第67話〜唄う地下//鮮血と炎〜
〜地下水道、大教会前〜
地下水道だけでなく例の液体が流れる鉄管も見えてきたココノエナクと津是の二人。
嫌な臭いも混じりあって相変わらず居心地の悪い道を進み、教会まで後少しだとナクが踏み出そうとしたその時、津是がその歩みを止めさせる。
「津是さん?」
「声がする。敵ではない何かが」
津是の言葉にボウガンを準備しておく。しかしその後に聞こえた声が、ボウガンを握る手を離させる。
「な……何よ、この声」
聞こえてきたのは子供の声だった。何を言っているのかは分からないが、遊び回ってはしゃいでいる様な明るい声であった。
地下の水道からこんな声がする筈は無い。もしかしたらと最悪のイメージが浮かび出し、冷や汗が出て胸の音が高くなる。
「ココ、最悪な考えを持つのはまだ早い。実際にこの目で見るまでは」
「えぇ、分かってる……」
ナクは深呼吸を一回して落ち着きを幾らか取り戻し、再び歌の聞こえる地下水道を進んでいくのであった。
〜鐘の塔内部〜
「おやおやぁ、一撃だなんてあっけなぁい。でも念には念を押しておきまし……」
その瞬間、土煙から飛び出して来た刃がリヒテンスの左頬を掠めて行った。
煙が晴れて姿が見え始める。そこには真っ二つにされた岩の騎士と、本来なら真っ二つにされていた筈の男の姿が見えた。
「な、なぜ……」
「何が、切れないって……?」
騎士が向かってくる前に、道夫は得物を構えながら例の漫画にあった呼吸法を思い出して実行していた。
呼吸と共に体内で練り上げられた気が身体を通して警棒へと伝わり、練気の刃となって振り上げた先の騎士を断ち切ったのだ。
(だ、大分危なかった……。だが)
頭の中で『出来る』と思うだけで、仕組みも何も分からないフィクション上の力を実現させる。
相変わらずな運用だったが、その光景を目の当たりにした相手は明らかに狼狽えていた。
(こういう時は辛さを耐えて見栄を張れ。だったか七夏?)
「ちっ、何やってる!まとめてかかれ!」
リヒテンスの号令で騎士達が一斉に道夫に向けて襲い掛かる。その数は十体近く、まともに戦えばあっという間に串刺しだ。
だが今の道夫には、記憶を辿って見つけ出した『技』が有った。パクリその物だが使える物なら使うべきだろう。
道夫は呼吸を変え、記憶のままに唱えだす。
『|焔火呼法、一の舞・篝火!!』
豪、と炎が大太刀程に燃え盛る。真っ直ぐに斬り上げた炎は剣閃となって空の騎士達を通り抜ける。
動きを止めた騎士の心臓部に炎が灯り、爆発したかの様に勢いを増し尽くを火達磨にして撃ち落としていった。
「くっ!」
先程の表情はどこへやら、リヒテンスは血相を変えて階段の縁からもう二つ上の階段まで飛び上がる。
登らせまいと『伸加速』で追いすがる道夫、だが敵は空中で此方に振り向き喉を摘んで叫び出した。
「五行印血・破壊奏!!」
身体が考えるより速く両手で耳を塞ぐ。直後に聞こえた金切り声の様な叫びは、道夫の動きを封じて地面へと落下させる。
しかし相手の方も、対応を迫られた事で一つ上の階段までにしか手が届かなかった。
「かはっ……こ、こまで。しょう、もうが」
階段を登った後も、リヒテンス破壊された喉の痛みで身体が動かせなかった。
ヒュウヒュウと息は荒く、口内は血の味で充満している。再生を急ぐ中、下では道夫が既に体勢を整え跳ぼうとしていた。
(魔力はあと僅か、一瞬だけなら出来る!)
『瞬刹』の陣を描き、伸加速と共に発動。リヒテンスが瞬きした時には、彼は既に上空へと陣取り技を撃つ為の呼吸を終えていた。
「五の舞・炎天穿!」
「ご、五行印血・幻妖射泡」
渦巻く炎を宿した突きが目の前の赤いシャボン玉に触れた時、胴を捉えていた一撃は見当違いの方向に放たれては先にあった壁を溶解させる。
すかさず射出した警棒もリヒテンスに擦りもしない。再び距離が開いた二人は次の一手を考え始めていた。
(かなり身体が辛い……。パクリ技は後一回で限界だ)
道夫は数回に渡る技の使用で身体にかなりの負担が掛かっていた。最後の一回に賭けた道夫は警棒を顔の横へ寄せ、開いた左手にシャフトを乗せる様に構える。
(鐘の時間まであと五分。ここを耐えれば私の……)
対するリヒテンスは、喉の再生に後三分。口に溢れた血を利用していた為、再生すれば先程の技は使えなくなる。彼を目の前にして残り二分を耐え切れる保証はない。
しかし自分の命を天秤に掛ける必要はない。鐘を鳴らせさえすれば此方の勝利なのだから。
「六の舞・炎踊花綸……!」
「幻妖射泡……」
炎踊花綸、作中でも屈指の大技の一つだったこの舞は、発動前に構えを要する必殺の連撃である。
相手も再び紅い血のシャボン玉を作り出し辺りを埋め尽くしていく。
『ならば尽くを潰した上で焼き尽くす!』
技の持ち主が言っていた台詞と共に、道夫は足を踏み出した。
〜次回、第68話〜
螺旋階段を炎が昇り、紅いシャボンが空を舞う。
決着まであと五分、先に手が届くのは果たしてどちらか……。




