第69話〜煙は上る//それぞれの戦い〜
〜遡り、大教会庭園内〜
道夫がリヒテンスと戦い始める前、クラウと選別者の少女達は大教会の中心にある庭園へと集まっていた。
四方を通路で囲まれ、中央には噴水もある小さな庭園で、話を聞くに本来なら此処で体を動かしたりして過ごすらしい。だが少女達の顔は明るくない、何故なら。
「……ねぇ、今日は騎士様が多い気がしない?」
「うん、しかもずっとこっちみてる。ちょっとこわいかも……」
怖がる年少の子を「大丈夫よ」と宥めるリン達。彼女らの言う通り、クラウにはやけに多いどころか取り囲まれている事がすぐに分かった。
整った装飾付の鎧で全身を包む騎士達から滲み出る、餌を前に待たされる犬の様な視線でさえも。
「リン、みんなを集めてくれる?出来るだけ私の後ろに」
「?それって……」
「お願い」
クラウの言葉に渋々ながらリンは頷き、小さな声で皆を集合させる。
それを見た騎士達は鎧をギチギチと鳴らしながら、一歩ずつゆっくりと近づき始めた。
クラウはフードを深く被り直し、左手に一振りの剣を実体化させ握りしめる。
「酷い匂い……どれだけ綺麗な鎧に包んでも」
騎士の一体が正面、目の前にいるクラウに向けて手を伸ばし掴みかかろうとする。だが次の瞬間には、その両腕が空を舞っていた。
瞬きする間も無しに抜剣したクラウは呟く。
「中身はどれだけ、グズグズなのだろうね……。全員伏せて!!」
その一言で誰もが地面に伏せ、クラウは即座に剣を両手で構えて振り始める。
振り返って左回りに一度、斬り返しで右へ一度。最後にもう一度反転する様に剣を振り抜く。
時が止まった様な静寂が訪れ、騎士達の身体は鎧諸共横に真っ二つとなって倒れていった。
「トキムネ流人斬り術『懲罰』……」
残心の呼吸と共に剣を鞘に納める。彼女達を見やると、年長者が年少の子の目を塞いで今の光景を見せない様にしていた。
只の少女が咄嗟に出来る事ではない。しかしそれも長くは続かず、耐え兼ねた子ども達が塞いだ手をどけてその光景を目の当たりにしてしまう。
「ひっ、な……なんで騎士さまたおれてるの?」
「クラエスお姉ちゃん、剣もってる……お姉ちゃんがやったの……?」
年長側も何とか抑えてはいるが、クラウヘ不審な視線を向けていた。無理もないが、相手側がここまでするという事は、全員を説得する猶予は無いだろう。
クラウは彼女、リンを見込んで手を握って頼み込む。
「説明している時間がないの。リンは皆んなを連れて裏口から外へ脱出して」
「ど、どうしてよ……?何が起こっているのよ……私だって、今頭の中一杯一杯で」
リンの顔はフードで隠してはいるが、その体は震えている。
無理もないと思いはしたが、来たばかりのクラウには彼女以外に他に頼れる者がいなかった。
クラウは腹を決めて、リンのフードを取る。青空の様な長髪と瞳がクラウを映す。
そしてその唇へと、彼とした時と同じ様にそっとキスをした。
「んっ……!?」
彼女の余りに突拍子の無い行動に、リンの内にあった恐怖は一旦吹き飛んでしまった。
彼女は顔を真っ赤にしながら軽くジタバタして唇を離す。最良とはいえないが、気がついたら先程の震えは無くなっていた。
「……ぷはっ。お願いリン、全部終わったらちゃんと説明するから……」
悲しげな顔と共に額を合わせるクラウ。リンの方も彼女の言葉を鵜呑みにした訳ではないが今の状況が只事じゃない事。
そして子ども達が危険に晒された以上は自分達で守らなきゃいけない事も理解していた。
「みんな『よく聞いて』!今から裏口に向かうよ!年長の皆は年少の子と手を繋いであげて。ラハサは先頭、私が一番後ろにつくよ!」
彼女の言葉を聞いた途端、パニックになりかけていた少女達がお互い静かに頷き合って手を繋ぐ。まるで、こうなる事を想定していたかの様に。
「いつか、こんな怖い事が起きるんじゃないかって思ってた……。これで、いいのよね?」
何も言わずにクラウは頷く。他の少女がリンを呼ぶ中、彼女は最後にクラウの耳元で囁いた。
「その代わり、後で全部教えてよね。貴方の事も」
そう言って彼女はドアの方へと駆けて行った。塔の方では一部の壁が溶け出し、中から激しい炎が噴き出していた。
その炎を誰が生み出しているのか、クラウには既に分かっていた。手助けに行こうとしたその足を、四方から向けられる殺気が止めさせる。
「まだ来る、それにこの数は……」
通路のドアから、若しくは床に隠された通路や窓を打ち破りながら先程と同じ騎士達が次々と現れる。
その数はおよそ十数体、窓から見える通路の中では逃げ惑う神父や職員達の姿があった。
だが彼等を襲っている姿は無く、あくまで狙いは此方の様だ。
「もうなり振り構わないと言う事ね」
一見余裕そうにしているクラウだが、その実それなりに焦っていた。
騎士の相手をしていては時間内に道夫を手助け出来ない。無視して突っ切れば間に合うだろうが騎士達も自分をどこまでも追いかけ、最悪囲まれて道夫の足を引っ張るだけだ。
「ミチオ……信じてるから」
納めていた剣を抜いて構える。彼を助けに行けない歯痒さを残しながらも、それが最良の手である事を信じて。
〜次回、第70話〜
彼は『友達』が欲しかった。魔法陣が人生初の友達とは思いもしなかったが。
世界はそれを認めなかったが、ほんの一部が認めて受け入れてその上頼ってくれた。それもまさか、ずっと年上で経歴も生まれも持ってる力もわからない奴とは思わなかったが。
だから彼は、ほんのちょっぴりだけ勇気をだす事にした。




