第65話〜陽だまりと//選ばれた少女達〜
吸血鬼の拠点にしては、弱点である日光がそこら中を照らしている。そして妙に心が安らぐ感覚に足を止めていた三人の前に、一人の信者が近づいてきた。相変わらずそのローブで男か女かさっぱりである。
「選別者の方ですね?私は案内役の者です。お二人も護送ありがとうございました。では早速…」
「あ、あの……」
若い男性の声で、妙に早い口調でクラウの手を引こうとする。彼女はその場に留まって、脚をモジモジさせる。
「?どうかしましたか」
「……言わせる気ですか?緊張しちゃって」
信者の彼は少し考えて「あぁ」と察したらしく「あちらです」とトイレの方向を指差した。
クラウは小さく礼をしてそちらへ向かう。行くフリをして裏口へ行く手筈だったのだが、行くまでの間も彼の目線をクラウは感じていた。どういう訳か、彼はずっと此方を見ているらしい。
このままでは怪しまれると一旦中へと入っていく。
(このままじゃ向こうに行けない……)
さてどうすると悩んだ時、広間の方がざわつき始めた。
ドアから覗くと、連れて来てくれた仲間の一人が、誰かとぶつかり持っていた書類を散らばせてしまったらしい。
彼の視線もそちらへ移っている。もう一人が此方へ目配せをし、クラウは頷いて裏口のある方へと走っていった。
「裏口の前に、見つけた」
クラウが見つけたのは『洗濯室』とある小さな一室。ノックして部屋に入ると、そこら中に架けられたローブとその奥でシワを伸ばす不健康な黒髪の青年がいた。
『熱』の魔法を微調整しつつ、アイロンの様に使うその姿は職人その物だ。
「あー……ご用件は?」
「あの、私新しく来たのですが……」
「あっそ、服ならそこら中にあるから。身体に合うの適当に持ってって、更衣室近いしなんかあったら言ってよ」
目線すら全く合わせず、彼はそのまま作業を続けている。その言葉に甘えてクラウは少し大きめのローブを手に取り部屋を後にした。
〜大教会、裏口前〜
此処までくると人気が殆どなく、ローブを抱えたままでも何事も無く到着できた。
「鍵はこれね。ミチオ、いる?」
内鍵を外すとすぐに扉が開かれ、外から道夫が入ってきた。道夫はクラウが持ってきたローブを着てフードを被り顔を隠す。
「よし、ここまでは流れ通り。クラウはすぐに戻るんだ、気を付けて」
「ミチオも気を付けて」
互いに頷き合って、クラウは元いた場所へ、道夫は側の階段を上がって上へと向かう。
階段を駆け上がる最中、道夫は貰ったローブに違和感を覚え改めて見る。
「なんだこれ……血か?」
純白の服の裏地にはどう見ても只事ではない量の血痕が、漆黒となって染み付いていた。
何故か安らいでいた心が緊張感を取り戻し、此処が敵の本拠だと再確認した道夫は階段を警戒しつつ進んでいった。
〜〜
「あぁ、新しい選別者さん。お待ちしてましたよ?」
案内役の青年は律儀にも出会った所で待ち続けていた様だ。仲間の二人は既に別の場所に向かったのか姿が見えない。
「ごめんなさい。お待たせして」
「いえいえぇ、選ばれた方々をご案内するのが役目ですから。では早速、皆様の所へご案内しましょう」
彼と何故か手を繋ぎ、その後を付いていく。その歩みは早く、繋ぐ手からは痛くない程度に力を込めている。
更に言えばこの男、先程から何度も此方に目線を向けてはニヤついた表情を浮かべているのだから怪しさ満点である。
(やっぱりこいつ、不気味ね)
この男の危険さを認識しつつ、クラウ達は一つの部屋の前に辿り着く。
中の様子は見えないが、楽しそうな声が聞こえている。
「ここが選ばれた方々の教室になります。皆様集まって貴方様が来るのをお待ちしていますよ」
結局名前も知らぬまま彼はその場を後にし、クラウは躊躇いもなく扉を開いた。
学院の教室に近い空間で机や椅子が端に寄られ、自分と同じ様な修道服に身を包んだ年齢の別れた10人の少女達が床に座って手遊びを楽しんでいた。
「あっ!うわさの子来た!」「ひさしぶりの新しい子!」「お姉ちゃんだ、あそぼあそぼ!」
「えっ、えぇ!?ちょっと、きゃあ!?」
此方を捕捉した瞬間、小さな女の子達にあっという間に囲まれて教室の中へと連れて来られた。
せっせと椅子を用意して座らせられる。辺りを見れば、年端もいかぬ少女から自分と同じ位の子が期待の目を向けている。
「ええと、クラ……クラエス・ソージです。よろしくお願いします」
只の自己紹介なのに、小さい子達は中々の盛り上がり様だ。同年代の女子達にも笑顔が溢れる。
(此処に選ばれた人が来るというのなら、本当に女の子達ばかりを選んでいた訳か……)
何故そうするのかは全く見当が付かない。だが何かしらの作為が必ずある筈である。
裏の調査は道夫達が主に行っているが、此方でも調べなければならない事が多そうだ。
「ねぇねぇ!まだ自由時間沢山あるよ!クラエスお姉ちゃんもあそぼ?」
「えぇ、来たばかりの私で良ければ」
「来たばかりだから良いの!こっちだよ!」
元気一杯の少女達に半ば連れ回される形で遊びに付き合う事になったクラウ。
出発前に課された任務を思い出し、クラウは彼女達に聞き始める。
「ねぇ、エナって子の事知らないかな?」
それは『選別者及び、オランドの娘エナの救出』であった。
〜次回、第66話〜
大主教の元へ向かう津是達、大教会内部では鐘のある場所へと向かう道夫と選ばれた少女達と接触したクラウ。
地下への道、鐘の塔、陽だまりの差す少女達。安らぎに梱包された狂気は彼等に何を見せ、襲いかかるのか。




