第66話〜鐘と騎士//聖なる血の力〜
「エナ…?ねぇ、エナって子いたっけ?」
聞き回っても皆首を横に振る。彼女が此処に連れて行かれたのは数ヶ月前、一年も待たずして親元にも帰らずに消えるなんて事があり得るのか。
「数ヶ月程前に此処に来たはずなんだ。何か分からないかな?」
「待って、そういう事なら確か……」
同い年にして一番の年長者のリンが近くの本棚を漁りだす。取り出したのは一冊の本でまだ新しい。
「ほらここ、エナ・ホーン。貴方の言う通り数ヶ月前に『聖所』に向かったとあるわ」
「聖所?」
「聖所は此処から更に特別に選ばれた人だけが行ける場所で『神様に最も近い場所』だとか言われてる。そこで祈りを捧げられるのはこの街じゃ一番の名誉なのよ」
リンが「さぁそろそろ広場へ行くわよ」と皆を引率して教室を出る。
教室の外には、二体の巨大な鎧が列の前後を守る様に付いていった。
「そう言えば『守護天使』様は初めてよね?私達を守って下さってるの。怖がらなくて良いからね」
少し恰幅の良い少女ルシェが後ろから教えてくれる。只クラウには、それを味方だとは到底思えないのだった。
〜鐘の塔前、歯車廊〜
「もう暫くで鐘が鳴る、急がないとな」
所々に歯車が回る廊下へ辿り着いた道夫。幸運にも人と全く出会さずに塔の建つ内部へと入る事は出来たが、ある物を目にして足を止めていた。
(なんだあの鎧は……)
二メートルはある巨大な鎧が辺りを歩き回っている。しかしそれからは人の気配が全くせず動きも機械的、ロボットの様な何かなのだろう。
隠密行動は素人同然の道夫がここまで来れたのは、それを助ける魔法の存在と幸運が味方したからである。
そして機械は、魔法発動による魔力反応を検知出来ない。
「瞬刹と音静の合わせ技なら……」
両手で二つの陣を同時に描き発動させる。身体を電光が走り、周囲の「音」を奪うことで掻き消した。
狙いを定め、一直線に飛び出す。弾丸の様に空中を真っ直ぐに飛んだ彼は、塔の入り口である門の横にある柱の上に身を隠した。
「はぁ、はぁ……残魔力量チェック……」
心臓が非常に速く鳴っている中、ユィンスで自身の魔力量を確認する。発動前は百あった数値が、今はたったの十にまで下がっていた。
それもその筈で、道夫が魔法を使えるのは姉から譲り受けたほんの少しの魔力があるからだ。
魔力の拡張も満足にやれてない中で、消費の大きい『瞬刹』を使った事であっという間に彼の魔力は枯渇しかけてしまっていた。
「落ち着け……魔力は兎も角、身体は呼吸で何とかなる筈」
津是から教わった『体回復の呼吸』を思い出して実践する。半信半疑で行っていたが、一呼吸終える度に騒ぎ立てていた心臓は緩やかさを取り戻していく。
「よし、見張りも丁度向こうに行った。今なら行ける」
『音静』の効果がまだ効いてる内に、道夫は柱を降りて門の中へと忍び込んだ。
中はかなり大きめの大理石に似ている四角の螺旋階段が鐘の側まで伸びている。
「すうぅぅぅ……はああぁぁ。これがぁ、えらばれた方の香りぃ……くんくん、ふあぁぁはは……おや?」
その中心で屈みながら、自分の右手を嗅いでいた青年が此方へ振り向く。
フードを外したその顔は所々に青筋が脈打ち、髪は所々が白く染まっている。
薄く開かれた瞳には今までにも見た事ない程の狂気を潜ませていた。
「あの方の言った通り、鐘を見張っていて良かった。えぇえぇ、貴方の様な輩が来ると分かっていたのでしょう」
「……」
「あぁ申し遅れました。私、案内役のリヒテンスです。侵入者さん方の目的は、アレですよね?」
沈黙を貫く道夫に、リヒテンスは上へ指を差す。そして道夫は直ぐに彼は自分を『侵入者方』と呼んだ事に焦っていた。
忍び込んだのが自分以外に居るとバレている。そしてここまで泳がされてしまったという事だ。
「ここに誰も来なければそれも良しと思ってましたが……来たからにはまぁ、死んで貰いましょう。確か……『五行印血・土塊屍』」
彼は笑顔のまま指を鳴らすと、壁の像や絵画から先程の鎧の騎士が姿を現す。その身体は土や岩、鋼と一つ一つ異なっている。
道夫は警棒を構え、空を舞う騎士の群れに注目する。その間にもリヒテンスは階段を一段一段わざと遅く上り始めていた。
「これがあの方が下さった聖なる血の力ぁ……。さぁ、そんな鉄の棒でどれだけ保ってくれますかぁ?」
岩の騎士が大剣を構え、道夫に向けて自らの重さと共に急降下。岩の大剣は落下と共に、土煙を派手に散らしていくのだった。
〜次回、第67話〜
侵入が見破られていた道夫に、騎士の刃が振り下ろされる。
その一撃が引き金となり、遂に戦いは始まっていく。
その一方、ココノエ達が地下で聞いた謎の声とは…。




