第68話〜昇る爆炎//本当の奇跡〜
「うおぉぉぉぉぉ!!」
階段を駆け上がりながら一撃一撃、リヒテンスの身体を捉えていく。その度に血のシャボン玉が軌道をズラして決着を遠ざけていった。
「後少し!後少し耐えれば……!」
シャボン玉だけでなく、壁から騎士を生み出して時間を稼がせる。三騎が横に並び大楯を構え壁となった。
「邪魔!!だァァ!!」
両手で警棒を右に薙ぐ、そのたった一振りで大楯の壁は後ろの騎士諸共ドロドロに溶かしていく。
炎に耐え得る岩の騎士をたった一撃で溶解させたその力を見て、リヒテンスは確信する。
(あの炎、空振る度に火力が上がっている!だがそんな温度、使う側だって…!)
彼の思う通り、道夫の方も限界が近づいていた。呼吸と練気で炎を生み出し制御しなければ炭になっていただろう。
それでも道夫は止まらない、仲間達の為にも止まれない。先程よりも速度を上げ、より早くシャボン玉を消し飛ばしていく。
「止まれ……!止まれ!!止まれ止まれ止まれ止まれ止まれとまれとまれトマレとまれ止まれトマレとまれェェェェ!!」
リヒテンスが後ろへ飛び上がってもすぐ目の前に道夫と炎が迫り、既に太刀筋は当たらないにしても常に彼のいる所に向けられていた。
道夫が潰す数が生み出す分を超え始め、数十あったシャボン玉もあと僅か。尽きてしまえば再生する残り一分を待たずして塵も残らず焼却されるだろう。
「これでぇぇ!!最後ォォ!」
巨大な鐘がすぐ近くにまで迫る中、道夫は遂に最後のシャボン玉を破壊した。邪魔する物はもう無い、後は全力を目の前の相手に叩き込むだけだ。
最大にまで達した炎の暴威は、確実に奴を消し炭に変えるだろう。
「うわぁぁぁぁ!!」
リヒテンスは叫びと共に動きを止める。このまま振り下ろせば確実に当てられる、筈だった。
その一歩を踏み出した瞬間、ドクンと心臓が大きく脈打ち、今まで体感した事の無い感覚が身体を包みだした。
(ま、不味い……)
限界を越えた事によるストッパーを掛けられ、視界はまるで天地をひっくり返したかの様に回っていく。炎が揺らいで消えかかる中、道夫は最後の力で警棒を振り下ろす。
何かを斬った手応えと共に倒れるが、その一撃は彼を仕留めるには至らなかった。
「ギィアァァァァァ!!?ガァッ!腕!うでぇ!!いたい、いたいいたいイタイィ!!クソッ!クソッ!!」
腕を斬られたのか喚き散らすリヒテンスの声が聞こえる。もう顔すら上げられない道夫の頭を彼は感情のままに踏みつける。
「クソ!クソッ!この!この!!なんでっ!右を!狙うんだよぉ!!あの子の手を握った方ぉ!!」
涙声で何度出鱈目に踏みつけられても、道夫は全く動けなかった。鼻や口から生温かい血の感触がしても、彼の心には『肝心な所でまた失敗した』という後悔しか映っていなのである。
「はぁ……!はぁ、いけない……もう時間だ。殺すのは、後にしなきゃ……それに、なんだあの『壁』は」
途中から『見えない何か』に足を阻まれ、リヒテンスは荒い息と涙で顔をくしゃくしゃにしながら鐘の方へと踵を返す。鐘が鳴るまでのたった二分が、お互いにとても長く感じられた。
(ごめん皆、また俺は……)
目を閉じようとしたその時、なんの偶然かその瞳に日の光が映り込む。偽りの太陽であれど、その光の暖かさは変わらない。
そこで道夫は、本当の『奇跡』を目の当たりにする事になる。
「……っ!」
太陽の光は、まるでスパークの様に道夫の脳内にある記憶の糸に繋がった。そして浮かんだ光景、否『漫画のコマ』は道夫にある言葉を残していく。
『天迎…?』
太陽が引き起こした記憶のスパークは『出来る』と自身が思う前に満身創痍だった道夫の身体すら動かした。
道夫は警棒を両手で下段に構え呼吸をする。限界だった体でも容易に呼吸が出来、警棒に再び炎が宿りだす。
「な、なんでまだ動ける…!?でももう遅い!」
血を流し過ぎた彼にはもう『五行印血』を使うだけの力は無い。しかし鐘が鳴るまで三十秒を切り、鐘の方もその音色を奏でるべく動き出していた。
ここで彼自身が滅されても、道夫にはそれを止める術がない。リヒテンスの勝利は確実な筈だった、道夫が彼の方へ真っ直ぐに向かって来るのであればだが。
「すぅ……ハァッ!!」
道夫は掛け声と共に、勢いよく警棒を投げつけた。そして狙いも、リヒテンスには擦りもしない。
「なっ!?どこを……いや、まさか!」
余りの予想外に身体が動かず、投げられた先にある物に気付いた時には手遅れであった。
廻り続ける炎の輪が塔の壁を溶かし、中で回り続けていた歯車に挟まって動きを止めた。
歯車は一つ一つが綺麗に噛み合う事で、どんな大仕掛けでも動かせる。しかしそこに警棒という不純物が入った事で、鐘を動かしていた全ての歯車を停止させたのだ。
(まだ十秒ある!左手諸共あの棒を外せば……あっ)
歯車に気を取られたリヒテンスが視線を戻した時には、道夫がもう目の前にまで迫っていた。
「天迎、『天地』……!」
その名の通り、炎を纏わせながら斬り上げから即座に振り下ろす二連撃。回避も防御も出来ずに直撃したリヒテンスは、血を流す事なく後ずさっていく。
「な、なんで……最後には信じた者が救われるってあの人も言ってたのに。どうして……」
街は陣の影響から解き放たれ、煙が上がる街を本物の太陽が照らしだす。その光に当てられたリヒテンスも塵に変わろうとしていた。
「きっと、信じるモノを間違えたんだよ。あんたは……」
「は、ははは……。そうだ……私は、ただ……あの子たちと一緒にいたかっただけ…なの……に」
大粒の涙を流しながら、彼は塵も残らずに消滅した。それを見た道夫は、力が抜けた様にその場に座り込んだ。
「か……勝った」
そう呟く道夫だが、心に残った後味の悪さを拭う事は出来なかった。
〜次回、第69話〜
遂に街の幻惑を解き、本当の太陽を取り戻した一向。ラクリオやココノエ、組織のメンバー達も次々と大教会へと進撃を開始する。
そして少し遡り、選ばれた少女達と共にいたクラウに魔の手が迫る。




