれていた。


「や、やっ……たぁ……」


 華々しい勝利という訳でもない。暗い路地裏でたった一人、誰にも見られていない中での勝利だった。それでも、ラクリオの胸は大分晴れやかだった。

 どれだけ地味であっても勝ちは勝ちであり、更にそれが自分にしか出来ない事だったのだから。


「ヘンテコ!大丈夫でして!?」


「だから……ヘンテコなんて言うなって」


 リリテが一人でこっちの方に走って来る。貴族の娘だって事からなのか服装にはかなり気を遣ってたのに、今や所々が破れている。

 あの綺麗で可愛気のある顔も、頬の所に土汚れが付いていた。


(……って今俺何考えた?綺麗だって?)


「……もう。ほら、手を貸してあげますわ」


 その手を握り起き上がろうとした時、手を差し伸べる彼女の後ろに見えた黒色をラクリオは見逃さなかった。


「危ない!!」


「きゃあ!?」


 逆に引き倒す様に彼女の手を引っ張る。自分の所へ倒れた所に、銃声が通り過ぎていった。

 そこに立っていたのは身体の至る所を焦がしながらも地上へ這い上がって来た屍鬼の一人であった。


「やばっ!」


 名前も呼ばず、本能による使役が、陣達がラクリオ達の前に紙の盾として立ちはだかる。

 拳銃の発砲音が聞こえるが、陣達がそれを身を挺して弾いてくれている。

 その間に二人とも体勢を立て直したが、日光の無い路地裏である事が災いした。周囲はいつの間にか兵士に囲まれ、その銃口は余す事なく此方へと向けられていた。


「はは……やっぱり俺、下手っぴだよなぁ。色々とさ……ごめんよリリテ」


「謝るのは、ここを凌いでからにして下さる?」


「……ごめん、それは出来そうにないかも」


 ありったけの陣で自分達の周囲に壁を作り、ラクリオは隣の彼女を抱き寄せる。

 それとほぼ同時に一斉に銃撃が始まる。あれだけの数ではそう長くは保たないだろうが、今の彼にはそれでも構わないとどこかで思っていた。


「父さん、母さん……!ミチオ……!!ぐうっ!」


 守りを抜けてきた数発が身体を掠める。ほんの少し掠っただけだというのに、思ってた数倍は痛かった。

 酷い痛みに倒れそうになるが、それでもラクリオは力を緩めなかった。


「ラクリオ!!」


 例えそれが最後の悪足掻きであったとしても、目の前で泣きそうになってるあの娘だけは守ってあげなきゃならないと。

 彼の心からの願いと意志が、彼の中にある何かと()()()()

 こんなに身体と心が熱いのは、遂に撃たれてしまったからなのだろうか。しかし、先程から弾丸は一度も通り抜けて来ない。


「ラクリオ、目を開けて下さいまし。これは……どういう事ですの?」


 ラクリオが彼女の言葉で目を開けると、自分の中から現れた壁となって二人を守っていた。

 それが誰の物なのかなど彼が一番良く知っていた。


「これって……でもなんで」


 直後、遠くの方で敵が数体同時に吹き飛び始める。彼は大教会の塔にいた筈で、此処に来れる訳も無い。

 では何故、彼の気配と心がこんなにも近くに感じられるのだろう。


(じゃあ、あれは……!)


 一人の人影が宙へ飛び上がり、二人の前に着地する。長いコート、身体の半分のみを包むマントや一振りの剣、振り向いたその顔すらも『陣』とその一部で作られていた。

 人型としか呼べない存在だが、ラクリオにはそれが誰かなんてすぐに分かった。


「……分かるよ、君だってこと。本当に、凄いや」


『ーー』


 鈴の様な音色を響かせ『友達』は首を横に振り、ラクリオを指差してもう一度鈴の音を聞かせる。

 それはまるで『これはお前自身の力だ』と言っているかの様だった。


「そっか……ならとことん最後まで付き合えよ?リリテも行けそうか?」


「えぇ。全く、さっきまでの威勢の無さは何処へやらですわね」


「もう大丈夫さ、またこの三人が揃ったんだから。こんな奴らに負けやしないさ!」


 道夫がやっていた様に、周囲に警棒を召喚するラクリオ。リリテも杖を構え、友達も鈴の音と共に剣を呼び出した。

〜次回、第71話〜


 ラクリオが『友達』の力を目覚めさせた同時刻、道夫は大主教サザーの下へ向かったココノエ達の援護を任される。

 隠された場所にあると言う真の大聖堂、そこへ向かう為に道夫が取った行動とは……。

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